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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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4話 奴隷王サクスムの話4

 サクスムは大きく息を吸って地面を見たよ。水は地面に吸われてあまり残っていないみたいだね。


 水を使って崩れた砂を流そうとしたけれど、あまり動かなかったよ。水を操るサクスムは水がたくさんあった方が操りやすかったんだ。

 

「雨、雨!」


 目を瞑り祈るように空を見上げると、ポツポツと降り始めたよ。土がしっとりとしたところで降らすのをやめたんだ。


「お前、まさか!」


 長はサクスムが集落を破壊した張本人だと気づいたよ。多くの親戚を災害で亡くしたから、殺そうかと思ったけれどサクスムが砂を動かしているのを見て驚いてしまって、殺意が消えてしまったよ。


「一人だとつらそうだね。土の使い手がいることを忘れてはいけないわよ」


 女の子が手伝ったんだ。そうしたら、埋もれていた家の一部が見えてきたよ。


 でも全部はとても一人では戻せそうにないよ。サクスムは女の子が手伝ったことで自分一人ではないと気づいたよ。


「奴隷のみんな!その枷は自分たちで外すんだ。魔法が使える人は手伝って、仲間だと(おさ)に認めてもらおう!」


 サクスムは自分の枷は呆気なく破壊できたことに拍子抜けしたんだ。でも主人殺しという意識の枷は、なかなか外れてはくれなかったんだ。しばらく苦しんだんだよ。


 戸惑っていた奴隷たちは一人また一人黒い砂利を操って取り除いたんだ。元の村の家や畑があったところがどんどん現れていったよ。


「池が埋もれて水が飲めないんだ」


 奴隷の一人が言うのでサクスムは池を見たよ。池というより地面を掘って石や岩を敷き詰めた貯水槽だったんだ。それが砂利で塞がってしまっていたんだ。


「砂を取り除いても水がなければ飲めないよ?」


「また雨を降らしてください」


 サクスムはもう一度雨を降らせるよりは、井戸を掘ったほうがいいと考えたよ。一番水が溜まっているところを示して、奴隷たちがそこを掘ったよ。


「地中の水の場所もわかるのか。そんな魔法は聞いたことがない!」


 長はしきりに驚いて不思議がっていたよ。奴隷たちが井戸を掘っている間に畑を見させてもらったんだ。


 ここの土地は火山が噴火して出来たってさっき話したよね?砂地を掘れば下に昔草木が生い茂っていた地層がでてくるんだ。ここの集落はサクスムたちがいる場所よりも砂がたい積している厚さが薄かったみたいなんだ。十数センチ掘れば昔の地層が出てくるよ。


 砂地よりも豊かな土で植物を育てた方が実りがいいと、この集落の人は発見したんだ。


 そんなことは小学生も知っているって?この時代のほとんどの地域は学校はないし、文字も使っていなかったから、知識は大人から子どもへ直接伝えていって、生きていくのに手探りな時代だったんだ。


 ちなみにサクスムたちの集落は、砂と家畜や人の糞を混ぜて肥料にしていたんだ。超臭かったと思うよ。


 奴隷たちが水が出たと長とサクスムを呼びにきたよ。


 長はサクスムの力がほしくなったんだ。地下水探知機能も搭載しているからね。


「約束通りここにいる奴隷たちは身分を回復させる。代わりにお前がここを直すのを手伝ってくれ」


 いいよといいかけて、女の子を見たよ。女の子はただでは引き受けてはいけないって母親から教えられていたよ。


「構わないわ。サクスムを貸す代わりにうちの畑づくりを手伝って」


「わかった」


 奴隷たちの枷は次々に外されていったよ。奴隷たちは感激してサクスムに感謝したんだ。


「サクスム様、ありがとうございます」


「いや、俺は偉い人ではないから」


「偉い人になるのよ。ね?」


 女の子はビビっていたくせにサクスムの腕を組んだよ。男の長は自分の娘をサクスムと結婚させようと考えていたんだ。サクスムを女の子のいる集落から引き離して手に入れたかったんだね。


「サクスム。お前のせいでこうなってしまったが、命令されてやったのだろう。砂を退かしてくれた上に地下水を見つけてくれた。礼をしたい」


 土砂崩れに巻き込まれなかった家が何軒かあり、そのうちの一軒に入ると鍵のかかったドアが奥の方にあったんだ。ドアを開けると中から宝石や貴金属が置かれていたよ。


「好きなのをやろう」


「これは何?」


 サクスムはキラキラ光る装飾品が綺麗だなって思っているだけで、ほしいとは思わなかったよ。価値が全然わからないみたいだね。女の子はあれこれ手に取ってこれがいいとサクスムではないのに言い出したよ。


 食糧もカツカツな人たちがなんで宝飾品を持ってるかというと、豊かな土地を持つ集落を襲って手に入れたり、仲間になった証で贈られることがあったよ。


 そういえばパンを食べていけれど、ここの土地では麦が育たないんだ。サクスムの集落は装飾品に使える宝石が取れる山を持っていたから、それと麦をよその集落で交換していたんだ。よその集落というよりもサクスムたちのいる集落よりももっと大きくて、都市国家のような形になっていたんだ。サクスムたちの元長はそこの仲間にはなれなかったみたいだけど、理由はボクにはわからないよ。


 ちなみに貨幣はあまり流通していないよ。


 サクスムはいらないと思ったから、女の子が腕輪をもらっていたよ。


 上機嫌な女の子と一緒に集落に戻ったよ。さっそく砂を掘ったけれど、深くて大変だったんだ。


「サクスム!来てくれ」


 呼ばれていってみると、女の子の母親がベッドの上で苦しんでいるよ。


 病気かとサクスムは心配したけれども、どうやらお産が始まったようだね。初めて見たお産にサクスムはおろおろしていたけれど、女たちに邪魔と言われて大人しく壁際に寄って見守ることにしたよ。


 あまりにも痛々しそうに叫ぶからサクスムは痛みが和らぐ魔法をかけると険しかった顔が少し穏やかになったよ。


「楽になりました…」


 女の子の母親は力を振り絞って男の子を産んだよ。


「男ですか…」


 女の子の母親は無事に出産できて安心したけれど、新たな問題に悩むことになったよ。


 集落の長になる人は男だと決められていたよ。生まれた子は死んだ前の長の男の子どもだから、ここにいる集落の人とは関係ないし、むしろ親戚を殺されたりしているから恨んでいるよ。


 殺せという意見も出始めて、女の子も父親が前の長に殺されたから、子どもも殺していいと考えていたよ。それは母親が前の子を殺しているから同じことをすると思ったんだ。


 生まれたばかりの子どもを抱いて、乳を与えるとポツリと言ったよ。


「この子を育てます」


「お母様、そいつはお父様を殺した奴の子どももだよ!」


「この子は私が産んだ子です。そしてお前の弟です」


 女の子は自分の弟という事実に気づいて、殺すと言った自分が恐ろしくなったよ。母親は子どもを撫でながら涙を流したよ。


「あの時は、あの男が憎くてあの子に手をかけてしまった。本当は…本当は…」


 お産は命がけで、生まれた子どもも五歳になるまでの確率は低かったよ。だから子どもは宝だったんだ。


 集落の子どもとして育てることが決まり、緊張がほぐれたところで、カーンカーンと金属を叩くような音が聞こえてきたよ。


「敵襲か!」


 再び緊張が走って、サクスムたちは敵が来たという方角を見たよ。土砂崩れさせた集落とは別の方向から武装した人たちがこちらに向かってきたんだ。


 元奴隷たちが武器を持って、集落の囲いの前に立つよ。遠距離攻撃できるのは弓矢と魔法なんだ。相手も弓を構えたよ。サクスムたちは弓矢をあまり持っていなかったんだ。何故なら矢になる木や竹が手に入りにくかったからね。代わりにあるものは岩や石だよ。投げるか高いところから落とすしかないね。だから見張り台にたくさん石が運ばれたよ。


「サクスム!水の魔法で奴らの立っている場所を濡らしてくれ。それから砂をどけて穴にするんだ」


「そ、そんなことできないよ」


 この日は土砂崩れ集落を直して、とても疲れていたんだ。


「いいからやれ!あいつらに負けたら殺されるか、奴隷にされるぞ!」


 その言葉に元奴隷たちは力が入った。二度と奴隷に戻りたくないからだね。


 サクスムは言われた通り、雨を降らせて向かってくる人たちの足元の砂をどかしたよ。急にバランスを崩して転倒したり、穴の深いところに落ちてしまって混乱しているよ。


「土の使い手はサクスムを手伝え!深く土を掘るんだ!」


 命令されたように落とし穴を深く魔法で掘っていくと敵が慌てて逃げるけれど落ちていくよ。


「雨だ、サクスム。雨を降らせろ!」


 限界に近いサクスムは最後の力を絞って、敵上空に雨を降らせたよ。


 敵は落とし穴から這い上がろうにも砂の下の土になった部分が雨に濡れて滑りやすいし、砂利の部分も同じように滑りやすくなっていたよ。


 なかなか這い上がれずに、深いところで水がふくらはぎの部分まで浸かり始めたんだ。これはもう攻撃どころではなくて、敵は恐慌状態だね。そのまま雨が降り続けたら水死だし。


 敵は運がよかったのか、サクスムが魔法を使いすぎて昏倒してしまったんだ。


 意識が遠退く中で走馬灯のように記憶が駆け巡ったんだ。(おさ)が着ているよりも布をたっぷり使った服を着た男の人が、笑って手を差し出したよ。


 サクスムは誰だかわからなかったけど、不思議ととても心が穏やかになったんだ。


 目を覚ますと女の子の母親が子どもをあやしながら、サクスムの顔を覗き込んでいたよ。


「ご苦労様でした。あなたのおかげで敵を退けることができました」


 奴隷にならなくてよかったとサクスムは安心したよ。


「彼らはまた来るかもしれません。それに多くの奴隷をかかえているようです。奴隷たちを助けにいきますか?」


 女の子の母親は勢力を伸ばすために他の集落を手に入れようと考えていて、奴隷解放には興味はないよ。サクスムを戦わせる理由を作っただけなんだ。


「行く!」


 根が素直なサクスムは腹黒い考えに気づかないで行くことを決めてしまったよ。


 女の子の母親の呼びかけに、仲間になった隣の集落から元奴隷が集まったよ。


「サクスム様!」


 サクスムが元奴隷たちの前に立つと歓声が起こったよ。サクスムは驚いて口が開きっぱなしになったよ。おじさんがそれを見て大笑いしていたんだ。


「俺、そんなに偉い人じゃないけど」


「俺らを奴隷から解放してくれたんです!しかも雨を操るなんて、まるで水の女神アルクーアのようです」


「えぇ!アルクーアは女の人だから俺じゃないよ」


 彼らの宗教では天の国(カエルム)に神々が住んでいて、地上を作った。水の神様アルクーアが涙を地上に落とすと生命が誕生したと言われているよ。


 自分たちを解放してくれた上に、水を自在に操るサクスムに元奴隷たちは神様のアルクーアを重ねたみたいだね。


 サクスムの集落の人と隣の集落の元奴隷たちは列を組んで、敵の集落へ向かったよ。


 どうやら敵の集落はサクスムたちの集落へ兵の殆どを送り込んだらしく、すぐに降参したよ。


 その近くにも小さな集落があって、そこも仲間みたいなんだ。サクスムは敵の長に奴隷たちを解放するように言ったんだ。


 そこの奴隷の中にサクスムの集落から逃げたサボり魔の姿があって、気まずそうにしていたよ。


 おじさんが小さな集落を見てポツリと言ったんだ。


「元奴隷の俺たちだけで集落を作らないか?」


 賛成の意見がたくさん出たよ。サクスムたちは何も物を持っていないから、集落に居すわって移住を決めてしまったよ。それには元々住んでいた人たちも各集落の人たちも困ってしまったんだ。働き手がいなくなるからね。


 他の人はお構いなしに、サクスムたちは解放した奴隷たちと一緒に小さな集落を開墾していったよ。


「長たちが少し人を寄越せといっていますが、どうしますか?」


 元奴隷たちはサクスムに聞いてきたけれど、考えることが苦手なサクスムは毎回困ったよ。


 みんな元の集落には戻りたくないみたいだ。元奴隷たちが集まって話し合いをしたよ。


「どうしようか」


「断って攻撃されても困るからな。ここはお前がいけ」


 おじさんがサボり魔の肩を叩いたよ。サボり魔は逃げ出して、この集落にたどり着いたんだけど、食べ物を漁っていたところを捕まって奴隷にさせられていたらしいよ。


「う…」


「お前のせいで俺らがまた奴隷にされかけたんだぞ。サクスムはどう思う?」


 おじさんがサクスムに聞いたよ。おじさんも他の奴隷もやたらサクスムに聞くけれど、考えるのが苦手なサクスムは、それでいいと思うと答えたよ。


 一人だけだは足りないだろうということで、結局は何人か行くことになったんだ。


 その何人かが問題でみんな嫌がったよ。サクスムは一生懸命考えたんだ。


「交代でいこうよ。太陽が五回昇ったら帰ってこられるとか。俺が先に行くよ」


「それはいい考えですね。でもサクスム様はいかないでここを守ってほしいです」


 サクスムは丁寧に扱われたことがないから、むず痒そうにしていたよ。


 何十人も一度に攻撃できるサクスムは集落の守備を任されていたよ。


 サクスムが水没させた集落の長の使いが来て、サクスムに来てほしいというよ。


 その集落には歩きだと十時間くらいかかるから、返事に困ったよ。用事というのは地下水を見つけてほしいってことだよ。


「俺らより人いるし、魔法使えるやつらが多いんだ。サクスム様ばかりに頼るな」


 元奴隷たちは追い返してしまったんだ。これでよかったのかサクスムはずっと心残りだったんだ。


 追い返されたことを使者から聞くと長は激怒したよ。


「便利な力があるから、あの小さな集落にいることを認めたのに。元奴隷の分際で!」


 長がサクスムをどうにかしようと考えていると、畑の作り方を習いにきていた滞在していた女の子の集落の人が察して、伝えたよ。


「サクスムと結婚する気はないのですか?」


 母親に言われて女の子は仕方なく、してもいいと答えたよ。奴隷に戻せば、サクスムは前の長のように心臓を破壊するのではないかと母親は考えていたようだったよ。サクスムの機嫌を取ることにしたんだ。


 サクスムは不穏なことを知らないで、住んでいる集落から三時間ほどの歩いた東の場所にも奴隷が酷使されていると聞いて、元奴隷たちは助けにいったよ。サクスムは集落に残ったんだ。


 無事に全員帰ってきた上に、東の集落の長も来たんだ。


「井戸を掘ってくれるとは本当なのか?」


 武力衝突はほとんどなく、なかば拉致するように年をとった長を連れてきたようだね。


「奴隷を解放すれば井戸を作っていいよ」


 サクスムは意図せずに他の集落を仲間に加えていったんだ。それを聞いた女の子の母親は自分たちの支配地域が勝手に広がるとほくそえんでいたけど、逆に隣の集落の男の長は怒ってしまったんだ。


「あの男には統率する能力はない。でも周りがその気にさせて、こちらを襲ってくるかもしれない」


 

 便利な人間兵器だけれども、敵になれば恐ろしいと考えたんだ。サクスムはのほほんと、別の集落から逃げてきた奴隷たちを匿ったりして、サクスムを慕う人たちが増えていったよ。


 隣の集落が兵の準備をしていると聞いて女の子はサクスムに使いを出して、警戒してといったよ。


 その使いが来た日、女の子がいる集落は隣の集落に攻撃を受けたよ。抵抗したけれども、防戦むなしく兵の侵入を許してしまったんだ。防戦といってもレンガの分厚い城壁があるわけでもなく、岩を積んだだけの簡単に上れてしまうものだったんだ。


 長は女の子の母親に迫ったよ。


「あなたの娘を私の息子と結婚させ、ここは私の配下になってもらう。そして、あなたも私の妻になれ。いいな?」


 女の子の母親は生きていくためには、男の言うことを飲むしかなかったんだ。


「ではその子は奴隷にしよう」


 首が座ったばかりの赤ん坊を母親から引き離したよ。


「待ってください!私の子を奴隷にはしません」


「これは私の子ではない。奴隷にできないなら殺せ。邪魔にしかならん」


 母親はできなかったよ。男は剣で子どもの首を叩き折ったよ。


「やめて…」


 死んだ我が子を抱きしめて放心する母親の耳元で男は囁いた。


「我が妻として今まで通りここを任せよう。私の後継者はあの息子しかおらん。あの子を産んで妻は死んだから。あなたはとても強そうだ」


 何人も産める女性はモテたよ。女の子は嫌がりながらも別の部屋に押し込められて、長の息子と結婚させられたんだ。


 女の子はさっさとサクスムと結婚して、ここにいてもらえばよかったと後悔しても遅かったよ。


 助けてと男に抱かれながら泣いたけれども、サクスムに届くことはなかったよ。


 そのサクスムは使者から聞いて集落の周りを岩で壁を作ったり、罠をはったり忙しかったんだ。


 夜更けになって疲れて寝ていると叩き起こされたよ。


「敵襲だ。連中、火を放った!」


 家から飛び出ると植えていた木々は燃えていたんだ。火を消そうにも兵が集落の周りを囲んでいると言うよ。


「消火を」


「それより早く敵を倒さないと」


「ヤギの小屋に火の手が!」


 大パニックになっていたよ。サクスムはとりあえず、兵を倒すという声が多かったら、外が見えるところへ向かったよ。


 すでに敵は侵入していて戦闘が起こっていたんだ。武器もろくに持ったこともなく、攻撃魔法をあまり知らない元奴隷は次々と殺されていったよ。


「水の魔法で!」


 水の礫を放って、敵を殺していったよ。敵が放った火のおかげで夜なのに昼のように明るくてよく見えたよ。


 次の攻撃をしようとして、腕を捕まれたんだ。育ての親のおじさんだったよ。


「サクスム、東の集落に逃げるんだ。あそこはまだ守りがかたい。態勢を整えるんだ」


「俺だけ逃げるの?だめだよ」


 水を、治癒魔法をとサクスムを呼ぶ声はどこかしこもしていたんだ。


「逃げるんだ!お前は、水魔法が使えるんだから。お前は先祖の血が強くでたのだろう」


「先祖の血?」


「ああ。俺らの祖先は中央(ケントルム)の偉い人だったんだ。戦いに負けてこの地に追われて…」


「敵が来る!サクスム様、早く」


 その声におじさんは強く手を引くよ。サクスムは混乱しながら走り出す。


「何でそんなこと、今」


「お前の両親も俺らも負けて奴隷になった。お前は永遠に奴隷かと、希望を持たせるのは酷だと思っていたんだ。だけど、生きて。生きて再起を!」


 夜陰に力強くサクスムを押し出すとおじさんの背に二本の矢が刺さったよ。


「おじ…」


 治癒魔法をと思ったけれど、こっちに来てと強く言われてサクスムは従ってしまったよ。


「サクスム、水!」


 燃え上がる炎の中で仲間が苦しみながら叫んでいるよ。


「助けてくれ!」


「俺は…」


 どうしたらと思った時には遅く、目の前が真っ赤になったよ。建物に火がついたんだ。サクスムはこっちと呼ばれる方に走ったよ。


「いたぞ、サクスムだ!」


 火の魔法が一斉に襲いかかったんだ。水で防御したけれども次々と火は降ってきたよ。


 サクスムの服に火がついてしまったんだ。


「水を…」


 煙で喉が焼けるように痛んだら、身体に痛みが走ったよ。一気に身体に炎が燃え広がったんだ。


 水、治癒魔法…。


 死の直前にサクスムはまたあの知らない男が微笑んで手を伸ばしてきたよ。知らない名前を呼んで、サクスムは自分の名前だと分かったよ。


「あなたは、確か…。私はそうだ」


 サクスムは敵に囲まれて焼け死んだんだ。



 奴隷王サクスムのお話はどうだったかな?期待はずれ?そうかもね。


 彼は生まれながら奴隷だったから教育もされてこなかったし、政治のあり方なんてことは考えられなかったよ。思考を奪われてきたサクスムにとって、自分で考えることも難しかったんだ。


 キミが社会的にどういう立場の人だかわからないけれども、もしも急に首相になれとか大統領になれと言われたらうまくできるかな?


 小さな集落とはいえ、サクスムにとって誰かの上に立つということは困難だったんだ。


 さて、キミは王と聞いたらどういう人を想像する?


 王冠を被って綺麗な服を着て椅子に座って大国を率いているイメージかな。古代の王は小さな国や集落を治めていたんだ。


 古代のギムペル地方には大きな王国の遺跡は見つかっていないから、今ボクが話したようなことが恐らく事実に近いんじゃないかと思うよ。



 サクスムが奴隷王と呼ばれたのは生き残った奴隷たちが、あちこちに散らばって別の集落で奴隷となったときにほかの奴隷にサクスムの話をしたんだ。当時の奴隷が長に意見を言ったりすることはなかったから、サクスムの行動は奴隷たちの希望になったんだ。


 サクスムの話を胸に度々奴隷たちは反乱を起こして、少しずつ待遇が改善されてきたよ。


 次の世代へまた次の世代へ彼の話が受け継がれていく間に、実は彼は統一王の子孫だとか、ギムペル全域を治めたとか話に尾ひれがついて広がっていったんだ。


 ほら日本にもあるじゃない。源義経が大陸に渡ってチンギス・ハーンになったとかいう都市伝説的な話。破れた者が再起して国を治める。それと同じで奴隷たちは夢を描き、サクスムの話を心の支えにしてつらい境遇を生き抜いてきたんだ。


 

 あ、本当に王様になった話がよかったかな?じゃあ次の暴君ルドのお話なら楽しんでくれるかな。


 今日はここまで。よかったらまた来てよ。




 そうそう。卯月っていう人がボクのお話をネット上でアップするっていうから、読んでみてね。ボク、見てみたけれど上がってなかったよ。え?これからだったの?タイトル決めてないから上げられないって。それ単に文字を起こすのが遅い…。卯月さん、ごめんごめん。ネットで上げるのやめるなんて言わないでよぉ~。

 ボク、日本人じゃないから日本語を書くの苦手なんだって。全部ひらがなの長編小説って読む気失せるっていうからキミに頼んだんじゃないか。


 タイトルね…。『覇王』って入れてよ。何でかって?覇王ってかっこいいじゃん!サクスムは覇王になってないから詐欺じゃんとか言わないでよ。これからだってば。他の王様のあらすじ書いたから読んでから日本人のキミが決めてよ。


 うわぁ、舌打ちされた。全部ひらがなで悪かったね。ではでは、よろ~。


 ネット担当の卯月よひらです。

 テラいわく、私のタイピングが遅いらしいので、週二回上げられるかわかりません。これから真冬なのに路上で聞きに行く身にもなっていただきたい。すみません。愚痴りました。

 次回の投稿は意地で明日します。見てろよ、テラ。

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