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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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39話 暴君ルドの話35

 椅子にはなぜかジーナが座っていて、ルドは膝をついて説得しているよ。いや、ジーナがルドを説得していたんだ。


「最近、あなたの顔が怖いわ。目つきも鋭くなったし、昔はそんな顔しなかった。あなたには王様はあっていないわ。農民の生活に戻りましょう」


「無理なのはジーナもわかっているだろう?民は俺を必要としている」


「干ばつは終わった。病気になる人が減ったと聞いたわ。あなたは十分働いた。つらい思いをたくさんしたわ。私はあなたの心と身体が心配なの」


「ありがとう。でも俺は王になると決めて王になった。辞められないんだ」


「心に嘘をついて?本当は王様なんてなりたくなかったのでしょう?ただ困った人を助けたかっただけ。

 あなたは十分戦ったわ。心を癒す時間が必要よ」


 ルドは目を丸くしてジーナを見つめたよ。ジーナはルドの脇腹に触るから、驚いたよ。気づいたらジーナに抱きしめられていたよ。


「身体の傷もきちんと治しなさい」


 耳元に囁かれて、ルドは無意識に脇腹をさするよ。隔離生活のときに脇腹に小さな(あざ)ができていたんだ。少し痛むけれど、どこかでぶつけたのだろうと考えていたよ。それが少しずつ大きくなっていたけれど、誰にも話していなかったんだ。ジーナはルドの変化を見抜いていたんだ。


「ジーナはグランデフィウーメに帰りたい?」


「私のことはどうでもいいわ。あなたの幸せを考えて。あなたは幸せ?」


 ルドはどうしてか即答できなかったよ。


「どうされたのです?」


 扉の前で棒立ちになっているジュストとエトーレを見つけて、ステファノが廊下から来たよ。その後ろにはエジリオがいたんだ。


 困っているルドを撫でて、ジーナはステファノに言ったんだ。


「オリゾンテ様と聖神使様。そろそろこの子をお役目から解放してもらえませんか?とても無理をしているんです。

 この子は人の前に立って目立つのが苦手な子だったんです」


「ジーナ、やめてくれ。俺は子どもじゃないんだ」


 四十路過ぎのオッサンのことについて、母親が周りにあれこれお願いするってどうなのかな。


 社長の母親がでてきて、取締役たちにクレームつけているものだよ。

 とんだモンスターペアレントだね。


 ルドはたじたじになっていると、ジーナはさらに言うよ。


「あなたが努力したのはわかっているわ。でもあなたに憑いている霊の仕業ではないの?本当のルドはどこにいるの?」


「本当の?ずっと俺だよ、ジーナ。よく聞いて。俺は王様なんだ。ルドという個人よりも優先にしなければならないことはたくさんある。決して俺は自分を犠牲にしていないよ」


 ルドはすでに多くの犠牲を払っているんだと、ジーナは伝わらないもどかしさを感じていたよ。


「痛いんでしょう?お医者様に診てもらいなさい」


「心配しないでよ。ぶつけて青アザになっただけだから」


 ジーナをなだめて部屋に連れていったよ。ステファノから身体のことを聞かれて、服をまくってみせたよ。打ちつけて出来たような三センチくらいの青い痣があったよ。


 たいしたことはなさそうだとエジリオは安心したよ。ステファノはジーナの行動を危険視したんだ。ジーナが本気でルドに王様やめなさいと言ったら、ルドは従いそうだからね。


 ジーナは自分の体調があまりよくないから、病気が流行っているところにルドが行ったのが心配だったみたい。ルドにもしものことがあったときに不自由な身体のせいで、すぐに駆けつけられないからね。


 毎日食事の準備をしているミアが、ジーナの食が細くなったから心配して医者を連れてきたんだ。薬を飲んだけれど、なかなかよくならないよ。


 ジーナはステファノと一度話をしたいと思っていたよ。ステファノも思っていたからジーナの呼び出しに応じたんだ。


「オリゾンテ様。私は邪魔ですか?」


 ジーナは前置きなくたずねたよ。ステファノは本音を言ったよ。


「陛下のお心を乱さないでいただきたい」


 邪魔するなってことだろうね。ジーナは微笑んで医者が処方した薬の包みを手に取るよ。


「私はルドの邪魔になっているということですね」


「そうだ」


「ではあの子に言わずにこれを飲み続けましょう」


 ステファノは目を見開いたよ。その様子にジーナはくすっと笑ったんだ。


「私は学はありませんが、少しの知恵と人間というものを知っております。薬を飲めば酷くなるし、飲まなければだんだん楽になった。即効性がないということでしょう?

 ルドがワインに毒を入れられたとき、ミアと一緒にたくさん毒について調べたんですよ。

 あなたがルドの幸せを考えてくださるなら、ルドには秘密にしておきます」


「陛下は幸せだと仰っていた」


 ジーナの笑顔は消えて、声が低くなったよ。


「あの子は人の嘘を見抜けますが、あの子の嘘を見抜く(すべ)を持つ人は限られています」


 誠実さが売りなルドはまさかの親から嘘つくのがうまい発言だよ。ステファノは怪訝そうにしたよ。


「何故、それを私に?」


「私はあなたたちの望み通り死にます。だから最期に少し意地悪したくなっただけです。ルドに怒られないように頑張ってくださいね」


 ジーナは二週間後に亡くなったよ。ルドは嘆き悲しみながら、死因を調べたよ。医者の薬の内容を見てしまって、ルドは医者を尋問したんだ。


 信用していた医者だったし、ステファノの紹介でもあったんだ。もしかしてとステファノを呼び出すとあっさり白状したよ。


 私が指示しましたとね。


「マッテオのところに追い出すなり、方法はあっただろう。何故殺した?」


 ルドが怒り狂って殺されると覚悟していたステファノは意外だなと思ったよ。


 それもそのはず。ルドは医者に八つ当たりしていたから、ステファノと会ったときはすっきりしていたよ。尋問後の医者は五体満足だったようだけれど、しばらく一人で歩けないくらい疲弊したようだよ。治癒魔法は得意だけれど、精神に効く魔法をルドは知らなかったようだよ。ルドは何をしたんだろうね。このあたりが暴君と呼ばれた所以(ゆえん)になってくるだけれど、詳しい拷…尋問方法はキミの想像に任せるよ。



 ステファノの弁解タイムで、皇帝を辞めてしまうと本気でステファノが恐れていたことを知ったよ。ステファノは王様気質だし、ルドがいなければ自分か息子を皇帝にしたいと考えているのではないかと思っていたからね。


「俺に何も聞かなかったのはどうして?」


「ジーナ殿が陛下は嘘を見破るのはうまいが、陛下は嘘をつくのがうまい上に見破る人はいないと。私が聞いても嘘をつかれるかもしれません。それとも陛下は胸のうちを話してくださいましたか?」


 ステファノもジーナと同じことを思っていたみたいだよ。


「いつも本心を話しているつもりですが。いいでしょう。

 農民ルドはこのような政治は苦手です。マニュスの思考で乗りきっているだけで。本当は誰かにやってほしいんですよ。ステファノ様はやりたかったのでしょう、王様」


「王いや皇帝はあなたにしかできません。代わりはいません」


「代わりはいなくてはいけませんよ。人はいつか死にますから。あの病にたまたま俺はかからなかったけれど、いつかかかるかもしれません。

 この国を維持するには混乱なく、次の世代の担い手を決めなくては」


「担い手が決まれば退くと?」


「今すぐやめたいけど、だめでしょう?」


 見慣れたいたずらっ子のような笑い方に、ステファノは目を細めたよ。


「あなたは皇帝です。担い手が現れても一日でも長くこの国の皇帝でいてくだされ」


「乱心していると議員たちが言っていますが?」


「むしろはじめから陛下がすべて権力を持っていればよかったのです。あるべきものを陛下はその手に戻されただけ。あれらの言葉に耳を傾けてはなりません」


「俺は理不尽をなくしたかった。理不尽は一つの力や意思が、弱い立場の人に向かって苦しめる。俺の力か強くなればなるほど、誰かが理不尽を受けるかもしれない。だから多くの意見を聞こうとした。だから多くの人の言葉に耳を傾けて理解をし、俺も理解してもらえるように努力した。二十年近く領主たちと関係を築いてきたと思ったのに、病の件は本当に残念だったと思う」


「では、理不尽を行った私をお許しにはなりませんでしょう」


 ステファノがジーナに毒を盛ったことだね。


「俺が十代だったら、この場であなたを殺しただろう。でも俺は大人になったよ。ジーナもあなたも大切だ。両方を失いたくない」


「私をお許しいただけますか?」


「許さないよ。あなたは俺が辞めるのではと不安でジーナに毒を盛った。でもジーナは毒だとわかって飲んでいた。俺に話すとか、抵抗もできたのに。

 あなたの忠誠や不安を理解できなくて、ジーナを殺したのは中途半端な俺のせいということだろう」


「陛下、私が殺したのですよ。陛下を農民に戻そうとする、あの女の存在が邪魔だったのです」


 ジーナは大切だけれども、決意を揺らがす存在だとルドも思っていたんだ。


 国だの人々の生活だのと煩わしいものを考えないで、自分と大切な人たちだけを考えるいい暮らし。


 戻らないと決めたのにジーナと話していると、荘厳な神殿ではなくて、夏のカラリとした風、空も畑もすべてが夕焼けに染まる広大な大地で今日の終わりを感じる。何の変哲もない故郷の暮らしが、いやに恋しくなることがあるんだ。


「ステファノ。裁きは死後受けなさい。今、あなたが死んではなりません。俺たちが築きたかった天の国(パラディーゾ)は病のせいで壊れかけている。途中の離脱は許さない」


 ステファノはルドの前に膝をついたよ。ルドが手を差し出すとステファノは手の甲に忠誠の口づけをしたよ。その指にはステファノが贈った王の指輪がはめられていたよ。


「御意」


 


 感染症が大流行した翌年の冬は冷え込みは緩やかで、感染症の報告はあったけれども、大流行にはならなかったよ。


 ルドはやっともとの暮らしができると安心していたところに、不穏な報告が裁きの神(ジュリシーオ)のアリエーテ大神使から入ったよ。


 異教の神を信じる人が増えてきたというよ。教えを説いても聞き入れないし、神使に暴力を振るうというんだ。


 どこの街も治安がとても悪化しているというよ。


「どうせ死ぬのだと投げやりな者が教えを信じず、盗みや人殺しなど罪を犯しています」


 感染症の流行で、食糧や生活必需品が一時配給制になったせいで飲食店や商店は閉店するしかなくて、軒並み収入が減ったんだ。仕事を失った貧困層が増えてしまったんだね。


 ルドはすぐに人の足りていない場所に浮浪者を集めて送ったよ。働かすばかりではなくて、食事や住むところを与えて、盗みをしなくても生きていける保障をしてあげたんだ。他にも様々な政策をしたら、少しずつ治安はよくなったというよ。いわば生活保護や失業手当みたいなことをルドはしたんだね。


 この政策も議会の採決なしだったから、貴族の不満は大きかったよ。



 感染症の流行は治安や経済、宗教を揺るがしただけではなく、芸術分野でも影響を与えたんだ。


 今までは宗教画がメインだったけれど、人間というものを描こうとしたんだ。


 神々しい絵ではなく、生々しい絵とか民の日常とかね。


 画家は神使が多かったから、神様を侮辱する作品を作れば異端審問にかけられてしまうよ。それでも作るんだ。エジリオたちはルドに報告して対策をすることになったよ。


「どんな作品か見せてください」


 異端視された神使は縛られていたよ。ルドの前に置かれた絵は、色調はとても暗くて一見何の絵かわからなかったよ。よく見ると人の顔やカラスらしいものが描いてあったんだ。人の身体をついばむカラスだと発見したとき、この神使は異端ではないと思ったよ。


「題名は?」


「混沌です」


「混沌?地獄(インフェルノ)ではなく?」


 神使はパッと目を輝かせたよ。うつむいていたから顔がわからなかったけれど、まだ少年のようだったよ。


地獄(インフェルノ)を題材としています。地獄(インフェルノ)は暗い場所だと聞いたので」


「なるほど。地獄(インフェルノ)の風景ということだね。でもこれだと目を凝らさないと何が描いてあるかわからないね」


「真っ暗だと何も見えないと思います」


「そうだね。地獄(インフェルノ)は暗いところ以外にどんなところ?」


「とても苦しいところです」


「うん。苦しいところだね。地獄(インフェルノ)に堕ちた苦しみを描いて、人々に教えるのに見えないと意味がないよね?」


「僕は…。教えを説いているのではなくて、自分の考えた地獄(インフェルノ)を描きたかったんです。周りからは違うと怒られました」


 ルドは少年と絵を見比べるよ。年齢の割りには絵はとてもうまいけれど、暗いのが異様に思えたんだ。きっと病が流行って、いつ死ぬかわからない状態で生きてきたのだから明るい気持ちにはなれなかったんだろうね。


地獄(インフェルノ)は暗い。でももう少し考えてみよう。地獄(インフェルノ)の上には何がある?」


天の国(パラディーゾ)です」


「では天の国(パラディーゾ)が上にあるのだから、光が漏れ出ているかもしれないね。君が地獄(インフェルノ)にいるとする。天の国(パラディーゾ)の光はあたたかく、そちらに行きたい。でも君は行けない。罪を犯してしまって裁かれたから。今のように拘束されて身動きがとれない。

 届かない。遥か高い天の国(パラディーゾ)を見上げる」


 ルドが天井へ指をさすとつられて少年は見上げるよ。天井には美しい神々と天の国(パラディーゾ)が描かれていた。


 少年は、ああと声をあげて魅入っていると、ルドは少年の肩に手を置くよ。


「でも君はそこには行けない。ここは暗く、冷たく、もしかしたら臭いかもしれない。

 君はどう思う?」


「もどかしい。苦しい。天の国(パラディーゾ)は明るく綺麗なのに行けなくて、つらいです」


「そう。地獄(インフェルノ)は暗い。すべてが見えないことと、すべてが見えること。どちらが恐ろしいのだろうね?

 君の発想はすはらしい。絵もうまいから、もう一歩先を考えてみよう。そして自分の気持ちと人の気持ちを考えてみよう」


 ルドはこの少年の縄をほどくように言うよ。


「この子はちゃんと教えを理解しています。異端ではありません。絵が斬新なだけです」


 エジリオは神使の少年の絵は好ましくないと思っていたけれど、ルドが言うのだから縄をほどいたよ。


 少年はルドが自分の理解者だと思って神殿に入り浸って、ルドの言われた通り地獄を描いてみたんだ。


 完成した絵はとてもグロテスクで、当時は問題作だったんだ。エジリオは破棄を命じようかと考えたほどだよ。


 よく見れば神話や教えの通りだったんだけど、地獄でも人の身体は血の穢れもない美しく描く、というセオリーガン無視で今でも臭ってきそうな腐った遺体やらなんやらたくさんあったんだ。


 ルドはほーと言いながら、少年に聞いたよ。


「君は人間の(はらわた)を見たことあるのかな?」


「神使になる前に家畜の解体を見たことがあります」


 この少年神使、ベッティーノくんは嘘をついていたよ。どうやら医者が近くに住んでいて、解剖しているのを見たことがあったようだよ。人体の解剖は異端視されていて、公で解剖したことありますと言うと裁判にかけられちゃうよ。


 神使になっても度々死体を見に行くものだから、画家の神使仲間からこいつヤバいと思われていたらしいね。


 ルドはベッティーノが人体解剖を見ていただろうと突っ込むのは野暮だと思って、黙っていることにしたよ。


「人間のものはこうだろうと?」


「は、はい」


「ふむふむ。俺も()見たことがあるけれど、この飛び出している感じとか本物っぽい。遺体をカラスがついばんでいるみたいだけど、地獄(インフェルノ)は死者しかいないよ?死ぬ苦しみを何度も味わうのかな?」


「あ!確かに地獄(インフェルノ)は死者しかいませんね!」


 他にルドはグロ会話も始めたから、エジリオが咳払いをしたよ。


 ルドも咳払いしてベッティーノに聞いたんだ。


「君は次は何を描くのかい?」


 ベッティーノはモジモジしたあと、チラリと上目使いでルドを見たよ。


「陛下を描きたいです」


「肖像画かい?いいよ」


 と言ったけれど、ベッティーノくんは凝り性らしくて、ルドの肖像画を何年も描いたんだ。


 たまに宗教画や風景画も描いたようだけれども、エジリオの手記から「ベッティーノは今日も陛下のお顔を描かれている。他の人はと聞いても嫌だと言うとんだ頑固者だ」ってあったから、周りが呆れている様子がうかがえたよ。


 ベッティーノは探求心があって、肖像画に人物の感情を描きこもうとしたよ。この時代の男性の肖像画って威厳や権威を見せるため、ドヤ顔が多かったんだ。でもベッティーノはルドの微笑み、とりわけ家族と接してリラックスした表情が好きだったみたいで、よく描いていたよ。


 慈愛を描くときはモデルが女性や女神が多くて、男性はいなかったよ。そういったセオリーを壊していったんだ。


 ベッティーノくんは成人にするころ、ルドの言葉通り人間を知るために、酒場に行ったり女性と交際して妊娠させてしまったりと神使としてあるまじき行動をとっていたんだ。ルドに神使をやめて画家になりなさいと言われて、神使をやめてしまったよ。


 宮廷画家になったんだけれど、異端視されてあぶれた神使や芸術家を自宅に住まわせたりしたよ。


 その芸術家の作品は農民の暮らしを描いたりして、ちっとも神話の世界を描かなかったんだ。ルドは別にいいじゃないかと許していたから、ベッティーノたちは好きなようにしたよ。


 年配の貴族はなんだこの絵はと馬鹿にして、保護しているルドはおかしいと思う人もいたらしいよ。


 神話の絵ばかり見てきた若い貴族は飽きていたようで、ベッティーノたちの作品をこぞって買っていたんだ。


 徐々に神様や神話以外の絵が受け入れられはじめたんだ。画家は今までのっぺりとしたタッチから、陰影をつけたりして、より人間らしさやリアリティを追求していくよ。


 新たな芸術の時代の幕開けだというのはのちの世の人が言っていたけど、当時の人はそんなこと思っていなかったよ。キミの世界におけるルネサンス期になるのかな?


 ボクはそこまで芸術に詳しくないから、お話できないけれど。

 感染症の流行による多くの死によって、現実を人々は見るようになったんだ。現実離れした神話の絵は次第に廃れていくよ。


 人々は現実を見たけれども、とある二人は現実を忘れて、お庭で手を繋いでいたよ。


 セレーナはジュストの肩にもたれかかって幸せそうにしていたよ。ジュストは病にかかった上、妻子を失ない打ちひしがれているところにセレーナの優しさで癒されたんだ。最初は歳も離れているしとジュストはセレーナと距離を置こうとしたよ。


 セレーナの泣き落としと猛烈アプローチで、ジュストは陥落してしまったんだ。セレーナはこういうところが母親似なだろうね。


「セレーナ。君はもうすぐ成人するね」


「うん」


 ジュストの次の言葉を不安と期待を込めて待ったよ。


「陛下に俺らの結婚のことを話そうと思う」


 セレーナはぱぁっと目を輝かせたよ。


「はい!」


「でも心配なことがある。俺は妻と子を亡くしたばかりだ。節操がないと怒られるかもしれない」


「大丈夫よ。ジュスト兄様が落ち込んでいて、再婚はしないんじゃないかってお父様がとても心配されていたもの。きっとお父様は喜んでくださるわ」


「そうだな」


 希望に満ちている若者たちは、笑いあってからルドの元へ行ったよ。


 夕食前だったから、ルド一家が集まっていたよ。


「今日はジュストも一緒だったっけ?」


 ルドが言うとミアはご用意していませんと慌ててたから、ジュストは違うと落ち着かせたよ。


「陛下にお話がありまして」


「なんだい?改まって」


 セレーナがジュストの隣で頬を赤らめているのが気になるよ。


 ジュストはふぅと息を整えてゆっくり言ったんだ。


「俺とセレーナは交際しています。結婚を考えていますので、どうかお許しください」


 ジュストが頭を下げると、セレーナもペコリと頭を下げたよ。


 沈黙がおりて、あれ?とジュストは思って顔をあげるとカチンと固まったルドがいたよ。


 ミアはまあと声をあげかけて飲みこんだし、フェデリーゴはマジかよという顔をしているし、周りも喜んでいいのか中途半端な反応をしていたよ。息を吹き返したルドはもう一度たずねたよ。


「…ジュスト。なんだって?」


「はい。セレーナとの結婚を許していただきたく、お願いに参りました」


 ジュストが頭を下げるとブンと頭上で音がしたんだ。反射的に避けると床にガツンと剣が刺さったよ。

テラ「花粉症の人は大変な季節だね。ボクは関係ないけど」


卯月「ちぃーん!うわ、鼻の皮むけた。マスクしててよかった。鼻かみすぎて皮むけるって見られると恥ずかしいからね」


テラ「たいへんそう。ハイドランジアは花粉症はあまり話に聞かないから、キミいきたいんじゃない?」


卯月「マジですか?桜はあるの?」


テラ「それっぽい花はあるよ。日本はないけど」


卯月「ないの?ラノベあるあるいきなり侍登場、刀はないのね。絵の話でてきたけれど、ハイドランジアは印象派はないの?」


テラ「侍はいないし、日本刀はないよ。刃が片方にしかない刀はあるよ。

 印象派みたいなのはでてくるけれど、浮世絵はないわけで、大胆な構図や庶民の生き生きとした絵に取り入れるというのは、ハイドランジアの歴史では現代にならないとみられないね」


卯月「ああ、そう」


テラ「ハイドランジアに行きたくなさそうだね。差別もあるし医療も発達してないし、あまりいいお話してないから、わからなくもないけど」


卯月「日本ないんでしょう?和スイーツないってことでしょう?抹茶パフェもないんだし。嫌だ、そんなの。最初に抹茶とアイスとかクリームをコラボさせた人は神だと思ってるから」


テラ「キミ、そこ?」

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