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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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37話 暴君ルドの話33

 尋問は終わって、正式な裁判は別の日に行われることになったよ。


「エトーレのお陰で助かったよ。ありがとう」


 ルドに褒められてエトーレは嬉しそうにしていたよ。でもジュストが尋問が始まったら発言はしてはだめだと言ったら、エトーレはむっとしていたよ。


「裁判官から怒られなかったし、嘘かどうか見られたってアズーロ兄様が言ってたからもういいでしょう」


 と言ってさっさと行ってしまったよ。


 今までもあったけれど、ジュストが注意してエトーレが不機嫌になるということがあったんだ。


 ルドは少し心配だったけれど、二人はもう大人だ。見守ることにしたよ。



 裁判の後にロッシと使用人は遺族に罵倒される中、公開処刑されたよ。


 ジュストは両親を殺した犯人が死んだのに、なんだかすっきりしなかったんだ。


 ルドにそれを言うと、悲しそうな顔をしたよ。


「俺は不思議と憎んでいた方が楽だったよ。犯人が罰を受けても、時間も死んでしまった人も戻らないのだから。

 そうだ、ジュスト。気分転換に国のあちこち行ってみないかい?旅してみたいと言っていたでしょう」


 ルドは諜報部隊から、トンマーゾ・ヴィペラがジュストになにかしているみたいだと報告があったんだ。魔法らしいとも暗示らしいともはっきりしないんだ。だからジュストをトンマーゾから距離を置かせるために、旅の提案をしたんだ。


「もちろん、遊びに行くわけではないよ。隅々まで政策が行き渡っているか確認してほしいんだ。旅行という雰囲気を出せば領主たちも気構えなく、普通の姿を見せてくれるだろうし」


 ジュストは喜んで提案を受けたよ。お嫁さんとお供を何人か連れて、旅に出たんだ。お嫁さんは新婚旅行気分だったらしいけど、しばらく首都から離れるとは聞いてなかったらしいよ。

 



 ジュストは地方を周り、国の政策を無視しているところは領主たちに注意したりして大活躍したそうだよ。地方の民には喜ばれたんだ。


 子どももできて、首都に戻るとエトーレがルドの側近みたいなことをしていたよ。俺がいない間にと、ちょっともやっとしているとあの男が現れたんだ。


「おや、ジュスト様。お久しぶりですね。地方はいかがでしたでしょうか?」


 トンマーゾがジュストを見つけるとすりよるように近づいてきたよ。


 適当に相づちをしていると、トンマーゾがひそひそと小声で言ったよ。


「エトーレ殿は陛下の供というより側近のようなことをされているようで、近頃陛下にお近づきになれるかどうかはエトーレ殿次第と噂がたっていますが、ご存じですか?」


「エトーレが?」


「そうですよ。私はてっきり陛下が後継か宰相にするのは、ジュスト様かとばかり思っておりました。エトーレ殿に陛下は甘いのなんの。私は早くジュスト様が戻って来ないかと待ちわびておりました」


「…グランデフィウーメはエトーレの方が名が上がってほしいのでは?」


「どうしてそんなことをおっしゃるのです?ジュスト様は陛下の養子であり、オリゾンテ宰相の弟殿のご息女と結婚されております。普通ジュスト様が陛下を支えていく存在ではございませんか?エトーレ殿はただの居候にすぎないのにと他の貴族たちも言っております」


 エトーレはルドのことを父とは呼んでいるけれど、養子ではないよ。ルークススペース、とりわけオリゾンテ家寄りの貴族たちからしたら、成人したエトーレがどうしてまだルドの子どものように扱われているのかと変だと思っていたんだ。


「陛下は貴族の常識に囚われない方です。エトーレについては本人の好きなようにさせたいとお考えでしょう。誰が次期王や宰相になるのかはなるべく人がなるべきだと陛下はお考えなので、私は陛下を支えるだけです。では、これで失礼します」


 ジュストはトンマーゾの言葉が一理あると思ってしまって、いらついたよ。


 ルドに会うと護衛は元奴隷の王属部隊ではなく、エトーレがいたよ。


「息抜きがてらと思っていたんだけれど、たくさん仕事してもらっちゃったみたいだね。しばらくは休んで。今日は久しぶりにみんなでごはんを食べよう」


 ルドは何にも変わってなくて、ジュストは少し面白かったんだ。


「神殿なのにどうしてか故郷の実家に戻った気がしますよ」


「ん?君にとってここは実家でしょう?そのよそよそしいのをやめようよ」


「そういうわけには」


 ジュストが帰ってきたと聞いてローザが来たよ。遅れてアズーロも来て、ロッシ事件のときに見えた影は消えていつものアズーロだったよ。


「お帰りなさい。ジュスト兄様」


 フェデリーゴとセレーナも来たよ。フェデリーゴは挨拶そこそこにエトーレの方に行ったよ。セレーナはジュストにお話を聞きたいとせがんでいたよ。


 ジュストは二人の反応の違いにあれって思ったけれど、セレーナとお話していたからすぐに忘れたよ。


「フェデリーゴ。君も政治に関わりたいと言っていたね。ジュストの話を聞きなさい」


 ルドに言われて、フェデリーゴはジュストから行った場所の地形や文化、現地で見聞きしたことを教えてもらったよ。


 フェデリーゴはとても静かに聞いていて、わからなかったら質問もしたし、優等生だったよ。


 たまにエトーレが話を聞きに来ると、フェデリーゴはパッと笑顔になるんだ。ジュストは嫌われているのかなとエトーレに聞くと違うと笑ったよ。


「フェデリーゴとジュスト兄様は年がとても離れているでしょう?それに忙しくて今まであまり話せなかったじゃない?彼はどう話していいかわかんないんだよ。

 あと子どもにはちょっと話が難しいよ」


 きょうだいでもないエトーレがフェデリーゴを兄のように慕っているようだね。ジュストはそうかと少し寂しい気持ちだったよ。


「難しいか…」


「というかかたいよ。何か面白いこととか楽しかったことはないの?」


 ジュストは淡々と事実を話していたから、フェデリーゴは飽きちゃったみたいだよ。ジュストは楽しかったこととかフェデリーゴが興味を持ったものを話すようにしたら、笑ったり身を乗り出して聞き入っていたよ。


「エトーレは人に好かれるんだな。俺もお前の愛嬌を見習わないと」


 褒めたらエトーレはビックリしたよ。それの反応のジュストもビックリしたよ。


「なんだよ。どうしたんだよ、驚いて」


「いや。俺を褒めるのが珍いなって」


 嬉しそうにへへと笑うから、ジュストはちょっと人に厳しかったかと反省したよ。


「エトーレ様。少々よろしいでしょうか?陛下に取り次ぎをお願いしたく」


 議会の議員の一人が声をかけてきたよ。エトーレは用件を聞いて、渋ってから断ったよ。


「それは議会でお話しした方がよいかと思います」


「そうですか」


 議員が立ち去ると、ジュストはエトーレの対応に感心したよ。


「陛下の養子でもないエトーレ殿が、あなたの座を奪うかもしれませんよ」


 耳元でトンマーゾのささやきが聞こえて振り向いたよ。周りにはエトーレ以外はいなかったよ。


「どうしたの?」


「…なんでもない」


 これは自分の内なる声なのか。


 いいやとジュストはルドの役に立てるのならば立場とか関係ないと考えていたし、エトーレが優秀なら自分より上になってもらってもいいと思っていたよ。だけど、もしそうなったらと考えると、とても悔しい気持ちになったんだ。


 空耳なのか、本心なのか。


 トンマーゾの声であることないこと囁くから、ジュストは悩まされたよ。


 


 建国してから特に大きな戦争はなく、外からの勢力はルドたちの外交努力によって衝突は免れていたよ。


 人との戦いはなかったけれど、自然との戦いは建国以来続いていたんだ。


 穏やかな暮らしを得て人々は、神々と皇帝に感謝して暮らしていたよ。それが少し影を見せはじめたのは、一〇四〇年の冬だった。


 カスカータでウシの伝染病が流行りはじめたんだ。学者の助言でルドとカスカータ領主は領外へのウシの移動を禁止したけれど、すでに遅くてポネンテやグラデフィウーメなどの周辺地域へ広がっていたよ。


 ウシからウシへ広まり、国の全土で輸送禁止したときには蔓延(まんえん)してしまっていたんだ。国が大きくなり、各地へ人や家畜も移動しやすくなったこともあって、今まで一つの地域で終わっていた伝染病が他の地域へ広がってしまったんだ。


 しかもカスカータは酪農が主な産業で家畜を他の領へ積極的に売り出していたから、生きたまま近隣の領へ運んでいたんだ。ウシの検査や検疫という考えはなくて、被害が大きくなった原因でもあったよ。


 被害は干ばつの時の比ではなくて、終息したときは国の半分以上のウシが感染または殺処分で死んだよ。


「しばらく君の大好きなウシは食べられないよ」


 対応におわれていたルドは、久しぶりにエドモンドと食事をして息抜きをしたよ。


「別に肉はウシでなければならないというわけではない。むしろこの一年毎日ウシと言い続けたから、もうしばらくは口にしたくない」


 冗談が言えるのは食べたいものをいえば食べられる貴族や王族だからなんだ。平民たちもウシは貴重なタンパク源だったけれど、数が減ってしまったウシを増やす命令が出されていて食べられなかったよ。


 ルドは他の家畜を飼って肉を食べるように政策をとったから、栄養不足とまではいかなかったけれど、ウシのない生活はかなり打撃だったよ。農具としての役目もあったから、農家の労働はさらに重くなったよ。


 ウシの伝染病が終息を見せはじめた一〇四一年の秋に、プラテリア方面で今度は人間の風邪が流行りはじめたというよ。


 プラテリアではよく冬場に流行っていた風邪と病状が似ていたから、領主は気にしていなくてルドに報告していなかったよ。


 それが後々大変なことになるとは、プラテリア領主は思ってもみなかったよ。


 あ、分かった人いた?まだ言っちゃだめだよ。しーだよ、しー。


 プラテリアの近隣のフォレスタで風邪が大流行したことで、ルドは人の感染症が猛威を振っていることを知ったんだ。すぐさまフォレスタの街を封鎖して、検疫を強化したよ。検疫といっても体温計も顕微鏡もないし、街に入ろうとした人を数日隔離する施設を作ったよ。


 感染から発症まで何日かかるかわからなかったら、四十日は隔離されていたというよ。


 プラテリアは流行っていていたけれど、フォレスタよりも感染者や重症者が少なかったから見過ごされてしまったんだ。これもウシのときと同じく、あっという間に周辺の街へ広がってしまったよ。ルドはプラテリアも封鎖を指示したよ。


「封鎖を解いてください。せめて食料を。このままでは病ではなくて餓死者がでます」


 街の封鎖、ロックダウンだね、をしているフォレスタとプラテリアの代表者は議会で訴えたよ。壁で街が囲われているし、簡単には出入り出来ないからロックダウンは成功したよ。その代わり、外から食糧を入れてもらわないと備蓄と街の中の畑や家畜では住民全員を賄いきれないよ。


 街の外に住む農民たちといえば、壁がないところに住んでいるから、他の地域へ行くことを禁止したよ。


「知るか。我が領地に来られては困る」


「お前たちが早く対策しなかったからこうなったのだろう?」


「どうして彼らが議会にいるのですか?議員に病が広がったらどうするのです?」


 他の領出身の議員たちはプラテリアとフォレスタの代表の席から距離をとり、あからさまに差別したんだ。代表者は故郷にしばらくいなかったから、感染していないはずだけれども、二つの領の人だから差別されてしまったんだ。


 でも一〇四二年の新年から春にかけて各地で感染者の報告がされて、ルークススペース帝国全土に広がってしまったんだ。


 感染者の多い街は封鎖されていったよ。ルドは街の惨状を聞いていたから、封鎖された周辺の領主たちに援助するように説得したけれども、感染が恐いから人を出せないと聞き入れてもらえなかったんだ。


「俺から提案する。門の前に簡易的に物質を置く場所を設ける。搬入した者と受けとる者は時間をずらして会わないようにする。そうすれば人と人が接触はしなくてすむ」


 当時も感染は人同士の接触で起こるとわかっていたんだ。モノに病原体が付着していることによって、感染するということはわかっていないよ。


 特効薬はなくて、キミのいる世界のように抗生物質やワクチンがないから、薬といえばハーブのような薬草しかないよ。でもこの世界にあってキミの世界にないもの。そう、病に効く魔法の開発が急がれていたんだ。


 物質の受け渡しは議会で承認されると、エジリオが挙手したよ。


「フォレスタの神使が疲弊しています。他の地域から神使の派遣を要望します」


 治癒魔法が使える神使は駆り出されていたよ。ただ、神を敬い尽くしてきた神使も病にかかって死ぬ。


 症状は咳、吐き気、関節痛、高熱などで、特に高熱が連日続くことで意識がもうろうとして意味不明な言動や行動をすることがあったんだ。悪魔が取り憑いたと民から知識のある貴族まで考えるようになったんだ。悪魔に憑くのは日頃の行いが悪いからと思われていて、神使までがかかったことで、教会や信仰が揺らいでいたんだ。


 もちろん最初は人々は神々に救いを求めて、神使にお祓いをしてもらったよ。たくさんの人が集まってお祓いしたものだから、そこからクラスターが発生してしまったんだ。感染症が蔓延しているのに人が集まることしてなにやってるのとキミは思うかもしれないけれども、人々は恐怖の真っ只中にいて、信仰にすがり、これをすれば病にならないと聞けば飛びついてしまったんだ。


 お祓いにはこの病には効果がない上、教会に行ったら病気になったんだ。神使と教会への信頼は落ちていったよ。


 そんな中、どうしてか貴族の感染者は少なかったんだ。後でわかったことだけど、感染が市中で起こったと聞いて徹底的に子女や妻たちを屋敷の外へ出さないようにしたんだ。この病気は空気感染すると考えられていて、外へ出るときはお面をつけて人との距離をとっていたんだ。


 あ、そのお面を想像できるって?もしかして、中世ヨーロッパで流行ったペストのときに医者がカラスのくちばしみたいなお面つけてものかな。あれは悪い空気や悪臭から感染すると思われていて、いい香りがするものをくちばしに仕込んでいたらしいよ。実際は医学的に効果ないらしいよ。


 お面をつけるというのは、どこの世界でも似たようなことをするんだなってボクも聞いて驚いたよ。プラテリアで流行った病は飛沫感染するから、お面は少しは効果があったのかな。


 えっと、どうして貴族の感染者が少なかったかというと、徹底的に市中の人間と会わないようにしていたからなんだ。


 それが結果として感染者を抑えたわけだど、貴族はそうは考えなかったんだ。下賎と自分たちは違う、特別だから病気にかからなかったと考える人が多くなったよ。


 今まで神使を敬っていたけれど、こいつらも(悪魔)に憑かれたんだ、たいしたことはないではないかと侮蔑しはじめたんだ。


 それはまずいと、各教会は毎日のように神々の教えを説こうと朝の礼拝を始めたよ。人を集めるのだから、そこから感染が広がってしまったよ。ルドはエジリオに命令して礼拝をしばらくしないように要請したんだ。


 記録では要請から強制へ、厳命に三日経たずに変わったんだ。当時の混乱がよくわかるね。


 礼拝禁止の厳命に怒ったカスカータの裁きの神(ジュリシーオ)の大神使が、ルドとエジリオは神使であるべきではない、証を剥奪(はくだつ)すべきだと嘆願書をルドのいる神殿に送りつけたよ。



 それにルド派の水の神(アックルーア)のアグネーゼ大神使が怒って、多くの水の神(アックルーア)の神使たちをカスカータから引き上げようとしたんだ。水の神(アックルーア)の神使はお祓いや治癒魔法が得意な人が多かったから困ったよ。


 なんで裁きの神(ジュリシーオ)の大神使が礼拝の開催に躍起になったかというと、信仰を広めるというのもあるけどお金が問題だったよ。


 寄付金を国が集めて各教会の規模にあわせて配ったんだけど、平民が気持ちで出すような細かいお金は対象になってないんだ。


 祈祷などしてもらって記帳されたお金は集めるけど、神社やお寺のお賽銭は集めないよって感じかな。


 いわば平民の寄付金は各教会のおこづかいみたいなものだね。


 それに元々裁きの神(ジュリシーオ)ってかたいイメージがあって、民はあまり教会にいかなかったんだ。ルドやエジリオの影響で水の神(アックルーア)火の神(フィアン)は人気だったよ。逆に季節の神(サターネ)は、ルドが雨を降らせて実り豊かにしたから、季節の神(サターネ)より水の神(アックルーア)に祈った方がご利益あるんじゃないかって考えて、今まで信仰していた農民たちが離れていったんだ。



 おこづかいが減って、おっほん。アンチルドが多かった季節の神(サターネ)などの神使が、余計にルドや大人気の水の神(アックルーア)の神使へ対抗意識をもってしまったんだ。長年エジリオはこの溝を埋めることができなかったんだよ。


 この対立が宗教や神使への信用を落とすことを早めたよ。



 ルドは下手に礼拝中止にキレた神使を刺激したら面倒になると思って、裁きの神(ジュリシーオ)の重鎮にこの大神使をなだめるように頼んで、感染終息まで礼拝禁止の徹底にこぎつけたんだ。


 おっと、話が逸れたね。エジリオは魔法の使い手をフォレスタに送るように頼んだんだ。


 ルドはエジリオの提案を受け入れるように議会にうながすと、平民や軍の使い手がいくことになったよ。でも病に効く魔法はまだ開発されてなかったから、熱を下げたり痛みを和らげるとか対処療法しかなかったよ。



 フォレスタの街封鎖して一か月が過ぎると、プラテリアとフォレスタを責め立てたポネンテが静かになっていたよ。ポネンテも感染拡大が続いていたんだ。


 ポネンテの街の特徴覚えてる人、はーい!あれ?いない?


 街が狭くて窓の外へ投げ糞していたところだよ。


「ポネンテの封鎖も実施する」


 ルドの発言にポネンテは猛反発したけど、グランデフィウーメとカスカータが歓迎したんだ。ご近所さんだからね。感染者が来るのを避けたかったんだ。


 病、感染症っていうけど何が流行っていたのって?


 この病はインフルエンザに近いかな。


 なんだインフルかよって思った?でも当時は元となる病原体は発見されていなくて、未知の病だったんだ。だから悪魔が憑いただのと迷信が広まったんだ。


 潜伏期間が短く発症してから感染するんだ。ルドたちもそれはわかっていたから、症状が出た人は即隔離されたよ。


 病が菌やウィルスが原因なんて知らないよ。消毒という考えもないし、アルコールが効果的だということが実証されていなかったんだ。対策もろくない、特効薬もない中で病気になるよ。恐ろしいよね?


 現代日本では薬が開発されているインフルエンザになっても大体の人はよくなるから、大騒ぎにならないよね。だからなんだと思える。


 でもルドの時代はキミが生きている時代のように科学は発達していないから、克服されていない。だから咳でもしようならば、即刻離れたりして過敏に反応した人もいたんだ。


 発症した人とその家族は家に監禁されて、酷いところは外から板でドアをふさいでしまったんだ。


 家族が全員かかって、物資もなく、もうろうとした意識の中で闘病や看病を余儀なくされてしまい、一家全員死亡したという話がちらほらルドの耳に届いたんだ。



「ああ、なんて酷いことを。なんとかしなければ」


 どうすればいいですかと、毎日神様に聞いたよ。でも答えはなかったよ。


「これは試練なのですか?裁きなのですか?死んだ者たちは試練に負けたということですか?みながみな罪人ではありません。善良な民です。どうか神々よ。試練を、裁きをおやめください。我々は死に絶えてしまう」



 神様からは返事はなかったよ。



 ポネンテの街の中で埋葬する場所がもうなくて、遺体が道端に捨てられたよ。遺体から虫やダニが発生して、別の病が流行っていると報告があったんだ。街の中に入れないから、治療にあたっている神使たちの報告だったよ。


 本人たちも感染して仲間が死んでいく中、悲鳴にも近い言葉が羅列されていたよ。


「陛下、お助けください。あの時の雨のように、悪魔を祓う雨を!」


 ルドはマエストロたちが寝る間もなく研究しているから耐えてくれと手紙を送ると、その神使の死を記した手紙が送られてきたんだ。



 死、死、死。


 多くの街は死で溢れていたんだ。


 

「神よ、ああ、神々よ。俺たちは何をしたというのですか?神使たちは人を救おうとして、どうして死なねばならないのですか?」


 教会でルドは涙ながら訴えても神々の声は聞こえなかったよ。


「ゲレル!」


 騒がしく教会の扉が開けられて、ゾリグが護衛たちの腕を振り切って中に入ってくるよ。


「ゾリグ。ここは教会です。静かにしなさい」


 とっくに成人して結婚して子どももいるゾリグは怒られちゃったけど、構わずにルドの前に来ると短剣に手を置いて叫んだよ。


「フォレスタの連中を殺す許可を!」


「な…」


 何事かとルドが驚いていると、ゾリグと一緒にゲレル国から来ていた通訳さんが怒りで震えながら言ったんだ。


「フォレスタの民衆が、我々の仲間を火炙りにして殺したのです!病を運んできた元凶だとか言って!」


 結果的に病原体を持っていたのはゲレルの民だったよ。毎年ゲレルの間で流行っていた感染症が、彼らと関わりのあるプラテリアの民に感染していたんだ。毎年のことだから多くのプラテリアの民は免疫があったんだけど、よその地域はなかったよ。


 建国して約二十年で今さら大流行したかって?それはゲレル民に対する差別が根強くて、なかなかプラテリア以外の地域にゲレル民はいけなかったんだ。


 ルドが友好政策をして、徐々に受け入れるレナータの人が増えていったんだ。


 ゲレル民は馬の扱いが上手いから、主に酪農を産業にしている領のところや騎士として働いていたよ。里帰りした際に病原体、ウィルスと言ったほうがキミには馴染みがあるかな?ウィルスをもらって各地にいったときに広まったと考えられるよ。


 薄れていった差別意識が人々の不安で助長して、あることないこと噂となり、爆発するように街にいたゲレル民を捕まえて火にかけて殺したんだよ。人々は苦しみながら死ぬゲレル民たちを見てお祭り騒ぎをしたらしいよ。


「ゾリグ。耐えてくれ。フォレスタの民も苦しいんだ。お前たちが剣をとれば俺はお前を殺さなくてはならない。俺はそんなことしたくない」


 ゾリグはぐっと唇を噛んで、低い声で言ったよ。


「火に炙られた仲間も苦しかったでしょう。フォレスタの民は罰を受けずに生きている。同じ死という罰を!」


「わかった。とにかく落ち着くんだ。

 必ず参加した全員罰を与える。でも今すればフォレスタの民の不安をあおってしまう。ここにいたら危ない。お前たちゲレル民はすぐに北の国へ戻れ」


「レナータの人と結婚して子どものいる者は?俺らの言葉がわかりません」


「それは各々に任せる。護衛の兵を出そう」


 ゾリグもレナータ人の妻がいるよ。彼女はゲレルの言葉が話せないんだ。悩んでいる間にも、街にいるゲレル民は酷い差別と暴力に見舞われているんだ。


 ゾリグは各地のゲレル民のコミュニティに連絡して、引き上げるように指示したよ。引き上げの指示を公表していなかったから、逃げるのかと乱暴する人たちも出てきたんだ。その中にはゲレル民を護衛するために派遣された兵士も混ざっていて、ルドは兵士たちに失望したんだ。


「ゲレルは私たちを見捨てたのか?」


 ゲレル民もルドへの失望が広がっていたよ。


「俺がゲレルの護衛に行きます!」


 エトーレが名乗り出たよ。ゾリグのことを兄のように思っていたから、ゲレル民を守りたかったんだ。皇帝に近いエトーレが買って出たことで、ゲレル民の不信感は少し和らいだというよ。


「気をつけて、エトーレ。発病してすぐに回復魔法をかけると治りが早いという報告がある」


「ええ、聞いています。万全の注意を払いますので、ご心配なく」


 ゲレルたちを国へ送り届けた帰り、エトーレは発病したよ。なんとか首都まで来たけれど隔離されたんだ。エトーレのような国の中枢に近く知識がある人も倒れたことに、ルドたちは衝撃だったよ。


「ああ。エトーレまで、なぜ。神々よ。彼も多くの命を助けようとしたのに」


 ルドの思いや嘆きは神様にも民にも届かないみたいだよ。皇帝や貴族は安全なところにいて何もしない。


 そういう考えが平民や魔法学校に通う生徒の間にも芽生えていたんだ。


 魔法を学ぶことが許されているのはどういう人たちだったか、覚えているかな?


 貴族や魔法学校に受かった平民や奴隷だよね。魔法を学んだ平民や奴隷たちは積極的に街に出て、神使の手伝いをして感染して亡くなっていくのに、貴族の子女は家から出ない。


 感染拡大する初期に魔法が使える貴族も参加してくれれば、もしかしたらこんなに死者はでなかったかもしれない。


 平民や奴隷の怒りはゲレル民だけではなく、貴族にも向いたんだ。貴族が襲撃される事件が多発したよ。


「治癒魔法の使える貴族階級に出動を要請する」


 ルドの発言は感染者の少ない領から反発があり、多いところはすでに貴族も街にでて対応していたんだ。


 ポネンテは街の中では、感染症で半分以上が亡くなったといわれていて、このままでは街が滅ぶから貴族も総出で治療にあたったよ。


 貴族は人を出したがらないし、感染者の少ない地域は他人事。まとまらない議会は何日も続く。その間にも人は死んでいく。


 ルドは堂々巡りの議会で、急に立ち上がったんだ。


「この病は緊急性が高い。故に俺が直接指示を出す」


「直接とは…」


 ステファノがやはりと思いながら、レナータほぼ全域を治める己の皇帝に聞くよ。


「議会を通さずに俺が直接指示を出す。今この時からだ」


 後にルドが暴君と呼ばれるようになったきっかけは、ここから始まったんだ。

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