54話 水神王アニバルの話11
暖かい日が増えて、雪かきをするとじんわりと汗をかいたよ。アニバルは額に浮かんだ汗を拭って空を見上げたんだ。
「もうすぐ春だな。ん?」
タカらしい鳥が飛んでいて魔力砲で撃ってみようかなと思ったけれど、足に筒らしいものをつけて森に入っていくよ。
アニバルはあの三人のタカかって残念に思ったよ。タカの羽根は矢に使われるから、狩って売ろうと思ったんだ。
手狭な小屋で大人の男四人で冬を越すのはむさ苦しかったけれど、誰かと暮らすのは久しぶりで楽しかったよ。
アニバルはタカが降りていった方に行くと、ウーノとその仲間が立っていたよ。
タカを腕にのせて、なにやら険しい顔で読んでいたんだ。
「よ!どうした?」
三人は顔をこちらに向けると、険しい表情を消したよ。
「帝都から急便が来てね。戻らねばならなくなった」
「そうなのか。今から出るのか?まだ雪が多いから気をつけろよ」
「昼過ぎに発つ。食料を確保したいのだが、いい狩り場あるか?」
「うーん。まだ魔物も獣も冬眠して起きてないぞ?最近暖かくなったし、ちょっと見てくる。飯以外に必要なものはないか?」
「大丈夫だ」
アニバルは魔力砲を担いで森に入っていくよ。ウーノ以外の二人は少しかしこまったように軽く頭を下げたよ。
アニバルはたまに前世で死んだときの夢を見て、うなされることがあったんだ。
この三人と暮らすようになってからも、悪夢を見てウーノに起こされたんだ。
「大丈夫か?汗すごいぞ。風邪か?」
目覚めたというのに、全身焼かれた痛みが残っているようで身震いしたよ。
『死にたくない』
ウーノたちが聞いたことがない言葉だったから、中央の言葉ではないかと考えたんだ。この時代は中央の言葉を話す人はいなかったというよ。
「マニュス王ですか?」
隠密さんの中で一番若い男の人が、少し緊張しながら聞いたよ。
「…違う。俺は誰だっけ?前は思い出したのに。でも思い出したくない。死ぬのは嫌だ。苦しいのは嫌だ。あんな死に方したくない」
「大丈夫だ。我々があなたを守るから」
アニバルは動揺は収まらなくて、首を振り続けたよ。
「どんなに守ってもらおうともルドは殺されたから。
俺が何したっていうんだ。何で生まれ変わった?生まれ変わっても死ぬときのこと忘れたままがよかった」
ガタガタ震えるからウーノは気つけの魔法をアニバルにかけたよ。そうしたら怯えていた顔からすっと目がしっかりしたよ。
「…悪い。過去に引っ張られた」
「そのようだな。俺は転生者ではないからわからないが、よくあるのか?」
「ああ。ルドのときもあった。完全にマニュスの感覚になったこともあったから」
「マニュス王は悲惨な最期を迎えたのか?」
アニバルは額を押さえて首を振ったよ。
「思い出せない。老いたなと思った記憶はあるから、歳はとれたんだと思う。さっきのは…。思い出せない。名前…。俺の名前。奴隷だったのは覚えている」
「奴隷?」
ウーノはルドの転生歴で聞いたことなかったよ。アニバルは、ははっと乾いた笑いをしたよ。
「だろうな。エジリオもステファノも反対勢力が上げ足とるからって、伏せたからな。ルドを神だとかにしたいなら、この国でも伏せるだろうし」
「奴隷だったのか。ルド帝が奴隷制を廃止したかったのは」
「前世のことがあったから。もうひもじい思いをして、鞭で叩かれて、誰かにこきつかわれたくなかったんだ。それを見るのも嫌だった。
なあ、記憶を消す魔法はないのか?」
「ない。あってもかけないぞ?」
「死ぬときのところだけ消せないかって思っただけだ」
「そうか。夜明けまでまだある。寝たらどうだ?」
「俺は起きるよ。また悪夢を見そうだし。お前ら寝ていいぞ。起こして悪かったな」
汗をかいたから起き上がると、ひんやりした空気にぶるりと身体を震わせたよ。
「睡眠の魔法はあるが?」
ウーノが気遣ってくれてるみたい。
「頼んでいいか?」
アニバルはベッドに横になると、ウーノが呪文を唱えたよ。
「それ、教えてもらおうかな。自分にかけられるなら、もう死ぬ夢をみなくて…すむ…」
すぅーっと寝息を立てたよ。ウーノは灯りをしばらく消さずにアニバルの寝顔を見つめていたんだ。
「報告しますか?」
この中で一番年下の男は始祖だって浮かれないから、ウーノは少し反省したよ。ルドと話せたと喜んじゃったからね。
「…する。始祖は想像以上に心に深い傷を負われている。無理に王宮に連れていけば、嫌な記憶を思い出させてしまうかもしれない。
だが始祖をよく知るエクトル様は、別のことをお考えになるかもしれない」
翌朝、アニバルはすっきり目を覚まして、隠密さん三人にバレたことをしっかりと思い出したんだ。
まだ三人が寝ていて、そっと外に出たんだ。朝日がゆっくりと昇り、アニバルは井戸の水を汲んで顔面を桶に突っ込んだよ。
取り乱したところを赤の他人に見られて、顔から火がでるほど恥ずかしかったらしいよ。
そうやって顔と気持ちを冷やしていたら、ぐいっと身体を捕まれたんだ。
「何をされてるのですか!」
夜中のことがあったから、自殺するんじゃないかと不安に思われちゃったみたいだね。
三人の中で一番若い隠密さんはホセというらしいよ。彼は持っていた布でアニバルの顔をガシガシ拭いたよ。ちょっと痛かったからホセの腕を掴んだんだ。
「自分で拭くからやめろ!眠いから目を覚まそうとしただけだ」
「本当ですか?」
「お前、こんなんで自殺するアホいないぞ?苦しんで死にたくない人間が、桶に顔を突っ込んで水死するか?苦しいだけだろうが」
「まあ確かに間抜けですよね」
ホセから布をぶんどって顔や頭を勝手に拭くよ。
アニバルは拭き終わると、桶の水を換え、洗ってから魔法で乾かしたよ。
「ありがとよ」
ホセに返したら、お礼を言われたからか、嬉しそうにしてから頬を引き締めたよ。
「アニバル様。魔法を使うときは呪文を唱えること!詠唱破棄は身体に魔法の使い方を覚えさせてからと何度もいったはずです!そんな薄着で風邪をひきますから、上着を着てください」
「う…。わかってる。お前なんだか母ちゃんみたいだな」
「か…。あなたより年下ですが?」
「アニバル様っていうのをやめてくれないか?村の連中が聞いたら奇妙に思うぜ?」
「始祖とわかったので、呼び捨てはできかねます。本当は王宮に行っていただきたいのですがね!」
強制連行しないのは周辺地域と雪で閉ざされているからね。嫌がるアニバルを馬車なしで連れていくのは、かなり骨が折れるよ。
ウーノはタカ便でアニバルが前世の夢を見てうなされていると書いたものを送ると、エクトルから様子を見るようにと指示があったよ。
こうして冬の間、三人と暮らすことになったんだ。
木漏れ日の中、アニバルは獲物を探したよ。魔法陣や文字を教えてくれたお礼もしたかったし、食料をとってきてあげたかったんだ。
彼らは役目をまっとうしているだけだけどね。
アニバルは野ウサギや鳥を狩ったよ。でもこれは自分用なんだ。
「獲れましたね」
三人では少ないかなとウーノは思っていたけれど、保管部屋からアニバルは肉の塊を出したよ。熟成肉ってやつかな。
「この半分をエクトルとフィデルに持っていってくれ。うまくできたから食わせてやりたい。もう半分はお前らが食え。色々教えてくれた礼だ」
「礼には及ばないぜ?いいのか?これ美味いから特別なときに食べるとかいってたじゃないか」
「ああ。とっておいても傷むだけだ。餞別でもあるからよ。受け取ってくれ」
「餞別って。また戻ってくるつもりだが?」
「冬の間だけって言っただろう?戻ってきたら魔力砲撃って追い出すからな」
ニヤリと笑って魔力砲をトントンと叩くよ。
「…命令なので」
「知らねえよ。それはお前らの事情。狩人として生きて死ぬのが俺の生き方。道中気をつけろよ」
と言って半ば追い出してしまったよ。
それから何日か経つと雪が融け始め、生き物や植物たちは地上に現れたよ。世界は真っ白い地面と曇天の空模様から、光で溢れて色を取り戻したように輝いたよ。鳥はさえずり、木々は柔らかな風に揺れていたんだ。
「春だな」
それでもまだ森の奥は一面銀色で、雪に寝転がってアニバルは空を見上げたよ。ここはアニバルが氷の鳥を倒した場所だったんだ。
流れる雲を眺めて、前世に味わった苦痛や後悔は少しずつとけて消えていくような気がしたよ。
『父上!』
フェデリーゴの声や顔が浮かんだんだ。
息子は千年続く帝国を築いた。どんな思いでこの地に来たのだろうか。そして、父親を神としたのか。
「そういえばあいつが俺のことどう思っているか、聞いたことがなかったな」
周囲が聞いて尊敬してるとか優等生な回答を言っていたのは知っているけれど、本心は知らなかったよ。息子のことは大切だったけれど、本音を語りあうほどの仲ではなかったと転生してから気づいたよ。
「今さら息子を気にかけるなんて、どうしようもない親父だな」
アニバルは身を起こして魔力砲をつかんだよ。
「狩りに行くか。食糧大分渡しちまったし」
昼まで狩りをしたあとに、冬の間に皮など加工したものを背負って売るために村へ向かったよ。村に近づくとモノが焼ける臭いがしたよ。
「なんかきな臭いな。野焼きにしては時期がおかしいな」
若葉が出始めたばかりだし、雪で濡れてるから全然燃えないよ。だから、この時期に普通野焼きはしないんだ。
村の方角から黒い煙が立ち込めていて、アニバルはますますおかしいと歩調を早めたよ。前方から人がきたのが見えたよ。
アニバルは無意識に走り出したんだ。
「トニア!どうした?」
トニアはアニバルを見ると走って、抱きついたよ。
「村が…。村が襲われたの!」
「なんだって?帝国か?」
「違います。帝国の人ではなかった。彼らは馬に乗って俺たちとは違う服を着ていたから、南から来たのでしょう」
トニアの祖父が言うよ。まだ治ってないのか、痛めた腰をかばうように歩いているよ。トニアの祖父母、母親はここにいるけれど、弟の姿はなかったんだ。
「イバンは?」
「わからないの…。友だちの家に遊びに行って。私たちは村長から水神様にお知らせしなさいって言われて、すぐにここに向かったから」
村長も腰を痛めたトニアの祖父の避難が遅れてしまうと思ったから、早く村から離れるように言ったのかもしれないね。
「様子を見てくる。お前らは俺の家か洞穴に隠れてろ。飯は奥の部屋にあるから、腹減ったら食え。荷物は預けおく」
背負っていた荷物を置いて、アニバルは魔力砲を手に持って走り出したよ。
村の家々が見えると、アニバルは木に隠れながら様子をうかがったよ。何軒か火がつけられて、武装した人たちが家々から何か運んでるよ。略奪だってアニバルは思ったんだ。
見覚えある民族衣裳にアニバルは、ちょっと笑いそうになったよ。
「お前たちと会う定めなのか?千年もの間絶えずに生き残って嬉しいが、村を襲うのだけはやめてほしいな」
どこかに氏族の長がいないか探していると、馬に引きずられている村の男を見つけたんだ。
春になったら狩りをしようと約束した、あの青年だったよ。
アニバルは急に視野が狭くなり、鼓動が早くなって、魔力砲を握り直すと木の陰から飛び出したよ。
「そいつを放せ!」
馬に乗る男にアニバルは魔力砲を向けたんだ。
振り向いた男が、たどたどしくレナータの言葉を話して、自分をゲレルと呼んだ少年と重なったんだ。
「ゾリグ…?」
相手の男は驚いたような顔したけれど、よく見たらゾリグとは似てなかったよ。
「水神様!」
村の誰かが叫んでくれたお陰で、矢が向けられていることに気づいたよ。魔法で防御しながら、アニバルは馬の男に狙いを定めたんだ。
相手も筒のようなものを向けられて何かと思っていたけれど、武器だとわかったようで、弓を構えたよ。
「俺は人を殺さない」
騎乗の男と目があうと自分の言ったことが頭に浮かんで、手がぶれたよ。放たれた魔力の弾は相手の肩を貫いて、落馬したんだ。
アニバルは矢を掻い潜って、狩人の青年に駆け寄るよ。
「だいじょ…」
その先は続かなかった。頭から血を流して、もう心臓は動いていなかったんだ。
「おい、約束したろ?死ぬんじゃねえよ!」
近寄ろうとしたら、矢が地面に刺さったよ。魔力砲で肩を撃ち抜かれたのに男は矢をつがえてアニバルを狙っていたよ。
「何が目的だ!領主の屋敷はもっちょっと北だぞ。この村は貧しいんだ。盗むものなんてねえぞ!」
男は矢を放つから威嚇でアニバルも魔力砲を撃つよ。掠めた馬が驚いて暴れそうになるから、狩人の青年を縛っていたロープをとっさに切ったよ。
『ここはお前たちの国ではないはずだが?ゲレルの民よ、目的はなんだ?』
記憶を掘り起こして拙いゲレルの言葉を話したよ。男は驚いた顔をしたけれど、すぐに眉間にシワを寄せたんだ。
アニバルは千年間で言葉が変化することを思い出したよ。
「ありゃ。困った。言葉が通じないか。どうやって話をすればいいんだ?ゾリグいねえし。あいついても千年前の人間だから通じないか」
略奪者、ゲレルの民はアニバルに気づいて集まって来ちゃったよ。
「何故、デスペハードの人間が神の名を知っている?」
矢をもう一度つがえながら、男がエルスターの言葉で聞いてきたよ。
「なんだよ、言葉通じるじゃねーかよ!頑張って思い出して損した!あれ?何でデスペハードの言葉わかるんだ?」
相手の顔に侮蔑の色が浮かんだよ。アニバルは森に引きこもりの狩人だからね。世界情勢は何も知らないよ。
あの三人に聞いておけばよかったと後悔しても遅いよ。
男は弓を絞りながら、刺すように言ったんだ。
「答えろ。どうしてお前みたいな狩人が我々の神の名を知っているんだ?」
アニバルは何でそんなこと聞かれるんだろうって思ったよ。ゾリグやグチュルクはルドのことをゲレルと普通に呼んだのに。
千年の間で何かあったのかもしれないね。彼らはレナータ地方の言葉ではなく、ルドの時代に交流がなかったエルスター地方の言葉を話しているわけだし。
ここは転生者だからとまどろっこしいことを言わず、嘘を混ぜて聞かれたことを答えることにしたよ。
「何で知ってるかって?俺はあちこちで狩りをしてんだ。どこかで聞いたんだ。どこで聞いたか忘れたけどよ。それより、この村から出ていってくれないか?」
「食糧をもらったら出ていくところだ。お前が持っているそれ。帝国が作ったという飛び道具だな?よこせ」
「これか?魔法使えないと使えないぞ?」
男は舌打ちしたよ。魔法が使えないようだね。
「お前が来い。それを使って砦を落として皇帝を殺したら、この村の連中を助けてやる」
人質というように女子どもが、略奪者たちの手に捕まり、引きずり出されたよ。水神様と言って、涙を浮かべて助けを求めているんだ。
「砦を落とす?それはできない相談だ。俺は砦ってところも皇帝って奴の顔を知らないからな。それにこれを使える奴一人いるからって戦況は変わらないぜ?だからこの村からでていけ」
アニバルは言葉を切って、伝わるかわからないけれど、ゲレルの民の言葉で言ったよ。
『俺はこの世に戻ってきた。お前たちと戦いたくない。我が民よ』
通じているかは不明だけど、略奪者の中から白髪混じりの男が前に出てきて、じろりとアニバルを見たよ。
「お前は何者なのだ?」
「この村の狩人だ。あんたが長か?」
「こいつを連れていけ」
アニバルは無視されけど、腹はたてなかったよ。
剣を向けられて、魔力砲を手放すように言われたから素直に地面に落としたよ。
「俺が行けば村人を傷つけないか?」
相手は答えないで村の男たちを縛れと言うよ。
「さっき、俺があんたらについていけば、村人を助けてやるって聞いたぞ?」
「俺はした覚えはない」
この白髪混じりの男が略奪者の中で一番偉そうだよ。
「そっか…。俺も従うのを止めるよ」
短く呪文を唱えると、アニバルを拘束しようとした男がガクンと膝が砕けるように座り込んだんだ。
周りも警戒して弓を構えようとしたけれど、手に力が入らなくて落としたよ。
「魔法か?」
白髪混じりの男はアニバルと目が合うと足元が急にぬかるんで、ズブズブと地面に沈んでいくよ。
ふくらはぎ辺りまでが埋まると男は身動きがとれなくて、焦った顔をするよ。
アニバルはごめんなと小さく謝って、近くの馬の腹を魔力砲で撃ち抜いたんだ。馬は嘶いて転げ回るからかわいそうだったけれど、アニバルは略奪者たちを追い出すことに必死だったよ。
「お前らの大切なものを殺されたくなかったら、さっさと出ていけ!」
略奪者がゲレルの民ならば、彼らにとって馬は足であり、仲間であり家族のはずなんだ。怒った略奪者たちが弓をひいたよ。アニバルは頑張って魔法で防御したり、避けたけれど、大勢の人に魔法をかけながらだから、いつもより動きが鈍って避けられずに右腕に中ったよ。
「水神様!!」
女たちは悲鳴をあげて、縛られた村長が叫んだよ。
「やめてくれ!水神様を殺さないでくれ。俺がこの村の長だ!俺にしろ」
それではと略奪者たちは村長に向かっていくから、アニバルは焦ったよ。
「馬鹿!お前ら逃げろ!」
傷から血がでて痛いけど、大規模魔法を使ったよ。
周囲にいた略奪者たちがバタバタと倒れていくよ。アニバルが足の血の流れを少し変えから、立てなくなったんだ。とても痛いらしくて、足を押さえてうめいているよ。
その隙に縛られていなかった村人は縛られている人たちの縄を切って、武器を取りに家に走ったよ。
「水神様!お逃げください!」
村長が草刈り用の刃物で、近くに倒れていた略奪者たちを斬りつけたら、村人たちもやりはじめてしまったんだ。
「やめるんだ!誰も人を殺しちゃだめだ!」
村人は家族や大切な人を傷つけられたからね。復讐心に駆られてしまっているんだ。
「くそ…どうしたら」
村人を魔法で止める余力はないよ。かといって略奪者たちの魔法解除したら、襲ってくるのは間違いないよ。
「…水神様?蒼い目。もしや…」
白髪混じりの男が呟いているけれど、アニバルは村人たちに落ち着くように叫んでいて聞こえなかったよ。
村人たちは相手が動かないことをいいことに、略奪者たちに暴力をふるっていたよ。普段優しい人たちのひょう変にアニバルは悲しくなったんだ。
「あなたはゲレルなのか?」
白髪混じりの男の声が悲鳴や怒声を通り抜けて、やっとアニバルの耳に届いたよ。
アニバルはどんな顔をしていたのか自分ではわからなかったよ。白髪混じりの男は目を見開いてから、少し後悔の色を見せたんだ。
『ここを引け』
アニバルは千年前のゲレルたちの言葉で言ったんだ。通じたのか男は頷いたよ。
「わかった。この村から手を引くから魔法を解いてくれ」
「いいだろう。お前以外はな」
白髪混じりの男の魔法はすでに解いていたけどね。足が埋まってしまっているから、自力では出られないみたいなんだ。
白髪混じりの男が叫んだよ。
「いただけるものはいただいた。撤収する!速やかに退去せよ!」
略奪者たちは魔法が解かれて、身体を起こすと武器を手にアニバルに向かってこようとしたよ。
アニバルは白髪混じりの男に魔力砲を突きつけたんだ。
「さっさと国へ帰れ!村人を傷つければこいつを殺す」
白髪混じりの男もアニバルに続いて言ったよ。
「言うことを聞け。本陣へ戻るんだ」
「しかし、長…!」
白髪混じりの男は氏族の長のようだね。本陣と言っているから、そこに王様がいて兵士の数がもっといるかもしれないよ。
「長はお前らがこの村から出ていったら解放する。さっさとしろ!」
魔力砲の持つ手が震え始めたよ。怪我をして魔法を多発したから、体力も魔力もなくなってきたみたい。
略奪者たちは氏族長を何度も振り返り、撤退したよ。彼らの姿が見えなくなると魔力砲を下ろしたんだ。
「怪我をしてない奴は怪我人の手当て!怪我人を一ヶ所にまとめろ。息のある侵入者たちもだ!誰か縛るもの持ってきてくれ」
氏族長を縛るとアニバルは魔法で足を出してあげたよ。
アニバルが言うことに村人たちは従ったんだ。
略奪者たちが撤退した方とは別の方角から騎馬が見えたよ。
「アニバル様!」
ウーノたちが来たみたいだね。
アニバルはウーノたちに手伝ってもらうかと思ったけれど、なんでこのタイミングで戻ってきたんだろうと考えたよ。きっとゲレルの民の侵攻を掴んだ皇帝がウーノたちを呼び戻して、彼らは帝都に向かったけれど、何らかの理由で引き返して、アニバルのところに来た。
おそらくゲレルの民から、アニバルを守るために。
いや略奪者が皇帝を殺すといっていたから、デスペハード帝国と今はなんというかわからないけどゲレル国の関係は破綻していると考えられるよ。
ゲレルの民はルドを神と考えているようだから、アニバルを殺すわけがない。そして、デスペハード帝国はゲレルの民にアニバルを奪われたくないはずなんだ。
ウーノたちは村人たちを見捨てて、安全なところにアニバルを無理矢理でも連れていこうとするかもしれない。
彼らにはトニアの父親の治療を邪魔されたからね。
アニバルはウーノたちに魔力砲を向けたんだ。




