32話 暴君ルドの話28
ルドは軍の練習場にククルスたちと一緒に行ったよ。急に練習場に連れてこられたククルスは何かと思っていたよ。ゾリグが馬に乗るから、ルドがさっきゲレルの民がほしいと言った理由を教えてくれるみたいだね。
ジュストが人サイズの土の兵を十体出すのをククルスは驚いたけれど、ゾリグがガンガン馬に乗って矢で射ぬいていくよ。
ゾリグが挑発するように同時に二本の矢で二体を破壊するから、ジュストが乗っちゃったよ。
土の兵を一体だけに強化魔法をかけた上に、魔法の力をこの一体に絞ったからスムーズな動きを実現できたよ。三メートルほどにした兵はさらに土の棒を持って振り回したんだ。ゾリグが放った矢は全部棒に叩き落とされたよ。
ゾリグは悪態をつきまくるよ。ジュストはふふふと笑ってから、ゲレルの言葉で馬鹿にしたよ。子どもってそういう言葉やお下品な言葉はすぐに覚えるよね。
ゾリグは矢をジュストに向かって放つから、ジュストは慌てて土の壁を作って防いだんだ。それだと土の兵が見えないから、動きが止まってしまったよ。
その隙にゾリグは矢を連射して土の兵を崩したよ。
「ジュストの負け」
ゾリグは嬉しそうに言うから、ジュストは悔しそうだよ。
「ジュスト。負けた理由を言いなさい」
ルドが客人がいるとかお構いなしに聞いたよ。
「ゾリグが急に俺に矢を放ったのはルール違反だよ」
「確かに俺はジュストが作った兵をゾリグが壊せと言っただけだ。それ以上のルールは言っていないし、魔法が敵わないならば術者を狙うのは正当な攻撃方法だ。
これから先どんなことでも不測の事態というのは起こりえる。慣れていきなさい。それと眼を凝らせば自分が作った魔法兵は、土壁の向こうでも視えるはずだ」
「うぐ。頑張ります…」
ドヤ顔のゾリグも呼んで、同じく注意したよ。
「反応スピードが落ちたね。やっぱり普段から馬に乗ることで技が磨かれるのだろう。乗馬の時間を増やすことを許可する」
ゾリグも指摘されてショックだったみたいで、ガックリと肩を落としたよ。でもククルスは拍手して二人を称えたよ。
『素晴らしい!陛下がおっしゃる意味がよくわかりました。異教徒だったとしても改宗する者もおりますし、我々ははじめから諦めて排除ばかり考えておりました』
『神々は様々な人たちと文化を創りました。神々がお創りになったならば異教徒だとしても排してはいけないのではないでしょうか。異教徒たちは神々のお考えを知りません。だから教えなくてはいけません』
ルドたちは神々の教えは絶対だから、様々な民族や文化を認めても、異なる宗教を認めるという考えにはならないらしいよ。
ククルスはルドが統一王マニュスの霊に取り憑かれているかどうかは別にして、人柄と思想を認めていたよ。だからこそ、仲良くしたいとアピールしてきたよ。
『ゲレルという馬の民を貸していただけませんか?』
『ゲレル王に確認をしなければなりませんが、ゲレル王が許可しても言葉はどうするのです?』
ルドのように中央の言葉がわかるレナータの人は少ないし、ゲレルたちはもっとわからないよ。
ククルスはエジリオとリクをあてにしていたようだけれど、ルドが行っては駄目だというから少し困ったよ。
通訳がいないからゲレルの出兵は諦めてとルドが匂わせると、ククルスは仕方がないと苦笑を浮かべるよ。
物資はどうかと遠回しに聞かれるし、諦めが悪いなとククルスとエジリオを交互に見たよ。
『エジリオ様が頑固なのはククルス様の影響ですかね?』
冗談を言うとリクは大笑いするけど、エジリオとククルスは違うと口を揃えて言っていたよ。
ククルスの話を聞いていると魔法のレベルはルークススペースと変わらないように思えたよ。長い間、戦争ばかりしているから攻撃魔法や治癒魔法が発展しているのかと思っていたけれどもそうではないらしいよ。
『腕が立つ者は認められますが、戦争の前線へ送られます。新しい魔法は伝承されずに術者が亡くなることがあり、跡絶えてしまうのです。他の学問も同じで中央の水準もずいぶん下がっているのでしょう』
エジリオに学校を案内されたククルスは、レナータの教育レベルの高さに驚くよりショックだったらしいよ。中央がこの世界で一番レベルが高いと思っていたみたいだからね。
ルドはそういうところが、中央の人の悪い癖だなと思っていたよ。
ククルスはルークススペースの兵を貸してほしいと何度もお願いに来たけれども、議会でも反対の意見が多くてルドは断ったよ。
一つ案があると話をしたよ。
『中央方面から連れてこられた奴隷やその子どもたちが故郷に帰りたいというのです。奴隷兵として鍛えておりますし、連れて帰っていただけませんか?
ククルス様はここに来る道中に護衛の方を数名亡くされたと伺っています。エジリオ様とリクの恩人は俺の恩人でもあります。その方に何かあってはなりませんので、奴隷たちに護衛をさせてください。それでお願いですが、あなたがアウローラに無事についたら、彼らを平民にしてもらえませんか?』
公共事業も終わりかけているし、大きな戦争もないし、功績をはかる方法があまりなくて、奴隷たちの身分解放は行き詰まっていたんだ。
『何人いるのですか?』
『約百人います。新天地を求めている者や、中央に行きたいという者も含まれています』
千は欲しかったけれど、護衛にしては十分すぎるからククルスはルドの提案を快く引き受けたよ。
『いくつかの領地や国を通りますので、武装した者が百人以上になれば敵と見なされるのでは?』
エジリオが言うとルドはある案が思いついたけれども、絶対にやりたくなかったよ。
『何かありますか?』
察しのいいエジリオが聞いたよ。
『物凄く嫌な方法ですが、一般的に許される方法です。彼らは奴隷ですから、鎖で繋いでアウローラに連れて帰るという体裁をとれば』
不愉快そうにルドがいうからククルスは不思議そうにしていたよ。王様なんだから奴隷なんて家畜のようなものだと思っているのだろうと考えていたからね。
サクスムとルドの育ての親の話をエジリオはしていなかったよ。後でルドが自分で話したんだ。奴隷に育てられたと聞いてルドを差別する聖神使ならば、お付き合いは御免だと思っていたからね。ククルスはルドが奴隷たちを役目を果たしたら平民にしてほしいと言ったことも、エジリオがルドのことを優しい人だと強調した意味がわかったよ。
『陛下は変わった方ですね』
『変ですか?』
ルドは自分は変なのだろうとどこかで思っていたから、ちょっと不安になったよ。
『王としてはとても変です。ですが、民にとってはとてもいい王でしょう。エジリオとリクが居心地よさそうにしているのを見ることができて、私は本当に陛下に感謝しています。陛下にアウローラと中央を治めていただきたいと本気で思っております』
ルドは褒められてニコニコしたよ。あとでステファノにそういう顔は陰でしなさいと怒られたよ。
ルドの案以外、うまくいきそうな案が出なかったから、奴隷たちを鎖で繋ぐことになったよ。
ルドは中央に行く奴隷たちを集めて確認したよ。
「ここにいる人たちは中央に行くと望んだ人たちです。でも武装したまま百人近い部隊が他の領地や国に行けば警戒されて、通行許可書に俺のサインがあっても最悪捕まるかもしれない。奴隷を数百人運ぶのは奴隷商人なら普通だから、警戒されにくい。だから君たちをもう一度鎖で繋ぐことになってしまう。それでも行きたいか?」
すまなそうに言うから、奴隷たちは笑ったよ。
「俺たちは陛下のものなのにわがままで、この国を出るんです。それくらいで怒りませんよ」
「そうですよ。むしろ色々よくして下さったのに、出ていく不届き者をお許しくださる陛下に感謝してもしきれません」
「陛下のおかげで俺たちは自分たちに魔法が使えると知りました。陛下は仰いました。鎖は外れないと思い込んでいるだけなんだ、自分の手で外せと。中央に行って成果を出してまた陛下の元に戻ってきます」
親が中央出身の少年は眼を輝かせて宣言したよ。
全員膝をついてそれぞれの抱負やルドへの感謝を言ったんだ。ルドは少しうるっと来てしまったよ。ここで泣いたらまたステファノに王様らしくないと怒られるから我慢したよ。
ルドの奴隷の話は会議にも出されたから国内の領主たちは知っていたけれど、兵を出したいという人たちはいなかったよ。出したところで自分の領土にもお金が入るわけではないからね。兵を失うだけで、うまみがまったくないからってことらしいよ。
同盟領のグランデフィウーメは会議に参加してないから知らないはずなんだけど、どこからかトンマーゾ・ヴィペラの耳に入ったよ。
ジュストがルドに指摘された壁の向こうを視る練習を一人でしていると、トンマーゾがやってきたよ。
じーっと練習を見られて、ジュストは集中できなくなったよ。
「…何の用ですか?」
「熱心に練習されていますね。感心感心」
「ありがとうございます」
「そちらに行ってもよろしいですか?」
病人のように白い顔をしたトンマーゾが、赤い唇をニマーッとさせるよ。
不気味で怖いから嫌だと言えないから、どうぞと小声で言ったよ。トンマーゾはジュストの心中を察していたけれど気にする様子はなくて、堂々隣に立つよ。
「噂で陛下が中央の聖神使様の護衛に奴隷部隊を出すと聞きました。しかも奴隷たちが中央に着いたら、身分を解放すると。本当ですか?」
ジュストはルドから領主や貴族から探りを入れられたら、事実を話していいと言われていたよ。でも聞いてきた人の名前を教えるように頼んでいたんだ。
トンマーゾが時折ジュストに話しかけていると聞いていたから、ルドはトンマーゾの行動を少し注意していたみたいだよ。
ジュストが教えるとトンマーゾはわざとらしく驚くよ。
「噂は本当なので?天塩に育てた、しかも大切な奴隷を手放すとは。私には少々理解できません」
「奴隷たちは父のモノではないです。彼らにも意思があります。元々中央の人たちだったから帰りたいと言ったんです」
「自ら言い出したのですかね?どの土地よりもルークススペース国は奴隷に優しい。中央は戦ばかりで政情不安定と聞いてます。わざわざ安全な国を出てまで、故郷に帰りたいのですかね。
奴隷の思いはとにかく、陛下は本当に聡明な方ですね。奴隷ならば兵として損失しても、子息を出さずにすむ貴族たちは痛手にならない。我が領主も遠い中央で兵を出せと言われたらどうしようと悩まれてましたし。ルークススペース議会でも奴隷の出兵の反対はなかったのでしょう?奴隷とはいえ兵として鍛えてあるわけですから、中央の聖神使様の要求も叶えられますし」
「…」
少しまとわりつくようなねちっとした話し方がジュストは苦手だったよ。ジュストにとって奴隷はあまり思い入れないし、こだわっているのはルドだからね。どう答えようか悩んでると、トンマーゾは続けるよ。
「陛下としては去る者だから中央で奴隷がどう扱われようが知ったことはないですよね」
「どういう意味ですか?」
「聖神使様が死ぬまで兵をこき使っても文句を言う人はいません。彼らは望んで陛下の元から出ていきますからね。助けてなんて言うのは図々しいでしょう。ルークススペース国の正規兵は派遣されないと聞いてますし、あの聖神使様が陛下の命令通り、奴隷を解放されるかわかりませんよ」
「聖神使様を疑うんですか?」
「いやいやそうではありませんよ。ただ聖神使様がよい人であっても周りがわかりませんでしょう?いい人たちならば中央は、どうして平和にならないんですかね?」
争いで人を殺すよりも、教義を教え広めよというのが神使の考えのはずなんだ。争いがやまないのはジュストも疑問だったよ。
「奴隷の疾病は中央への進行の足掛かりになるのでしょうか。陛下のお心はどこにあるのかお分かりですか?」
ここがトンマーゾが聞きたかったことのようだね。ジュストは知らないと言って逃げたよ。トンマーゾはジュストの気になっているところにするりと入り込むように聞くから、ジュストは苦手だったよ。
ジュストはルドにトンマーゾが探りを入れてきたことを話したよ。
「そう。もし今度探られたら俺が中央に関わる気はないと匂わせておいて」
「わかった」
「他になにかなかったかな?気になっていることは教えて」
ジュストはチラリとルドを見てから眼をそらすよ。
「奴隷兵の派遣はいい方法だって兄ちゃんを褒めていた。グランデフィウーメは貴族の兵士を派遣するように言われたら嫌だって言っていた。奴隷兵ならば貴族の兵と違って痛手は少ないからって」
ルドは窓の方へ行って外を眺めたよ。
「そういう人もいると思っていたよ。俺は純粋に彼らが帰りたいというならいい案だと思ったんだ。前から帰りたいって言う人がいたんだよ。でも主人の立場として奴隷をわざわざ手放した上に故郷に送り届けるのはお人好し過ぎるし、費用を国のお金から出すわけにはいかない。今回はいい機会だと思ったんだよ。
でも為政者として考えたら、トンマーゾ様のようになるよね。
一つの事をすればあらゆる見方が出てくる。深い意味はなくてもオーバーに受け止められてしまうこともある。難しいね、本当に」
ジュストはルドが本気で奴隷たちのことを考えてると確かめられて、安心したよ。トンマーゾは悪気はないようだけど、彼の話を聞くとルドの政策が悪いように思えて来てしまうんだ。
「あとククルスという聖神使様が奴隷たちを平民に本当にするのかって。聖神使様がしなくても周りがこき使うんじゃないかって言ってた」
「グランデフィウーメの貴族が気になさることではないとは思うけれどね。
俺はククルス様を信じるしかない。奴隷たちには生き残る術を教えた。彼らの知恵と生き残る力を信じるしかないよ。それは彼らにも話してそれでも行くと言ったんだ」
「奴隷の人たちが自分で決めたんだね」
「そうだよ。俺は無理強いはしないよ?俺が命令したんじゃないかってトンマーゾ様が言ったの?」
「うん」
そんな話をどうしてジュストにするんだろうとルドは眉をよせたよ。
「他に何か言ってなかった?」
「うーん。今話した内容だけだよ」
「ジュストはどう思った?トンマーゾ様のこと」
「思うもなにも、あの人苦手。なんで俺に話しかけてくるのかわかんないし」
ジュストはじっとルドが胸を見ているのに気づいたよ。ちょっとそれが不愉快だったんだ。
「兄ちゃん。俺嘘つかないよ?」
「あ、ごめん。癖で。ジュストなら防げるだろう?」
ルドは慌てて眼をそらすよ。
「話すたびに防御してられないよ。兄ちゃんって会う人が嘘ついていないか視ているの?疲れない?」
「疲れるけど、変に嘘つかれて大変にことになったらと考えてしまうから。そうだね、家族を疑うのは変だね。嫌な思いさせてごめんね」
元カスカータ宰相の毒事件もあるから、疑り深くなるよねとジュストは思ったよ。
「…俺もちょっと言いすぎた。兄ちゃんも色々大変だし。
あのさ。俺、あちこちに行きたいって言っただろう?中央に行ってみたい」
「え?まさか、ククルス様たちと一緒に行くって言うんじゃないだろうね。またなんで?」
「よく名前が出るし、どんなところなのかって気になって。ステファノ様も中央を制すれば世界を制するって言ってたし。兄ちゃんは行きたくないの?」
ルドはジュストの心臓は視ずに、眼を見ていたよ。
「今俺が治めているのはこの国だ。自覚ないと思うけど、ジュストはこの国の王子なんだ。もし他国がお前を殺したとなれば戦争になる」
「戦争って大げさな。確かに自覚ないけどさ」
「大げさではないよ。お前は王の養子だからその価値があるんだ。もし行くと言うならば、正式な護衛もつけなければならない」
「それなんだけど、ククルス聖神使様も奴隷の護送を神使がするのがおかしいから、商人に変装するんだろう?俺は元々平民だから、商人の子どもか下男みたいになっても嫌じゃないし」
「お忍びで行くと言うことか?」
ジュストはピンと背中を伸ばして言ったよ。
「そうです。見聞を広める以外にも、陛下の命令をククルス聖神使様が履行されるか見届けたいと思います。もしも中央の一部が我が国のものになれば、間に挟まれることになるグランデフィウーメは敵意をひそめるかと考えられます」
「…大義名分としては宰相も納得するだろう。
戦争というものをゲレルとの戦いで見ているだろう?あれはゲレルと我々の二者だけだった。中央は違う。アウローラは小さく、四方いやぐるりと周りをすべて敵に包囲されている。いつ落とされるか分からないところに大事な家族をやれない」
「俺は陛下に拾われました。安全な場所で世の中のことを学ぶのはいいでしょう。でも本気で陛下を支えるつもりなら、ルークススペースの外を見るべきかと考えています。
中央はどんな場所で、どんな人がいて、どんな生活をしているのか、この眼で見てみたいです」
ジュストは無表情で自分を見定める視線を挑むように見つめ返すよ。
ルドははぁとため息をついて、ジュストの前に立つよ。
「死ぬつもりで行け。あとはすべてを失う覚悟もあるか?」
「すべてを失う覚悟…」
「隣にいた仲間が一瞬で死ぬ。後ろにいた守るべきものが消える。お前が足や身体の一部または命そのものを失い、二度とルークススペースの地を踏めなくなる覚悟だ」
「俺は帰ってくる。何があっても」
決意の眼にルドの方が折れたよ。勝手にククルスについて行ってしまいそうだから、それも困るからね。
「わかった。行ってきなさい。ただし学校の試験が終わってからだ」
「来月だろう?ククルス様は待ってくれるのか?」
「彼らは五日後に出発する。明後日にジュストだけ試験を前倒しでする」
「それってまだ習っていないところも出るってこと?」
「そうだね」
「帰ってきてからではだめなの?」
「中央までどのくらいかわかる?しかも奴隷たちを荷馬車に乗せるわけだから早い速度では進めない。往復と視察合わせたら一年以上はかかるだろう」
「そうだよね。うん、試験頑張る」
ジュストは頑張って試験勉強したよ。なんとか試験に合格して安心していたら、ゾリグから馬の猛特訓を受けたよ。
「ジュスト、ウマ乗るの、下手」
馬に乗ったまま山の斜面を駆け下りたり、川を渡ったりしたことがなかったから、特訓でヘトヘトになったジュストはもう出発の日を迎えたよ。
「行くか?」
改めてルドに聞かれるとジュストは意地になって行くって言うよ。
出発する奴隷兵とジュストの前にルドは立ってお別れを言うよ。ククルスとジュストは商人の格好をしていたんだ。
「統一王マグナス、中央ではマニュスと呼ばれている。彼の軍の中には奴隷上がりのベルナルドゥスという男がいた。ベルナルドゥスは幼いときから主人に酷い扱いを受けていたが、腐ることなく隠れて剣技と魔法の修練を怠らなかった。王に認められて将軍の座までついた。
俺は統一王がした奴隷でも平民でも誰でも人の上に立てる可能性がある国を目指してきた。お前たちに能力を伸ばす機会を与えることができ、お前たちも自ら考えて、この国を出るという選択肢を得られた。
よその国、土地では出来ないだろう。俺はお前たちにその選択肢を示すことができたことに喜びを感じている。
ただ俺が出来るのはここまでだ。国を出ればお前たちがかつて体験してきた冷たい世界が広がっている。どんな境遇になっても腐るな。千年前のベルナルドゥスのように諦めずに己を磨き続けよ。
共に多くの困難と理不尽を乗り越えてきた我が同志よ。
門出の先に幸福があることを俺は祈っている!」
奴隷たちは感極まって涙を流して、思い思いに声をあげるよ。
「光帝陛下、万歳!」
「陛下とルークススペース国にも幸福を!」
神殿を出ていく列にルドは祈りを捧げたよ。
荷馬車の中では奴隷たちの涙が止まらないよ。
「陛下は奴隷の俺らを同志だって」
「なんという素晴らしいお方から俺らは離れなければならないのか。でも故郷が恋しい」
「ああ、恋しいな。友人たちは生きているだろうか。会いたいな」
「陛下のためにも無事に中央について立派な平民になろう」
「そうだ!そうだ!」
荷馬車は妙な高揚感に包まれていたよ。ジュストは中央とレナータの言葉が話せる奴隷を介してククルスと話していたよ。
『ジュスト様が一緒に来てくださり、心強く思っています。あれだけの数の土の兵を操れる使い手はあまりいません』
「そうなんですか?父はレナータの使い手が弱いと言ってました」
ククルスは困った顔をしたよ。
『今の中央をご存じないのでしょう。統一王時代よりもあちらこちらから人が入り込み、様々な人種が混ざっています。中央に元々住んでいた人々、純血と彼らは自分たちを呼んでいますが、純血の方々は確かに魔法は強いです』
「ゲレルの民はあまり魔法が使えません。その人種?によって魔法の力に差があるということですか?」
ジュストはククルスの情報を一瞬で理解して疑問をぶつけてきたよ。頭のいい子どもだと感心したし、だからルドが養子にしたのかと考えたよ。
『魔法の力は個人差がありますが、純血の方は高度で最上級の魔法を扱えます。魔法を高めるために純血の方と婚姻を結びたがる者もおりますが、なかなか純血の方はしたがりませんね。
ところで陛下は統一王の霊が憑いていると聞いたのですが、まだ信じられず。その霊がレナータの人は魔法が弱いと言っているのですか?』
「俺も信じてはなかったんですけど、霊が降りると性格が変わるんです。普段は優しいんですけど、血液や身体の中の水を操って人を動かしたり苦しめたりするんです。父はあとで自分がやったと自分を責めてしまって。ククルス様は霊を祓う方法は詳しいですか?」
『血液や身体の中の水を操る?確かに統一王が得意とした拷問方法ですね。純血ではないレナータの農民がそのようなことが出きるのか…。
霊を祓ったことはありますが、陛下の場合はかなり人と魔法の力が必要でしょう。祓えば陛下がお力を失うかもしれないとエジリオも言っていましたし。難しいですね』
「小さいときから魔法は使えたらしいですよ。統一王に操られた父をマッテオ…父の養父が止めようとしたけれど、父の魔法で膝が勝手に砕けたらしいです」
ククルスは目を丸くするし、通訳の奴隷も驚いているよ。
『幼少期でそんなに器用な魔法を?幼い子どもが下手に使うと暴走したり、人を傷つけるので厳しくしつけるんです』
本当に不思議だとククルスは呟いていたよ。ルークススペースを出るまでは奴隷たちは鎖に繋がれずにのんびりしていたよ。
「ちょっとゆすっただけなのに、まさか中央に行くとは思いませんでしたよ」
グランデフィウーメに戻っていたトンマーゾ・ヴィペラは領主に報告したよ。
「なんだ。行ってしまったのか。ルドにべったりなベネデッティ家の子どもよりは使えると思ったのだが」
「本当に残念です。警戒心の強い子ですが、その隙間をつけば簡単にこちらの手駒になるかと思ったのですが。期間があくと私の魔法の効果がなくなりますので。
ベネデッティの子どもは幼すぎるのでまだでしょう。もう少し大きくなったら接触してみます」
「そうだな。それはお前に任せよう。ジュストがもし戻ってきたらまた魔法をかけろ。帰ってきた方がかかりやすくなっているかもしれんぞ?兵士の経験は浅いのに戦争に行けば心がどうなることやら」
「精神をおかしくしていたら私の魔法は余計に悪化させてしまいます。でも彼なら強くなって戻ってくるでしょう。それはそれで楽しみです」
ふふふと地が死神顔のトンマーゾは笑うよ。
「無属性の精神魔法か。珍しいがため、あまり魔法としては一般的には知れ渡っていない。威力は弱いが、人の心を操ることができるからお前たちは恐ろしい一族だと思っているよ」
「領主様には絶対にかけませんから、ご安心ください。では失礼します」
トンマーゾはルンルン気分で廊下を歩いていると領主の息子が前から来たよ。
「ご機嫌だな、トンマーゾ」
「ご機嫌ではありませんよ。可愛がっていたジュスト・ルークススペースが中央に行ってしまわれたので」
二人は廊下の隅に寄るとコソコソ話し出したよ。
「本当に行ったのか?」
「はい。見送りましたから」
「それは残念だったな」
「戻ってこられたらまたコツコツと魔法をかければいいですよ。戦争は人の心に何かしら負荷をかけますからね」
「恐ろしい奴だ。ま、引き続き期待している」
「お任せください。いつかはルイージ様の手にあの強大な国を」
グランデフィウーメ領主の息子ルイージは、にんまり笑うよ。
「期待している」




