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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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55話 水神王アニバルの話12

 ウーノはアニバルの右腕に矢が刺さっていたのが見えて、離れるべきではなかったと悔やんだし、別れ際に言われたことが本気だったのかと焦ったよ。


「アニバル様?今、我々を追い出している場合ではないでしょう?怪我を見せてください」


「村の怪我人の手当てを邪魔するなら撃つ」


 魔力砲はカタカタと揺れて、アニバルの額には汗が浮かんでいるよ。戦って魔力を消費したのは明らかだったんだ。


「わかった。邪魔しないから、傷を見せてくれ」


 ウーノは馬から降りてゆっくりと言うよ。アニバルは苛立っているようだから、刺激しないように従うことにしたんだ。


 魔力砲の先を下ろされたから、ウーノは近づこうとしたらアニバルが叫んだよ。


「怪我人は!」


 村長の家の前から声が上がるよ。


「ここです!全員集められてませんが…」


「構わない。重傷者は?」


 アニバルは村長の家の前に向かおうとして、視界の隅に少年が入ったよ。


 トニアの弟イバンが血のついた刃物を持って震えていたんだ。彼の足元には首から血を流した略奪者が横たわっていて、少し離れたところにイバンの友だちも倒れていたよ。


 友だちが殺されたせいか、抵抗したせいかイバンは略奪者を刺してしまったようだね。冷静になって怖くなったようだよ。


「イバン…」


 アニバルはイバンの手から硬く握られた刃物をとり、肩を撫でたよ。


「怪我してないか?手を洗ってこい」


「お、俺…。どうしよう、水神様。殺した。俺、地獄(インフィエルノ)に行くの?」


 アニバルはイバンを抱きしめて、ポンポンと優しく叩いたよ。


「大丈夫だ。俺は前世で人を守るために人を殺したけど、地獄(インフィエルノ)に行かなかった。いいことをたくさんしろ。そうすれば神様たちが考え直してくださる」


「うぅ…」


 イバンは声を上げて泣くと、友だちの母親がイバンのそばに駆け寄ったよ。


「イバンは私が見ますから、怪我人を」


「お前の息子は…」


 友だちの母親は涙を浮かべて、もう息がありませんと言ったよ。


 かける言葉も見つからず、ただイバンを頼んだとだけ言ったよ。


「水神様!お怪我を」


 村長は矢が刺さったままのアニバルを心配したけれど、アニバルは怪我人の治療をしたよ。


 冬の間猛特訓の成果で、前世で使っていた魔法は無駄に魔力を消費していたことがわかったんだ。魔力を極力抑えながら魔法を使ったから、大規模魔法を使っても倒れなかったんだよ。


 とはいえ怪我をしているから、魔力の消費が早く感じたんだ。


「水神様も治療を。顔が真っ青です」


 一緒に手当てをしていた村の人たちが、アニバルを心配したよ。


「ご自分で先に治されては?」


「ん?俺、自分に治癒魔法かけられないんだ」


「はあ…、そうなんですね」


 村人のほとんどが魔法の知識がないから、アニバルの話を鵜呑みにしたよ。


「矢が邪魔だな。誰か折ってくれないか?」


「抜いたらどうですか?」


「抜いたら血がでる。俺が治療受けたら他の奴が治療できなくなっちまう」


 静かにしていたウーノが刃物を抜いて矢を押さえたよ。


「いや、これは抜いて止血したほうがいい。このままだと傷口が広がる」


「ああ、そうか。それなら抜いてくれ」


 ウーノは懐から布を出して噛むように言ったよ。抜くときに痛みを堪えて食い縛ったときに舌を噛まないようにね。


 アニバルが布を噛んで頷くと、ウーノが矢を抜いたよ。だらだらと血が溢れてきたんだ。


 ウーノは傷口を縛ってから、簡易的に止血魔法をしたよ。


「仮に止血しただけだ。動けば開いてしまう」


「わかった。助かった」


 アニバルは重傷者を優先に治療を続けたよ。


 ここに略奪者の負傷者がいないから、アニバルは運ぶように言ったよ。


 若者の一人は嫌がったんだ。


「助ける必要はない。あいつら村の人たちを殺して、食糧奪っていった!みんな飢え死にしてしまう」


 アニバルはイバンの怯えた顔が浮かんだんだ。恨みで殺しても罪の意識に苦しむ人がいる。


「お前は村のやつらを人殺しにしたいのか?ずっと殺しの罪を背負うんだ」


 アニバルは声を抑えて言うと、若者は唇を噛んでうつむいたよ。


「水神様…」


 村長がすまなそうにしているよ。先陣きって動けない略奪者たちを刺したからね。


「村長。泣くのも後悔も、怪我人の手当てを終えてからだ」


 大体の手当てが終わり、ふと視線を上げるとウーノが壁際に気配を消して立っていたよ。


 本当に何もしないんだなと嫌味を一つ言おうとして、他の二人がいないことに気づいたよ。ウーノが察して教えてくれたんだ。


「村の近辺にヴァリエンテの連中がいないか、見に行っている」


「ヴァリエンテ?」


「襲撃者の国の名前だ」


 やっぱりゲレル国という名前ではないようだよ。ウーノは怪我で動けないヴァリエンテ兵を見ると、睨み返されたよ。


「お前、帝国の奴だな」


 そう言ったのはアニバルが肩を魔力砲で撃ち抜いた男だよ。暴れないように手足を縛られて横になっているけどね。


「ここは帝国だ。みな帝国の人間だが?」


「…ウーノ。そういう意味じゃないと思うぜ?」


「…わざと言ったのだが?」


「わかってるって。言いたかっただけだ。えっと、ここにいるゲレル …じゃなかったヴァリエンテの奴に言う。お前たちの氏族の長を拘束している。暴れたらお前らの長を殺す。大人しくしろよ?

 ということだ、ウーノ。事情を話せ。場合によっては氏族の長をお前に引き渡さない」


「すぐに引き渡してもらえると思ったんだが?」


「話によってだ。村長。部屋を借りていいか?」


 村長が立ち上がって部屋を案内してくれるよ。治療部屋は村長宅の客間だったよ。


「構いませんが。水神様のお怪我の手当てが先です」


「私がやるから不要だ」


「お前、自分らが村人にとって不審者だってことを忘れてないか」


 村人はウーノたちをなんでいるんだろうと思っていたようで、疑り深い人は皇帝のスパイだと妙に言い当てている人がいたくらいだよ。


 ウーノはここで自分たちのことを話すのはよくないと、黙っていることにしたよ。皇帝を守り、諜報活動をする役目だからね。


 前にアニバルが借りていた部屋に通されたよ。村長は治療してくださいオーラを出したあとに去っていったから、アニバルは大人しくベッドに寝っ転がったよ。


 気が抜けたのか身体がずっしり重くなった感じがしたよ。眠気が襲ってきたんだ。


「無理しないで寝てください。魔力を消費した上に怪我していますので」


 ウーノが毛布をかけるから、瞼が落ちそうになったよ。


「事情聞くまでは…」


 寝られないと言いながら、ぐっすり寝てしまったよ。こっそりウーノが睡眠魔法かけたんだけどね。寝ている間にウーノが治療してくれたんだ。


 ご飯のいい匂いで眼を覚ましたよ。お腹もギュルルと鳴ったんだ。


「腹へった」


「そのようですね」


 ウーノがアニバルの顔色を確認したよ。アニバルはホセが口を手で覆って、笑いを隠していたのを見つけたよ。ホセは慌てて真顔になったんだ。


「失礼」


「別に大っぴらに笑っていいところだぞ?それでヴァリエンテの兵はこのあたりにいたのか?」


 自分とウーノたちしかいないことを確認してから聞いたよ。三人は背筋をのばしてなんだか改まってしまったよ。


 三人の中で、年齢も立場も真ん中と思われるゴヨが報告したよ。


「ヴァリエンテの先遣隊は砦付近にはいませんでした。村を襲ったのは、やはり食糧調達のためでしょう」


 アニバルは身を起こして、村長夫人が作った鶏の肉が入ってるシンプルなスープを食べながら聞いたよ。具材がシンプルなのは食材が奪われてしまったからなんだ。


「そんなことはわかっている。戦争始めようと春になったから来てみたら、まだ雪が残っていて現地調達できなかったから村を襲ったという感じだろう。あそこは真冬でも雪に閉ざされることはないからな。

 俺が聞きたいのは、どうしてヴァリエンテがデスペハードを侵攻しようとしたかだ」


「お話しますが、拘束した氏族長の引き渡しに応じない可能性を示されましたが、理由をお聞かせください」


 アニバルはモグモグと鶏肉を食べたよ。眠って食事をしたことによって、血や魔力も減って疲れた身体に体力と平常心が戻ってきたよ。




 アニバルは決めていた。


 狩人として生きて、死ぬ。


 それならば人質を帝国に引き渡して、村人と共に壊れた家や畑を直せばいい。


 でもそれでいいのかと、王であった過去の己たちが問いかけるんだ。


 世の中の不幸や理不尽に目をそらして通りすぎた先に、きっと戦争が起こる。いや、もう始まっていてこの村は巻き込まれてしまった。本格的に戦争が始まれば再び村が襲われるかもしれない。


 この帝国はきっと少数派に冷たい。国教を信じぬ人々を切り捨てられたように、帝国のやり方にヴァリエンテにも憤る何かがあるのだろうとアニバルは考えたよ。


 鶏の味しかしないスープを飲み干して、器をサイドテーブルに置いたよ。


「なぜ話さなければならない?全部事情を聞いてからだ」


 ウーノはすっと目を細めて黙ったよ。


 沈黙の長さに、ゴヨとホセはリーダーを訝しげに見たよ。


 アニバルはニヤリと笑ったんだ。


「悩んでいるようだな。皇帝の命令か、俺を始祖として扱うか。どちらをとるか。

 皇帝の命令は何だ?俺を王宮に連れてこいってか?」


「答えかねます」


「ここまできて隠すなよ。帝都って雪が融けきっていない今の時期、数日では着けないだろう?何らかの命令を受けて、途中で引き返してきて俺のところにきた。

 あ、エクトルがいたな。あいつはガルシアの学校に通ってるらしいからな。そこでエクトルの判断を仰いで俺のところに来た」


「…お答えできません」


「お前、諜報活動向いていないな。魔法で心臓を隠さないと可視化魔法で全部丸見えだぞ?」


 ウーノは苦笑しながら自分の胸を触ったよ。エクトルという言葉にドキッとしちゃったから、アニバルにバレたみたい。


「アニバル様は嘘が見破れるのでしたね。皇帝陛下や王族の前では心臓を隠す行為をすれば逆に疑われますので。アニバル様の前では無意識に外していました。村に戻ったのはエクトル様の命令です。

 ヴァリエンテはここ一ヶ月妙な動きをしていました。暖かくなり、ついに兵を動かしたのです。

 彼らの主張は帝国と平等に扱えというものです。

 ヴァリエンテの立場を少し話させていただきますが、ルド帝の崩御後、初代フェデリコ帝をこの地に導いたのは、ヴァリエンテの王族のゾリグという男だと伝えられています。

 それゆえ、長きにわたり我が国の同盟国そして今は属国としてありましたが、レナータの国の属国であった時期が数百年ありました。

 ルド帝の子孫として歴代皇帝に恭順を示してきたのですが、現皇帝のヴァリエンテ国の定住政策に反発したことがきっかけに雲行きが怪しくなり始め、水晶(クアルソ)の鉱山の一部権限についてデスペハードに渡さないとなり…」


「待て待て。遊牧民の連中が定住政策?生活を変えるということは無理だぞ?水晶(クアルソ)の鉱山が枯れてないのは驚きだが、属国だからって奪うのはおかしくないか?」


 ウーノはちらりとベッド脇に置いてあるアニバルの魔力砲を見たよ。


「我が国は魔法具の発展によって多くの水晶(クアルソ)が必要になりました。ヴァリエンテはレナータの国々にもあろうことか水晶(クアルソ)を売っていることがわかりました」


「ヴァリエンテの生活が千年前と変わっていないのなら、現金収入は水晶(クアルソ)頼みだろう」


「おっしゃる通りです」


「ふーん。なるほど。帝国は大量に水晶(クアルソ)が欲しいから、安く手に入れたいがためヴァリエンテに鉱山の権限を渡すように言った。

 ヴァリエンテ側は唯一の現金収入を渡したくない。で、レナータの国々やらは、帝国より高く値をつけてるんじゃないか」


「おっしゃる通りです」


「始祖。よそに売るとはヴァリエンテは裏切り行為です。長年レナータの勢力を我が国が退けているのです。情をかける必要はなく、捕虜も切り捨てるべきです」


 ホセが怒ったように言うよ。デスペハードはヴァリエンテが侵略を受ければ、出兵して守ってあげるみたいだね。


 アニバルは片眉をあげて、立っているホセを見上げたよ。


「何でだ?ヴァリエンテからすれば高く買ってくれるほうに売るだろうに。それで、よその国につくのなら、わざわざ皇帝を殺すって息巻く必要ないだろう?皇帝は何かほかにやらかしたんだ?」


 ウーノは皇帝の政策や考えは機密性が高いし、話せば人によっては皇帝批判と思う人もいるから、やらかしたという部分は無視したよ。


「ヴァリエンテ王の表明は『千年もの長きに渡って神の出現を待ち、その子孫の中に現れると信じていたが神は一向に現れない。我が国は属国ではなく自立した国として、デスペハード帝国の手から離れる』というものです」


 独立するための戦争らしいよ。


 アニバルの頭の中は疑問だらけだよ。独立するのにわざわざ出向いて、皇帝を殺す必要があるのかな?独立宣言して、それを許さん!ってデスペハードが兵を出して戦争するならわかるけど、雪に慣れない中で、遠征しなくてはならないヴァリエンテは不利でしかないよ。


「千年続いた関係に俺は驚きだけどな。独立させてしまえば?それとも裏で糸引くレナータの国があるのか?」


 アニバルに独立オーケー発言に三人は呆けたけれど、ウーノが一番最初に立ち直ったよ。咳払いしてから話をしたよ。


「裏で糸を引くのはレナータの国ではありません。エルスターの中で強国で、我が国の隣にあるカランバノス国です。我が国とは領土の広さは変わりませんが、冬でも港が凍らない不凍港を持っており貿易が盛んです。

 武器開発では我が国の方が勝っていますが、いつ攻めてくるか…」


「金持ちの隣国が、ヴァリエンテを独立したらと誘惑して、できたらデスペハード皇帝を殺害し、できなくても戦争でヴァリエンテの兵士が減って国力が落ちたところにヴァリエンテ王を殺してカノンバノスの属国にすると。今まで助けてくれたデスペハードとは戦争したから、助けてはくれないしな」


「そういうことかと。このような事態で、始祖の転生者が現れたわけです」


「始祖の転生者…おっと、俺のことか。間がいいのか悪いのか、ルドのことを思い出しちまった俺がいると。

 俺が出てきても、デスペハードとヴァリエンテの関係がよくならないと、カランバノスの思う壺だぜ?お前たちもそう思うだろう?」


「我々は立場上、集めた情報を陛下に奏上するまで。

 側近の中にはアニバル様のように危惧する声が上がっておりますが、陛下は政策を進めると一点張りでして。

 政策の反対派の筆頭がエクトル様です。エクトル様が通われている学院の教師たちもヴァリエンテの文化を尊重すべきと主張しており、陛下はならばヴァリエンテの進軍を止めて見せろと砦に教師たちを配置して…」


 アニバルは変なこと聞いたぞと頭をトントンと叩いたよ。


「あれ?俺疲れているのかな?兵士でもない教師を砦に配置って言ったか?それともこの国は教師は兵士なのか?」


「いえ、遠くの教師は兵士ではありません。エクトル様も砦に(おもむ)かれて限られた護衛しかついておらず、私どもが戻った次第なのですが、アニバル様を護衛せよとおっしゃり」


「エクトルはまだ子どもだろうが!他に生徒はいないんだな?」


「いえ、学院の生徒も大勢いました」


「まさか、フィデルもか?」


「そうです。ヘラルド様やカルロス様もおりました」


 アニバルは天井を見上げて、はぁとため息をついたよ。


「ガキだな。とんだお子ちゃまたちだ。で、カルロスの親父は将軍だろう?砦にいるのか?」


(スル)の将軍ではあられないので」


「管轄外だから口出せないか。カルロスは長男だろうが。困ったガキだな。一番困ったのはフェデリコだ。なんでそんなことを?フェデリコとエクトルは仲悪そうには見えなかったが」


 フェデリコが、愛おしそうにエクトルを撫でていたのを見たことあったからね。


「陛下の胸のうちはわかりかねますが、一部ではエクトル様をよく思っていないのではという声があります。

 始祖の側近の転生者は我が国では尊敬され、王位継承権を持ちます。本来ならばエクトル様はご長男ではないので即位される可能性は低いのですが、エトーレ様の生まれ変わりであられます。アニバル様がいらっしゃらなかったら、エクトル様が成人されたら同時に即位されます」


「なるほど、皇帝を守るウーノを俺のところに寄越せたのは、すでに皇帝に近い権限をエクトルが持ってるってことか?

 …その制度やめない?ブルーノでてきたらどうするの?側近じゃないから即位はないか」


 戦地で馬車の中でガタブルした人が皇帝になるって、転生した人格が有能なことを信じるしかないね。


「ブルーノ様はまだなく…」


「ブルーノと言って知ってるお前らが怖いんだが。千年前の人間だぜ?マッテオって言って分かるか?」


「ルド帝の育ての親ですよね?ルド帝をよく知る方なので、全国民の転生をしてほしい人ランキング上位です」


「ランキング…?聞かなかったことにする。

 それでエクトルは勝算は?」


「戦闘はみな素人です。攻められれば数時間いや一時間もしないで陥落するでしょう。エクトル様だけでも連れ出そうとしたのですが、拒否されました」


 エクトルが前世で有能な武人だったとしても一人だけだし、勝ち目はないよ。


 アニバルは魔力砲を掴んで急に立ち上がったよ。


「氏族長に会ってくる」


「会われてどうするのです?この戦いを止められるのは始祖であるアニバル様しかいません。共に王宮にいき、陛下に嘆願してください」


「砦はどこだか知らないが、そんなことしている間にエクトルたちが危ない。

 ただヴァリエンテの主張も聞きたい」


 ドアノブを掴んで動きを止めたから、ウーノたちはどうしたんだろうとアニバルの背を見たよ。


「話してくれてありがとな。本当ならイチ狩人が聞いていい話ばかりではないから」


 宮中の噂とかね。ウーノは迷いのない真っ直ぐな目をしていたよ。彼の中で何かが決まったようだよ。


「アニバル様はルド帝の転生者であられるので、我々の集めた情報を知る権利がございます。それに歴代皇帝との契約ですので、アニバル様がお気になさらずともよいのです」


「契約?」


「我々の本来の役目はルド帝をお守りすること。つまりルド帝の転生者を守ることです。皇帝の護衛はその末裔から始祖が現れると信じてきました。だから歴代は皇帝を守り続けたのです。しかし、ルド帝は現皇帝のフェデリコ様ではなく、アニバル様であった。正式にアニバル様がルド帝とお認めいただければ、我々はフェデリコ様の護衛から離れるのです」


 アニバルにとってはルドから間も開けずに続いている感覚だけれども、千年の時が経っているんだ。


「…千年もよくまあ歴代のウーノと皇帝はそんな契約を守り続けたな。嬉しいと思っていいはずなのに、薄ら寒い気もするぜ。妄執に近いぞ、妄執。

 フェデリコが契約破棄して、お前たちを俺から引き離すかもしれないぞ?」


「フェデリコ様が引き離す気なら、我々をアニバル様のもとへ送りません。我が一族はルド帝が初代ウーノを生かし、能力を認めていただいたから今の私がいるのです。そのルド帝に感謝し、会ってみたいというのは純粋な思いであって、妄執ではありませんよ。

 もしフェデリコ様が契約を破ったとしても我々の問題であって、アニバル様は気になる必要はありません」


 と頑なに言うからアニバルは、ウーノたちのことは保留にしたよ。まずはヴァリエンテの問題が優先だからね。


 階段を降りていくと怪我人の手当てに疲れた人が、布団もかけずに床で寝ていたよ。


「おい、風邪ひくぞ?」


「あ、水神様。お怪我は?」


「治してもらった。ほらお前も起きろ」


 布団かけていない人たちを起こしたら、寝ていたヴァリエンテたちも起きたよ。


 アニバルは魔力砲で肩を撃った男のそばにいったよ。


「傷はどうだ?見せてみろ」


(おさ)に会わせろ」


 睨んだ目をアニバルは見つめ返したよ。よくよく見たらとても若かったよ。


「お前いくつだ?成人しているのか?」


「もう大人だ!父上に会わせろ!」


「お前、長の子どもか」


 失言したとプイと横を向いたよ。


「人質二号も連れていくか」


「人質…」


 怯んだのが面白くてアニバルはニヤニヤしたよ。


「お前らって馬に乗ってるときは調子いいよな。戦争しにきて人質になったときの覚悟くらいしろよ。おら、さっきみたいに睨んでこいよ。

 パパに会わすのはお預けな」


「なめやがって!枷を外せ!」


 はははとアニバルは笑って村長の家を出ていくよ。


「水神様。もうお怪我は大丈夫なので?」


 村長がアニバルの声を聞いて、駆け寄ったよ。


「飯ありがとな。治してもらった。氏族長はどこだ?」


「あ…。こちらですが。舌を噛みきろうとしたので、布で口を押さえてます」


「え?」


 自殺を図ったみたいだね。アニバルの足は自然と速まるよ。

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