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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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31話 暴君ルドの話27

 使者は神使の格好をしていて、エジリオより少し年が上に見えたよ。


「急な謁見のお許し感謝致します。私はアウローラ地区の聖神使をしておりますククルスと申します。ルークススペース国王陛下にお願いしたく参りました」


 ゆっくりとレナータの言葉で話すよ。ククルスは中央(ケントルム)にあるアウローラという場所の聖神使をしているんだ。


 アウローラと聞いてルドは微笑んだよ。


「懐かしい響きです。マグナスの国の一部でした。ということはあの国はもうないのですね」


 と言いながらも国の名前が思い出せないよ。現在の中央(ケントルム)は有力な貴族や領主、聖神使がせめぎあっているんだ。


 ククルスはエジリオを見たよ。ルドの言葉がわからなかったみたいだね。


「エジリオ様はククルス様にどこまで俺について話しましたか?」


「最上級水魔法の使い手であり、統一王マグナスの()が憑いていると話しました」


「彼はそのことをなんて思っているんです?」


 ククルスは聖神使だから、霊を祓うべきと考えるはずだし、ルドが嘘ついてると考えているかもしれないからね。


「陛下と会ってから判断すると」


 エジリオの話を素直に聞き入れていないのは確かだね。


 ルドは地図から離れてククルスの前に立つよ。


『遠方遥々お越しいただきありがとうございます。ルークススペースの王、ルドといいます。言葉は少々古めかしいのは許してほしい。地図を見せていただいて感謝します。中央(ケントルム)はとても遠いのですね。アウローラは夕日に照らされた街並みが美しいことから、名付けられたと言われたと記憶しています』


 ククルスは微笑みを浮かべたよ。


『アウローラのいわれはそうだと私も聞いております。

 陛下は流暢(りゅうちょう)中央(ケントルム)の言葉を話されますね。レナータの農民だったと聞いておりますが、お知り合いに話せる人がいらっしゃったので?』

 

 探りだなとルドは思いつつ、自分の頭をとんとん叩くよ。


『俺の頭の中で囁く人がいるので。

 長旅お疲れでしょう。お茶でも飲みながらお話しましょう。現在の中央(ケントルム)に興味がありますので。ああ、ククルス様はアウローラの出身ではないので?』


 お茶の準備をするように護衛に言うとククルスは断ったよ。


『お気遣いありがとうございます。お願いに参った次第なので。

 私は中央(ケントルム)の出ではありせん。自分の生まれもよくわからぬまま幼いとき神使に拾われ、神使兵となりました。中央(ケントルム)は長い間戦いに明け暮れるうちに聖神使と領主たちは対立し、さらなる争いになりました。各領主は己の領地に聖神使を立て、私のような領主を持たぬ聖神使をうみました。結果多くの聖神使が中央(ケントルム)に乱立した状態です。これは異常な状態です。それを正すべく私は戦っておりますが、私を支持してくれる民も兵も少ない。

 エジリオ聖神使が、このルークススペース国にいると聞き、ご助力願えないかと来た次第です』


 頭を下げるよ。ルドは人とは権力を求めて、どうしようもないなと思うよ。


『争いをやめたいのなら、まずあなたが聖神使を辞めればよいのでは?これで争いのもとは一つ減る』


 思ってもみない言葉にククルスは驚いた後、怒りの表情を浮かべたよ。エジリオも驚いた顔をしたけれど、ステファノだけは言葉がわからないから、困惑していたよ。


『それではアウローラや数多の民が戦争に巻き込まれます』


『すでに巻きこまれているのでは?争いのもとが聖神使なのですよね?

 神使は神々の言葉に従い、人々に教えを説きこの世界に天の国(カエルム)を作り、多くの人が死後に天の国(カエルム)へ行けるように努めていると教えられました。中央(ケントルム)とは違う教えですか?』


『そうです。私も神々の教えに従って、他の聖神使を正そうとしているのです』


『みなあなたと同じことを考えているから争いは止まないのでしょう?俺は拳を突き上げることと同じくらい、握ったまま耐えるのも強い力が必要なのだと思いますが。中央(ケントルム)にいる聖神使が全員、真の天の国(カエルム)とはなにか己に問い、拳をおさめれば争いはなくなるでしょう』


『陛下。それができればもうしております。対話はできないくらい話も関係もこじれています。理想だけでは戦争というものは片つけられないのですよ』


 ククルスは少し馬鹿にしたようにいうよ。ルドは怒らないで静かにククルスを見つめたよ。


『ではみな聖神使を語った偽者だ。今すぐ神使を止めて、兵士になればいい。蔑まれても毅然と胸をはり、神々の教えを説くのが神使です。

 偽者の神使ばかりならば、中央(ケントルム)天の国(カエルム)は出現しないでしょう。あなたが別の聖神使と違うというなら、手を貸しましょう』


 ククルスはいつも演説をしているのか、スラスラと神々のために戦っているみたいなことを言うよ。


『他の聖神使も神々の教えのためと言っておりますが、多額の寄付をした後ろ楯の貴族のために民の心と命を奪っているのです』


『あなたはそれをしていないと?』


『しておりません』


 ルドは冷ややかに笑うよ。


『あなたの心臓は正直ですね。お金はなければ生きることも戦争もできませんしね。批判はしていませんよ。仕方のないことです』

 

 ククルスは王であるルドに助力を求めている時点で、他の聖神使と同じく偉い人からお金を集めていることになるよね。


 ステファノはエジリオに訳してもらっていたよ。


 ルドはゆっくりと地図の前に立つのをククルスは黙って見ているよ。エジリオが訳し終えるとルドはステファノに聞いたよ。


「宰相。どう思います?」


 ステファノはククルスに各勢力の軍事力を聞いたよ。


 大きいところでは旧オリゾンテ領に及ばないよ。ステファノの目がキラリと光ったのを見て、ルドは吹き出したよ。


「勝てると思いましたね」


「…一瞬ですが」


「そう一瞬で兵と物資を運べる魔法があれば出兵しても構いませんが、残念ながら知りません。中央(チェントロ)に行くまでに、どのくらいの食糧が必要でしょうか?ククルス様は何を俺にくれますか?何もいただけないのなら出兵する意味がありません」


 ルドは椅子に座ったよ。みんなも座るように言ったけれど、ククルスは立っていたよ。ククルスはルドがもう出兵しないと決めているんだって思ったよ。でもここまで来たんだから何かしら成果がほしいんだ。


『兵を出してくださり、中央(ケントルム)を平定しましたら土地も民もすべて陛下に差し上げます。私は神使ですので、(まつりごと)をするお人が必要です』


『政をしたいからアウローラを治めているのではないのですか?』


『私は仮で治めているだけです。前のアウローラ地区を治めていた貴族が圧政を敷いていて私は神使兵を引き連れて、政権を倒しました。

 兵を派遣していただければアウローラの統治権を差し上げます』


 ステファノは釣られそうになっていたから、聞いてあげたよ。


「宰相はアウローラがほしいですか?」


中央(チェントロ)進出をしたレナータの貴族はそうはいません。夢でございますが、陛下がお望みでないのなら強くは申し上げません。欲をかくと痛い目に合うといいますから」


「わかりました。エジリオ様はどう思われます?」


 エジリオはククルスを見ないよ。迷っている気配があるから優しく促したよ。


「かつての恩人の窮地を助けたいと思うのは当然です。素直にお話いただいて構いません」


「…。ククルス聖神使のお力になりたいと思いますが、ルークススペースの神使は一つになったとは言いきれません。西の聖神使を説得して私が聖神使として立ちましたから、ここで長期に国を離れるのはよくないでしょう。

 それに…」


「それに?」


 エジリオは寂しそうな悲しそうともとれる顔をしたよ。


「もういい年のくせにと恥ずかしい話ですが…。中央(ケントルム)に行ったら、血にまみれた生活を思い出しそうで」


 ルドは椅子から立ち上がって、エジリオの手をとるよ。


『気の進まないのなら行かなくていい。私も実は恐いのだ。千年経った。あの国がもうないとわかっているが、その目で見るのが。苦いものがこの胸に広がるのではないかと。見なくていい恐怖は無理して見なくていい。それよりも今守るべきものを守らねば』


 ククルスはだめかと思ったよ。ルドはどのくらいルークススペースにいるつもりだと聞いたから、すぐにでも出発したかったけれど、護衛をしてくれた神使兵たちを休ませたかったよ。


『しばらくはいるつもりです』


『それは嬉しい。今の中央(ケントルム)の文化や魔法を教えてほしいのです。あとこの地図についても。北の地と南の地は何て読む?中央(ケントルム)でもレナータの文字ではなさそうだ。しかもなんで並んでいくつも書いてあるのです?』


 ククルスは嫌がらずに教えてくれたよ。


『いくつも書いてあるのは我々の呼び方や現地の呼び方など様々です。北の地も南の地も別々の文字が使われています』


『なるほど。いくつも呼び方があるとややこしいですね。では、せめてこの国の中では呼び方を統一しておきましょう』


 レナータ地方もいくつか名前がつけられたけれど、ルドは呼び方を変える気はなかったよ。


「セプテントリオーネース。北のままではね。エルスターと読むのですかね?人の名前ですか?」


 中央(ケントルム)の表記の隣にいくつか北の地方の名前が記されていたよ。


「北の地を治めていた一族の名前だそうで、今は別の一族が治めているそうですが、名残りで現地の人から呼ばれているそうです」


 エジリオもおぼろげな記憶を頼りに話すと、ククルスもそう聞いていると言うよ。他には氷の大地とか現地の人が使っていなさそうな名前だったよ。


「洒落た名前は誰もつけないわけ?」


「あまり人も住んでませんしね。陛下が決めてもいいのでは?」


「…行ったこともないレナータ人が勝手につけるって酷くないですか?」


 それもそうだとエジリオは笑ったよ。


「北の地はエルスターね。東はギムペル。昔使っていた気がするし、それにしよう。南はテラ・オウテム・ソール。太陽の大地。暑いとは聞いているけどそういうことかな?」


「奥地までは行きませんでしたが、夏は太陽が燦々と輝き、とても暑かったと記憶しています」


 エジリオが教えてくれたよ。ステファノも行ったことないから、興味津々だったよ。


「テラ・オウテム・ソールもいいですね。でもこの言葉は中央(ケントルム)の言葉ですね。他はアマベル?古い言葉で、愛すべきという意味だったと思いますが」


「アナベルと言った方が今っぽいですね。地名の由来はアナベルという白い花がたくさん咲いていたからだったかと」


「花?ステファノ様がこの地図を見て花みたいだっていうから、南の地はアナベルにしましょうか」


「別に花でなくてもいいではありませんか」


 ステファノが少しいじけちゃったよ。エジリオがククルスにステファノの話をしたら、にっこり微笑んでうなずいたよ。


『確かにこの大地はアナベルの花に似ていますね』


「ではアナベルで。決めた名前は暫定的なものだから、みんなが呼びやすいものがあったら変えていこう」


 この地図はたくさん模写されてルークススペース国の重要な拠点に置かれるようになったよ。各地方の名前はルドが決めた名前しか載っていなかったから、レナータ地方で定着しちゃったよ。そのあと、ルークススペース国から地図が各地方に出回って、呼び名が統一されていったんだ。


『では中央(ケントルム)はいかがしますか?』


 ククルスがあえて聞いたよ。


中央(ケントルム)でよいでしょう。そうだ。子どもたちにも地図を見せてあげたいです』


 他の名前に散々洒落ていないとケチをつけていたのに、中央のままって一番ルドがズボラだよね。


『構いません。これは陛下のものです』


 地図をくれるみたいだよ。ありがたくもらってから、ジュストたちを呼んだよ。民族衣裳姿のゾリグに、ククルスは驚いたよ。


『馬の民がどうしてここに?』


 ルドが軽く説明してから、ゾリグを手招きするよ。


『彼らの馬の扱いは素晴らしいです。兵にも教えているのですよ。中央(ケントルム)にもいるのですか?』


 ククルスはゾリグから目をそらしたよ。


『昔おりましたが、異教の神を信じており、滅びました』


 正確には滅ぼされたんだけどね。ルドはそうかと寂しそうな顔をしたよ。


『この子らの一族は異教の神を信じていませんよ。先祖を敬い、神々を信じています』


 ゾリグにお前が信じる神の話をしなさいと言ったよ。ゾリグは胸を張って誇らしげに話したんだ。


「神々は、この世界を造った。水の神アックルーアが天の国から涙を地上に落とすと、人間をはじめとする生命が生まれた。季節の神サターネが手を叩くと季節が生まれ、地の神ティーラが祈ると何もなかった大地が緑豊かになった。神々は人間にあらゆることを教えて下さった。闘いの神バッギアは獣と戦う術を、火の神フィアンは火の灯し方を教えた」


 まだ多くの神がいるんだけれども、主要な神の名前をレナータの言葉で話せるようになったみたいだね。


 ルドがよく覚えましたと褒めたら、ゾリグは続けたよ。


「その年はずっと夏だった。我らは水と草原を求めてさまよい、多くの氏族がわずかな水のために血を流した。

 我らは飢えと渇きを癒すため、石の壁の民へ攻めこんだ。

 そこに、(ゲレル)の王が現れ、かの者の力によって我らはなす術もなくひれ伏した。ゲレルの王は我らの枯れた草原に光の雨を降らせた。王は(ゲレル)そのものであり、ゲレルは我らの命であり、ゲレルは我らと共にあり、ゲレルは我らである。

 とおばば様が言っていた」


 宗教について聞いたのに、どうしてかルドの話になったよ。


「…。君たちの言うゲレルは俺のことだよね?神々の話とどう関係あるの?」


「ゲレル、水の神、命の神!我らの神!」


 堂々宣言するよ。


「つまり、俺を神様だというの?命の神って…。あれは俺の魔法じゃないし」


「ゲレルの民、魔法使わない。魔法理解できない。ゲレルの民、ゲレルが草原をよみがえらせたと見えた」


「…エジリオ様。神々のことについて理解していないようですよ」


 エジリオは、えーって顔をしていたよ。


「問えば神について言えますし、神々の役割を理解していたはずです。実りを祈るのはどの神様かと聞いたら、ティーラ様だと答えましたし。陛下のことは人間であり、王であることも」


「表面上では神々のことを理解して、根本的なことは彼らなりの解釈になっているのでは?」


 ステファノの考えが正しそうだとルドは思って命令したよ。


「エジリオ聖神使。もう一度ゾリグとゲレルの民へ教育をしなさい」


「…御意」


「違うの?ゲレル?」


 ゾリグが今度はえーってなっていたよ。


 言葉がわからない置いてけぼりのククルスに、ルドは軽く説明してあげたら、大笑いしたよ。


『言葉がわからない異教徒に教えるのは骨が折れますよ。

 蛮族の馬の民を教育する陛下は物好きですな』


 この言い方にルドはムッとしたよ。


『俺は彼らがほしかったのです。のちほど理由をお見せしましょう』


 エトーレがさっきからルドの袖を引っ張っていたんだ。


「ちずとはなんですか?」


「エトーレは見たことはないのかな?地域の特徴、山や森とかがどこにあるのかを紙に本物より小さくして書いたものだよ。今俺らがいるのが…」


 説明すると他の子たちも一緒にルドの指先を見るよ。


「グランデフィウーメは?」


「ゲレル、俺の国は?」


 ひっきりなしに子どもたちが聞くよ。


「ルークススペースはどこなの?」


 エトーレが聞くとルドが国境を指でなぞると、子どもたちが歓声をあげたよ。


「大きいね!」


 ローザが手を叩いて喜んだよ。


「兄ちゃんってすごい人だね」


「なに言ってんだよ、ジュスト。当たり前だろう?兄ちゃんなんだから」


 アズーロが呆れているよ。子どもたちを撫でてからルドは言ったよ。


「決して俺一人の力ではこの国は維持ができない。多くの人たちがいるから、成り立っているんだ。

 お前たちが国を支えたいと言うならそれでもいい。魔法を学びたいと言うなら研究者の道に進めばいい。商いをしたいなら商人に、畑を耕したいのなら農民になればいい」


「エトーレはパパとずっといたい!」


 元気よく手をあげるエトーレにルドは少し困った顔になったよ。


「お前は本当に俺が好きなんだな」


「うん!」


 ステファノも困ったことになったなと思っていたよ。ルドのことだからエトーレが望むようにしてあげたいと考えるだろうから、グランデフィウーメに返さないかもしれないんだ。エトーレを投入して、ステファノのグランデフィウーメ内部からルークススペース化構想が危ういよ。まあ、エトーレの実家は下流貴族で、領主への影響力はそんなにないから期待は低いけどね。


「俺はあちこちに行ってみたいな」


 ジュストは地図の隅々まで見ていたよ。


「いいんじゃないか?探検家っていう人たちがいるそうだよ」


「へぇそうなんだ。でも兄ちゃんはたまに抜けてるから俺がいないと」


「ジュスト偉そう!」


「偉そう!」


 アズーロとローザが笑うよ。


 ルドは腰に手を当てて、言うよ。


「ジュストもそうだが、まずは学校を卒業しないとな。来月テストだけど勉強できてるかな?」


「余裕」


 ジュストがふんって言うけれど、アズーロとローザは明後日のほうを見たよ。エジリオはククルスに訳していたんだけど、三人の態度に思わず笑ったよ。ククルスも遅れて笑ったよ。


『どこの国も子どもは勉強が嫌いだ。あの子らは陛下のお子たちなのか?ずいぶん大きいが』


『ジュスト、アズーロ、ローザは養子で、ゾリグはゲレル王の子で陛下が預かっています。エトーレはグランデフィウーメの貴族の子ですが、両親と魔物に襲われて行き倒れになるところを陛下に拾われたのです。そのせいか記憶がないようです』


『拾った?』


 王族や貴族がホイホイ見ず知らずの子どもを拾うとは考えられないよ。エジリオは微笑んだよ。


『陛下は恵まれない子どもたちをすべて自分の家族にしたいと考えてるのでしょう。とてもお優しい方です』


『…そうか。お前は家が見つかったんだな』


 教会が家だとエジリオは言おうと思ったけれど、兄神使の含みに気づいたよ。エジリオもククルスも幼い頃に家族と家を失って、各地を転々としてきたから心が安らぐ家のような場所に少し憧れていたんだ。


『そうです。ここが私の家です』

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