38話 暴君ルドの話34
感染症に関する事案は、議会を通さずルドの直轄組織で即決されていったよ。
ルドは貴族から治癒魔法が使える人を出すように命令したよ。渋る人は金を出すか研究所に行くようにさせたんだ。強引ともとれる方法に、貴族たちは反発して命令を無視したんだ。
無視されたら命令の意味がないよね。ルドは議員資格を停止すると言ったんだ。停止期間は感染終息するまでで、それまでお給料は払わないってなったら、しぶしぶ応じる人がでてきたよ。
人員を確保したルドは人手が足りないところに派遣したよ。感染が酷いのは主要都市ばかりではなく、街の壁の外に住んでいる人々なんだ。都市から少しでも離れると、村医者もいるかどうかもわからない小さな村もあって、正しい知識も治療方法もなかったんだ。
病で亡くなることは大変なことだったけど、それと同時に農民も死んでいっているから、農業の担い手も減り食糧の問題にも繋がっていったんだ。
しかもその前にウシの感染症もあったよね?やっとウシの数が増え始めたところに、育てる人がいなくなる。農業従事者も減り、食糧難になる。街の封鎖という経済の停滞もあり、負の連鎖はルークススペース帝国に打撃を与え、国力が低下していたよ。
エジリオも聖神使だからといって、部屋にこもるわけにはいかないと一番酷いポネンテへ行くことになったよ。
「何年も聖神使を務めさせていただきましたので、そろそろ別の者でもよいかと思いますし」
引き留めようとしたルドにそう言ったんだ。代わりにとグレータを呼び寄せたよ。
ルドの信頼できる神使をそばに置こうとしてくれたみたいだね。アグネーゼといえば高齢な上、患者の治療にあたり自ら感染して亡くなっていたよ。
エジリオはポネンテへ行ったけれど、ポネンテの外にいた兵に止められたんだ。中に入るだけで病になると言うんだ。
なんとか外壁の上から街を覗くとエジリオは絶句したよ。
街から漂う異臭と捨て置かれた遺体。
動いているモノはなく、静まり返っていたんだ。
「ポネンテは死の街になってしまった」
聖神使の姿に気づいた街の人たちは見上げても、声すらあげなかったよ。絶望に放り込まれて生きる気力のない人々の姿があったんだ。
エジリオの報告にルドは決断したよ。
「ポネンテを破棄する」
これにポネンテ領主は反対するかと思ったけれども、巨大な墓場となった街を使うよりも新たに建設した方がいいという考えも領内であったんだ。
ルドも根拠なしで破棄を決めたわけではないよ。オリゾンテ第二首都はルドの街建設の実験場でもあって、上下水道を完備し、火災などに備えて家々の間もあいていたんだ。街は清潔に保たれていて、徹底的な検疫で感染者を外から入れないようにしていたおかげで、第一首都よりも感染者は少なかったようだよ。
ルドの保護を受けているから感染者は少なかったと、揶揄する貴族もいたらしいけどね。
逆に天の国を実現したと第二首都の人たちは思っていたよ。エジリオが設計した美しい扉を開けば、病のない楽園が広がっているとね。
その第二首都の成功例があったから、狭い街にギュウギュウの家並みと不衛生な場所を捨てて、一から作り直そうと提案したんだ。病が終息したとしても、同じ街に住み続ければまた同じことが起こるかもしれない。しかもダニやらネズミやら病を媒介しそうな生き物たちがたくさん増えていたんだ。駆除にも途方もない時間と労力が必要だと考えられたよ。
ポネンテ領主の承諾を得たけれども、街を建設するのには人を集めないといけない。二次感染が起こるようなことを今やるのはリスクだよね。
ルドはまず、簡易的な住居を作って、街から人を出して感染者かどうか分けることから始めたよ。街を出る人は身体も服も綺麗に洗って出ることを徹底したよ。せっかく新しい施設を造っても、そこで病原体を持ったダニがきたら意味ないからね。
ここで動ける人の移動は始まったけれども、生き絶え絶えの重症者たちは捨て置かれたんだ。なんとかルドは助けたかったけれども、簡易施設で働く人もポネンテの街の人も嫌がったんだ。
「全員感染していてポネンテ滅亡は目前だろう。対応した兵たちの感染者を増やすよりは街ごと埋めてしまえばいいのに」
議会で誰かが呟いたよ。多くの人もそう思っていたのかもしれない。でもまだ多くの人が街に残されていたのに街を埋めるということは、その人たちを見殺しにするということだよ。
「誰だ。今発言した者!」
ルドは烈火のごとく怒ったんだ。みんな黙っていたけれど、一人ずつ問いただして発言者を見つけ出して謹慎にさせてしまったよ。
別件の会議のときの出来事だったから、議員を謹慎させたかったら議会で採決を取らなければならなかったのに、ルドの独断で決めてしまったんだ。
ルドを批判する人はいたけれども、ルドが引かなかったよ。
「簡単に国民を見捨てる議員なんぞ、いらん!」
ルド派はこぞって発言した議員を責め立てて、議会がギクシャクしていたよ。
そんな中、唯一の吉報がルドの耳に入ったよ。エトーレが快復したんだ。会いに行ったけれど、扉一枚隔てた面会で声だけしか聞けなかったよ。
扉一枚で病から身を守るれるけれども、大切な人が苦しんでいるのに顔も見られない。その扉が忌々しくルドには感じられたよ。
ポネンテの民を思えば、まだエトーレとルドはいいよね。エトーレは最前線の治療を受けられたよ。すでに治療ができる神使や平民・奴隷の魔法の使い手が倒れて、ろくな治療が受けられない民たちは病の苦しみと、常にそばにある死の恐怖と戦っていたんだ。
「陛下。エトーレ様に行なった魔法は効果がありました」
マスク姿のブルーノが報告したよ。その報告も扉越しだったよ。
「どんな魔法ですか?」
ルドは魔法を覚えて第一首都の病院に行って効果を確認したあと、効率的に患者を治療する方法を確認したよ。
一般的に熱を下げる効果のある薬草と魔法を併用するというよ。薬草はすでになくなりつつあるから、さまざまな地域から取り寄せたんだ。
中央のアウローラ、このときはアルクス家の傘下に入っていたよ。アルクス家は率先してルドを支援したよ。備品は国境で受け取り、絶対に人を国中に入れさせなかったんだ。国外へ病を持ち出してはならないからね。あとは国内の惨状を他国に伝わらないようにするためとか色々あったらしいよ。
といいつつもルークススペースが疲弊していると聞いて、攻めに行こうと考えた人たちをもいたよ。病がこわかったらしくてルークススペースを侵略しようとしなかったらしいよ。
第一、第二首都で患者に薬と魔法を使ってみて、初期症状の人には効果があったよ。でも重症になった人は効かなかったんだ。
「俺もやろう」
止められたけれども、一人でも魔法の使い手がほしかったからルドも街に行って患者の治療をしたよ。
街から街へ移動して魔法の使い手たちに新しい魔法を教えて治療をしたんだ。建国前にエジリオと共に旅をしていたときのことを思い出して懐かしく感じたよ。
エジリオはポネンテに残って街の破棄に向けて、住民の移住の手伝いをしていたから馬車には乗っていないよ。
人の姿が消えて静まった街を見ると、ルドはどうしてこうなったとばかり考えてしまうんだ。
建国から色々あったけれど、この国もルドも全て未来は輝いて見えていたはずなのに。
死から息を潜めて生きなければならなくなったのか。
神々は今もルドに答えを与えてくれないよ。
教会の病院にも患者は押し寄せていて、神使たちは自分たちも病気と戦いながら治療をしていたよ。
ルドは倒れた大神使を労って、治療をしたよ。ふとキアーラを助けた魔法は使えないかと思ったけれど、口移しでは感染リスクがあるからそれは避けたかったんだ。
ルドは体力を回復する魔法と新しい魔法を身体の中で練り上げたよ。新しい魔法は後の時代で免疫を上げる効果があるとわかって、病の元であるウィルスを殺す効果はなかったよ。
大神使に口を開けてもらって、ルドは練り上げた魔法を手の中にふぅと入れてから大神使に移したよ。この方法に周りの人はざわついたけれど、大神使の容態がよくなって、ざわつきはいっそう大きくなったよ。
「陛下が奇跡を起こされた!」
やはり皇帝は神の使いだったんだと神使から患者まで騒いだよ。ルドは落ち着くように呼び掛けたよ。
「皆さん、静かに。ここは病院です。重症者は俺に任せてください」
何人かやるうちに全力で練り上げなくても効く人がいるとわかって、セーブしたよ。でも疲れてしまって一日に何人もできなかったんだ。
「神使たちが休む間もなく治療しているというのに」
「陛下の身に触りますので、お休みください」
ルドは部屋に下がると即刻清めやら祓いの魔法をかけられたよ。皇帝が感染したら大変だからね。
各主要な街に治療方法を伝え終えると、ポネンテへ向かったよ。
人と距離を取りながらポネンテの仮設住宅を視察したよ。
街の近くの畑に感染者と非感染者で分けてあるけれど、ポネンテの街の人口にしては建物の数が少なく感じたよ。
「他の人たちは別の場所にいるのですか?」
ルドが聞くとポネンテ領主の甥が淡々と答えたよ。
「いえ、これが全てです。陛下」
「え?だってもっと…」
「私も民を移動させて実態がよくわかりました。一日もすれば生き絶えるだろう者は仕方なく街の中に置いてきて、生存の見込みが高い者を連れてきました」
ポネンテの街には七千人、奴隷を入れたら一万人はいたはずなんだ。それが三千人にも満たないというよ。仮設住宅に移動した人も重症化して亡くなった人もいたんだ。
ルドは病の無慈悲さに神様に祈ることも忘れたよ。
「ああ、そんな。もっと俺が早く決断していれば。早く治療方法が見つかれば!」
「陛下…」
堂々巡りの議会を無視して、ルドの命令で人とモノを動かせば被害は少なかったかもしれない。それだとルドの目指したすべての人にとっての天の国ではないよ。
ルドは民のいる仮設住宅に向かって、すまなかったと呟いたよ。
そして数百年続いたポネンテの街は魔法によって陥没させ、埋め立てられたよ。
領主も領民もみな並んで消えていく故郷の街を眺めていたんだ。民の誰かが泣くと領主も泣いたよ。
「我々は生きている!また新しい街を作ろう!だから今は辛くても生き抜くのだ!」
轟音を立てて崩れていく街にかき消されながらも、領主は叫んだよ。ポネンテの貴族と民はこのとき初めて一つになったんだ。
生き残った者たちは仲間意識が生まれて、貴族も民も力を合わせて街を作っていく。ルークススペースで初めて平民も政治に参加することになったんだ。ただ、政治に参加できたのは中年以上の男性だけだったよ。若者や女性は参加できなかったんだ。
生き残った奴隷たちは街の建設や治安向上に懸命に働いて、平民になったよ。
数年でポネンテは再建して、レナータで一、二を争う美しく難攻不落の要塞都市と言われるようになるのだけれど、沈み行く街を見ていた人々からはとても想像はできなかったよ。
ルドはポネンテ再建に尽力を尽くしたよ。隣のカスカータに協力するように言ったよ。
カスカータは感染を恐れて人をやりたくないと言っていたけれど、ルドはこの前流行ったウシの伝染病を指摘したよ。
「ウシの感染症と今回の感染症はとても症状が似ている。ゲレルが病を持ってきたと言うが、ウシの病がゲレルや農民に移って広がったのではないのかという学者もいる。
ウシの感染症はカスカータから始まった。皆が責める中、ポネンテはカスカータには非はないと、かばっていたではないか。次はカスカータがポネンテを守る番ではないのか?」
後でウシから人へは感染しないとわかったんだけれど、症状がよく似ていたし、顕微鏡もないから別のウィルスだと特定できなかったよ。
カスカータ領主はウシの件で、領内は大ダメージを受けていたんだ。人の病が広がったらもう立て直せないと恐れていたことを、ルドはわかっていたよ。
「…わかりました。大工を派遣しましょう」
「よかった。国から予算を出すようにする」
「それはとても助かります」
ウシが多く死んでメインの酪農が行き詰まり、財政難になっていたんだ。派遣する人たちの給料も払うとなれば、人を出したくないのにもっと嫌だなって領主が思うだろうなとルドは考えたから提案したんだ。
カスカータとの会談が終わると、首都オリゾンテへ向かったよ。ジュストも同席していて、ルドに言ったよ。
「陛下、今のはまるでカスカータで発生したウシの病が、人に移って広まったように受け取られてしまいます。今回の病とウシの病の発生場所は違います。だから…」
「ジュスト。わかっている。落ち着いたらすべてこの一連のことを整理して公表するつもりだ。でも今はカスカータの責任として処理したい」
ジュストは混乱したよ。だって嘘はよくないし、罪だと思っているからね。ルドもそう考えていると思っていたんだ。
「今はゲレルの民を守ることを優先したい。もしゲレル国が発生源だったら、国は分裂してしまう」
「ゲレル国が発生原因なのはほぼ確実です。嘘で隠すのはよくありません」
「それではまたゲレルの民が焼かれて死ねというのか。民は不安だ。不安の捌け口を探して、善良な民でも普段しないような酷いことも平気でできる。今は公表しない。病を克服することが重要だ。わかったね?」
ジュストはモヤッとしていたよ。
「この国は混乱の中にあります。陛下がおっしゃるように今は耐えることです。いたずらに混乱を招くことはよくありません」
エジリオにも言われたよ。
復帰したエトーレが出迎えてくれたよ。一度感染した人は再発することが少ないというのがわかってきたから、エトーレは積極的に外でのお仕事をしていたよ。
患者に触れたし、外から来たからルドは皇帝とはいえど、隔離されることになったんだ。
神殿の敷地内にある施設でルドたちは待機となったよ。
ルドたち要人は個室が与えられて、護衛や付き人は相部屋にいたんだ。
働き詰めだったジュストは隔離の間に何をしようと、入ったその日に暇をもてあそんでいたよ。書類の仕事はドアの下の隙間からやりとりできたからね。すぐに終わってしまったらしいよ。
コンコンと窓を叩く音がしたよ。一階だったから、誰か窓の外から書類でも持ってきたのかと思ったよ。
「おとうさま」
六歳になる娘が父に会えて満面の笑みを浮かべていたよ。ジュストは慌てたよ。
「どうしてここに。来てはいけないと言われただろう?」
「いわれました。でもおとうさまとずっとあってません。かえってきたのになんにちもあえないとききました」
仕方がない子だねとつい彼女の頭を撫でたよ。
その日の夜、ジュストの娘は夕食のとき身体の不調を感じたけれども、誰にも言わなかったんだ。一人ベッドで寝ていると高熱が出たんだけれど、ジュストと会ってはだめと言われていたのを破ったから怒られると思って我慢していたんだ。
ジュストも夜に発症してすぐに治療を受けたよ。ルドはジュストの部屋に行こうとしたけれども、みんなに止められたんだ。
「なぜ、ジュストが?」
一番患者と長くいたエジリオは発症していなかったよ。エジリオはどうやら神使兵時代に似た病気になったというから、もしかしたら抗体ができていたのかもね。
護衛の中にも発症した人がいて、ジュストの護衛だったことがわかったよ。
ジュストは高熱でもうろうとした意識の中、娘が昼間来たと言ったことで、即刻ジュストの家に使者が行ったよ。
ジュストの奥さんは目が虚ろで汗だくの娘を見て言葉を失ったというよ。
娘の看病を自らして、奥さんも感染してしまったんだ。そして、ジュストの娘は一晩我慢したせいもあって、脱水症状を引き起こしたこともあり死んじゃったよ。
その知らせに、ジュストはあのときすぐに窓を閉めて追い返さなかったんだと後悔したよ。
ジュストは快復したけれど、隔離を続けられているうちに奥さんも亡くなったと聞いて絶望したよ。
「俺がしっかりしていれば…」
移してしまった自分を責めていたよ。ジュストの家で働いている使用人に感染者がいたから、ジュストが原因かどうかはわからないよ。でもこのときのジュストは知らなかったんだ。
ルドは慰めてあげたいけれど、規定で完治後も十日以上は隔離されることになっていたんだ。
妻と子どもの死に目にも会えず、葬儀にも出られず、ジュストはベッドの上でうちひしがれていたよ。
「ジュスト兄様」
ドア越しにセレーナがお見舞いに来たよ。
「セレーナ。お前も移ってしまうから、早く出ていきなさい」
「ドア越しですし、エトーレ兄様のときも移りませんでした。大丈夫です」
「そうか。陛下は?みなは大丈夫か?」
「はい。陛下はお元気で、ご公務に戻られています。お兄様のことをとても気にかけておられました。毎日のようにジュスト兄様の肩を抱いて慰められたらとおっしゃってます」
「…そうか。陛下に移さなくてよかった」
「みな不思議に思っているのですよ。お父様もエジリオ様も多くの患者の治療をしたのに感染しないと。神々に守られている証だという人まで。
ジュスト兄様は病を克服されました。お父様は克服できたのは兄様の生きる力と使命があるからで、これから強く生きて己の役目を全うしなさいと言っていました」
それを伝えに来たのかとジュストは一人ではない、ルドや家族に見守られているんだと思ったよ。
「陛下にお言葉感謝していると伝えてくれ」
「はい!」
セレーナはジュストの隔離が終わるまで毎日通っていたよ。深い悲しみの中にいたジュストはセレーナと話すうちに少しずつ癒えていったよ。
ルドは隔離中、一人ではなかったよ。三日ほど一人でいて発病しなかったから、エジリオと治療成果や今後の対応について話し合っていたから同じ部屋にいることが多かったよ。
「二人だけでこうやってお話するのは、久しぶりのような気がしますね」
ふとルドが言うとエジリオが微笑みながら頷くよ。若くて猛々しかった神使は、還暦目前の老人になっていたよ。キミの感覚では還暦前はおじいさんじゃないって思うだろうけど、人生五十年、六十年と言われていたのだから、エジリオもいつ亡くなってもおかしくない年齢になっていたよ。
「この件が終わりましたら、引退しようかと思います」
ルドはずっとエジリオが聖神使でいてくれると心のどこかで思っていたから、衝撃を受けていたよ。よく考えれば何十年も同じ人が聖神使でいるのはあまりよくないからね。
「わかりました。引退したらどこにいかれますか?」
「フェローチェの聖堂が二年ほどで完成する予定なんです。そこの大神使になってくれないかと誘われてまして」
「ああ。やっと完成するんですね!」
「病のせいで建設が止まってしまっているそうです。私が生きている間に完成してほしいものです」
「エジリオ様なら大丈夫ですよ。アグネーゼ様のように長生きされますよ」
エジリオはふふと笑って、アグネーゼを偲んだよ。
「そうですね。あの方のように最期まで人とルド様のために尽くします」
ずっと陛下と呼ばれていたからルドは嬉しかったよ。キアーラはあなたと言うし、ミアやカリーナたちまでが陛下と呼ぶようになっていて、誰も名前で呼んでくれないんだ。
「俺も引退して、神殿の一画でもいいから畑を耕したいな」
「ルド様は本当にお変わりない。しかし、私が不在中に議会を無効化したとうかがいました。どうしてお心変わりされたのですか?」
エジリオは真面目な顔をしていたよ。ルドは視線を窓の外に向けたよ。
「あまりにも貴族たちが動こうとしなかったからです。最初からこうしていれば、被害は抑えられたかもしれない。俺は確かに多くの人の意見を聞いて、みんなが幸せになれる国を目指してきた。
でもこれは一刻を争うのに、何日も議論を重ねて全員の承諾がないと何一つできないのは無駄だと思いました。
緊急時の体制を作らなかった俺の落ち度です。多くの民を殺してしまったのは俺のせいなんです」
「病のせいです。陛下のせいではありません」
一瞬ルドが寂しそうな顔をしたのをエジリオは見逃さなかったけど、理由が思い至らなかったんだ。
ルドはそれには触れなかったよ。
「民の多くは目の前のことがすべてです。こちらが病に効く魔法を考えているから耐えろと言っても、そんなこと知ったことはない。苦しいのは病にかかった本人と周りの人たちです。魔法が完成しても死んでしまったら、生き返らせられないのですから。
それに思い通りにいかないからこそ、一つでも思い通りになると気持ちがよくてわがままになってしまいます。俺は前世と同じ愚を犯さない」
「前世…?サクスム様ですか?それともマニュス様ですか?」
「マニュスです」
それだけ答えてあとは黙ってしまったから、エジリオは聞かなかったよ。
ジュストは隔離解除されるとルドに会いに行ったよ。ルドは少し痩せたジュストを見て涙ぐみそうになるのを堪えたよ。
でも何でもないように見舞いの言葉に対して感謝の言葉とかつらつら言うから、ルドはジュストを抱きしめたよ。
「よかった。本当に元気になってよかった。つらかっただろう」
上辺なんて繕わなくていいから、話してごらん。
ルドはジュストのつらい気持ちを吐き出させてやりたかったよ。でもジュストはありがとうございますと言っただけで、仕事に戻ってしまったよ。
ルドは時をみてジュストの胸の内を聞こうと思ったよ。でも甘え方が下手なジュストはなかなか気持ちを言えなかったんだ。
ジュストの復帰を聞いて、快復のお見舞いや妻子の死のお悔やみを言いにたくさんの人が来たよ。その中にあの男がいたんだ。
「もうお仕事をされているとうかがいましたが大丈夫なのです?」
トンマーゾが精のつく食べ物だのなんだのたくさん持ってきてくれたよ。
「こんなにたくさん。感謝します」
会ったのはジュストの自宅だったよ。長女は感染したけれどもすぐに治療したから快復したよ。だからジュストは残された娘と共に頑張ろうと思っていたよ。
「いえいえ。こんなことしか私はできません。お見舞いにうかがいたかったのですが、要人は入るなと言われて。
エトーレ殿のときも面会謝絶でしたが、陛下はドア越しの面会されたそうですね。ジュスト様のときは同じでしたか?」
「いいえ。私は娘と妻にうつしてしまったので、ドア越しでもとても陛下とはお会いできませんよ」
「ドア越しなら移らないと報告はありますが。陛下がエトーレ殿だけに」
「エトーレはゲレルたちを北に返す役目をしていました。状況を知りたかったのでしょう。私は共にいたので」
エトーレが可愛いから見舞いに行って、ジュストのときは来なかった。
そんなことが急に過ったよ。思考が一瞬途切れてとても嫌な気持ちになったよ。
子どもみたいにいじけて情けないとジュストは自分を叱咤するよ。
「ジュスト様?お加減がよろしくないのでは?」
休まれたほうがいいですよ。
「そうします」
ふらふらとジュストが立ち上がったよ。トンマーゾはジュストの家を出て、馬車に乗ると椅子にもたれ掛かるよ。
「さすがに全力でかけると疲れますね。でも病み上がり、しかも妻子を失ったとばかりだと心に入り込みやすい」
「それはこちらの手駒になったということかな?」
トンマーゾは慌てて身体を起こすよ。お供が深く被っていた帽子をとったよ。
「これはルイージ様。いえ、領主様いつの間に」
「それは貴殿がジュストに魔法をかけているときにな。それで計画を実行できそうか?」
トンマーゾは残念そうに首を振ったよ。
「それは難しいですね。やはり陛下の目はごまかせません。一度でもあの人の前で魔法を使えば、見抜かれます。というかこそこそしているのを見抜かれて、ずっと見張られていますよ。ジュスト殿をあちこちに行かせて私から引き離しにかかっていますし。こちらの意図を匂わせば、調査が入るでしょう。
病のせいで陛下の警戒は強い」
「今は動くべきではないと」
「そうです」
領主となったルイージは納得したようだよ。そしてニヤリと笑ったよ。
「私が何もしなくともあの王は自滅してくれそうだし」
第二首都は検疫の強化は続けているけれども、人とモノの出入りの緩和をしたり、感染者が少ないところは普通の生活に戻り始めていたよ。
夏になって感染者が減ると各地で検疫を続けながら、すべての街の封鎖が解除されたよ。
街の封鎖解除をしても、対策本部は残されたよ。ポネンテの街の建設やまた冬が来たら流行るかもしれないから対策をするためだよ。
ルドは感染症絡みの案件はすべて対策本部の案件として、議会を通さなかったんだ。
「ポネンテ領主の辞任の件は、ポネンテがすべきです。陛下は意見をせず承認する、そういう決まりです」
ジュストは会議室から出ていくルドを追いかけたよ。ポネンテの領主が街を守れなかったと領主の辞任を示したら、ルドが拒否したんだ。ポネンテの民も領主と共に街を作り始めていて、責任を問う声はなかったよ。それをカスカータの代表者が領主の街の運営がよくなかったのではというと、議会は辞任しろという雰囲気になったから、ルドが会議を強制終了させてしまったんだ。
「カスカータも他の領もポネンテの領主について、辞任を決める権限はない!それこそ内政干渉だろう。ポネンテは封鎖に応じて、他への感染を防いだ。そして街を破棄したんだ。
ポネンテ領主の責任は街の再建である。再建させてからこそ、責任を果たしたことになる。辞任が責任を果たすことではない!」
ルドは執務室に入ってしまったよ。聞く耳を持たぬとジュストはため息をついたよ。
「議会の声を無視とは困りましたね」
いつの間にかトンマーゾが後ろにいたよ。もうジュストは慣れてしまって驚かなかったよ。
「ええ、全くです。ポネンテ領主が辞任を示したのを陛下が拒否するのが問題です」
普通なら皇帝や王が領主の採用権限を持つからおかしくないのだけれども、ルークススペースでは、領主の自治権が強いからルドでも拒否できないことになっているんだ。
その仕組みを作ったのはルドとルークススペースの議会だよ。
「どうすれば…」
「私に考えがあります」
「何かいい案はあるのですか?」
トンマーゾが口を開きかけたときに、靴音がしたよ。
「陛下はこちらですか?」
エトーレがにっこり笑ってジュストではなく、トンマーゾに聞いたよ。トンマーゾもにっこり笑って道を譲ったよ。
「ええ、中に入られるのを見ました」
ジュストも頷いたよ。エトーレはジュストに話があるといった上で、トンマーゾにすれ違いざまにいうよ。
「陛下は間違ったことをされたことはありません。陛下が自ら病の撲滅に街に出て、急激に患者が減りました。ポネンテも今が大切なときです。急に領主が代われば混乱する。だから陛下はポネンテのためを考えられているのです。
グランデフィウーメが何かするというならば、それこそ干渉にあたりますが」
トンマーゾはにっこり笑ってそうですねと言って、立ち去ったよ。
「エトーレ。今のは言いすぎだ。お前は陛下の護衛という立場でしかない。ヴィペラ様の方が身分が上なんだ」
「わかっている。でも、ジュスト兄様、奴には気をつけてください。伯父上からヴィペラ家はよくない噂があると聞きました。人を惑わす秘術を持っていると」
「秘術?惑わすとは騙すことか?俺が騙されると?」
エトーレはジュストの勘に触ったと見て、中に入りましょうといったよ。
執務室の中では困り果てていたルドの姿があったよ。
ここから言い訳ですが…。次回は土日のどちらか一度の投稿になります。毎年軽度な花粉症だったのですが、今年は何故かつらく、集中できなくて筆が進みません。窓を開けた瞬間くしゃみというセンサーっぷりに呆れました。
今回は投稿優先で校正甘々になっていますので、後日訂正していきますのでしばしご容赦を。
ルド編のラストに差し掛かるにあたり、今後の展開に影響すると思われ、丁寧に書いていきたいと考えていますので、投稿が週一になることもあります。目標週二挫折…。
文字数減らして二回分にするか?それは袋開けたら昔よりお菓子のサイズ小さくなったみたいなガッカリ感はないかと勝手に思ったり。つらつら言い訳書くなら続き書け?ごもっともです。




