34話 暴君ルドの話30
将軍がアウローラを侵攻してきた敵の将軍と聖神使を連れてきたよ。
敵は乱入してきたルドたちのことを警戒している目で見ていたよ。ルークススペース国は噂でしか聞いたことがないし、興味もなかったからこんなに兵力があるとは知らなかったんだ。
『ククルス聖神使様。俺たちも同席してもよろしいでしょうか』
勝手に首を突っ込んだわけだし、一応ククルスに許可を取ったよ。
『もちろんでこざいます。このアウローラは陛下のものになりますので、むしろ采配をお願いしたいくらいです』
敵は、はあ?という顔をしていたよ。レナータの田舎者に中央を任せるとはプライドがないのかと思っているんだ。
ルドもククルスが本気なのかと驚いたよ。それはルドとククルスの話だからあとにすることにしたよ。
『当初アウローラが戦った人たちではないということで合っていますか?』
『はい。この者たちが最初に私たちが戦っていた領主を倒し、このアウローラを攻めてきたのです。マグナコンワルリスというところです』
ルドは目を丸くしてから、ふふと笑うよ。
『マグナコンワルリス。懐かしいな。私が沈めたからさらに谷が深くなっただろう。まだあそこに人は住んでいるのか?』
敵の将軍と聖神使はなんだこいつという顔をして、警戒の色がさらに濃くなったよ。
ルドは微笑んで自己紹介するよ。
『レナータにあるルークススペース国の国王ルドという。統一王マニュスの霊に憑かれている』
さらに敵の二人は頭ヤバいやつだという目になったよ。ククルスもちょっと心配したよ。
ルドはこの空気を察しできないおニブではないよ。
『統一王マニュスの霊はともかく、俺は最上級の魔法を使えるし、あの雨を降らしたのは俺と王属部隊の魔法の使い手だ。
貴殿らがここアウローラを攻めないと約束するならば釈放しよう。できれば、同盟を結んでほしい。レナータから中央にいちいち兵を出すのは大変だからな』
敵の将軍は鼻で嗤っていたよ。
『レナータの田舎者が何を言うかと思えば、統一王の霊が憑いてるだと。ホラ吹きもいいところだ。お前みたいな若造が王だと?笑わせるな』
エジリオがカッとなって剣を抜こうとするのを、ルドが手を押さえたよ。
『あなたは聖神使です。いかなるときも冷静にいなければなりませんよ』
エジリオは剣から手を放したけれど、気がおさまらなかったのかステファノたちにレナータの言葉で訳したよ。ステファノたちはすぐさまこいつらを殺せと喚いたよ。
「黙りなさい。この者たちは我々レナータ人を見下している。ここで騒いだら野犬が吠えていると嗤われます」
ルドに言われてルークススペースの人たちはぐっと我慢したよ。
マグナコンワルリスの聖神使と将軍は敗者のくせにルドを無視して、ククルスばかり交渉しようとしたよ。これにルドのストレスバロメーターは上がりまくったよ。マックスまで到達すると吹っ切れたように笑ったよ。
『いいでしょう。我が国の力を見せましょう。千年前と同じように沈み行くマグナコンワルリスを見ているがよい』
ルークススペースの将軍に向かって、ルドはレナータの言葉で言ったよ。
「彼らは我が国を見くびっている。マグナコンワルリスの街を沈める」
将軍たちは御意!と元気よく返事したよ。
マグナコンワルリスの将軍に民を避難させろと忠告してから、彼だけを解放したよ。聖神使と一部の兵士は人質としてアウローラにいるよ。
マグナコンワルリスの将軍は半分ハッタリだと思っていたけれど、戦いでルドたちの魔法を見たから一応住民を街の外に避難させることにしたよ。
ルドは一日で街を沈める準備はできないから、避難に二日やろうとさも恩情を見せるように言って誤魔化したよ。
「本気でやるの?」
ジュストのお迎えについてきたカリーナは街の規模を見て不安になったよ。砦レベルなら来た人数で何とかできそうだけど、数千人住んでいる街を破壊するにはもう少しマエストロクラスの魔法の使い手が必要だよ。
「私も頑張ります!」
ミアもお世話係としてついていくと言い張ったから、一緒に来ていたよ。
「全部はさすがに無理だよ。マグナコンワルリスの城を集中してやればいい」
「そういうけど、街の真ん中にあるし、ここからはお城遠いよ」
ジュストは街に入れないから、この作戦は無謀だと思っていたよ。
ルドは山の上から谷底にあるマグナコンワルリスの木造の街並みを見渡したよ。森に囲まれているマグナコンワルリスは、木材が豊富にあるから木で建てられた家が多かったよ。
「やはり城の下には大きな地下水が通っている。街の主が住むわけだから水がないところは不便たがらね。その地下水はそこの川と繋がっている。地下水を一度塞き止めて水を抜こう。少しでも陥没させることができたら、相手は驚いて態度を変えるだろう」
「そんなに簡単にいくかな?ここは千年前マグナスさんが沈めた街とは同じところなの?」
「ここより西に位置していたと思う。人は移住先を元と似たような場所を探してしまうようだね。よく似ているからやりやすそうだよ」
城を陥没させろと命令すると魔法部隊は御意と言っただけで作業を始めたよ。ククルスは細かい指示も出さずに作業させるなんて、ルドは軍にどんな教育をしてるんだと思ったよ。
ルドは千年前の記憶と街を照らし合わせてみると、懐かしくなって無性に誰かに会いたくなったよ。
『ククルス様。ベルナルドゥスの墓はまだあるのですか?』
『奴隷将軍ベルナルドゥスですか?あるとは聞いていますが、統一王の子孫であるアルクス家が治めている土地にあります』
『アルクス?子孫が生きているのか!地図を見たときにもう名前だけかと思っていた。会ってみたいが…』
『会ったところで陛下に憑いている霊を認めるかわかりませんよ?』
『認められなくてもいいですけど。ここから馬で二時間はかからないでしょう』
『行く気ですか?』
行く気ですかは正気ですかという意味だよ。戦争中に王が国交もない別の領地に侵入しようなんて危険すぎるよ。
『駄目ですかね?』
『戦争終わってからでもいいでしょう』
エジリオも止めたよ。
『俺、やることないし。今の中央見てみたいですし!』
エジリオがダメダメ言うから、ルドはステファノを仲間に引き入れようとしたよ。
「宰相もアウローラとマグナコンワルリスだけみて帰るつもりですか?運がよければ統一王の子孫に会えますよ」
子孫に会ったら確実に捕まっているということだよ。王と宰相そろって殺されるなんていったら笑い事じゃないよね。
いつも冷静なステファノが、遠足気分の小学生みたいになっていたよ。
「統一王の治めた地ですか。行ってみたいですね」
決まりという顔をしてエジリオは駄目だこれはと頭を抱えたよ。
「は?今から行くの?何言ってるの。馬鹿でしょう」
小耳に挟んだジュストが猛烈な勢いでルドに言うよ。ステファノはジュストの馬鹿でしょう発言で少し熱が冷めたようだね。
「ジュスト様。馬鹿なことをしても陛下を馬鹿と言ってはなりません」
「ステファノ様、酷い!それ、俺を馬鹿と認めているようなものじゃないですか。俺一人でも行きますからね」
「兄ちゃんは駄目に決まってるだろう!どうしても行くなら俺も行く!」
と何だかんだで、ルークススペースの主要人とククルスが行くことになったよ。
『アルクス領の端ですし、墓だけみて帰りますからね』
ククルスは渋々道案内したよ。マニュスの記憶があるとはいえ、千年前だから地形は変わっていたりするからね。
ルドは偉い人と見た目がわからないように神使の服を着たよ。
馬で進む最中に、森で白い花を見つけたよ。小さなユリの花で、ルドはいくつか手折って枯れないように茎に水魔法で濡らしていたよ。
「いい香りだね」
ルドは花の匂いを嗅いで微笑んでから、鼻唄を歌っていたよ。ジュストは聞いたことがない旋律に頭をかしげたよ。
「何の歌?」
歌うのをピタリと辞めて、ルドは口を開きかけて閉じてしまったよ。
「千年前によく歌っていた歌のはずだけれども、どうして好んで歌っていたか思い出せないんだ。とても悲しい歌なのに」
「ふーん。歌ってみてよ」
ククルスが急にしって言ったよ。
「すでにアルクス領に入っていますが、このあたりは検問の近くです。警戒してください」
一行は黙々と馬の歩みを進めたよ。
小高い山を越える途中、湖があったよ。ルドは自然に馬の足を速めるよ。
湖から少し離れたところに大きな岩があったけれども、明らかに人工的に造られたものだったよ。
『なんと。千年経ってもここにあるのか』
ジュストも墓石だとわかったよ。墓石の真ん中に名前らしいものが彫ってあったよ。
「ベルナルドゥス?ここが?」
ジュストはルドを見たら、じっと墓を見つめて動かないよ。ああと息を吐いて、花を供えたんだ。祈ろうと膝をついたのに、どうしてか神使服の上着と証を外すよ。
『亡きベルナルドゥスよ。戦友よ。長い歳月を経てまたこの場所に来られたことをお前の信じる神にも感謝する』
しばらく目を伏せて祈っていたよ。ジュストは千年前のベルナルドゥスなんて人を知らないから、何の感慨もないし飽きてしまったよ。お墓はとても古いけれど綺麗にされていたよ。
『てっきり朽ちたのかと思っていたけれど』
ルドは立ち上がって墓石を手でなぞるよ。
「当時のまま?」
ジュストが聞くとルドは頷いたよ。
「彫られた文字や紋章は雨風にさらされて薄くはなっているけれど」
「兄ちゃんはどうして神使服を脱いだの?」
「彼の信仰する神は唯一神ソルリエンス。太陽の神だった」
「唯一神って何?」
聞いたことがない言葉にジュストは困惑したよ。エジリオも聞いたことのない神様の名前だったんだ。
「たくさんの神様がいるわけではなくて、神様が一人しかいないんだ。太陽神ソルリエンスが世界や人間を創り、秩序を創った。ソルリエンスを創造神とも呼んでいたね」
「神々が世界を創ったんじゃなくて、一人の神様が全部造ったってこと?」
「そうだ。ソルリエンスに仕える者たちを神官と呼んでいた。千年前の中央の半分はソルリエンス教徒だったんだ。マニュスは最初はソルリエンス教徒だったけれど、神官たちとの相性が悪くなってね。改宗して俺らが信じている神々を信じるようになったんだ。
神官は身分の高い貴族しかなれなかったんだ。誰でもなれる神使と違うところだよ」
「そうなんだ。そういえば、太陽の神様って神話には出てこないね」
エジリオもいないなと思ってククルスに聞いたよ。
『私たちが信じる神々の中に太陽、そして月はありませんね。ククルス聖神使様は理由をご存知ですか?』
『太陽神?どうして聞く?』
『ここに眠るベルナルドゥス将軍が、ソル…何とかという神の信者だったそうです』
ククルスは目を丸くしてから納得したように頷いたよ。
『陛下がどうして神使服をお脱ぎになったのかと思ったら、そういうことだったか』
『どういう?』
『ベルナルドゥスはソルリエンス教徒だった。それに配慮されたということだろう。古い文献には冠婚葬祭の際は主催者の教えに従うとあった。ソルリエンス教は千年前の中央では普通に信じられていた。だが宗教的な戦争もあったと記録があり、そこで破れて信者は中央から追放されたという。太陽の神がいないのはソルリエンス神と同じ神と考えた人が多かったため、この宗教戦争以降は太陽の神を崇めなくなったらしい。あくまでも私が調べたことで事実かはわからないが』
ククルスは墓石の上の方の薄くなった彫刻を指し示すよ。丸い円から後光のようなものが彫られていて太陽を表しているそうだよ。
今度はルドがククルスに聞いたよ。
『あなたははじまりの神使について知っていますか?』
『もしかして、神使と呼んだ最初の神使ですか?諸説ありますが、はっきりとはわかっていません』
ルドは眼を伏せて深呼吸したよ。
『私が聞いたのはずっと昔、マニュスが王として即位するよりも前、一人の貧しい少女が神々に仕える人は誰でもなれると言い始めたと聞いている。彼女の時代はどんな宗教者でも神官と呼ばれていたという。
彼女は教本の難しい教えではなく、歌によって人々に神々はあまねく遍在すると教えた。今の讃美歌の元だと私は考えている』
マニュスの即位する前だから、紀元前の話だよ。
『確かに讃美歌の元の話は少女だったと私も聞いています。その少女の名前はお分かりですか?どの文献も教えにもなくて』
『彼女自身の名前はわからないが、自分を歌う人と呼んでいたという。
彼女の行動や言動は後の人が伝えただけで、本当かは定かではないが、神使という言葉が残っていることから多くの人に受け入れられたのは事実だろう。分かっているのは神官たちに睨まれて、人々を惑わした魔女として、火あぶりにされたということだけだ』
エジリオはジュストたちにレナータの言葉で話してあげるよ。ジュストは疑問がたくさんわいたけれど、ルドがじっとお墓を見るから聞きづらくなったよ。それからさっきの鼻唄を今度は口で歌っていたよ。そのはじめの神使とは関係ない歌だってククルスは教えてくれたよ。
すると護衛していた兵が走ってきたんだ。
「中央の兵が来ました。お逃げください」
と言っている間に囲まれてしまったよ。
それでもルドは歌を止めなかったよ。
綺麗な甲冑を着て馬も飾り付けた兵士が墓の方に来たよ。
『神使がそこで何をしている』
ククルスが頭を下げたよ。
『千年前の武将が眠ると聞いて墓参りをしたのです。すぐに領内から出ていきます』
ククルスがとりなそうとしているのに、ルドはまだ口ずさんでいたよ。ジュストはルドの袖を引っ張って歌うのをやめさせようとしたんだ。
「兄ちゃん…!」
近づいてくる兵たちで、ジュストの焦りは強くなっていくよ。
味方の兵が剣を抜きかけたときに、ルドは中央の人に言ったよ。
『今時の者は誰かが死者を悼んでいるのを邪魔をするのか?』
綺麗な甲冑を着た一番偉そうな人がじっとルドを見つめるよ。
『西からアウローラに援軍が入ったと情報があった。我が祖を名乗る不届き者の国だと聞くが、お前のことか?』
ルドはふふと挑発するような顔になったよ。
『だったらどうする?ここで斬るか?もし噂が本当ならば、お前たちは祖先と会話することも叶わなくなるぞ』
『祖がお憑きになるのなら、祖の血が流れている我らであろう。子孫のそばにいたいと思ってくださるはずだ。無関係の人間に憑くわけがない』
『千年も経っている。多くの子孫がいるはずだろう?お前はすべての子孫を把握しているのか』
千年間の男系の直系はわかっても、嫁いでいった女性たちや何かの事情で離縁した男性までは追うことはできないだろうね。
一番偉そうな人がふと横を向いたよ。隣で馬に乗っていた人がすっとルドを見ると、背筋がゾクッとなったよ。
反射的にルドは防御魔法を展開すると無数の石が中ったよ。
兵やエジリオたちは一斉に剣を抜いて今にでも戦いになりそうだったんだ。
ルドは攻撃した男の人を見上げるとお返しに魔法を放ったよ。相手も気づいたみたいで防御魔法を展開したんだ。
ルドは防がれてもさらに魔法を強めたよ。相手はお遊びのつもりだったらしいけど本気になってきたよ。
『背中ががらあきだよ』
ルドがにやりと笑うから、男の人は後ろを見たよ。いつの間にか氷の矢が現れたんだ。
『将軍を守れ!』
慌てた兵士は氷の矢を壊そうとしたけれど、将軍と呼ばれた男の人は馬から降りてよろよろとルドの方へ歩き出したよ。
『足が勝手に!!』
背後の矢に気を取られた瞬間に、防御魔法が弱まってルドが破ってしまったんだ。ルドはこの将軍さんの体内の水を操ったよ。
偉そうな男の人は納得してくれたのかルドに詫びたよ。
『急に攻撃したのは詫びよう。その者にかけた魔法を解いてくれ。我が祖の霊とは認めぬが、大した術者だとういことはわかった。名はなんという』
ルドは魔法を解いたよ。
『ルド・ルークススペースだ。レナータにあるルークススペースという国の王をしている。昔の姓はコロンボだが、母方はアルコ。中央の言葉ではアルクスだ。
こちらこそ無断で領内に侵入したのを詫びる』
お偉いさんは眉をあげてから、またじっくりルドを観察したよ。
『見逃すかと思うのか?』
『見逃してほしいな。マグナコンワルリスの街を沈めに行くのだから。お前たちも見に来るか?』
偉そうな男の人はすぐに答えずに、別のことを聞いてきたよ。
『王妃のユリを墓標に手向けたのは、あなたか?』
『王妃のユリ?』
ルドが頭をかしげるとアルクスの将軍が嗤ったよ。
『領主様、こいつは偽者ですよ。マニュス王なら知っているはずだ』
『そう言われてしまうと困るな。統一王という呼び名は私が死んでからつけられたし、王妃のユリもそうならば私は知らないのは仕方がないだろう。確かにこのユリが咲く頃王宮に飾られていたな。それで王妃のユリがなんだと?』
お偉いさんは領主さんみたいだね。領主さんは嗤っていなかったよ。
『あなたが歌っていたのは王妃がよく歌っていたと伝え聞いている。王妃は墓には供えないユリを好きだからと供えて陰口を叩かれたという話がある』
『そんな言い伝えよりもう少し全うなことはなかったのか?その王妃の名は?』
『残念ながら王妃の名は記録にはない。王ならば妃の名前は覚えているだろう?』
ルドは眉間に皺を寄せて必死に思い出そうとしていたけど、だめだったよ。
『ソルリエンスなんぞ、どうでもいい名前は思い出したのに、肝心の大切な人の名前を思い出せない。
別に私は統一王マニュスを語っているわけでない。あの時代は多くのマニュスという男がいて、その中の一人であったにすぎない。覚えていることを話したら、皆が統一王と呼ぶ男と照らし合わせておそらくそうであろうというだけだ。子孫である貴殿らが不愉快なのは当然だろう。
それは詫びよう』
偽者ならばあれこれいうだろうと考えていたアルクス側は、拍子抜けしたようだよ。
領主さんは何を思ってか、ヘルムを脱いだよ。金色の髪が太陽の光りに照らされて瞳がこちらを見たよ。
「兄ちゃんと同じ蒼い眼」
ジュストは驚いていたけど、ルドはすぅっと眼を細めたよ。
『懐かしい顔だ。私の子らに貴殿は似ているな。
それで王妃というのは何の魔法が使えたのか?』
『無能…使えなかったと伝え聞いている。あなたが我が一族に関わる者であるのは認めよう。
王というが国の広さはいかほどだ?』
ルドはにんまり笑ったよ。
『貴殿が治めている領地より広い。ほしいといわれてもタダではやれないが』
四十過ぎと思われる領主さんも笑ったよ。
『いらぬと言っておこう。我が領土で精一杯だからな。マグナコンワルリスを沈めるのはいつだ?』
『明後日の昼だ。谷に日差しがたんまり降り注いで見やすいと思ってな。
私を殺さないのか?』
『殺すかどうかは沈んだマグナコンワルリスを見てから決める』
相手もにやりと笑うよ。エジリオは間違いなくこの二人は血縁だろうと思ったよ。
『では楽しみにしておれ』
『そうしておこう』
ルドは戻ろうとエジリオたちに言ったよ。
その日マグナコンワルリスは慌ただしく人々が街を出ていたよ。偉い将軍が避難しろというけれど、戦争に勝っていると聞かされていた住民たちは信じられなくてすぐに逃げなかったんだ。
貴族たちが荷物を纏めて街を出ようとしているのを見て、住民たちも本当に危ないのかとあわてふためいて街を出る支度をしたよ。
領主は街を沈めるというのはにわかに信じられなかったけれど、統一王がこの地を沈めたと言い伝えがあるから街が一望できる山へ登ったよ。
街にはまだ人が残っていたけれど、太陽が空高く昇ったとき容赦なくそれは起きたんだ。
領主のお城が傾きはじめると沈みながらバキバキ木造の家が壊れる音がしながら倒れたよ。お城はルドの神殿よりは小さくて周りは貴族の館がぎっしりあったんだ。お城とともに貴族の館も沈んだり倒壊していくよ。
『ま、まさか本当に』
そう思ったのは領主だけではなくて、人質として沈む領主城を見せつけられているマグナコンワルリスの聖神使も同じだったよ。
約束通りアルクス領主も将軍たちを連れて見物に来ていたよ。
ルドはやあ、いい天気だね、街が消えるのを見るのに絶好の天気だと挨拶をするとマグナコンワルリスの聖神使は震え上がったよ。
『人がまだ残っているようだね。お前が降伏し、我々に従うというのならこれ以上はしない』
領主城しか仕込んでないし、街を沈めることはできないからハッタリだよ。
アルクス領主はルドが来て仕込める日数を知っているから、街は沈められないことを知っていたよ。ルドにしーって言われて黙っていたんだ。
ルドはククルスに聞いたよ。
『ククルス聖神使様はこの地がほしいですか?ほしいなら沈めませんが』
『私がほしいのは争いのない地です。よその土地とはいえ民が地中に沈んで苦しみながら死ぬのは見るのはつらい。陛下、もういいでしょう』
ルドはマグナコンワルリスの聖神使を説得するよ。
『心優しいククルス聖神使のお言葉に従おう。貴殿はどうだ?民が一人になっても戦うか?』
聖神使は街を見つめて、唇を噛むよ。
『この街は私の祖先が創った街です。民も街も残すのが私の役目。降伏します』
『お前は為政者だな。神使ではない。異教徒ならまだしも、神使ならば教えを俺に説いて慈悲を乞うものだろう。
甘いと思うか?さて神々の教えはお前たちが創ろうとした国や街の事を言っているのかな?』
『神々の教えの通りにはできない。理想ばかり口にして現実が見えないのは若者の欠点だ』
『若者でもなんでも神の教えの通りにしないのならば、神使をやめろ。何故神使になった?抗えない運命があったのか?それともなった理由を忘れたか?
数年前レナータは未曾有の熱波が押し寄せ、大地が枯れた。人も生き物も多く死んだ。
自然の現象は神々のご意志だ。矮小な俺たちは足掻くことしかできない。だが、戦争で人が死ぬのは止めることができる。レナータの人々は渇きと飢餓に苦しみながらも、俺に希望を託してくれた。国土の大きさは俺への希望の大きさであり、国を支える民の力だ。
お前の希望はなんだ?それとも望んだ過去に描いた未来はもうないと嗤って捨てたのか?』
マグナコンワルリスの聖神使はうつ向いてしまったよ。
『若造がわかったようなことを言って。中央の聖神使は最初は話し合いをしようとした。結局は金や食糧がなければ神使とて生きていかれない。多くの神使と信仰を守るためには領主の意向も必要なのだ』
『ふむ。戦争はしたくなかったか?』
『私は闘いの神様の神使ではない。アウローラ侵攻は望みではなかった』
ルドはじっくりとこの聖神使の心臓辺りを見ていたよ。聖神使は動揺しているのか魔法で防御するのを忘れているみたいだね。
『お前の心臓は嘘をついていない。本心だと信じよう。マグナコンワルリスの領主は避難しているだろうし、根城はあの通りだ。マグナコンワルリスを変えるのは今だぞ?』
聖神使は驚いてルドを見上げたよ。ククルスを含めて中央の言葉が分かる人は疑問に思ったよ。
『陛下がマグナコンワルリスを変えるのではないのですか?』
代表してエジリオが聞いたよ。
『別に中央がほしくてここに来たわけではない。いつまでも帰らない馬鹿息子を迎えに来ただけだ。俺が預かっているのはルークススペースだ。ククルス様がアウローラを治めてくれとおっしゃったが、レナータからは少々遠い。
志し同じ聖神使たちが手を取り合い地上の天の国を作る。それもいいのではないか?』
ククルスとマグナコンワルリスの聖神使は顔を見合わせたよ。アウローラとマグナコンワルリスが一つになり聖神使が治めてみたらとルドは言うよ。
『正直マグナコンワルリスの聖神使には恨みはありません。お考えを聞いてからにしたいと思います』
ククルスが言うとマグナコンワルリスの聖神使は殺されないのかと涙を浮かべて、ククルスに感謝するよ。
『聖神使の座はアウローラの聖神使にお譲りしても構いません。ただ領主様はどうされますか?』
『どうされるもなにも。お前たちが決めろ。
あと一つ問題があるのだが、貴殿らはアウローラとマグナコンワルリスをどうしたい?』
アルクス領主はまっすぐルドを見つめたよ。
『我らの望みは一つ。祖の統一王マニュスが成したように、またこの地を一つにすることだ』




