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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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56話 水神王アニバルの話13

 白髪混じりの男はぐったりしていたけれど、アニバルを見ると身体を起こして頭を下げたよ。口には布が巻かれていたんだ。


「拷問なんてヤバいことしないから、自殺なんかすんな。お前の息子も氏族の連中もいるんだ。お前が死んだら連中は暴れるぞ。そんなことされたらこっちが困る」


 男が謝ろうとしたのに、アニバルは口を無理矢理開けたよ。


「あんまり切ってなさそうだな」


 治癒魔法をかけるとすぐに治ったよ。男はアニバルの顔を見たよ。


「ゲレルなのですか?」


「前世でお前たちの祖先にそう呼ばれていたが、今は狩人アニバルだ。アニバルと呼んでくれ。

 前世と言ってわかるよな?」


 白髪混じりの男は頷いたよ。


「ついこの前まで前世の記憶がなくてよ。半年前に思い出したんだ。こいつらにもこの冬の間にバレてな。政治とは無縁だったし、田舎の森に暮らす世間知らずな狩人なわけ。

 千年の間にどこがどう変わっているかもわからないんだ。

 だからお前たちのことを知りたい。まずはお前たちのことを何て呼べばいい?」


「お好きにお呼びください」


「それが一番困るんだけど。ヴァリエンテというのは、お前たちの言葉にはなかったはずだから、エルスターの連中がつけた名前だよな?」


「そうだと聞いております」


「頭あげたままでいいぞ。気持ち悪くなるから」


 深く頭を下げてから顔をあげたよ。


「千年前、ゲレル国という名前だったが、ヴァリエンテになっても同じ場所なのか?」


「大体はそうです。ゲレル国は我々の憧れの国であり、誇りであります。名前を変えざるおえなかったのは、ゲレルを殺したレナータの国から兵が度々きて土地を奪われました。神の名も、言葉もレナータやデスペハードに強制されこともありましたが、我々は表向きではそれらの意向に沿い、氏族の間では固くゲレルの名を語り継いできました。レナータの占領下のときはゲレルというだけで、処刑されたと伝え聞いています。

 その名残から成人してから、我が国の歴史と神の真名を教えられます。儀式や祭りのとき以外は、ゲレルの名を決して口にしません」


 そのためか、デスペハードではゲレルという言葉は一般的に知られていないよ。


「だからデスペハードの狩人である俺が、ゲレルという言葉を知っているのに驚いたわけか」


「そうです。我々の祖先の言葉も俺は単語しかわからず、ゲレルのお言葉も半分も理解しておりませんでした。我らの力が足りないゆえ、長年ゲレルの名を隠さねばいけないことを恥ずかしく、ゲレルに申し訳ないと思っております」


 ゲレルの民は日常の会話をレナータまたはエルスターの言葉を強制され、言葉も信仰も奪われてきたんだよ。それでも守ろうとひそかに伝えていったんだ。


 ゲレルと言っただけで殺されるということは、取り締まりも厳しく、多くの犠牲者が出ただろうね。


「ルドのことを語り継いでもらうだけでも嬉しいよ。レナータということは反ルド派の弾圧だろう。お前たちが不幸になるようなら、名前なんて忘れてもらっても構わなかった。

 そういえば神々の教えを説いても氏族の間では、俺を神といい続けていたな。千年も経っているのに。本当に頑固者だ」


「例え一人の残らず殺されようともお名前を忘れはしません。

 愚かにも侵略しようとした我々の祖先を抹殺できたのに、ゲレルはされませんでした。水晶(クアルソ)の恩恵も今も続いております。ゲレルには感謝しておりますが、デスペハードの皇帝は!

 もう我慢なりません。あの者たちはゲレルの子孫と言いながらも、ゲレルのお心を持っておりません!

 ゲレル、我が国にきてください。大地に、民に光りを」


 懇願にアニバルは男の肩を撫でたよ。


「俺はお前たちの国にはいけない。行けばデスペハードも黙っていないだろう。かといって俺はデスペハードの皇帝にはならない。

 俺ができるのは仲裁だけだ。それもできるかわからないが。一度皇帝には会っているが記憶を取り戻す前だし、相手も皇帝とは名乗らなかった。国の制度でルド…お前たちのいうゲレルが転生したら皇帝にすえるという。現皇帝がもし、皇帝の椅子に執着しているのなら、その制度を素直に喜ぶとは思えなくてな」


 男はアニバルの危惧を理解したようだよ。


「デスペハード皇帝が始祖と認めなければ、詐称罪にゲレルは問われるかもしれません。ここにいては危険かもしれません。どうか俺と一緒に我が王に会っていただけませんか?」


「会うつもりではいるが、状況を知りたい。お前たちの本陣はどこまできている?」


 村の周辺がかかれた地図しか村にはないから、ウーノが地図を出したよ。さすが諜報部隊だなとアニバルは思ったけれど、これはあえて持っていたらしいよ。彼らはデスペハード帝国全土の地形やハイドランジア各地方の主要な都市を頭の中に叩き込んでいたんだ。それに貴族や商人ならともかく、狩人のなりをしているのに詳しい地図を持ち歩くって、当時では地図は高価だったから少し怪しいよ。


 地図を広げるとデスペハード帝国周辺の地形や国がかかれていたよ。右端には大陸の地図があって、アニバルは自然に笑みが浮かんだよ。


「世界の全貌がわかったか。ステファノが言っていたように花のような大地だな」


 ウーノたちにとっては見慣れた地図をアニバルが楽しそうに見ているのが、不思議だったようだよ。


「おっと、ずっと魅入ってしまいそうだ。俺らがいるところは」


 ウーノが指差すよ。


「現在地はここ、エスコンディド村です。帝都はここより北東になります。ガルシア領主城はここで、砦は…」


 村より約十キロ南にいったところだよ。


「え、もう砦についてるんじゃ…」


 氏族長は頷いたよ。


「おそらく先遣隊はすでについているでしょう。我々は食料を探しにここまで来ましたが、本陣が来る前に集めよと命令が下ってましたので」


 アニバル神様認定されたから、素直に話してくれたよ。ウーノたちは拷問なりして手に入れる情報だったから、とても仕事が楽だなとホセは思っていたのは秘密だよ。

 

 アニバルは外を見たら、太陽が真上から少し傾いていたよ。


「馬なら明るいうちにつけるだろう。お前、名前はなんという?」


「バルと申します」


 アニバルは聞き覚えがある単語にちょっと嬉しくなったよ。


「確か虎という意味だったか?バル。頼みがある。お前たちの王に撤退するように頼んでくれ」


「ゲレルは来てくださらないのか?」


「あとでいく。その前に砦に行く。万が一お前たちが引かないとなれば、砦にいる子どもたちを逃がしたい」


「子どもたち?」


「ああ。ヴァリエンテ寄りの学院の教師と生徒が砦に兵士として派遣されたらしい」


 バルは目をかっと開いてギリリと歯ぎしりしたよ。


「子どもを?なんと非道な。皇帝はもはや人ではない!」


「バル。その辺にしとけ。一応こいつら皇帝の護衛だからさ」


 ウーノが刺し殺すとばかりにバルを睨んでいたよ。後ろから殺気がチクチク刺さるから、アニバルも嫌な思いをしたよ。


「黙っておけません!剣も振れそうもない、なよっとした腕で、優男ですが腹黒い男です!見かけで騙されてはいけません」


「腹黒いのか、あいつ。優しそうな感じはしたが…」


 ウーノたちを見たけれど、黙秘権を行使中で教えてくれなかったよ。皇帝がディスられているのに少しは怒るべきなんじゃないかと、アニバルはもう一度ウーノを見たけれど、真顔でだんまりを決め込んでいたよ。


 アニバルは咳払いをして、改めてバルにお願いしたんだ。


「お前たちの王に俺が転生したことを伝えて欲しい。戦争を望んでないと。兵を引いてから俺が皇帝と話してみるからよ。

 ただ王に俺がルドの転生だってどう信じさせるかだ。お前たちはどうやったら信じる?」


「それはもうプラデーラの戦いでしょう。我が国の全軍を沈め、毒の雨を降らしたあとに、再生の恵みをもたらした」


 おっさんが急に前のめりになって興奮しだしたから、アニバルはちょっと身を引いたよ。


「全軍は大げさだな。半分だ、半分。穴堀りは魔法の使い手が頑張ってくれたからな」


「え…。ゲレルがすべておやりになったのではないのですか?」


 興奮バロメーターがギュイーンと下がっていくよ。


「あれ全部したら俺死ぬし。土の使い手もいたが穴堀りは楽だし。水の関係は全部ブルーノに押しつけたし」


「アニバル様。その辺にした方が」


 ウーノが耳打ちしなくても、バルは夢から覚めた少年のような顔をしていたよ。


「伝承なんて嘘八割だ。真に受けるなよ」


 はははとアニバルは笑い飛ばしたよ。心は夢見る少年でも、大人の事情も深ぁーく知っている氏族の長だから、現実に戻ってきたよ。


「そ、そうだよな。

 魔法についてはよくわかりませんが、大変な力がいると聞いています。プラデーラの戦いを再現したらみな信じるかと」


 プラデーラってどこだって?ああ、言い忘れてた。プラデーラはレナータの言葉でプラテリアだよ。ごめん、ごめん。


 アニバルは穴堀りしやすい地形だったらいいなと思いながら、バルに言ったよ。


「俺はいいけど、穴に落ちるのはお前たちだぞ?」


「…あ。まあ、はい」


「あのときは馬も骨折したり怪我してよ。氏族長が怪我してるのに、自分の馬治せって懇願されて困ったんだぜ?俺は人は治したことあるが、馬はないからよ。お前たちは今も氏族長より馬が大切なのか?」


「氏族長としては複雑ですが、親父が熱を出したときに、自分の馬が死にまして埋葬していました。親父も数日後に亡くなりまして」


「お前、息子に同じことされても怒るなよ?穴に落としても馬は治さないからな!何千頭も大変だったんだぜ」


「では他の方法を」


 といってもルドの身に覚えがない逸話やら出てきて、アニバルは頭を抱えたよ。


「俺が手を振っただけで子馬は生まれるわけないだろうが!馬から離れろ、馬から。というか俺がゲレル国に行ったのはプラデーラの戦いのとき一回だけだ!」


「え!そうなのですか?ゾリグ伝では…」


「ゾリグはほとんど首都にいた。あいつ適当だから、そのせいだろう」


 またもやバルはがっかりしているよ。


「いっか穴堀りで。学校の教師なら土の使い手何人かいるだろう」


「それでは馬が…」


「馬を傷つけられたくなかったら、お前が頑張って王に戦争止めるよう交渉しろ!ていうか馬が可愛いなら乗ってくるな、戦争するな!」


 ごもっともで。


「…承知しました」


 アニバルはずっと黙っていた村長を振り返ったよ。


「他の家で治療したヴァリエンテの連中の怪我はどうだった?移動できそうか?」


「おそらくはできるかと。水神様は行かれるのですか?」


 村長は始祖とか前世を忘れて、アニバルに村にいてほしいと思っていたからね。アニバルは仕方なさそうに笑うよ。


「俺の中の過去の奴らが、うるさいんだ。ただの狩人として無辜(むこ)の民の一人としているつもりなのかと。

 それに戦争が始まれば、また村にこいつら略奪に来るかもしれないしよ。そもそも村に被害をもたらしたんだから、弁償してもらう。ヴァリエンテ王にたんまり金をもらってくるからよ」


「我が国に金はないですよ…」


 バルの小声をアニバルは無視して立ち上がったよ。


「さて。準備して早く出るぞ。ヴァリエンテの連中はバルが連れていってくれ。村に残られても村人が困る。バルから暴れないように氏族の奴らに言い聞かせろよ」


「承知致しました。…ここはゲレルが治めている村なのですか?」


「あ?違う、違う。そこにいるのが村長だ。俺は居候。ガキのころに口べらしで親に捨てられてな。流れ者の狩人に拾われて、ここまでやってきたんだ。この村には世話になっている」


「そうでしたか。もしゲレルの村だったら、申し訳なく思い」


 アニバルはバルを見下ろしたよ。バルが自殺をしようとしたのは、彼らの(ゲレル)が治めている村の住人を殺してしまったことへの悔いと謝罪だったようだよ。


「居候とは言ったが、俺はこの村に根を下ろすつもりだ。

 春になったら一緒に狩りに行こうと約束した男を、お前たちは馬に引きずって殺した。可愛がっているガキのダチを殺した挙げ句、そいつを人殺しにさせた」


 バルは恐る恐るアニバルを見上げたよ。その顔は怒りではなく、悲しみではなく、悩みを抱いているようだったんだ。


「過去の記憶がなかったら、お前たちを嫌いになってあの時全員殺していた。

 いっそうのこと恨めたらどんなに楽だろう。

 でも記憶(過去)がお前たちは、家族や仲間を大切にしていい奴らだって言っている。

 この村の連中はお前たちのように、国の宗教(教え)に沿わないからといって虐げられているんだ。例えデスペハードと全面戦争になってもいじめるなよ?」


 バルは無言で深く頭を下げたよ。


 バルの片手を縛って村長が縄を持って、ヴァリエンテの捕虜たちと会わせたよ。氏族長の決定に、半分は従って半分はアニバルを胡散臭そうに見ているよ。


 帝国に引き渡されないということに、ヴァリエンテ兵はみんな安堵したようだよ。捕虜となれば殺されるか拷問されるかもしれないからね。


 ヴァリエンテの馬は何頭か放置されたのを、村人たちが家畜小屋につないでいたんだ。


 アニバルはウーノの馬に乗せてもらったよ。


「前世の記憶で馬には乗れると思うが、転生してから初めてなんだ。うまく乗りこなせるかわからない」


 普段狩りで鍛えているアニバルでも使わない筋肉をフルに使ったせいか、次の日色々なところが筋肉痛になったらしいよ。


 ヴァリエンテたちも相乗りさせて、なんとか全員馬に乗れて出発したよ。途中でバルたちと別れて、四人でまっすぐ砦に向かったんだ。


 砦といっても使われていなかったのか、塀や石積は所々落ちているし、攻められたらすぐに陥落してしまいそうだよ。


「フェデリコは何を考えて息子をここにやったんだよ」


 皇帝はエクトルが邪魔なのではないかという疑惑が、ふつふつと沸いてきたよ。


「陛下の方針に反対した教師たちを擁護するために、エクトル殿下は自らこの砦に来られました。ヴァリエンテと戦争になればルド帝が心を痛めると、最後まで交渉すると仰り」


 ウーノが皇帝が命令したわけではなく、エクトルが自分で砦に来たというよ。


 アニバルは砦を見上げて、そうかとだけ呟いたんだ。


 砦は天然の岩山を一部利用して作られているけれど、高さはそんなにないよ。馬なら駆け上がれるほどの斜面で、門も木で作られているから魔法の使えないヴァリエンテでも人海戦術でこじ開けられそうなんだ。


 周囲には森が広がっていて、門の前の坂を下ると川が流れているよ。


 川の反対側にちらほらヴァリエンテ兵が見えたんだ。


「バルたちはうまく本陣と合流して、ヴァリエンテ王と話せるといいが」


 バルが王様と会う前に開戦したら、アニバルにもどうにもできないよ。開戦しても時間稼ぎするためにエクトルと会って、作戦を立てなくてはいけなかったんだ。


 砦の近くにいくと見張り台からはよく見えたよ。砦側の兵が気づいて見回りの兵に知らせたよ。


「騎乗した狩人が四人!外見は我が国の者のようだ」


「狩人?戦争になると周辺には知らせたが。聞いていないのか?」


 砦の方に向かってくるから、兵士はアニバルたちに言ったよ。


「何用だ!立ち去らないと弓で射るぞ!」


「殿下にお伝えしろ。ガルシアの英雄を連れてきた!」


 ウーノが声を張り上げると兵士たちにどよめきが起こったよ。


「ガルシアの英雄って魔鳥を倒した?」


「本物か?」


 というのはアニバルには聞こえないから、ウーノの背中に確認したよ。


「俺は英雄なのか?」


「そうですよ。あの魔鳥が街に出たら大きな被害が出たことでしょう。前にも話しましたが、アニバル様の偉業を知らぬガルシア領民はおりません」


「あ、そう。入れてくれる気配ないから、魔力砲でも見せるか」


 下っ端の兵士では手に入らない高価な魔力砲を掲げると、兵士たちは慌てて門を開いたんだ。


 ウーノたちは周りに敵がいないか確認しながら、門をくぐったよ。


 アニバルは馬から降りると脚がガクッとなったよ。ずっと馬の背を脚で挟んでいたから、強ばっちゃったんだね。


 ここでふらつくのはカッコ悪いと、何ともないようにウーノたちの後ろをついていくよ。脚がガクガクなっているなって、アニバルの後ろを歩いていたホセは黙っていてくれたけどね。


 大部屋に通されるとテーブルや椅子があったから、食堂のようだね。


 見慣れた子どもたちの姿があって、アニバルは無事を確認してホッとしたよ。

 

 エクトルたちはアニバルを見てとても驚いていたよ。エクトルはウーノを睨んだんだ。


「遠くに逃がして、お守りせよと言ったはずだ」


「待て待て。こいつらを怒るなよ」


 ウーノが弁明する前に、アニバルが説明しようとしたんだ。


「ヴァリエンテの補給部隊が村に来て、略奪や村人を殺したんだ。他のところも被害があったと想像される。俺もヴァリエンテ王と皇帝に用があるから、ここに来た」


 食堂には胸当てや武器を持った生徒や教師がたくさんいて、動揺と怒りが起きたよ。彼らの格好は千年前の感覚でも、戦うにはお粗末な装備に見えたんだ。エクトルも負け戦だと思って、アニバルを安全な場所にいてほしかったからウーノたちを引き返させたんだ。


「そんな…」


「すでに争いが」


「村人を?やはり殲滅(せんめつ)に賛成した方がよかったのでは?」


 アニバルが注目っとばかりに、パンパンと手を叩いたよ。


「村を襲ったという話の続きだ。略奪者の中に氏族の長がいた。そいつを捕まえて、怪我したヴァリエンテ兵以外は本陣とやらに送り返した。氏族の長の話では先遣隊が、この砦付近についているはずだというのだが?」


 エクトルを見たら頷いたよ。


斥候(せっこう)に人を割けなかったけど、到着しているのは確認している。マエストロ、逃げるなら今だよ。本陣が来たら戦いになる。ここの兵力が足りてないのは聞いているよね?」


「聞いている。俺は…」


「ここは戦場になる。兵士でも貴族でもない狩人に戦わせるわけにはいかない」


「エクトル、マエストロは強いよ。一緒に戦ってもらおうよ」


 フィデルが袖を引っ張るけど、エクトルは煩わしそうにしているよ。


「それは無理だ!フィデルもマエストロと一緒に帝都に避難しろ」


 きょうだい喧嘩が始まりそうになるから、アニバルはまた手を叩いたよ。


「まあ、人の話を聞け。捕まえた氏族の長の話では、ヴァリエンテの民は、昔いた水の使い手を神と崇めているそうだな」


 教師たちは頷いていたよ。フィデルが少し怒ったように言ったんだ。


「始祖のことだよ!始祖の教えを信じているのに帝国に攻めこむなんて!」


「フィデルは黙ってろ」


 エクトルは言うことを聞かないアニバルとフィデルに、苛立っていたよ。


 フィデルがつっかかるとエクトルは怒ってしまって、口喧嘩を始めちゃったよ。


「皇子様方、落ち着いてください」


 教師たちは困ってしまったよ。アニバルはそういえばと思い出したよ。


「お前ら皇子だったんだな」


 エクトルがはっとなって、嘘ついてごめんなさいと謝るよ。


「エクトルは甘えん坊で心配性。フィデルは兄貴にベッタリだし、本当に皇子なのか?世も末だな」


「ひどい!」


「俺はベッタリじゃないよ!」


「ははは。さすが双子」


「双子じゃない!」


「年子!」


「やっぱり息ぴったりだな。思ったよりお前たちが元気で安心した。フィデル。ヴァリエンテにも攻めてきた理由はある。

 その辺りを帝国側も理解して対処すれば攻めてこなかった。でもだからといって、ろくな武器も持っていない人々を殺したのは許されない。俺はこれ以上争いを見たくないんだ。

 ここにいる奴はヴァリエンテとの戦争を止めたいんだよな?」


 兵士はともかく、教師と生徒たちは強い眼差しで頷いたよ。


「捕まえた氏族の長は、俺があいつらの神と崇めた男の転生者であると信じた。だからそれを利用したらいいんじゃないかって、お前らに知らせにきたんだ。

 俺はヴァリエンテ王に信じこませて、戦争をやめるように働きかけるつもりだ。氏族の長にお前たちの神は戦争を望んでいないと、ヴァリエンテ王に伝えるように頼んでおいた」


 アニバルのしたことは砦にとっては朗報だったけれど、兵士の一人が前に出てきたよ。


「どんな理由でも、ご本人以外は始祖を語ることを許されない。始祖として振る舞うこともだ!」


「不敬罪だか詐称罪だっけ?転生したなら別人になるから、お前の考えはおかしいぞ?

 今は戦争を止めることが優先だ。あんた、騎士の隊長か何かか?望んでこんなところに来たわけではないだろう?ヴァリエンテが引けばあんたの功績になるが、いいのか?」


 ニヤリとアニバルが笑うと、兵士の中で一番お偉いさんと思われる男はムッとした顔をしたよ。


「この砦を皇帝陛下に任された隊長のロペスだ。ガルシアの英雄だの褒められて調子にのるな。狩人ごときに指図される筋合いはない」


 怒っちゃったよ。エクトルは言い返そうとしていたから、アニバルが目でやめろと合図したよ。


「本物の始祖という奴なら、ロペス隊長も言うことを聞くんだな?」


「そうだが、始祖がいればな」


 ウーノは話すのかとアニバルを見ると、軽く目を瞑って深呼吸していたよ。


 背負っていた魔力砲を外して、わざと床にトンっと音を立ててから、デスペハードの人たちには聞きなれない言葉で話し出したんだ。


 一部の教師はえっと驚きの声を上げ、エクトルは目を大きく見開いたよ。


 アニバルはふっと息を吐いてから、エルスター地方の言葉で話したよ。


「俺の名前はアニバル。ルークススペース帝国の皇帝、ルド・アルコ・ルークススペースの転生者である」

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