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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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47話 水神王アニバルの話4

 騒がしい子どもたちが帰ると静かな暮らしが戻ったよ。アニバルは桶に塩を目一杯入れて村に行ったんだ。


「村長。あの貴族の子どもを助けたら、礼に塩をもらった。みんなで分けてくれ」


「こんなに!いいのですか?」


「まだあるんだ。入れ物がなくて、何かないか?」


 村の女たちは塩がもらえると聞いて、こぞって空き瓶や蓋のできる器を持ってきたよ。


「待ってろ。入れてくるから」


 と言っても入れ物だけでもたくさんあって、アニバル一人では運べないよ。村長が荷車を出したよ。塩を分けたらあっという間に二つあった陶器の器が一つ空になったんだ。


「この器だけでもいいものでは?」


 綺麗に絵が描かれた焼き物に村人が気づいて、売ってみろと持っていってもらったよ。


「水神様。あの子どもたちはまた来るので?」


「俺の弟子になりたいと言ってからまた来るぞ」


「水神様のお力なら貴族の方がほしいと思われるでしょう。その…帝都に行くので?」


「あ?行かない行かない。氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)を倒すまではここにいる」


 村人たちは安心した顔をしたよ。


 学校が休みになるとエクトルとフィデルはやって来たよ。


「マエストロ!父上を連れてきた!」


 フィデルが手を振って無邪気に笑うけれど、アニバルは持っていた釣竿をまたもや落としそうになっていたよ。


「は?」


「こんにちは」


 いかにも貴族の男性が馬車から降りてきたよ。帽子を外すと乱れたダークブラウンの髪を付き人がささっと直したよ。顔つきがとてもエクトルとフィデルに似ているから親子なんだなって思えるよ。


「こんにちは…」


 親の顔が見たいと冗談で言ったのに来ちゃったから、アニバルは頬を引きつらせていたよ。


「息子たちが世話になっている」


 笑顔で手を差し出すよ。アニバルは一応手を(ぬぐ)ってから握手したよ。


「いやこちらこそ。塩をたくさん、助かった」


 偉い人と話し慣れてないから、ちょっと話し方がぎこちなくなったよ。


 エクトルとフィデルの父親はアニバルが住んでいるところを見たいというから見せたよ。他に観光スポットなんてないから、何するんだろうとアニバルは思っていたよ。


氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)の羽根があると聞いたんだが?」


 目的はそれかとアニバルは納得したよ。貴族の間で羽根は高く売れると聞いたことがあったからね。


「見せてもいいけど、売らないぞ」


「欲しいわけではないよ。どんなものか見てみたくてね」


 羽根を見せたら、手に取りたいと言われたけれど駄目だって断ったよ。


「俺が奴を倒したら、いくらでも羽根触らせてやる」


「それは楽しみにしている」


 アニバルが氷の鳥を倒すのは、いつになるかはわからないよ。相手は滅多にお目にかかれない伝説の魔鳥だからね。


 エクトルとフィデルの父親はすっとお付きの人に目で合図をすると、お付きの人が布を巻いた長いものを持ってきたよ。布を外すと綺麗に磨かれた銀色の筒がでてきて、端の方に宝石みたいな装飾品と模様が彫られていたんだ。宝石なんて持ってないアニバルでも、とても高価なものだろうってわかったよ。


「伝説の魔鳥に出会ったことがあって、それを討とうとする狩人がいると聞いてね。魔鳥を倒すには矢は使えないだろう。これを使うといい」


「なんだそれ?」


「魔力砲だ」


 いわゆる鉄砲だよ。でも持ち手もないし、トリガーもついていないただの筒状なんだ。昭和のヤンキーが持ってそうな鉄パイプの細いバージョンって、想像してもらえるといいかな。


「撃ってみるといい」


「撃つってなんだ?」


「魔力を込めるんだ」


「まりょく?」


「父上、マエストロは学校に通われていません。現代魔法を学んでないんですよ」


 エクトルがフォローしてくれたよ。


 外に出て、兵士から撃ち方を教えてもらったよ。この前きたリバース集団にいた人だったよ。


「魔石を握って魔法を使う感覚で石に力をこめるんです」


「ませきってなんだ?」


「魔力を持つまたは溜め込める石のことです。その宝石みたいなものがそうです」


「これか。まりょくを込める。む、こうか?」


 魔法を放つ感覚で手にこめたら、パイプの先が破裂したんだ。慌てて魔力砲から手を離したよ。


「あっぶね!」


「込めすぎです!あーなんていうことを…」


 兵士の顔が真っ青になっているよ。


「壊したらまずかったよな?」


「ええ、まあ。これ一つで豪邸が建つと聞きます」


「ごうてい…?」


 アニバルから完全に表情が消えたよ。弁償しろといってもアニバルは一生かかっても払えないだろうね。氷の鳥の羽根を売ればなんとかなるけど。


 エクトルとフィデルの父親はアニバルのカチンと固まった顔が面白かったみたい。はははと大笑いしていたんだ。


「力の込め方がわからない子どもがよくやるものだ。練習させなかったこちらが悪い。魔法具の使い方から教えろ」


 怒られると思ったアニバルは、言われるがままに兵士にガラス玉みたいなものを握らされたよ。


「これが赤く光ったら止めてください。もういいですよ。これで十分発動します」


「え?これだけ?」


 試しに魔力砲を片手で持って、木にめがけて発射させたよ。空気が抜けるような音がして、狙った木の後ろの木に(あた)って幹に小さな穴があいたよ。


「これは面白い。でも狙いづらいな」


 棒のようなものだからね。弓を使うように身体を対象から垂直にして左腕を前にして構えたよ。狙った木に(あた)ったけれど、アニバルが思っていた位置より低くなったよ。


「うまい、うまい」


「さすがマエストロ」


 エクトルとフィデルがピョンピョン跳びながら褒めているよ。アニバルはじっと魔力砲を見つめてから、周囲を見渡したよ。木の陰から飛び立った鳥に向けて発射したんだ。


 鳥に中ったみたいで、落下したところへアニバルは走ったよ。鳥は羽を撃ち抜かれて、もがいていたよ。


「腕が悪くてすまない。楽にしてやる」


 鳥の頭を撃ち抜いて、それを掴んだよ。


「獲れたの?」


 エクトルとフィデルも走って来たよ。鳥を袋にいれて、地面に置くとアニバルは魔力砲を舐めるように見てからまた構えたよ。


「撃ちにくい。持ち手をつけたらどうか」


「接近戦に備えて剣のように使いたいから、持ち手は邪魔だからやめた」


 エクトルとフィデルの父親が言うよ。


「集団戦の場合を考えたら接近戦のことよりも着実に敵を撃ち殺した方が戦いに有利だろう。これなら体力がある限り矢のようにつきる心配もないし、風の影響も少ない上、威力を落とさず飛距離を伸ばせそうだ」


「アニバル殿が言ったように、集団戦をベースにすべきだという意見はある。ただ兵士は接近されたときの防御ができないと不安な声があってな。これをもって剣で戦えないと」


「矢だって同じだろうに。これ、撃つまでにためてられないのか?獲物に狙いを定めるときに時間がかかったら疲れるし、もう一つ筒をつければ連射も可能だ。あと真冬は使えない。素手で持ったら凍った金属部分が手にくっついてしまう。これが改良できれば戦い方は大きく変わるな」


 エクトルとフィデルは物騒な話になって、つばをゴクンと飲み込んだよ。どうしてか、エクトルとフィデルの父親は笑顔を浮かべているよ。


「私もそう思うからたくさん作らせようとしたのだが、値段が高くて進まない」


「値段が高いのはこの魔石のせいか?」


「それもあるが、複雑な魔法陣を作れる者が限られている」


「魔法陣…。魔法をモノに定着させる紋様みたいなものだったな。職人を育てて…手間も時間もかかるし、これを作るのに見合う理由があるかだな」


「そういうことだ。アニバル殿は狩人なのに為政者のようなことを言うね。貴殿の言うように戦い方は変わるだろう。これを大量に作れれば弓の時代は終わる」


 アニバルもそう考えたよ。でもどうして自分が為政者みたいなことを考えていると言われたのが不思議だったよ。兵士だったことも集団戦なんかした経験もないのに。


「俺はこれがあれば狩りが楽になると考えただけだ」


 返そうとすると手で押し止められたよ。


「差し上げよう」


「いや、俺は狩人だし、こんな高いもの持てない」


氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)に勝つにはこれがあった方が勝率はあがるのでは?欲しくないのか?」


 アニバルはもう一度構えて、ほしいなと思ったよ。


「魔法を使うよりも楽だ。多くの狂暴な魔物を倒しやすくなるだろう。でも俺には…」


「息子の命を救ってくれたのだ。その礼だ」


「礼ってあんたね…」


 豪邸と子ども命。お金では計れないだろうけれど、だからといって高価なものを恩人に出す人はそうはいないよね。しかも一つ破壊してしまっているけど、それはいいのかな?


「狩人の意見は参考になった。その礼もかねてだ。受け取ってくれ」


 エクトルにアニバルはこそこそ聞いたんだ。


「お前の親父って物凄く偉い奴なの?」


「えっと…」


「息子たちには身分を言わないように教えていたんだ。誘拐されては困るからね。私はここ、ガルシアの領主だ」


 デスペハード帝国のガルシア領にアニバルは住んでいるよ。アニバルは納得したんだ。


「あーなるほど。エクトルは跡取りか?」


「いや。兄がいるが、エクトルという声もあってね」


 チラリとアニバルはエクトルを見たよ。このガキでいいのかというのが顔に出ていたみだね。


「酷い、マエストロ!俺はやるときはやるよ!」


「領主サマ候補なら、もっと落ち着いたらどうだ」


「私も常々思っている」


「ぐぅ…」


 頬を膨らますエクトルをガルシア領主は撫でたよ。見た目はごく普通のおじさんだから、アニバルはまじまじと見たよ。


「領主サマ直々こんな物騒な森にお越しいただいて礼なんて」


「フェデリコでいい。噂の水神様を見たかったしね」


「噂になってんの?俺…」


「色々とこの村は問題があってね」


「問題?普通の村だと思うが?」


 フェデリコは笑顔だけれども付き添いできた村長の表情は硬いし、緊張しているよ。あちこち渡り歩いたアニバルはどの村よりも貧しいと感じてはいたけれど、村人は気さくでよそ者のアニバルを受け入れてくれたし、優しいから変な感じはしなかったよ。


「治水の知識がある奇妙な狩人がこの村にいて、村人が水の神(アグルア)の使いと言っていると」


 含んだ言い方にアニバルは警戒したよ。


「俺は神の使いなんかじゃないが?」


「そうだろう。我らの始祖で、神そのものなのだから」


 アニバルはげんなりしたよ。


「エクトルたちだけじゃないのかよ。そんな馬鹿げた話を信じてるの」


「お伽話だと思ったのかい?転生いうものは事実ある。初代も転生されて初心を忘れた貴族を目覚めさせ、この帝国を建て直された。

 記憶を取り戻したら、きっと始祖はこの帝国をよいものにしたいと考えられるだろう。記憶を取り戻さないか?」


「俺は始祖じゃないし、興味ない。俺は氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)を倒すためにここにいる」


「それは知っている。伝説の魔鳥の情報を手に入れたら教えよう。倒したら私のもとに来てくれないか?魔法と知識を貸してほしい」


「情報は嬉しいが、よその地域の氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)では意味がないんだ。あの魔鳥は森の主だって聞いたことがある。俺のマエストロを殺した奴はこの森にしかいない。

 知識を貸すって、俺よりあんたらの方が頭がいいだろう?」


氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)については私も森の主であると聞いている。倒してからで構わない。私が死んでいたとしても、私の子や孫を見守ってほしい」


 アニバルはますます面倒なことになったと思って困ったよ。


「だから俺は始祖じゃないってば」


「始祖ではない根拠もないとエクトルが説明したというが?」

 

 堂々巡りだね。アニバルはため息をついたよ。


「俺のことを始祖だとか期待したりがっかりしたりするのは勝手だが、八つ当たりはやめてくれよ?

 あんたのもとには行けないが、エクトルとフィデルはこいつらが満足するまで面倒見てやる」


「ずっとね!」


 エクトルは目を輝かしちゃったよ。


「なぜ、そうなる…。お前くらいの歳なら早く大人になって一人立ちしたいって思うもんだぞ?」


「俺はエクトルより先に一人立ちするぞ!」


「フィデルはまずはエクトルから一人立ちしろ。ベッタリだからな」


「ベッタリじゃない!」


 フェデリコはふふと笑って、お誘いの話をやめてくれたよ。



 魔力砲はもらうことにして、兵士からメンテナンスの方法とか剣のように使って戦う方法を教えてもらったよ。刃先はないから斬れはしないけれど、殴られたら結構痛いよ。


「飲みこみが早い。アニバル殿を兵士にしたいくらいですよ」


 兵士がベタ褒めしてくれたから、アニバルは上機嫌だったよ。


 フェデリコが改良した魔力砲を持ってと約束したよ。楽しみにしていたけれど、さすがにすぐには出来上がらなくて、エクトルとフィデルが来たよ。同じ年くらいの男の子二人も連れてきたんだ。


 エクトルが紹介したよ。


「同級生のカルロスとヘラルド。二人が氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)の羽根を見たいと言うから連れてきちゃった」


「俺はカルロス。話に聞いていたけど、黒髪に蒼い目なんだな!本当に始祖ではないのかい?」


 カルロスはちょっとチャラそうだよ。


「ヘラルドです。貴重な氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)の羽根があると聞いて、来てしまいました。事前に連絡しなかったことをお詫びします」


 ヘラルドはとても礼儀正しい子みたいで、手土産にお酒の効いた焼き菓子を持ってきたよ。森には木の実以外に甘いものはないからね。アニバルは四人が帰ったあとに一人で楽しんだらしいよ。


 そんな礼儀正しいヘラルドも氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)の羽根に大興奮していたよ。すぐに冷めたカルロスはキョロキョロと周りを見たよ。


「一人暮らしなのかい?」


「そうだが」


「そっか。俺は村に戻るよ。お前らは?」


「もう行くの?俺らはマエストロに魔法教えてもらうの」


 フィデルが言ったよ。ヘラルドはカルロスの性格を思い出して、呆れているよ。


「まさか、お前。女の子目的か?本当に節操ないな」


「確かに男ばかりだ。何で女子連れてこないんだよ」


 どうしてかアニバルがエクトルとフィデルにケチをつけはじめたよ。味方と思ったカルロスはうんうん頷くよ。


「野郎ばかりではむさ苦しいよ」


「そうだそうだ。ま、フィデルはお子ちゃまだからそういうのはまだ早いな」


 アニバルにからかわれてフィデルは真っ赤になって、怒っているのか恥ずかしいのかどっちかわからない顔になっていたよ。


「女性が魔物にいる森に来たいとは思わないだろうが」


 紳士ヘラルドをカルロスはふんと鼻で嗤うよ。


「だからこそ連れてきて、魔物を退けてアピールするんじゃないか。この前の授業でこの森に来たときに魔物を狩ったら、すごいって女の子が驚いていたよ。あ、エクトルとフィデルはその場にいなかったね」


 ウィンクするよ。野郎しかいないのにね。十歳でタラシ発言ってこの子の将来どうなるんだろうね。


「そういう目的なら魔物に喰われるのがオチだ」


 アニバルが注意すると、チャラ男カルロスは肩を落としたよ。


「はいはい。エクトルから遊び感覚で森に入るなって散々言われたよ。俺、結構強いんだぜ。あ、それ魔力砲?見せて見せて。うわ、軽いね。最新版?なんで狩人のアニバルが持ってるの?撃たせてよ」


 狩人は鉄砲持って犬と一緒にいるイメージかもしれないけれど、この時代は兵士すら手にできないよ。高すぎて使うのをためらうし、一部の貴族はインテリアとして魔力砲を買っているらしいよ。


「カルロス。人のものを勝手に触るな」


「なんでヘラルド連れてきたんだよ。な、いいだろう?アニバル」


「許可する前に持つな」


 アニバルが注意する前にヘラルドが言ったよ。アニバルは子守りを全てヘラルドに押しつけようと考えたよ。エクトルとカルロスと同じ歳だけどね。


「撃ってもいいが、壊すなよ?それ、フェデリコからもらったんだ」


「フェデリコってエクトルとフィデルの父上かい?」


「そうだが?」


「…じゃあやめておく」


 カルロスはもとの場所に置いたよ。チラチラと名残惜しそうだけど。


「なんだ?フェデリコって怖いのか?」


「呼び捨てはよくないと思うけど」


「ああ。領主サマだもんな。村に戻るんだっけか?飯屋なんてないから、村長のとこにいけ」


「俺らマエストロと獲物とって飯にする!」


 フィデルは自前の弓矢を見せたよ。どうやらアニバルの家はキャンプ場化しているね。


「魚釣りな」


「えー。魔物とりたい」


「お前らには十年早い!」


「魚釣りを手伝おう。その前にアニバル殿の魔法を見せていただきたいのだが」


 紳士ヘラルドは咳払いしたよ。この子だけ精神年齢高そうだね。


「魔法?この年子にも言ったが、俺より腕のたつ奴がいんだろう」


「あ、魔法で思い出した。魔力計持ってきたんだ」


 エクトルが箱から水晶のようなモノを取り出したよ。


「そうだ。この前言っていた、まりょくってなんた?」


「は?魔力も知らないのかい?」


 カルロスは一気にアニバルの評価が下がったみたいだよ。元々高かったかどうかはボクは知らないけどね。


「マエストロは千年前の転生者だから現代の魔法学を知らないんだ」


 フォロー役エクトルはアニバルが始祖前提で話しているよ。ヘラルドは納得したように頷いたよ。


「転生者なら学んでなくても前世の知識を持っているから魔法は使えるのだろう。でも千年前は魔力は発見されていなかったからね。

 魔力というのは魔法の素です。魔法を使えるのは身体の中で魔力が作られているからです。エクトルが持ってきたのはその人がどのくらい魔力を持っているか計るものです。魔法を学ぶ者は最低一度は計ります」


「ん?魔力ってやつは魔法の力ってことか?」


 フィデルとカルロスが同時に吹き出したよ。


「魔法の力…」


「ダッサ」


 なんでアニバルは笑われてるの分からないけれど、ちょっと腹立ったよ。


「魔法は習ったことがないっていってんだろう!」


 ヘラルドはふふと笑ってから、説明してくれたよ。


「始祖の時代に魔力は発見されていなかったと言いましたが、正確には古来より魔法の力という形で認識されていました。ただ目に見え、測定できるようになったのはごく最近です。アニバル殿のいう魔法の力が魔力ということで認識は合っています。

 魔力は個人によって生成される量が違います。エクトルとフィデルは兄弟ですが、魔力の持つ量は違います。それに体調にも左右されるものでもあるので、今日測ったのがアニバル殿の魔力が総量とは言えません。風邪をひいた、身体が重いなどという日は快調のときより魔力が少なくなることが多いです。また年齢によって魔力量も違いますので、子どもは魔力が増える時期でもあり、毎年計ります。三十代になると魔力の生成能力は落ちていくと一般的に言われています。

 もちろん使ったら魔力は減ります。体感もあるはずなので、たくさん使うと疲れるでしょう?」


「ああ、そうだな。寝ると疲れがとれるが、魔力は回復するものなのか?」


「そうです。寝たり食事をすれば戻ります。ただ使いすぎたら死にます。上級の魔法になるほど魔力を消費しますので、使用時は注意が必要です」


「それはマエストロから聞いたことがある。だから魔法に頼りすぎる戦い方はするなと言われた」


 アニバルのマエストロの教えは貴族の子どもも教わっていたらしいよ。ヘラルドがその通りと頷いたよ。


「昔、魔力の総量を計れず、見誤って魔力の使いすぎて亡くなる使い手は多かったと言われます。有名なのが始祖です。

 始祖は雨を降らせるという莫大な魔力を何度も使い、疫病から人々を救うために昼夜問わず魔法を使ったため魔力がなくなり、身体にダメージを負ったとされています。

 現代なら使用しすぎの場合、本人も周りも止めるのですが、当時はそんな危機意識も法律もないわけで。先見の明がある方なのに、そこはわからなかったのが不思議です」


「始祖って鈍感かお人好しだったってことらしいよ」


 カルロスは飽きたらしく、つまらなそうにあくびをしていたよ。


「お前ら始祖始祖言う割には、けなすじゃないか」


「不愉快でしたよね。俺は始祖のことを敬愛しています」


「いや、だから、俺は始祖じゃないって」


 ヘラルドがズイズイ前に来て、自分は始祖に憧れてますアピールするけれど、アニバルは始祖じゃないから嫌そうに身体を引いているよ。


「ヘラルド。マエストロが困ってる」


 エクトルがヘラルドを引き離してくれたよ。ヘラルドは咳払いして続きを話し出したよ。


「えっと、魔力が枯渇して死ぬのを避けるために、エクトルが持ってきた魔力計を使うことで自分の魔力の総量を知り、見合った魔法の使い方する、というのが今の支流になります。

 魔力欠乏症、これは魔力の生成よりも使用が上回り、体内で魔力が作られなくなる病です。それと魔力欠損症、魔力を失うと身体に損傷ができ、痣のようなものができる病です。それらに始祖がかかったことで、後の我々子孫はどんなに高位の使い手でも、魔力量を知り、適切な魔法の使い方をしようと考えるようになりました。

 魔法にはランクがありますが、ご存じですか?」


「始祖ってやつ、尊敬されている割にメチャクチャ分析されてんな。

 ランクって、最上級、上級、中級、下級だろう?」


「それをどうして知っているんです?魔法を学んだことないんですよね」


「えーと。マエストロは何も教えてくれなかったはずだし。あれ?何で知ってるんだ?」


 ヘラルドはにやりと笑うけど、笑った理由は教えてくれなかったよ。


「今はランクにさらに上と下がつく、八段階に分かれます。魔力量が最上級の上だったとしても、安全を考慮して最上級下の魔法までしか使用できません。俺は上級下の魔力量ですが、中級上までの使用を推奨されています。例えば上級下の魔力量の俺が最上級魔法を使えば病になるか死ぬリスクがあります。

 命を守るためのものです。ま、俺は最上級魔法の呪文をいくつか覚えましたがね」


「魔法のランクというか、魔力量のランクって感じがするな」


 ヘラルドの自慢をさらりとアニバルはスルーしたよ。エクトルもさすがだという顔をしたから、ちょくちょくヘラルドは自慢しきて面倒な子なのかもしれないね。


「そうです。上のランクが使えるから上手い、凄い使い手ではなく、適切な魔法を使いこなすのが素晴らしい使い手となります。もちろん天候を操る最上級上を使える者は尊敬されます」


「最上級上の魔法を使えても、最上級下の魔法を使うべきで、最上級上の魔法を使うと死ぬかもしれないか。つまり、最上級の上魔法を使う人間はいないということか」


「そういうことです。自分の上のランクの魔法を使えば魔力を大量消費します。もちろん、下のランクを連発すれば魔力は減りますから、使いすぎれば病になるか死にます。魔力の回復魔法をかければ病や死ぬことは避けられます」


「要は気を付けろってことだろう?さて俺の魔力はどのくらいだ?」


 腕捲りしてニヤリと笑うよ。別に腕を捲る必要はないけどね。


 魔力計を使い古した木のテーブルに置くと、アニバルは魔力計に手を乗せるように言われたよ。


 魔力計は淡く白く光るとだんだん水色に変わっていくよ。


「ん?」


 カルロスは眉を寄せるし、フィデルがあれって顔するからアニバルは不安になったよ。

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