44話 水神王アニバルの話1
やあ、みんなお待たせ!
集まってくれているね。嬉しいよ。お話するから、本当はもっと近くに来てほしいけど、ソーシャルディスタンスを保ってね。
こんなご時世だから、ボクもアイテム追加したよ。いつものド派手なピンクのジャケットとズボンじゃんって?
ほらほら口元。透明なマスクをつけているでしょう!本当はピンクか緑にしようと思ったんだ。でもボクのすてきな顔が隠れちゃうじゃない?
そうだ!ボクの名前を覚えているかな?お、さっそく手を挙げてくれたキミ。どうぞ。
せーの。
チ○ちゃん!
違う違う違う!!
ボクは語り部、ストーリーテラーのテラだよ。
確かにピンクの服着ているけど、あんなに頭大きくないし、髪もボク緑であのこは黒でしょう。おかっぱじゃないし、某漫画のラスボス無○様っぽくしているだけど!女キャラや子どもキャラのときがあったからいつのって、帽子被っているから察してよ…。
え、なんでボクの髪は緑かって?これ地毛だよ!髪には葉緑体がつまっていて光合成しているから、ごはんいらないんだ。
あ、そんなにソーシャルディスタンス取らなくていいよ?ちゃんとマスクつけいてるし!もう少し近くに寄って寄って。
前回はハイドランジア暦一○○○頃にいた、暴君ルドのお話だったね。
そういえばシーザーサラダがジュリアス・シーザーと関係ないと知って、ちょっぱやで修正に回ったんだけど、しばらく行かないうちに街が変わっていてボクがよく話していた駅前広場がなくなっちゃっていたんだよ。
ちょっぱやってなにって?あれ?知らない?コギャルが使っていたギャル言葉だよ。超早いとかそういう意味。そういえばガングロギャルいなくなったね!
お前若作りしていて、意外と歳いってるだろうって?ふふん、ボクの歳は一万歳だよ。
あ、微妙な空気が流れた。他のところは爆笑だったのに、おかしいな。
気を取り直して、今回のお話は水神王と呼ばれたアニバルという男の人のお話だよ。
ハイドランジア大陸の北、エルスター地方出身で、約二○○○年頃誕生したと言われているよ。
デスペハード帝国で生まれたんだけど、平民でも文字や暦の読み方も知ってるし学校もあったから、生まれた歳はわかるはずなんだけれど、彼は幼いときに親に捨てられたんだ。まだ暦というものも理解できない年齢だったというよ。
エルスターは冬になると雪に覆われてとても寒いところなんだ。農作物も今みたいにビニールハウスなんてないから、植物が育つ夏に寒くて収穫できないと食べるものがなくて飢えてしまうよ。
アニバルが捨てられたころ、ちょうど冷夏で作物が育たなかった時期だったから、捨てられた理由は口減らしではないかとされているよ。
森に捨てられて歩き回っていたアニバルは、後に彼が師匠と呼ぶ男に拾われたんだ。この男は毛皮を着てひげもじゃで、出くわしたアニバルはクマかと思って死んだふり、ではなく、怖くて失神したんだ。
ぶっ倒れたアニバルを抱えて師匠は森の中の小屋に連れて帰ったんだけど、目を覚ましたら悲鳴をあげられてしまったんだ。助けてくれたのに、失礼な子どもだね。
師匠は怒らず、幼いながら自分が捨てられたと察して泣いているアニバルの話を辛抱強く聞いて、育てることにしたんだ。
すくすく山の中で育ったアニバルは師匠と共に色んな森を転々としたよ。師匠は少しでもアニバルが過ごしやすいところを探していたようなんだ。
ある小さな村の近くに住んでいると大きな魔鳥に出くわしたんだ。魔鳥は氷の鳥と呼ばれていて、一羽で大地を凍りつくすと言われている伝説の魔物なんだ。
そうそう、ポ○モンのフリ○ザー的な存在だよ。出会ったらテンション上がる前に逃げた方がいいよ。投げたら捕縛してくれる便利アイテムもないし、一緒にバトルしてくれそうなモンスターたちはこぞって氷の鳥を見ると逃げ出すからね。
凍りつくというのは本当で、師匠がアニバルを村人たちと逃げるようにといって一人で戦ったんだ。数分間だけ森にいたのに、氷の鳥は辺りを凍らせてからどこかにいってしまったんだ。アニバルは氷漬けになった師匠の遺体を見つけたんだ。師匠の手には氷の鳥の羽根が握りしめられていたというよ。
アニバルはいつか師匠の仇を取るといって、羽根を売らずに部屋に飾っていたよ。氷の鳥の羽根はとても貴重で売れば一生遊んで暮らせるといわれるくらい、高値がつくそうなんだ。
このときアニバルは十六歳。強くなるために、毎日森の中で身体を鍛えていたよ。
移住はせず、師匠と過ごした小屋に住んで、たまに村に行っては森では手に入らないものを物々交換してもらっていたんだ。
村人と交流するうちに、井戸がなくて困っているおうちに井戸を作ったり、川が氾濫して困ると聞けば治水工事を手伝ってあげたよ。
いつしかアニバルは水神様と村人から呼ばれるようになったんだ。
村に行くたびに村人が集まるから面倒で、必要最低限しかいかなかったよ。
アニバルが二十三歳ころ、いつものように川で釣りをしていたんだ。春になって雪が溶けて川の水が澄みわたっていたよ。
魚がかかるのを待っていると、上流の方から子どもの声がしたんだ。
バシャバシャと川の水がはね、どんぶらこどんぶらこと桃が…ではなく、子どもが流れてきたよ。それを追いかけるように、遠くから十歳くらいの男の子が涙と鼻水を流してアニバルの方へ向かってきたんだ。
「…ト、ル。エ…」
苦しいならしゃべらなければいいのに、流されている子どもらしき名前を呼んでいたよ。
流されている子どもは力尽きたのか腕を動かすのをやめて、バシャバシャ水面がいわなくなったよ。
アニバルは釣竿を置いて、水面を見つめたよ。川の水が急に上へあがると、勢いよく魚と子どもが川底に投げ出されたんだ。不運な魚はビチビチと跳ねていたよ。
「おっ」
アニバルは桶を掴んで、川底で跳ねている魚をいれていったよ。
「お、まえ、たすけろ!ゲホゲホ」
走ってきた男の子はぜぇぜぇと肩で息をして、涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔を拭わずに怒りながら蒸せたよ。
「助けたじゃないか。お前が拾えよ」
溺れた男の子はピクリとも動かないし、走ってきた男の子の方が小柄だったよ。川底は滑るし、自分より大きな子を運んで、岸にあげなければならないんだ。一人では到底無理だよね。
アニバルは川岸に魚の入った桶を置いて、ぐったりとしている男の子に近づいたよ。
男の子も走ってきた子も、とてもいい服を着ていたんだ。貴族の子どもがなんで溺れてるんだとアニバルは思いながら、倒れている男の子の喉や胸に手をかざすよ。
「がはっ」
男の子の口から水が出てきて、荒い呼吸を何度もしてから目をあけたよ。
「…パパ?」
「誰がパパだ」
男の子の頭を叩くよ。
「酷い、悪魔だ。死にかけている子どもを叩くなんて」
グシャグシャの顔を拭わずに男の子がまたもや怒っているよ。
「助けてやったのに、普通はありがとうだろうが!」
ぐったりとしている男の子を抱えて岸に上がると川の水が戻ったよ。溺れていた男の子は川とアニバルを交互に見ていたんだ。
岸に男の子を置くとアニバルは釣竿と桶を持って、そのまま立ち去ろうとするんだ。
「このまま置いていくつもりか!」
「悪魔とかいうから退散しようとしたんだ。それとも助けたら何かくれるのか?」
「悪魔は嘘です。ごめんなさい。助けてください。今の俺らは何も持ってないけど、必ず礼はする!」
男の子は溺れていた男の子のそばでしゅんとうなだれているよ。
「結構流されて…」
帰り道がわからないみたいだよ。
「だろうな。あんたら貴族だろう。大人がいなくてこんな森の奥に来るわけないし、もっと上流から流されたんだな」
となると走って追いかけた子どもも、流された子どもも結構タフだってことだね。
「しょうがねぇな。そいつが歩けるようになるまで面倒見てやるよ。ほら」
アニバルが屈んで背を向けるよ。顔グシュグシュ男の子は、溺れていた男の子が背負われるのを手伝ってあげたよ。
アニバルの背がじんわりと湿ってきたよ。とても冷たかったんだ。
「寒いだろう」
アニバルが男の子の腕をポンポンと叩くと、服や髪が乾いたよ。
「あ、りがとう、ございます」
「ああ。水冷たかっただろう?よく頑張ったな」
怖かったのか、男の子はアニバルの首に回した腕をぎゅってしたよ。ちょっと苦しかったけれど、アニバルは我慢してあげたんだ。
顔グシュグシュ男の子はアニバルの釣竿と桶を言わなくても持ったから、意外と察しがいいのかもしれないね。長距離を全力疾走したあとだから、よろよろと足元がおぼつかないけれど。
アニバルは岩や木の根が少ない歩きやすい場所を選びながら、小屋へ向かったよ。
「お前ら顔似てるな。双子か?」
「年子です!」
やっぱりうるさかったよ。せっかくジェントルマンかと思ったのにね。
「お前ら名前は?」
「俺はエクトルといいます。弟はフィデル」
耳元で弱々しい声がしたよ。お兄ちゃんのエクトルの方が礼儀正しそうだね。
「エクトルとフィデルな。俺はアニバル。大人はいないのか?」
「学校の授業で森に来ていて。その、川があったから…」
あれあれ。授業そっちのけで川で遊んでいて流されてしまったのかな?
それをいうとエクトルはうっとつまっていたよ。
「お前ら悪ガキだろう。俺の家を荒らしたら殺すからな」
「…はい」
家につくと暖炉に火をつけてエクトルを近くに座らせたよ。白湯をあげて、温まると真っ白だった頬がうっすら桃色になったよ。
「え、あれは氷の鳥の羽根?」
フィデルが壁に飾ってあった羽根に触ろうとしたから、拳骨を落としたよ。
「勝手に触るな。もし汚したらその舌破裂させて、足をへし折るからな!」
「うわ。野蛮」
「フィデル。やめろ。助けてもらったんだ」
エクトルの声に力がなかったよ。アニバルはエクトルに毛布をかけてあげたんだ。
「寝てろ」
「はい」
「エクトル、大丈夫?大人しいじゃないか。こいつ、俺と同じくらい騒がしいんだ」
「お前と?そのまま黙って寝てろ!自覚してるなら、お前も大人しくしてろ!」
フィデルは疲れているはずなのにアニバルの家が珍しいのか、部屋の中をうろうろしているよ。
「ねえねえ。アニバルはここに住んでるの?木こり?」
「アニバルさんだ!木こりじゃない。狩人だ」
「この羽根どうしたの?拾ったの?」
「氷の鳥が、この辺りに現れてな。俺の師匠が俺や村人を守るために一人で戦って死んだんだ。この羽根は師匠が握りしめていたものだ。俺は師匠のような男になりたくて、日々鍛練している。あの魔鳥を倒す決意を忘れないために羽根を飾ってるんだ」
ちょっと熱くなったね。
「氷の鳥って大きいのか?」
「ああ。でかい。お前なんてひと飲みだろう」
「アニバルはどうして戦わなかったの?」
「戦いたかったけど、師匠は戦わせてくれなかった。それにすぐそこに村があるんだ。誰かが知らせないといけなかった。師匠が氷の鳥の気を引いてくれたから、みんな逃げられて助かった」
寂しそうな顔をしたから、フィデルはテンション高いまま聞きづらかったよ。
「そうなんだ。見てみたかったな。氷の鳥」
「上空にいるだけで地上は真冬の寒さだ。見てみたいなんて、気持ちでは死ぬぞ?って脅されてきたが本当だった。お前たちは川の上流に住んでいるのか?もしかしたら会うことがあるかもしれない。見たら戦うな。逃げろよ?
あ?エクトル、寝ないのか?ていうか、フィデルがうるさいからエクトルが寝られないじゃないか」
「アニバルの声が大きいせいだよ」
「お前が話しかけるからだろうが。エクトル寒いか?頑張って起きてなくていいぞ?それとも子守唄がないと寝られないか?」
フィデルがプププと笑っていると、エクトルは力が入らないのか口角をやんわりと上げただけだよ。
「うん。寝られない。歌ってよ」
「しょうがねーな」
フィデルは目を丸くしているよ。
「本当にお前、どうしたんだよ。らしくないな」
エクトルは答えないで、とろんと眠そうな目でアニバルを眺めていたよ。アニバルは母親が歌ってくれた子守唄なんて覚えていなかったけれど、自然に口ずさんだよ。ぽんぽんと優しくエクトルの肩を叩いたよ。
フィデルには聞きなれない言葉だったみたいだね。
「どこの言葉?アニバルはどこから来たの?」
「あーどこだろうな?俺もたまによくわかんない記憶とか知識があって。マエストロも村のみんなも驚くんだ。学校行ってないのになんで知ってるって」
フィデルはぱっと目を輝かせたよ。
「アニバルは転生者じゃないかな!」
「なんだよ、テンセイシャって。あ?どうした、エクトル?」
肩を優しく叩くアニバルの手をエクトルが掴んで顔のそばにもっていき、ぎゅっと握って震えているよ。アニバルの手に冷たい水のようなものが触れたんだ。
「溺れて死にそうになったんだもんな。怖かったな」
そう言ってあげると、顔を布団にうずめたエクトルはうんと頷いたよ。
「泣け泣け。俺はお前のことを知らないし、他人だ。ここを出ていったら、お前らのこと忘れるし」
「…忘れるの?」
悲しそうに言うから、アニバルは困ったよ。出会ったばかりで懐かれる理由もわからず、頭をかいたよ。
「俺は狩人、お前ら貴族。俺は森で暮らしているから、街のことや国のことは知らないが、普通は仲良しこよししないだろう?」
「しないね」
フィデルがさらりと口にしたよ。アニバルがエクトルの手を振りほどくと、立ち上がって魚の入った桶を持ち上げたよ。
「放置すると生臭くなるから、料理してくる。お前ら大人しくしてろ」
「俺、お腹空いた」
「俺はお前の親じゃねぇ。なんで食い物あげなきゃいけないんだ」
「そんなにたくさんあるんだから、くれよ」
「貴族さんのお口に合いますかぁ?」
また騒がしくなったよ。エクトルは眠ろうとはせず、二人のことを見ていたんだよ。
「エクトル、大丈夫か?」
アニバルに相手にされないとわかったのか、フィデルがきたよ。
「フィデル。あの人は転生者だよ」
小さく手招きをして、フィデルが顔を近づけると何か囁いたよ。
「え、そんなことは…。イメージとは違うんだけど」
「俺も違うけど、貴族の魔法の訓練していないのに川の水を簡単にせき止められる?」
「そうだけど」
「俺、もう少し様子見てみる」
「そうだな!」
「何がそうだな、だ。エクトルが寝られないだろうが」
外の井戸から水を汲んできたアニバルが怒ったよ。
「暇なんだもん」
「帰れ」
「帰れないもん」
「上流に向かっていけばいいだろう」
「この森には魔物いるって先生が言っていた。今日の授業で下級の魔物見にきて、実際倒す訓練するはずだったんだけど」
それを抜け出して川で遊んでいて、エクトルが流されてしまったようだよ。
「自業自得。授業で倒し方を見るんだったんだろう?魔物の倒し方も知らないで森に入った奴が死んだらそいつの責任だ。
森の中では人は非力だ。森をよく知りつくした人も死ぬときは死ぬ。心得なくして入るなと師匠によく言われた。
お前たちは今後森に入るな。わかったな?」
きつく言われてフィデルは肩を落としたよ。
アニバルが魚を焼き始めると、空腹と眠気が戦いを始めたエクトルがうなっていたよ。
「どうした?どこか悪いのか?」
フィデルは心配していたよ。
「眠い、お腹空いた」
「驚かすなよ」
魚が焼けるとエクトルは空腹の方が勝ったみたいで、起き上がったよ。
魚は味付けはなくてそのままだから、フィデルは物足りなかったみたいだね。
「塩ないの?」
「あるけど使いすぎるなよ」
埃とかで汚れた小瓶が目の前に置かれて、少し嫌そうにしながらもフィデルは手に取ったよ。
「お前かけすぎだ!あー全部使いやがった」
「塩なんて買えばいいだろう?」
「この森のどこで塩を売ってるんだよ。お前らを村まで連れていくついでに分けてもらうか」
「え?ここに泊まるんじゃないの?」
「アホか。今頃お前たちを大人が探し回っているだろうよ。魔物のいる森で探す身にもなれ。塩…。村の連中もジリ貧だろうしな」
アニバルが住んでいるところや近くの村は塩が取れないんだ。売っている村や街へいかないと手に入らないよ。冬の間は雪に閉ざされて隣の村や街へ行けないんだ。だから雪解けのころはどこの家も食べ物が少ないよ。
魚を食べ終わるとアニバルはエクトルを背負って、村へ向かったよ。日が暮れる前にこの子たちを親元に返さないとと考えていたからなんだ。
そもそも寝る場所はないから雑魚寝は勘弁だと思っていたよ。
エクトルを背負っているのにズンズンアニバルは歩いていくんだ。フィデルは小走りになって後ろをついていくよ。
「待ってよ。歩くの早いよ」
「早く行かなきゃ俺が帰れなくなるだろう!」
「お礼をしたいから、うちにきてよ」
エクトルがしきりに後ろを振り向いて、にやにやしながら言ったよ。フィデルは俺もおぶってよって叫んでるよ。叫んだら疲れるのにね。
「礼は欲しいが貴族の家なんかいけるか」
「なんでダメなの?」
エクトルは元気が出てきたみたいだよ。さっきより声が大きいんだ。
「面倒だからだ。お前、歩けるだろう?」
「歩けない。無理」
「エクトル、交代!」
「俺は馬じゃねぇ!」
何だかんだアニバルも一緒になって騒いでいたよ。
村につくと馬に乗った兵士がいたよ。いつも村に武装した兵士なんていないから、静かな村に不穏な空気が流れていたよ。
「あの兵士はお前らの迎えか?」
「多分」
兵士たちは三人を見つけると駆け寄ったよ。
「ご無事でしたか!」
「心配させてすまなかった」
フィデルは偉そうに言うよ。アニバルは拳骨を落としたい気分だったけれど、エクトルを背負ってるから、両手が塞がっていて断念したよ。
エクトルを下ろすと、しっかり立っていたよ。
「やっぱり歩けたじゃないか」
「あの早さは無理だよ。ねえ、本当にうちに来ない?」
「行かない。お前らとっとと先生に怒られてこい」
エクトルとフィデルは同時に肩を狭めたよ。それがとてもおかしくて、アニバルは笑ってしまったよ。
「息がピッタリだな。さすが双子」
「年子!」
「年子だ!」
周りからいつも双子と言われているのか、むきになって二人は叫んだよ。
二人を兵士が囲んだから、アニバルは離れたよ。心配そうな顔をしている村人に経緯を話すと、そういうことかとみんな安心したよ。
「ところで塩はまだあるか?あいつら全部使いやがって」
「塩ですか…。うちも底をつく頃でして」
「じゃあいいや。ん?あそこ、家があっただろう?」
家と家の間に畑でもない妙な空間があって、近くに瓦礫がまとめられていたんだ。
「雪で屋根が潰れたんです。あそこのじいさんが一人暮らしで、屋根と共に…。今年は雪が多くてどこも自分ところで手一杯でして。水神様は大丈夫でしたか?」
「俺のところは大丈夫だ。そうか、亡くなっちまったか。気前のいい親父さんだったのに。俺はこれで」
「水神様。この村に住みませんか?」
「いつも誘ってくれて悪いが、俺は氷の鳥を討つために森に住んでいるんだ」
毎回誘われるからうんざりしていたよ。さっさと帰ろうとすると、エクトルとフィデルが馬車の中から手を振ったよ。
「また来るね!」
「来なくていい!」
二人を見送らずに家路につくよ。
三日ほど経つとアニバルはすっかりあのきょうだいのことを忘れていたよ。
川で魚釣りをしていると子どもの声が聞こえたんだ。
「あ、いた。師匠!」
フィデルが手を振るとエクトルも手を振っているよ。アニバルが釣竿を落としそうになったよ。
「何でいるんだよ。師匠って俺のことか?」
二人の後ろには兵士や付き人がいたよ。無表情でアニバルを見ているから、絶対にこの人たちは嫌々来たんだろうね。
「師匠。俺らに魔法を教えて」
「教えて!」
「…は?」
こうしてアニバルの静かな暮らしは、年子の出現によって終わりを告げたんだ。




