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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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33話 暴君ルドの話29

 ジュストが中央(ケントルム)へ旅立つと、ルドは少し寂しい気持ちになったよ。怒る人が一人いなくなったから、エトーレはここぞとばかりルドにたくさん甘えていたよ。だからちょっと寂しい気持ちが和らいだんだ。


 長男のフェデリーゴがしっかり二本の足で歩き始めたころ、ジュストから手紙が来たよ。中央(ケントルム)に着いたという内容だけれども、手紙が届くまで二ヶ月は最低かかるから、今ジュストは何をしているのだろうと気になったよ。


 手紙にはアウローラの街は綺麗だったけれど、戦争ばかりをしている地域を通ってきたら、畑は放置されて飢えた人々が力なく路上で座っていたのを見たと書いてあったよ。数年前の干ばつを思い出したんだって。


 自然の脅威で人は苦しむのに、人間が苦しみを引き起こしてどうするんだと率直につづられていたよ。


「どうかその気持ちを忘れないでくれ」


 ルドは返事を書いたけれど、多分これをジュストが読むのは二ヶ月以上先のことだよ。


 一年が過ぎてもジュストが帰ってくる兆しはなくて、ルドには女の子が生まれたよ。


 中央(ケントルム)に行った奴隷はククルスが平民や兵士にしてくれたよ。お礼だと元奴隷たちはククルスの元で働いていたけれど、兵士となった十名以上が死んだと手紙が来て、ルドはやっぱり死は避けられなかったかと悔やんだよ。


「ゲレル。俺、ジュストを迎えに行ってくる!」


 元奴隷たちの死を聞いて、ゾリグはジュストのことが心配になっちゃったみたいだよ。ジュストが帰ってこないのはククルスに肩入れして自分も戦っているからだろうね。


 ゾリグに頼みたいけれど、どうやってゲレル民を派遣するかだね。奴隷の手は使えないし、行けても言葉の問題もあるしね。


「俺が行こうか?」


 リクが名乗り出てくれたけど、エジリオのように戦争で傷ついた彼に頼るのもと気が引けたよ。エジリオもお前行って大丈夫かっていう顔をしていたんだ。


「昔の話だ。気にするな。ジュストのことだから誰かが行かないと帰ってこないぞ?」


「そうです、ゲレル。ジュストは頭かたい」


「意志がかたいと言ってあげて。でもどうやって行くんだ?ゲレル民がよその領土を素通りできるわけないし」


「今、夏。北からいく」


 中央(ケントルム)とレナータ、北のエルスターが接しているところはゲレル国に属するトナカイの民が住んでいるよ。このあたりは国境は定かではなくて様々な有力者が自分の領地を主張しているけど、その大半は森で覆われていて魔物がたくさん住んでいたんだ。


 魔物の森を通るのはとてもリスクがあるけれど、ゲレルの民は南のアナベルから中央(ケントルム)を通ってレナータにやってきたんだ。ゾリグは先祖が通った道を我々も行けばいいって、少し格好いいことを言ったよ。


 そうと決まるとゾリグはさっさとゲレルの地へ帰ったよ。もちろんルドがあれこれ手を回して議会の承認を得たけれどね。


 ジュストは行きに元奴隷の護衛がいたけれど、帰りはいないからね。遊学中の息子のお迎えという名目で議会に議案を出したら、ステファノが呆れていたよ。



 ゲレルの民が出発したと連絡を受けてから、一ヶ月半でゾリグから着いたと短い手紙が来たよ。それにはとても驚かされたけれど、ジュストたちが通った人がたくさんいるところではなくてゲレル国内の山や草原の大地だから、通行書をお役人さんに出して許可もらってうんぬんかんぬんという時間がないからね。


「うまく中央(ケントルム)に着いたとはいえ、多くの聖神使や領主がひしめいているんだ。どうやってアウローラにいくつもりなんだ」


 リクがついていったとはいえ、蛮族と罵られるゲレルの民が中央(ケントルム)の街中を堂々歩けるとは思えなかったんだ。


 ゾリグの手紙には間違いだらけのスペルで、突っ切ったと一言だけ書いてあったよ。


「…リクに聞くか」


「ゲレルの民は我々の常識外ですからね。中央(ケントルム)の人々はさぞかし驚かされたでしょう」


 エジリオもお土産話を待っていようと笑っていたけれども、次にきた手紙でルドは明るい気分はどこかにいってしまったよ。


 ジュストは元奴隷が半分以上死んでしまったことを隠していたんだ。


「ジュストが帰るつもりがないそうだ。馬鹿息子を迎えに行く」


 議会であまり見せない表情と低い声を出す王に、領主たちは反対しなかったというよ。


 そのジュストはアウローラに着いたとき、ここが有名な中央(ケントルム)かと胸を高鳴らせていたよ。


 旅の途中で戦争で悲惨な街や人々の光景を見たから、夕日に染まったアウローラの美しい街並みに癒されたそうだよ。


 一週間ほどククルスが街を案内したり、魔法の勉強をしたよ。


 言葉も頑張って覚えていたとき、隣の領地の聖神使から宣戦布告を受けたんだ。どうやら奴隷を買って連れ帰ったことを聖神使らしくないと槍玉にあげて、ククルスを成敗するってことだね。


 ククルスも買ってはない、帰りたいという奴隷をルークススペース国から預かったと弁解していたけれど、相手は聞かないで宣言通りに軍隊を連れてきたよ。


 ジュストは魔法の使い手として参戦したよ。この戦いで十人の奴隷が亡くなったとき、生き残った人たちを説得してルークススペースに帰ろうと思ったんだ。


「ジュスト殿下。俺らはやっと故郷に帰れた。故郷の土地で眠ることができて幸せです。ありがとうございます」


 一人はそう言い残して死んだよ。遺された人たちは仇だのアウローラを守るだのといって武器を取ったんだ。


「兄ちゃん。話し合いで戦いは終わらせることは出来ないんだよ」


 二ヶ月ほど戦いに明け暮れるとジュストはそう悟っちゃったよ。降参した人たちの怪我を治してあげていると突然攻撃してきたり、味方になると言ったのに敵に情報を渡していたりしたんだ。敵だった人は信用できなくなったよ。


 レナータの暮らしが酷く昔で平和に思えたんだ。


「こんなことを何百年もしているのか。ここにいる人たちは平和というものを知らないのだろう」


 ジュストが呟くと、近くにいた元奴隷にククルスがジュストは何と言ったのかたずねたよ。


『そうです。私も平和を知りません。殿下はルークススペース国に帰りますか?』


 ジュストは疲れはてた元奴隷たちを見渡して言ったんだ。


「一人でも戦力がほしいでしよう?それにここに連れてきた彼らが少しでも安心して暮らせるようにしてから去りたい。じゃないと故郷に帰って不幸になったと聞けば陛下が悲しむ」


 ジュストの言うようなことが、いつになるのかククルスにはわからないよ。


『感謝します』


 それだけ言ったよ。


 戦況はよくなくて、アウローラの砦が落とされると民も兵もみな壁のある中心街へ立てこもったんだ。


 ククルスは降参か滅亡か悩んだよ。せめてジュストだけでも逃がそうかと言ったけれど、ジュストは最後まで戦うと言ったよ。


 穴堀り作戦をするとバンバン敵が落ちていったけれど、二日もすれば警戒して街壁に近寄らなくなったよ。戦いは膠着(こうちゃく)してしまい、ジュストたちは街から出られなくなったよ。


 街の中でも畑や小さな牧場があったけれど、長期戦は厳しかったよ。敵は相手が飢えて降参するのを待つことにしたようで、兵を待機させていたんだ。


 アウローラは頼る味方は周囲にいないから、街の中にいる人で何とかしなくてはならない。ルークススペースに応援を頼んでも、伝令が国についたから兵がくるまで半年はみた方がいいから絶望的だったよ。


『ククルス様。このままではみな死にます。私が奴隷になっても構わないから民を助けてほしいと頼みにいきます』


 ククルスの片腕の大神使が言ったよ。


『では私も行こう』


『ククルス様はお逃げください。ククルス様に聖神使様になるようお願いしたのは私ですから。ジュスト様と一緒にルークススペース国におゆきください』


 ジュストは中央(ケントルム)の言葉を勉強していて、ところどころ話がわかったよ。


『降参、する、のですか?』


 ジュストがゆっくりと言うよ。ククルスはジュストの肩に手を置いて頷いたよ。


『陛下に心から感謝しているとお伝えかしださい。エジリオとリクも私のことは忘れて役目に励むようにと』


『降参、すると。あなたはどうなるの?』


『ここの代表者です。処刑されるでしょう』


 ジュストは泣きそうな顔をするから、ククルスは笑おうとしたけど失敗したよ。込み上げたものを精一杯飲み込んだんだ。


『あなたに中央(ケントルム)の醜いところをお見せしてしまいました。

 陛下のおっしゃった通り、私が聖神使をやめれば元奴隷たちも兵も民も死なずにすみました』


『やめて、ください。そんなこと!』


 ククルスはジュストに帰り支度をするようにいい、首脳陣を集めて降伏に向けて交渉をどのようにするか話し合ったよ。


『聖神使様!敵兵とどこかの勢力が交戦に入っています!』


 味方なんて来るはずがないから、ククルスもジュストも訝しげだよ。ククルスはアウローラに味方する他の聖神使や領主はいないと思っていたよ。横槍を入れるより、アウローラが落ちてもらった方が敵が減るからね。


 ジュストたちは見張りの塔に上ると馬に乗った兵が敵と戦っているよ。甲冑をつけず胸当てと小手だけで身軽に馬を操る姿に、ジュストは思わず目を擦るよ。


「ゲレル?どうしてここに?」


『味方ですか?』


 大神使がジュストに聞くけど言葉がわからないよ。元奴隷の人が代わりに答えたよ。


『ゲレルです!光帝陛下が兵を使わせてくださったんだ!』


 ジュストもそう一瞬思ったけど、ルドいやステファノならゲレルだけではなく多くのルークススペース兵も投入するはずだと考えたよ。


『…あれは、兵ではない。俺を、連れ戻すため、だ』


 ゾリグっぽい姿を見て確信したよ。


『ゾリグ、俺を連れ戻すと、陛下に言ったのだ、と思う』


『なんと!』


 大神使が驚いているけど、ククルスは急いで兵に命令したよ。


『ルークススペースの援軍だ。今すぐ応戦せよ!』


 理由はともあれ、魔法を使えないゲレルだけでは勝てないとみて、ククルスは攻撃を命令したよ。敵もアウローラに味方はいないと思っていたから、油断していたところに攻撃されてバタバタ矢に射られて倒れていくよ。


 さらに挟み撃ちにあって敵はパニック状態になったんだ。ゲレルたちは逃げ惑うウサギでも狙うようにガンガン矢で仕留めていくよ。


『これは凄い…』


 ククルスは指揮を忘れてゲレルたちの戦いを見ていたよ。


 敵兵はアウローラの外まで撤退すると、ゲレルたちは得意そうに街の中に入っていったよ。その中に見慣れた褐色の肌の男にジュストは思わず笑顔が浮かんだよ。


「リク!」


「おう、生きてたか?結構まずかったんじゃないのかよ」


 安堵したようなククルスの顔にリクは渋面したよ。ゾリグはジュストに抱きついたと思ったら、引きずるように馬に乗せようとしたんだ。


「ジュスト、帰ろ。戦いで仲間、死んだ。ジュスト、死なせたくない」


「ゾリグ。来てくれてありがとう。でも俺は戦うつもりだ」


 リクはやっぱりと思ってジュストに言ったよ。


「ここはお前の故郷でも国でもない。ここで死ぬつもりか?ルドがどれだけ心配していると思っているんだ。帰るぞ」


「このまま帰ったら、元奴隷たちが全員殺される」


「それは奴らは承知だよ。そいつらの責任で、お前の責任ではない。中央(ケントルム)が安定しないのは、支配する連中のせいだ。お前はそこまで面倒見る必要はないんだ」


「ゾリグやリクが来なかったら、ククルス様は敵に捕まって処刑されていた。それでよかったというのかよ」


「間に合ってよかったとは思う。でもこうなったのは戦うと決めたククルス様の責任だ。

 ルドの立場も考えろ。もしもお前が死んだとなったらどうなる?あいつの性格わかっているだろうな?キレて一人でも攻めこむかもしれないぞ?」


 リクの言う通りになりそうだと思って、ジュストは頬をひきつらすよ。


「そうだけど…」


『そろそろ、話はいいかな?リク。どうしてここに来たのか教えてほしいんだが』


 ククルスはまた敵が来るかもしれないから態勢を立て直したかったけれど、リクたちが味方になってくれるかによってククルスは降伏するか考え直さなくてはならないんだ。


『陛下より息子を迎えに行ってくれと言われましてね。ゾリグが行くと言って聞かないからゲレルの民も連れてきました』


『では我々の援軍ではないと』


『申し訳ございません。ジュストは養子とはいえルークススペース王の子どもです。死なせる訳にはいかないんです。ただ目の前に敵がいるのなら蹴散らしてから帰ろうとは思いましてね。ま、大分蹴散らしたのでしばらくは敵は来ないでしょう。

 陛下はアウローラが認めるのならばルークススペースの傘下に加え、アウローラが攻撃を受ければ報復すると言っていました。ただ矜持高き中央(ケントルム)人が、レナータの新興国を相手にするかはわかりませんが』


 ルークススペース国を実際に見てきたククルスは敵になったら脅威とは思うだろうけど、見たことのない中央(ケントルム)人はレナータの田舎国と見下すだろうね。


 中央(ケントルム)人は自分たちが世界の中心だと思っているんだよ。


 敵にはルドの脅しを伝えたけれど、聞き流したらしく本拠地に引いた軍をもう一度出発させる気配があったよ。


 敵はアウローラに来ることはなく、別の敵に倒されてしまったよ。


「ありゃ、俺らは帰るタイミング逃したな」


 リクは苦笑を浮かべて、アウローラの偵察の報告を聞いていたよ。


 今まで戦っていた敵を吸収した別の敵に下手にアウローラを出ていけば、攻撃されるかもしれないんだ。


 リクは正直に書いた手紙を伝令にたくしたけれど、ルドの元には届かなかったよ。すでにルークススペースを出発したんだ。


 ルドは同盟領を抜け、軍を引き連れて中央(ケントルム)手前の街まで来たよ。そこを治めている領主に話をつけてさらに進んだよ。中央(ケントルム)の一部の街がルドの進軍を拒否すると、ルドは最初は交渉したけれど面倒になってきて、土砂で街を埋めるぞと脅したよ。


 相手は無視したから、有言実行をモットーに王属部隊の魔法の使い手が山の方で激しい雨を降らしたよ。この街は時折土砂崩れの被害があったんだ。千年前とそんなに地形が変わっていないから、自称マニュスさんと同じ戦法を取ったよ。


 自然現象だから毎度うまくいかないもので、今回は畑といくつかの民家を土砂で潰しただけだったよ。ルドは周辺の農民だけ避難するように誘導していていたんだ。


 敵は慌てて軍を動かしたけど、そのときは堂々ルドたちが通っていくよ。


「あと少しでアウローラです。エジリオ様はお気分大丈夫ですか?」


 エジリオもついていくと言ってきたから連れてきたよ。


「大丈夫です。陛下こそ大規模な魔法を使われて大丈夫ですか?」


 エジリオがいつものように微笑みを浮かべていたから、ルドは安心したよ。


「俺は大丈夫です。ジュストたちの無事を一刻でも早くこの目で確かめたいです」


 アウローラは再び敵軍に街を包囲されてしまって、リクたちはジュストを連れて帰る状況ではなくなっていたよ。


 籠城戦となって、ゾリグたちゲレル民は音をあげていよ。馬に乗って駆け回れないのがストレスだったみたい。


「俺ら、戦う!」


 と言い出したからククルスはゾリグたちをなだめて、降参すると言ったよ。


『ジュスト様たちが罪に問われないようとりはからいます。ルークススペースから来た元奴隷たちと共に帰ってください』


 敵の数はアウローラの倍はいたからリクも腹をくくったよ。


『ククルス様。エジリオと共に逃がしていただいたときの礼もろくにできず、申しわけございませんでした。

 ククルス様に神々のご加護がありますように』


『リクも神々のご加護があるように。どうか元気で』


 ククルスはアウローラの民たちに別れを告げようと人々を教会に集めたよ。どうしてか人々は不安そうな顔をして西の方角を指差したよ。


『聖神使様。西の空に雨雲がずっとかかっています』


『あれは魔法ではないでしょうか。きっと他のところが敵と戦ってくれているのです。聖神使様、まだ待ちましょう』


 説得してくれる民の心にククルスは嬉しかったよ。


『あれは魔法ではないでしょう。こうやって引き伸ばしても結果は変わりません。食糧がつきれば私たちを待っているのは死です。

 皆様最後までついてきてくれてありがとうございました』


 アウローラの民たちは涙を流し鼻をすすっていると、西の空を観察していたジュストたちが慌てて教会に入ってきたよ。


『ククルス様!あの魔法は、陛下の、ものです。もう一度偵察を、外に、だしてください!』


『なんですって?ルークススペース王が来ていると?』


 王が出兵を渋っていたのをククルスは一番知っているからまさかと思ったよ。リクたちが来たのもジュストのお迎えであって、ククルスの応援ではなかったからね。


 ジュストたちは希望に満ちているけれど、ククルスは期待をしていなかったよ。一応言われた通り偵察を出したんだ。するとしばらくして西の空が晴れたよ。偵察の一部は慌てて戻ってきて、大軍がこちらに向かってきてると報告したよ。


『見たことのない旗でした!あれは中央(ケントルム)の領主たちのものではありません』


 新たな敵かとアウローラの民や兵は不安に思っていたよ。偵察が言った見たことのない旗を持って一部隊がアウローラへ矢文を放ったんだ。レナータの文字だったから、すぐにジュストの元へ届けられたよ。


 ジュストはルークススペース王家の紋章を見て、思わず目が潤んだよ。


「兄ちゃんだ!」


 急いで封を切って読むうちにジュストの頬がひきつって目が泳いだよ。


「ゲレル、なんだって?」


 ゾリグが読んで読んでと腕を掴むよ。ジュストは意を決して声に出して読んだよ。


「ジュストとゾリグへ。

 約束を破った覚えはあるかな?お前たちはアウローラの城でただ俺が着くのを待っていなさい。決して逃げてはいけないよ。逃げたら追いかけるから覚悟していてね。ルドより」


 リクは吹き出してプルプル震えて笑っていたよ。ゾリグはいまいち意味がわかってなかったみたいだよ。


「要は俺とゾリグは兄ちゃんに怒られるから逃げるなだって」


「え!なんで、俺、怒られる?わがまま言った、ジュスト!俺、違う!」


 ジュストに抗議しても意味ないのにね。ジュストは言われた通り城で待機することにしたよ。


 よく晴れた朝方に突如アウローラの街の壁の周りに雨が降りはじめたよ。


 異変に叩き起こされた敵の兵は寝ぼけまなこでテントから出てきて、甲冑を着ていなくて後悔したよ。雨に当たった顔は強烈な痛みを感じたんだ。目覚ましには刺激が強すぎたみたいで、野営は大パニックなったよ。


『皮膚が溶けるぞ!魔法だ。敵襲だ!』


 水魔法の使い手たちはすぐさま解除魔法を放ったけれど大失敗だったよ。雨に溶けた毒が原液で落ちてきたからね。


 運悪く当たった人は悲鳴をあげて、皮膚がドロドロ溶けていくよ。


『何の毒だ?』


『植物系だろう。解除魔法を』


 テントに逃げても毒が落ちてきてテントを溶かすから、避難場所にならないよ。


 土魔法で土の壁を宙に放つと、そこだけ防げたから兵たちは慌てて入るよ。


『みな落ち着け!』


 おしくらまんじゅう状態になって、押し出された人は悲鳴をあげて皮膚が溶けていくよ。


『魔法を広げろ!』


『やってる!』


 毒魔法の次はゲレルお手製の火薬が落下してきたよ。パンパン破裂して恐怖をあおられた兵たちは、またもや大混乱になったよ。


『術者は複数いる!』


『どこにいるんだ!』


 アウローラの街へのびた道に隊列が現れたよ。どうしてかその隊列は雨が降っていないんだ。


 天井のない大きな馬車が通り、それには貴族の格好をした男が祈るようにしていて、周りにも同じように目をつぶっている兵がいたよ。


『術者はあれだ!攻撃せよ!』


 火薬を避けながら敵兵たちは攻撃したよ。でも火薬が急に雨に変わったんだ。


 防御に徹した敵を尻目に、ルドはアウローラの街についたよ。将軍に敵の頭を捕らえよと命令して、アウローラの街に入ったんだ。


 天井のない馬車は景色がよく見えたよ。


『ああ、帰ってきた。私はまたここに。建物は変わったようだが、この街から見る山々の景色は変わらんな』


『お名前を思い出されましたか?』


 隣にいたエジリオが聞くけど、ルドは首を振るよ。


『思い出せん。でも懐かしい』


 ジュストたちが走って来たのを見て馬車を止めたよ。


 馬車から降りてルドがにこりと微笑むから、あんまり怒ってないかもとジュストは安心したよ。


「ジュスト、ゾリグ。無事でよかった。近くにおいで」


 ゾリグも笑顔で駆け寄るよ。ジュストも笑顔を浮かべたけど、その頬にスパーンと平手が飛んできて、とてもいい音がしたよ。


「あ、え?」


 ゾリグもびっくりしていると頭に拳骨が降ってきたよ。


「痛い!なんで、俺拳で、ジュスト平手!」


 ルドは拳をちらつかせるとゾリグは黙って後退したよ。


「ゾリグ、ジュストを連れ帰ると言って全くできていないじゃないか。ジュスト、お前は本気でここで死ぬつもりだったのか。

 馬鹿め!俺が来なかったらアウローラ

は滅亡していたぞ!」


 ルドの大喝にククルスも目を丸くしていたよ。


「ジュスト様、陛下は少しマニュス様になってまして」


 エジリオのどうでもいい情報よりも、ジュストはルドをなだめてくれって思ったよ。


「何故怒られているのか分かっているのか!」


 壁の外は戦争だと言うのにジュストとゾリグはコンコンと説教を受けていたよ。完全ゾリグはとばっちりだよね。


「ルド、仕方ないぜ。囲まれちまったんだから」


 リクがフォローしたけど、ルドの怒りが飛び火したよ。


「リク!お前もだ。大人がどうして子どもの言いなりなんだ!あんな連中、水攻めにして水没させればいいだろうが」


「ここにはそんな使い手いないんだぞ…」


「知るか。なんとかしろ。俺はすぐに帰るからな!帰り支度しろ」


「ゲレル、怒らないで…」


 ゾリグはずっとビクビクしていたよ。ルドはすぅーと目を細めたよ。


「怒りと暴力は理不尽なんだ。覚えておきなさい」


「ルドは理不尽をなくしたいんじゃなかったのかよ」


 リクの文句を一切ルドは無視して、ククルスに話しかけたよ。


『奴隷の身分解放とジュストたちを面倒見てくださり感謝する。外の連中を蹴散らしたら俺は国に帰る』


『休まれた方がよいのでは?兵もみな疲れております。それにせっかく来た宰相もとんぼ返りではあんまりでは?』


 やっとここでエジリオがなだめているとステファノも馬車から降りてきたよ。ジュストはこれには驚いたよ。


「え、ステファノ様まで!」


「久しぶりです。ジュスト様。背ものびてお声も低くなられましたね。私は夢の中央(チェントロ)に来られて感無量ですが、陛下はお怒りのようで」


 ルドがジュストに平手打ちを食らわすとは思ってなかったようだよ。


「ははは…」


 ジュストは頬を押さえて苦笑いをしていると、ルドに反省が足りないとまた怒られたよ。

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