表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
55/278

53話 水神王アニバルの話10

「トニア!」


 白い息を吐いて俯いていた少女は、アニバルを見ると涙を浮かべたよ。


「す…いじんさま。助けてください」


 アニバルはトニアを抱きしめて身体をさするよ。


「凄い冷えてるじゃないか。夜明け前に家を出てきたんだろう?一人で無茶しやがって。家に…」


 トニアはアニバルの腕を掴んだんだけれど、かじかんで力が入らないよ。


「早く村に戻らないと。お母さんたちを助けて!」


「何があったんだ?」


「水神様の言ったとおり、吹雪になる前にみんな雪降ろししたの。おじいちゃんが屋根から落ちて腰痛めちゃったから、代わりにお父さんがやって、うちもやろうとしたら吹雪になって…。私はおじちゃんの看病してたから、おじちゃんちにいたの。そしたら。うちの屋根が…。氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)の猛吹雪せいで、少し家が傾いてたからそのせいじゃないかって。お父さん。おじいちゃんちの方が酷いからって先に直して…」


 親思いのいいお父さんだったようだけど、ちょっと裏目にでてしまったようだよ。


 アニバルはトニアを抱えて小屋に飛び込んだよ。トニアを暖炉のそばに座らせたよ。


「お前はここであったまってろ」


「私もいく!」


「凍傷になるかもしれないから、手足の感覚が戻るまでここにいること!全部は温まって飯くってからだ」


 村人からもらったカピカピのライ麦パンをぞんざいに切って、干し肉をトニアの前に差し出したよ。


 アニバルは安心させるようにトニアの頭を撫でてから、走り出したんだ。


「アニバル殿?」


 隠密さん三人もついてこようとしたけど、アニバルは走りながら言ったよ。


「一人トニアのそばにいてくれ」


「それは出来かねる」


 トニアの護衛は命令に入ってないから、この三人はアニバルについてくるしかないよ。


「エクトルも融通利かない命令しやがって。拳骨だな、拳骨」


 エクトルはトニアを知らないし、彼女の家が潰れるなんて想定外だよ。


 アニバルが村に着くころ、潰れた家からトニアの家族が救出されていたよ。隣の祖父の家に家族は運ばれていたようで、トニアの弟はワンワン泣いていて怪我も擦り傷程度のようで元気そうだよ。


 トニアの母親の方は横たわって、うなっていたよ。両足が骨折しているようなんだ。トニアの父親は血まみれだっから、かなり危険のようだよ。

 

「水神様がいらしたぞ。頑張れ」


 村長が声をかけるけど、トニアの父親の反応はないよ。


 アニバルは怪我の具合を視覚化魔法で視たけれど、身体の内部のどこかしこも出血していたよ。


「…どこから手をつけたらいいのか。おい、手伝ってくれ」


 ついてきた三人は出入口でただ見ているだけだよ。アニバルが怪我したなら、全力で治すけどね。


 見知らぬ人たちに村人は戸惑いと不信感を抱いていて、アニバルの舌打ちでそれらを加速させたよ。


 重症の父親に普通の治癒魔法は効かないとみて、ルドがやった奥の手をやろうとしたよ。


 集中しようとしたとき、肩を捕まれて妨害されたよ。


「それは命を削る魔法だ。使用は禁止されている」


 アニバルは隠密さんのリーダー格の男を睨んだよ。


「俺は学はないんでね。何が禁止かわかんねえ。使えるものは使う。手伝ってくれないなら、手を放してくれないか?」


「始祖の愚を繰り返すのか?」


 アニバルは男の手を払い除けて睨んだよ。


「時間がねえんだよ!俺の命を少し削って助かる命があるなら助けるだけだ」


 魔法をかけようとしたけれど、トニアの父親の命は風前の灯火だったよ。


 邪魔が入らなければと悔やむ時間はなく、痛み止の魔法と頭や胸の回復魔法をかけたよ。


「こいつのじいさんとばあさん呼んでくれないか?」


 村人たちも察したのか、トニアの祖父母と息子を連れてきたよ。


「わかるか?最期に言いたいことがあるなら頑張れ」


 アニバルはトニアの父親が薄目を開くと耳元で言ったよ。


「…とう、さん、か、あさん。今までありがとう。イバン。母さんとトニアを頼んだよ。水神様…家族を…」


 そこでトニアの父親は息を引き取ったよ。隣で寝ていたトニアの母親も夫の死と激痛に涙を流していたよ。


「治すから意識を強くもて。後を追うとか考えるな。本当にそうなっちまう。生きることを考えろ」


 アニバルは励ましながら、トニアの母親の治療をしたよ。村の医者は薬草の知識は豊富だけれども、アニバルのような治癒魔法の知識はなかったよ。


 トニアは母親の治療が終わるころに来たよ。


 父親の突然の死にトニアは大泣きしたよ。アニバルはすまなかったとしか言えなかったんだ。


 エクトルが護衛によこした三人はきっとアニバルより知識はあるはずで、彼らが手伝ってくれたら、例え後遺症が残っても助かったかもしれない。


 本来なら知識豊富な村医者がいるはずなのに、この村にはいない。


 村長がアニバルを労って、食事と寝るところを用意してくれたよ。


「医者を呼ばないのか?」


 呼ばない、いや呼べないのはアニバルも検討はついていたよ。神使がこない理由と同じように辺鄙な村だから医者が来たがらないんだ。村長は想像通りのことともうひとつ理由を話したよ。


「帝国は国教以外の教えを信じる人たちが、知識を持つことをよく思っていないようです。何十年も前なのですが、ここから少し領主様のお屋敷寄りのところに俺たちと同じく、神々を信じている村がありました。神使様もいらっしゃり、学校もあったんです。

 税も納めているのに治水も魔物退治に兵をしてくれないことに、教師たちが怒って国に嘆願書を出したのですが、無視されたようです。納税しているのに恩恵がないと納税を拒否したら兵が来て、金品を取り上げたうえ、教師たちを連れ去りました。その教師たちはいまだ戻ってこず消息も不明だそうです。村にいては危険だと教師の家族はこの村に越してきて、俺たちに文字を教えてくれましたが、それ以上のことは俺や俺の親父も頼んでいません」


「なんてことを…」


 これがフェデリーゴが作った国なのかとアニバルは悲しくなったよ。そして、怒りがふつふつと沸いたけれど、アニバルはその怒りを消したよ。


 理不尽を世の中のせいにして、嫌なことから目を逸らせば傷つかない。


 ここで怒りに任せて、帝国と戦えば誰かが傷つくし、アニバルにはそんな戦力はないよ。


 アニバルの心は吹雪が吹きつけたように、つめたくなったよ。


 村長やその父親は知識人がいると帝国に睨まれると思ったようだね。わざと学校も作らず、村人に教育をしてこなかったんだ。子どもの教育が義務とかいいながら、帝国もこの村の存在を無視してきたみたい。


「雪降ろしの魔法陣を覚えたんだが、広めない方がいいか?

 トニアの親父は助けられなかったから今さらだが」


「そんな魔法陣が?村人でも使えますか?」


「魔力があれば使える。見込みのある奴は何人かいるが。村長の判断に任せる」


「…水神様が教えてくださるなら大丈夫ですよ。だって帝国の方は…」


「俺についていた三人の男。領主の息子が俺の護衛につけたんだ。多分家の外かどこかに隠れているかもしれない」


 村長は目を丸くして周囲をみるよ。それがちょっと滑稽で笑えたよ。


「俺がここにいるとこの村のことが領主の息子に筒抜けになるってことだ。もし迷惑になるようならここから離れるつもりだ」


「そんな…。水神様がいなくなったら俺らはどうしていけば」


「大げさだな。十年前は俺はいなかっただろう?同じようにすればいい。それか少しずつ知識をつけていくかだ」


 村長は村を守るために隣の村と同じことにならないか、不安だったようだよ。


 でも雪による事故は毎年のように起こるから、村長は村人の命を守ることを優先に決めたようだね。


「すべての家に魔法陣を設置してもらえますか?」


「いいが、まだ試作段階なんだ。俺の家で試してから村に設置したい」


「試作でも構いません。せめてトニアの祖父母の家につけてあげてください」


「…わかった」


 アニバルはちょっと気が重かったよ。トニアに何でそんな魔法陣があるなら、早く言わないの、お父さんは死ななかったって責められそうだったからね。


 トニアの祖父母の家に行って、昨日知ったばかりでと言い訳するように魔法陣のことを説明したよ。


 トニアと弟のイバンは黙って聞いていたんだど、トニアがパッと目を輝かせたんだ。


「水神様ってすごい!私たちのお願いをかなえてくれるんだもん!やっぱり水の神(アグルア)様の使いなんだわ!」


 想像してなかった反応にアニバルは笑ってごまかしたよ。


 トニアはとても優しい子だったんだ。アニバルを責めるどころか、自分と同じような思いを村の人にもしてほしくないって考える子だったんだよ。


「いや…俺は神の使いでもないしさ。その魔法陣も試作でちゃんと機能するかわからないし」


「私でも作れる?」


「トニアは魔力ありそうだからできると思う」


「俺も手伝いたい!」


 イバンも何かしたかったみたいだよ。


「ではやるか」


 トニアの父親の葬儀をその日に済ませると、もう夕暮れだったから、村長の家に泊まったよ。あの三人はいつの間にかいなくなっていたから、村のどこかに隠れているのかもしれないね。


 村長から薪ではなく、しっかりとした加工用の木材をもらって魔法陣を彫ったよ。翌朝、村長の家に試しにつけてみたんだ。


 雪が少し積もってから呪文を唱えると、屋根から雪が滑り落ちたよ。


 危うく真上から落ちてくるところだったんだ。


「あぶねえ。魔法を使うときは下に誰かいないか確認してからだな」


 村人たちも集まって、屋根に登らないでできる雪降ろしに喝采していたよ。


「うちにもつけてくれ!」


「うちにも!」


 アニバルは魔法を使える人全員には教えなかったんだ。悪用しないか、約束を守れそうな人を村長と選んだよ。


 イバンは幼すぎるから教えるのはやめたよ。八歳のトニアはしっかり者で約束をちゃんと守る子だから、教えることにしたよ。


 でもトニアは魔法を習ったことがなくて、自分も使えるとは思ってなかったんだ。アニバルが魔法の使い方を教えると雪の地面から花が咲いたよ。


「トニアは土属性か」


「土?お花を咲かすことができるのね!」


「咲かせられるが、咲かせ過ぎると魔法の素、魔力をたくさん使うんだ。使いすぎると死ぬ。俺は氷の鳥(パハロ・デ、イエロ)を倒したときに使いすぎて死にかけたんだ。魔力の使い方がなってないって叱られたばかりでよ。教えられることは全然ない。だから今教える魔法以外を使いたかったら、ちゃんと魔法を知っている人に習えよ」


「わかったわ」


 トニアは魔法陣を木の板に刻むものと、魔法陣を発動する呪文を覚えるのが大変だったみたいだよ。


 トニアの他に春になったら狩りに行こうと言っていた狩人の青年に教えたんだ。魔法が使えるから、魔力砲も教えてあげようと思っていたんだよ。


 彼は飲みこみが早くて、トニアは頬を膨らませて嫉妬していたのが可愛かったよ。


「何事も練習だ。さてさっそくつけてみるか」


 トニアは自宅が壊れてしまったから、祖父母の家にいるよ。祖父母の家にトニアが作った魔法陣を設置したんだ。


 トニアはたどたどしく呪文を唱えて、不安そうに屋根を見上げたよ。


 ピカッと魔法陣が光ってから少し経って、雪がずるずる落ちてきたんだ。


「やったぁー!!」


 トニアは飛び跳ねて喜んで、滑って尻餅ついたよ。アニバルは笑いながら立ち上がるのに手を貸してあげたよ。


「大丈夫か?これで屋根に登って雪降ろししなくてすむな」


「うん。水神様ありがとうございます!」


 次の日の天気がよかったら村に来て、魔法陣作りを手伝うことにしたよ。



 アニバルは小屋の近くまでくると、隠密さんのリーダー格の男が姿を現したよ。


「あ、まだいたのか」


「役目だからね。大分村人と仲がいいじゃないか」


「パンもらったり野菜もらったりしてるからな。一人ではさすがに生きていかれないし。お前ら昨日はテント暮らしか?よかったらまた魔法陣や魔法教えてくれ。村の暮らしが少しは楽になるものを知りたい」


 アニバルが家に入ろうとすると、男がすれ違いざまに囁いたよ。


「私ごときに教わるより、王宮へいくべきかと思います。ルド・アルコ・ルークススペース様」


 足を止めて相手の顔を見たときに、引っ掛けだって気づいたけど遅いよ。


「…油断しちゃったな」


「ご記憶、戻られてるのですね。始祖」


「立ち話もなんだから中に入ろうぜ。他の二人はどうした?」


「近くにおります。呼びますか?」


「いや、いい。お前がリーダーだろう?まずはお前と話したい」


 家の中に入って誰もいないことを確認したよ。


「茶でも飲みながらと思ったが、あいにく酒すらないから白湯でいいか?」


「お構いなく」


 席をすすめたけど立ったままなんだ。


「始祖ってあんたも呼んでるけど、ルドの子孫なわけ?」


「はい。血は薄いですが。お会いできて光栄でございます」


 頭を下げて、声に明るさがあったよ。


 男がなんだか改まっちゃったから、アニバルだけ椅子に座ったんだ。


「確認だが、お前らのいう始祖はルークススペース帝国の皇帝ルドであってるか?」


「間違いございません」


「そっか。始祖始祖言うから誰かと思ったし、エトーレもパパしか言わないし、あの時代も陛下とか光帝とかしか呼ばないから、みんな俺の名前を忘れたのかと思ったよ」


 アニバルが見せるがさつな笑みではなく、別人のような微笑みに男は始祖と話をしているんだと感動して涙を浮かべたよ。


「申し訳ございません。お名前を呼ぶのは失礼かとみな思っておりまして」


「そう考えちゃう?俺はずっと名前で呼んでほしかったんだけど。始祖って言われても俺が死んだ後の事だし?誰だよって感じだよ」


 アニバルの顔や声なのに、雰囲気と話し方がまったく違うから、男は内心驚いていたよ。


「言われてみればそうですね」


「でしょう?ずっと気になってたんだけど、フェデリーゴが初代なのに俺が始祖なの?」


「初代はこの地に始祖…ルド帝のご意志を引き継ぐと宣言し、国を築かれました。ルド帝はこの国の皇帝であられなかったので、初代とは呼べなかったため、始祖と呼ぶことにしたと聞いています」


「そういう意味ね。そういえば名前にアルコつけていたのは?」


「?正式なお名前だと教えられましたが」


 アルコをつけるときは中央(ケントルム)のアルクス家とやりとりするときに血縁を強調するために使っていて、普段はつけてなかったんだ。


「今はそうなのね。まあいいや。過去のことだし、関係ないし」


「関係ないとはどういうことですか?始祖とわかれば、王宮にお連れしなくてはなりません」


「ここはフェデリーゴが築いた国で俺の国じゃない。息子の国に父親が口出すのは気がひけるよ。

 それに現代の魔法さえ知らない千年前の人間がしゃしゃりでて、何ができるの?老害、であっているのかわかんないけど、邪魔な存在でしかないでしょう」


 源頼朝が現れて、現代日本の総理大臣に政権寄越せって言ったら、国民一同えって感じになるよね。やらせたら面白そうだけど、多分彼の時代は民主主義や資本主義なんて言葉もないだろうから、国政がめちゃくちゃになるだろうね。


 狩人アニバルとして生まれて、いきなり皇帝やれというのは無茶な話だよ。千年のブランクもあるし、前世とは別の場所にうまれているから、国民の価値も暮らしも違うよ。


 この男も帝国の貴族もその辺り抜けてそうだね。


「学ばれれば問題ないかと」


「問題大有りだ。狩人として生きて死ぬ予定だから、皇帝にはならない」


「無理です。法で定められているので。私が報告すれば迎えが来ます」


「報告しなければいい」


 男は急に足が砕けて、床に手をついたよ。


「ルド帝?」


「残念。今はアニバルだ。他のやつらにはまだ伝えてないよな?お前が口をつぐんでいればいい。それが無理なら頭に魔力砲ぶっぱなして、逃げるだけだ」


「な…」


 魔力砲を頭に突きつけられて、男はアニバルが本気なのだと身構えたよ。でもすでに身体が思うように動かないんだ。


「これが始祖の物語に出てきた身体を操る魔法ですか」


「ルドは物語になってるのか。最期は知ってるよな?」


「グランデフィウーメ領主や反対勢力によって殺害されたと聞いています」


「そう。槍で全身貫かれてね。諜報部隊でも、さすがにそんな訓練ないだろうよ。メチャクチャ痛いんだぜ」


「死にますからそんな訓練はありませんが。私が従わない場合は殺すのですか?」


「そのつもりだが?」


 さらりと言われて男の目に失望が浮かんだよ。


「始祖は情がある方と思っておりました」


「諜報部隊が何を甘いことを言っている。俺を王宮へ連れて行きたいなら殴ってでも連れていけよ。なに魔法にかかってるんだ」


「そうしてもよろしいと?」


「嫌だね。エクトルにアニバルはルドじゃなかったと言ってくれればいい」


「…何故皇帝になるのを拒否されるのですか?貧しい人を救い、豊かにしたいから皇帝になったと聞いています。この村の現状に何も思われないのですか?民を救うご意志はないのですか?」


「ないもなにも。俺は今の暮らしに満足しているし、貧しい人間がいるのなら、今の皇帝や歴代の皇帝がそういう政策をとったからだろう?国を変えたいのなら皇帝がすべきで、俺の仕事ではない。

 エトーレ(・・・・)が俺に固執するならば、伝えてくれ。お前の王は希望が枯れましたってな。

 もう疲れたんだ。助けた奴らに槍で身体を貫かれて、最後に悪魔だの化け物と言われて死んだ。王宮ってところにいけば魔物みたいな連中ゴロゴロいる。そんな相手したくないんだ。

 失望したか?お前たちにとってルドは英雄で、生まれ変わった奴も同じ志しを持って悪い奴を倒してくれるって思っているかもしれないが、結局それは子どもが夢見るお伽話だったってことだ」


 男にかけた魔法をといて、テーブルに魔力砲を置いたよ。


「こんなの始祖じゃないって撃ち殺しても構わないぜ?レナータで、神の使いだの崇められて、それがこの国まで延々と続いてしまったのだろう。断り切れなかった俺の甘さだ。俺は神なんかじゃない。お前たちの信仰や思想を縛ってしまっている。断ち切らないといけない」


 男は魔力砲をチラリと見てから、何を思ったのかアニバルに近づいて片膝をついて頭を下げたんだ。


「私の名を名乗っていませんでしたね」


「そういえばそうだったな」


「ウーノと申します。ルド帝にいたずらで魔法を放って、殺されそうになった奴隷の少年を覚えてますか?」


 キアーラとのデートを邪魔して、恐怖で震える少年を助けて、忠実な下僕(しもべ)になった。


「ああ…。俺の一番の下僕になるから、自分をウーノと呼べといったあの子の子孫か?」


「そうです。初代ウーノはルド帝を守りきれなかったことを悔やみ、ずっと歴代皇帝をお守りしてきました。

 だから歴代ウーノの思いを継いだ私には、あなたを殺せません」


 アニバルも床に膝をついて男の頬を手で覆うよ。


「うん。面影あるね。懐かしいよ。あのとき、ウーノも彼の息子も殺されたのではと思っていた。よくこの時代まで命を繋いでくれた。

 ウーノは悔やむ必要はないのに。俺が危険だと知りながらも、グランデフィウーメに助けを求めた。あの子の責任ではない。お前も…歴代ウーノも馬鹿なしがらみにとらわれて。もっと別の人生を歩みたいとは思わないのか?」


「いいえ。この役目をしたからこそ、歴代も叶わなかったルド帝とお会いできて、私は感無量でございます」


 アニバルは立ち上がって、ウーノを見下ろしたよ。


「エクトルは歴代皇帝を守るお前を俺に派遣した。エクトルの父親の名前はフェデリコ。レナータではフェデリーゴか。なんだ、あいつらガルシア領主の人間ではないのか」


「いえ。ガルシア領主様であられます。兼任されてますので。ご長男が成人されましたら譲られると」


「そういうことね。皇帝が魔物の住む森に行ったから大変だったろう?」


 ウーノはふっと笑ったよ。


「大変どころではありませんでしたが。アニバル(・・・・)様。護衛の許可をいただきたく」


 アニバルは頭をガシガシかいたよ。


「俺は千年間もウーノの子孫の生き方を縛っちまって、凹んでるのによ」


「この生き方以外は考えておりませんので、アニバル様はお気になさらないでください」


「…冬の間だけだぞ。他言するな。あと文字と魔法を教えろ」


「御意」


 本気でこの男が黙ってくれるかはわからないけど、とりあえず傷つけるようなことにならなくてよかったとアニバルは思ったよ。


 外にいた二人も呼んで狭い部屋で、アニバルはお勉強を始めたよ。


 アニバルはレナータと似た単語は覚えるのは早かったけれど、まったく読み方が違うのは苦手だったよ。


「なんで文字も発音も違うんだ!神々はどうして同じ言葉にしなかったんだ!」


 ついに神様に八つ当たり始めてしまったよ。

 三人は根気強くアニバルに文字を教えてくれたよ。魔法も基礎からやり直ししたんだ。


 天気がよければ村にいって雪降ろしの魔法陣を教えたり、全部の家に設置したよ。


 本格的な冬を迎え、毎日のように吹雪いて雪は積もったけれど、雪で倒壊した家はトニアの家以外なかったんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ