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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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49話 水神王アニバルの話6

 カルロスとヘラルドは年子ほどではないけれど、アニバルのところに何度か来たよ。カルロスは父親にねだったのか、魔力砲を持ってきたよ。エクトルとフィデルもねだったようだけれど、駄目だって言われちゃったらしいんだ。


「アニバル殿!父上を連れてきた!」


 カルロスが笑顔で手を振っていて、アニバルはデジャヴかと額に手を置いたよ。


「お前らは自分の親父を見せたいのか!」


「カルロスは別に私を見せに来たわけではないよ。私が貴殿に会いたかったのだ。魔物をありがとう。貴殿が息子に話した通り、あの魔物には回復効果があるようだ。もし狩ったら売ってくれないか?」


 アニバルは将軍というから勝手にいかつい強面の男かと想像していたけれど、なかなかのイケメンだったよ。


「構わないが…。将軍って若いんだな。あんたとカルロスは兄弟に見えるぞ」


「私は将軍としては若い方だね。カルロスは私が十八のときの子どもだ。あ、もちろん結婚してからだよ」


 ウィンクしたよ。この親にこの子ありだね。カルロスは父親似で間違いなさそうだよ。


「そうすっか…」


 チャラ男のノリが苦手なようで、アニバルは距離を置いていたけれど、魔力砲の話になったら意気投合してしまったよ。年も近いから話しやすいのもあったようだね。


「貴殿の戦い方が変わるという言葉、もっともだと思う!他のジジイ…将軍どもは頭が硬い!魔力砲で敵を撃つなんて騎士道に反するとか、美しくないとか!戦は勝たねば美しくても意味がないだろう!」


 カルロスの父親は熱くなっていて、子どもたちは数歩下がって冷めていくよ。


「将軍たち?」


「ああ、将軍は四人いるんだ。この帝国を四つのエリアにわけて、それぞれ一人ずつ守っている。みんなくそ…老人ばかりだね。全く人の話を聞かないんだ」


「老害ってやつだな」


「そうそう、それ!私みたく若くて才能がある人間を妬むんだよ。本当に面倒だよ」


 アニバルはお前の方がちょっと面倒だよとは言わないでおいたよ。


「皇帝陛下は私の話に耳を傾けてくださるから、魔力砲の製造は辛うじて進められている。

 そうだ!アニバル殿の腕を見せてほしい。うちの兵に練習させているんだけど、イマイチでね」


「どんな練習だ?」


「的を狙ったり、狩りに行ったり。実戦したいけれど、撃ったら死んじゃうからね」


「的って止まっているやつか?人間狙うなら意味がないだろう。狩りはいいな。どのくらい獲れる?」


「山岳訓練も兼ねてやっているけど、野山に慣れることから始まるからね。まだまだだよ」


「兵士って貴族の坊っちゃんばっかりか?それは大変だな」


「ほとんど貴族だよ。アニバル殿が森の心得みたいなものを兵士に教えてくれないかい?」


「断る!狩人は忙しいんだ。冬が終われば次の冬に備えて家の修理をしたり、保存食作ったりな。村に行きそうな魔物がいれば狩る。俺がお前たちにかまけているうちに俺の飯と村を誰が守るんだ」


「ふむふむ。私の生きてきた中であまり考えたことがない暮らしだ。確かに大変そうだね。今の提案は忘れてよ。そうだ、試作品持って来たんだけど」


「それ先に言え!」


 手を出してちょうだい、ちょうだいするよ。渡された魔力砲は要望通り持ち手がついていたけれど、連射用の筒はついていなかったよ。


「これは持ちやすくなった。試し撃ちしていいか?」


「どうぞ」


 近くの木の幹を狙って撃ったよ。幹に穴が開いたんだけれど、威力は変わっていなさそうなんだ。


「どうかな?」


 聞かれたアニバルは魔力砲に夢中でじっくりと見て、また狙う素振りをしてから振り返ったよ。


「いいな、これ!」


 目をキラキラさせると、エクトルが吹き出したよ。


「マエストロ、子どもみたい」


「言っとけ。これ、借りていいか?」


 いいよという前に森に入ってしまったよ。


「なかなか愉快な御仁だね。カルロス、弟子にしてもらえそうかな?」


「はい。マエストロに撃ち方を教えてもらったら、的を外さなくなりました」


 カルロスが誇らしくしているよ。しばらくしてアニバルが魔物を獲って戻って来たよ。


「クマクマ詐欺だ!」


「なんだそれ」


 ずっと静かだったヘラルドが何言ってるのという顔をしたよ。


「飯にすんぞ!」


「はーい!」


 もう慣れたもので、エクトルとフィデルはクマクマ詐欺を捌いていくよ。カルロスの父親はとても驚いたんだ。


「随分、あのお二人もたくましくなられて」


 カルロスとヘラルドも手伝いはじめたよ。


「マエストロ、保存食作る?」


 エクトルが塩を家の中から持ってきたよ。


「ああ。あんたらも食うか?」


「美味しいのかい?」


「貴族のおこちゃまがもりもり食べてるんだから、旨いんだろうよ」


「では私もいただこう」


 肉だけのバーベキューが始まったよ。タレはないから塩味しかないけどね。カルロスの父親は大満足したみたいだよ。服が汚れるのをいとわずに地べたに座っていたよ。アニバルも向かい合って座って食べたよ。


「アニバル殿。私のもとに来ないかい?きてくれたら毎晩のように美女をたくさん呼んであげよう」


「美女…」


「マエストロ、そこ揺らがないでよ!」


「そうだよ!マエストロのマエストロの仇をとるんだろう!」


 年子が引き止めるけれど、アニバルは揺らいでいたよ。


「俺、このまま行けば独身だし?この暮らししてくれる女っていないだろう?」


「難しいだろうね」


 カルロスの父親はニヤニヤしているよ。エクトルはアニバルの耳を塞いだんだ。


「駄目だって。強くなるなら女の人のことを考えちゃ」


「お前、ガキの癖になに経験豊富みたいなこと言ってんだよ」


「マエストロは経験たくさんあるの?」


「…ありません」


 フィデルが決意を忘れるなって羽根を持ってこようとするから、アニバルは女を諦めて話を断ったよ。


「残念。食事のお礼にその試作品あげるよ。また感想聞かせて」


「貴族はほいほい豪邸が建てられるくらいのものを人にあげるのかよ」


「アニバル殿だからこそだよ。また来るよ」


 将軍は忙しいのか、本人は来ないでカルロスと兵たちが来たよ。


「将軍より鍛えてもらえと命令を受けました!狩りのお手伝いをします!」


 断ろうとすると最新の魔力砲です!と差し出されて先手を打たれたよ。


「…わかった。鍛えてやる。狩人流でいいならばな」


 そのあと、兵士たちはアニバルのスパルタに悪夢をみたらしいよ。


 短い夏が来ると、アニバルは小屋の修繕や村の農業のお手伝いをしたよ。お手伝いをすると収穫のときに少し分けてもらえるんだ。


 山菜やキノコは食べるけど、寒い地方で育つライ麦とかの穀物はノウハウもないし、一人では育てられなかったんだ。焼きたてのライ麦パンをもらって、ほくほくしながら帰ると、小屋の前に見慣れた子どもたちがいたよ。


「マエストロ、村にいたの?」


 エクトルが駆け寄って来たよ。


「お前たち、休みになると来るんだな」


「今は夏休みだよ!お泊まりするね!」


「駄目だって言ってんだろう。まさかカルロスとヘラルドも泊まるのか?」


「よろしくお願いします。粗品ですが、どうぞ」


「礼儀正しく言っても、モノで釣ろうとしても駄目なものは駄目だからな!」


 村の仕事をしていたから狩りはしばらくしていなかったよ。帰ったらすぐに罠を仕掛けようと思っていたのにエクトルが来てしまって計画が崩れてしまったよ。


「お前ら待ってろ。森に行ってくる」


「狩り?狩りするの?」


 フィデルがアニバルの周りをうろうろするよ。


「駄目だ!罠を仕掛けてくるんだ。お前はここで待ってろ!」


「ずっと待ってたもん!俺も行く!」


「邪魔だって言ってんだろう!弟子はマエストロの行動を邪魔してはいけないんだ。なんでそういうことをしているのか考えて動くんだ」


「わかりました。書き記しておきます」


「ヘラルドは俺の弟子じゃないだろうが!」


 ヘラルドが紙と万年筆を取り出してメモをしだしたよ。


 アニバルは子どもたちを無視することにして、小屋にパンや荷物を置くと罠を手にもって森へダッシュしたよ。


「あー マエストロ!!」


「行っちゃった」


 元気な子どもたちとはいえ、森の中をアニバルのように駆けられないよ。


「待つしかないだろう」


 カルロスは仕方がないと肩を落としたよ。罠を仕掛けて戻るとまだ子どもたちは小屋の前にいたよ。


「マエストロ!釣りしようよ」


 ここは紳士ヘラルドが注意したよ。


「フィデル。弟子はマエストロの行動を邪魔してはならないと言われたばかりではないじゃないか。

 アニバル殿の一日はこんな感じですか?日の出にて起床し朝食後、罠を仕掛けてくる。または狩ってくる。狩りができたら保存食作り、余った材料や皮などの素材は村に行って売るか物々交換をする…」


 ヘラルドがメモを取り出して読み始めるから、アニバルはお腹か痒くなったてポリポリ掻いたよ。


「観察されているようで恥ずかしいな」


「村での手伝いされたということですが、今日はお時間ないようならば明日はいかがでしょう」


 ヘラルドがアポ取り始めたよ。


「今から狩りしても夕暮れになっちまう。俺と何したいんだ?森には入らないぞ?」


「魔法を教えてください」


「だから俺の知識なんてないようなものだろう」


「いいえ。魔物は様々な魔法を使いますし、それに対してどう処置されているのかと」


「最近、全部これで撃ち抜いているんだが」


 魔力砲をペシペシ叩くよ。


「あ、魔力砲で思い出したんだが。カルロス、すぐに発射しないように何か装置をつけられないかって親父に言ってくれ。村人で魔力がありそうな奴に持たせたんだが、ガキが勝手に触って暴発しかけたんだ」


 カルロスも魔力砲の事故について、父親から渡されるときに散々聞かされていたよ。


「兵士の間でも手入れのときに誤って足を撃ったという事故があるって聞いているよ。安全装置をつけることを検討していると父上が仰っていた。

 村人に砲を持たせるのはよくないよ」


「狩りとして使うだけだ。村にも魔物が出るからな。弱い魔力でも魔物を仕留められる。これはいい道具だ。もう少し威力を落としてもいいから、村人でも使えるくらいの値段になればいいのにな」


 豪邸が買える値段だからね。村人が一生いや、村人全員にしても払いきれないよ。魔力砲の話になりそうなのをヘラルドが口を出したよ。


「魔物図鑑を持ってきたんだ。この森に何がいるか教えてください」


「俺、魔物の名前なんて適当だぜ?」


「クマクマ詐欺!」


 フィデルは楽しそうだね。ヘラルドがページを捲って指で差したよ。


「クマクマなんとかって、この前食べた魔物ですよね?これですか?」


「そうだな。正式名称はなんだ?」


「ここに書いてあります。クマもどきです」


「…俺とあんまりセンス変わらないじゃないか。文字読めないんだ」


「あ、そうなんですね。魔法を学ぶには文字は必須ですよ」


「別に学ばないから」


「何も読めないの?」


 エクトルが革の鞄から本を取り出したよ。


「だから読めないからさ」


 これはこれはと指差すよ。最初の文字が装飾されていて、色がとても鮮やかだったよ。


「なんだ、これ?本なのか?高そうだな」


「うん。辞書だよ。この青いところの文字わかる?」


 単語らしいものが並んでいるけれど、少しずつ文字が違ったよ。


「青?その下の黒いのなら読める」


 発音したらエクトルは目を輝かせたよ。つまらなそうにしていたカルロスも、じっとアニバルを見つめていたんだ。


「どういう意味かわかりますか?」


 ヘラルドが緊張気味で聞いてきたんだ。アニバルはなんでもないように答えたよ。


「光だろう?ん?これは異国の言葉?」


「そう!レナータの言葉だよ。これは言葉の辞典で、この国の言葉と他の地域の言葉が並んで書いてあるの。マエストロはレナータの文字から読めるんだね」


 文字を習った記憶がないから、アニバルはんーっとうなっているよ。


「どういうことだ?」


「アニバル殿は習ったことないのなら、前世で習ったのでしょう。レナータ出身の誰かとなります」


 ヘラルドの期待を含んだ言葉にアニバルは嫌そうな顔をしたよ。


「…始祖とか言うんじゃないだろうな、お前ら。レナータの言葉がわかって水の使い手ならたくさんいんだろう」


「そうだね。これだけでは証拠にならないよ。でも魔法の使い手なら、やはり文字を覚えて魔法のマエストロになるか、うちにきて兵士になったほうがいいよ」


 さらりとカルロスが勧誘してきたよ。


「兵士にもならないし、魔法のマエストロにもならない!俺は人殺しにはなない!」


「魔力砲の研究は兵士にならなくても、軍の所属にならできるよ」


「軍ってことは人を殺す武器を作るわけだ。俺は自分が生きられるだけの獣や魔物を狩って、ついでに世話になっている村人たちを守れるのならいい。人を殺しても食えるわけではないしな。殺すだけ無駄だ」


「…攻めて来られたら戦わないと。守るための武器であるんだよ?」


「俺は人とは戦わない。それでお前ら何しに来たんだ?」


「狩り!」


「お話!」


「魔力砲の練習!」


「魔法について話し合いたいです」


「…全部俺じゃなくてよくないか?フィデルはまだ狩りは早いって言っただろう!エクトルとヘラルドは俺と何を話すんだ。カルロスは魔力砲のマエストロがいんだろうが、マエストロが!」


「実際に森で獲物を撃っているのを見て見たいんだよ」


「俺もアニバル殿が魔法を使っているところを見てみたいです」


 森にはいらないと言ったのにね。お話になって、焚き火を囲むように腰をおろしたよ。


「お題は?」


 エクトルとヘラルドが手を挙げたよ。


「他に何が読める?」


 エクトルの意図にヘラルドも気づいていたよ。フィデルはつまんないというから、こっそり教えたんだ。


「文字を知っているということは関連した知識があるかもしれない。あとは思い出とかね」


「マエストロに前世を思い出してもらうんだね!」


 こそこそ話が聞こえてきたから、アニバルは却下したよ。


「では魔法について。アニバル殿は魔法について習ったことがないそうですが、どのよう使っているか教えてください」


「教えるって?」


「呪文とか」


「呪文とかねぇよ。頭でパッと思いついたものを、ふんって出すだけだ。言葉にしたほうがやりやすいから適当に言っているだけだし」


 フィデルとカルロスが爆笑したよ。


「ふんってなにそれ」


「くくく。笑える」


「具体的に、言葉で、説明してください」


 ヘラルドも笑いを我慢していたよ。


「ことばぁ?えーと。例えば水を出すには周りを視て水のあるところを探す。水を使えば出すよりも簡単で疲れないんだ」


「水のあるところを探すとか意味わかんない。魔法で出せばいいだろう?」


「マエストロ、それ視覚化魔法って言うんだよ。視るってちょっと…」


 熱血教師と生意気な生徒の温度差みたいになってきたかな。

 アニバルの目がすわりはじめたのに、ヘラルドは気づいていないよ。


「アニバル殿のような方法をとるマエストロもいらっしゃいます。旧派と呼ばれる古い魔法の流れですね。やはりアニバル殿は旧派でしたか。これは面白い」


「俺は全然面白くない」


「旧派というのは自然の力を利用する方法で、新派は人間の魔力のみ使う方法です。そもそも魔法とは自然の現象を人間の手で生み出す方法です。現象つまり魔法を誰でも同じように使えるのが呪文です。例えば火を起こす呪文なら火の使い手なら、特定の呪文を唱えれば火を起こせます。

 誰でも出きるのが正しい呪文とされ、自分しか使えないものは学問上認められません。新派はこの原則に則って魔法を使いますが、旧派は個人の感性や感覚に左右されてしまうので、あまり支持されていません。

 旧派は新派より地味ですが、旧派はゆっくりと魔法を発動するのに対し、新派は発動時間が短く威力が強いです。魔力維持と考えれば旧派の方が魔力を温存できますが、戦場のように多くの敵を瞬時に倒す方法は新派がよくつかわれますね。

 アニバル殿の話を聞いて、旧派について調べてみたのですが、始祖も旧派だったので…」


 説明を求めていないのに、ペラペラと話すよ。ちょっとオタク要素ありそうだね。


「悪かったな地味で」


「天候操作系は旧派がいいとされています。アニバル殿は魔法の発動前に視覚化魔法を使われていますか?」


「まあ、な」


「ヘラルド。 マエストロがひいてる。フィデルが寝そう」


 フォロー役エクトルが教えてあげたよ。フィデルの目がトロンとして、ベッドがあったらぐっすり寝れそうだね。


「失礼。魔法歴史学に興味があるので」


 この後、夕飯の食材にするため魚釣り大会になって、ヘラルドがダントツで釣り上げたんだ。でもヘラルドに魚を焼かせたら真っ黒になってしまって、みんなから怒られたよ。少し前まであったギスギス感はなくなって、カルロスとヘラルドは互いの失敗を冗談にしたり笑いあっていたよ。


 アニバルは食事が終わると小屋に入ってしまって、エクトルとフィデルがむくれていたよ。


 夜が明けるとアニバルは外に出たよ。子どもたちのいるテントは静かだから、まだ寝ているみたいだね。テントの前には兵士が立っていて、番をしていたよ。


 アニバルは罠を見に行くとシカがかかっていたよ。今日はいい日だと明るい気分で小屋に向かったんだ。兵士たちは起きだして、朝食の準備を始めたよ。わざわざ野菜を持ってきたみたいでスープを作っていたんだ。


「エクトル様たちのお食事を作っているんです。アニバル殿も召し上がりますか?」


 貴族の食事が気になったから、ありがたくいただくことにしたんだ。フィデルは眠そうな目を擦りながら、食事をしていたよ。


「罠はどうでした?」


 ヘラルドは朝からでもビシッと背筋を伸ばしていたよ。


「シカがかかっていた」


「俺も行きたかった!」


 フィデルは罠と聞いて、完全に覚醒したようだよ。


「まだ寝てたじゃないか」


「狩り狩り!」


「はいはい。お前は留守番な。カルロス、魔力砲の練習するか?」


「やった!」


「なんでぇ、ずるい!」


「お前らいっぺんに森に入られても面倒見きれない。特にフィデルはちょこちょこ動くなよ。この前だって毒キノコ触ってかぶれたじゃないか」


「う…」


 フィデルは興味に負けて色んなモノを触ったり、アニバルとはぐれそうになるから一番目が離せなかったんだ。

 エクトルとカルロスを連れて森にいき、フィデルとヘラルドはお留守番させたけれど、薪割りをするように言ったよ。


「やり方わからないなら、兵士に聞いとけ」


 師匠として他人に丸投げっていいのかな?兵士たちは軍の練習で火起こしや暖の取り方を学んでいたから、貴族出身者でも薪割りはできたよ。乾燥しやすい積み方までやってくれたから、兵士たちをアニバルは褒めまくってフィデルが不機嫌になってしまったけれどね。


 カルロスは魔力砲で獣を獲れるようになったよ。


「魔物は出ないのかな?」


 カルロスは魔物がちょっと怖かったみたいだよ。


「魔物も獣も春が一番飢えている。冬ごもりで飯を食っていないからな。夏は穏やかな方だが、子どもがいると警戒心が強くなって少しでも近づくと攻撃してくる。秋は冬ごもり前でエサを食べまくる。いつでも危ないんだ」


「そうなんだね。エクトル、俺ばかり魔力砲持っていてつまらなかないかい?」


 エクトルは自分の魔力砲を持っていないよ。


「マエストロのお話が楽しいからつまらなくないよ」


 ニコニコしているから、アニバルは出会った頃は後ろについてきてピイピイ言っていたのに成長したなと思ったよ。フィデルといるとやんちゃで、うるさくなるのかもしれないけど。


 カルロスが獲った獲物をカルロスに運ばせながら小屋に戻ったよ。カルロスは持てないと文句言ったけれど、身体を鍛える訓練だとか適当に言って運ばせたんだけどね。


 目の前の数本の木を抜ければ小屋だというときに、通り雨があったんだ。アニバルはささっと木に避難したよ。エクトルとカルロスは小屋へ走って雨宿りしたんだ。


「マエストロ、どうしたの?」


 フィデルも小屋に雨宿りしていて、アニバルが来ないのが不思議だったんだ。小雨程度なら走ってきそうだからね。


「あー。雨に濡れるのが嫌なんだ」


「濡れるのが嫌なの?この前暑いとか言って川に飛び込んでいたじゃない」


「それとこれは別なんだ。自分でもわからねぇけど」


 エクトルが小屋からこちらに走って来たよ。


「どうした?」


「…寂しそうだったから」


「ああ?そんなことねえよ」


「雨が嫌い?」


「嫌いというわけではないが、昔から雨に濡れるのが嫌なんだ。何か嫌なこと思い出しそうで」


「雨に濡れて風邪ひいたとか?滑って転んだとか?」


「そんなんじゃない、と思う」


 アニバルはポタポタと葉から落ちる水滴を目を細めて見上げたよ。


「記憶にない、深いところ。みたいな」


「前世の記憶?」


「さあ?前世の記憶なんてねえからよ。前世というものがあるなら、そうかしれない。雨が降っても自分の何かが乾いたままで。報われない、ような。切ない、ような。嫌な気分になる」


 エクトルは目を見開いてアニバルを見上げたけれど、アニバルはまだ天を仰いでいたよ。


「止まねえな」


「俺、ずっといるね。大きくなってもずっと、ずっと」


 ぎゅっとアニバルの袖を掴んだよ。


「何を女々しいことを言ってんだよ。お前は大人になって、領主サマなんかになって、じいさんになって、そういえばあの森に狩人いたけど生きてるかなとか思って一生を終えるんだ。一緒にいるのは今だけだ」


 いつも言い返すエクトルがずっと袖を掴んで黙っていたんだ。アニバルは舌打ちしたよ。


「雨は嫌だ。湿っぽくなっちまったじゃねえか」


 アニバル小屋の勝手に林間学校が終わると秋が訪れたよ。カルロスが改良した魔力砲を持ってきてくれるから、いつの間にかアニバルは子どもたちが来るのが楽しみになっていたんだ。


 カルロスが持ってきた魔力砲を試し撃ちしていると、フィデルが寒そうに腕をこすっていたよ。


「今日は冷えるね」


 エクトルたちもじっとしていたら寒いなって思っていたんだ。


「秋の寒さは急にやってくるが、今日は冷えるな」


 暑がりなアニバルも不思議そうに空を見上げたよ。とてもいい秋晴れだったのが、森の奥の方で黒い影がかかっていたんだ。


 アニバルが息を飲んで固まってしまったよ。



「どうしたの?マエストロ」


 エクトルが聞くとアニバルは魔力砲を構えたよ。


「…来た。奴だ」


「え、何が?」


 アニバルは高揚を押し殺して、低く呟いたよ。


氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)だ」


「え!」


 その場にいる者全員が空を見上げたよ。森の木々が白くなって太陽の光をキラキラ反射させていたよ。まるで凍ったような森から、大きな鳥が姿を現したんだ。


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