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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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29話 暴君ルドの話25

 ロドルフォはもうルドに会うことはないだろうなと思って、神殿の見張りの仕事をしていたんだ。時折ルドと神使たちのやり取りを思い出して、ジョルジョと話して笑っていたらしいよ。


 ステファノにしこたま怒られたルドは脱走の気配はなく、お仕事をしていたよ。キアーラは無事に男の子を出産して、国中お祝いムードになったんだ。


 ルドは赤ん坊の時のロレンツォの世話をしたことがあったから、ついつい世話をしようとするとミアたちが自分たちの仕事ですからってさせてくれなかったよ。


 ちょっと寂しかったけれど、王族や貴族は乳母や教育係りにお世話を任せて、親が子育てしないことが多いからね。


 子どもを抱っこしていると、ふとマッテオの顔が過ったよ。


「俺も父親になったよ。マッテオ」


 急に会いたくなってしまったけれど、首都のオリゾンテすら好き勝手に歩けないルドはグランデフィウーメなんて遠くて行けないよ。


 カスカータに行く機会かありそうで、ルドはマッテオに会いに行くことを決めたんだ。


 一仕事終え、カスカータ領主と会食をすませるとさっさと寝たよ。翌日の早朝、城を抜けて外まで出たけれど、肝心の馬が見つからないよ。


「馬小屋はこの辺りだと思っていたんだけどな」


 こそこそしていると馬小屋が見えたよ。馬小屋の中に人影があったんだ。


 見たことがある後ろ姿だったから、そっと近づいて声をかけたよ。


「ジョルジョさん?」


 自分しかいないと思っていたジョルジョはうわっと驚いたんだ。


 振り向くと影武者、ではなく王様が立っていたからもっと驚いたよ。


「へ、陛下!」


「静かに!ジョルジョさんって兵士見習いでしたよね?馬番って…」


 ジョルジョに皮肉げな表情が浮かんだから、失言だったなってルドは思ったよ。


「剣が全然駄目でして…。辞めさせられるところを馬番に一人空いたから、俺がなったんです。馬好きですし結構楽しいですが。

 陛下はどうしたので?」


「早く目が覚めまして。いつも馬車だから久しぶりに馬に乗りたいと思ったんです。貸してもらえますか?」


 王様は馬に乗るような格好をしていたから、乗る気で来たんだなってジョルジョも察したよ。でもお供がいないのが変だったよ。


「馬を出す許可がないと」


「俺は王様ですよ。許可は自分で出します」


 押しに弱いのかジョルジョは馬を一頭出したよ。


「エサは?」


「先ほどあげました」


 ルドは馬を撫でながら、しげしげ見るよ。


「綺麗な馬ですね」


「陛下の乗馬用に首都から連れて来ました。乗馬の機会はないのではって思っていたので、こいつも喜ぶでしょう」


 ルドが乗ろうとしたところに聞き覚えのある声がしたよ。


「何やってんだ…?」


 ロドルフォはもう会わないだろうと思っていたその人だとわかると、呆れ顔になるよ。


「ジョルジョが馬番してるって聞いて、寝る前に来てみれば…。どこに行くつもりですか?」


「あれ?ロドルフォ様もいたんですか?」


「いましたよ。荷物の護衛部隊ですけどね。まさか脱走なんて企らんでいないでしょうね?」


 荷物の護衛っているけど、荷物を運ぶのを見ているだけだよ。ロドルフォって出世街道から外れているよね。


 ルドはそう思っても口には出さないで、にっこり笑うよ。


「企んでいませんよ」


「供を連れずに乗馬場に行くつもりですか?」


「え?いけないんですか?」


 初耳ですオーラを出したけれど逆にわざとらしいよ。


「それで、どこに行くんです?」


「乗馬場へ行くのです」


「こんな朝っぱらから行くんですか?」


「ロドルフォ様こそ、どうして朝っぱらから馬屋にいるんですか?」


「夜勤だったので、今宿舎に帰るところだったんですけどね。それでどこに行くのですか?」


「外に。早くしたいんです」


 にこにことルドは譲らないよ。


「誰かに言ったんですか?」


「言うわけないですよ。止められますもん。止められて怒られるなら、戻ってきたときに怒られた方がいいので」


「それもどうかと思いますよ。ジョルジョ、馬をしまえ」


「は、はい…」


 ルドはジョルジョの手を握るよ。何事かと驚いたけれど、手の中の硬いもに困惑しているよ。ロドルフォのため息は濃くなったよ。


「買収ですかい。そんなことは…」


 ルドは袋から硬貨をわしづかみにして、ロドルフォの服のポケットに詰め込むよ。


「どうぞ、どうぞ」


「…わかりましたよ。俺も行きますからね。どこに行くんで?」


「隣まで散策に」


 ジョルジョに馬を出してもらってロドルフォは乗ったよ。ルドは少し心配になったよ。


「夜勤で疲れてませんか?」


「疲れることはいっさいなかったので、逆に眠くてたまりませんでしたよ」


 心配そうなジョルジョに手を振って、ルドはカスカータ城を離れるよ。


 このロドルフォを供にしてルドは正解だと思ったよ。警備の抜け目がないかとかいうもっともらしい理由をつけて、カスカータ城の周辺を散策していたんだ。


 厚い壁がお城をぐるりと囲っているけれど、物資を運びいれる裏口のようなところがあって、そこは内側から簡単に開けられたんだ。


 しかも周りは牧場で、人影がなくて家畜たちがのんびり朝の日差しを浴びていたよ。


 ルドは山の斜面に建てられた城を出て、ひたすら下っていくよ。


 緩い傾斜になっている城下町で焼きたてのパンをいくつか買って、朝御飯にしたよ。残りのパンは鞄にしまったよ。


「焼きたてのパンは美味しいですね」


 ルドはくんくん香りを嗅いでから、食べたよ。ロドルフォはルドにおごってもらった上に、どのパンがいいって選んだよ。


 城下町を出るといくつか小さな山を越えるよ。街についたけれど、馬を休憩させただけで、用事はなさそうだからロドルフォは我慢ができなくなったよ。


「陛下、目的地を教えてください」


「陛下はだめです。ルドと呼んでください。目的地は遠いので…。ああ。あなたは今夜も仕事ですか?」


「仕事はありますが…。まさか夜までかかるんですか?」


「うーん。迷わなければ夕方前には着くけれど、帰ってこれるか」


「だからどこですか!」


「ん?俺の生家」


 ロドルフォは眉を一瞬ひそめてから、めいっぱい目を開いたよ。ルドは忙しい人だなってのんきに思っていたよ。


「グランデフィウーメじゃないですか!」


「領主城よりはカスカータ寄りだから」


「そういう問題じゃねぇよ!馬鹿かあんたは」


「はい。お馬鹿だと思います。だからロドルフォ様は帰って構いません」


「お一人で行かせる訳にはいかないです!こうなったら最後までついていきますから!」


 ロドルフォは意地になったよ。


 馬を走らせて次の街にいけば馬を休ませてと繰り返すうちに、太陽は真上から降りてきてしまったよ。


 大きな河を渡るとルドは微笑んだよ。


「グランデフィウーメに入ってますね」


「ん?ここがですか?」


 ロドルフォは旧オリゾンテ領の領地内から出たことがなかったよ。


「でっかい河だな」


「大きな河がいくつもあるから、この土地は大河と名付けられたのでしょうね」


 もう一つ河を越えると穀物地帯が広がるよ。


「今年の実りはよさそうです」


 ルドは嬉しそうにするよ。


「あんた本当に普通の人だな」


 ロドルフォは思ったことが、するっと口から出たよ。


「俺は普通の人ですよ。何だと思ったのです?」


「王様だし」


「それは肩書きで俺自身の中身のことではないじゃないですか。

 あっしまった。今家に行っても畑仕事してるや。どこの畑を分けてもらったかも聞いてなかった」


 マッテオは農民をしているはずだから、畑にいるはずだよ。家に行っても誰もいないはずだから、探すことにしたよ。


 ひとまず親戚の畑に行くよ。

 人影があったから、近づいてみたらルドのお父さんの兄さんだったよ。


「伯父さん?」


 ルドの伯父さんはここにいるはずのない人を見て、石像のように一瞬固まったよ。


「…はぁ?ルドか?」


「うん。ルドだよ。マッテオはどこにいる?」


「お前なにしてんだよ、ここで!」


「伯父さん、声大きいって。お忍びで来てるんだから」


「ああ、そうなのか。マッテオなら家の前の畑に戻ったはずだ」


「わかった。ありがとう」


 ルドは手綱を握り直して馬を走らせようとしたのをやめたよ。


「伯父さん。変な話するけど身に覚えがないなら忘れて」


「なんだよ。面倒は嫌だぞ」


「あれば面倒になるけど。グランデフィウーメ領主や、その関係の貴族から声をかけられたり接触はない?」


「ないない。話したことがある貴族様はお前だけだよ」


 ルドはふふと笑ってから真顔になったよ。


「もし話しかけてきたら分からないって言って時間稼ぎして、俺に連絡してほしい。今はグランデフィウーメとは良好だけど、うちのオリゾンテ宰相とは仲がよくない」


 きな臭い話に伯父さんも真顔になったよ。


「噂で聞いたけどお前、カスカータの偉い人に毒盛られたって聞いたけど。大丈夫なのかよ」


「うん。大丈夫。心配なのはグランデフィウーメの出方だから。もしものときは、伯父さんや叔母さんの子ども預かるつもりでいる」


 農民でもここまで言われて気づかないわけないよ。


「おい、それってもしお前とグランデフィウーメが戦争になったら、領主は俺らを殺すってことか?」


「最悪の場合だけど…。そうならないようにはしている」


「…お前。だから味方に毒盛られたのか?」


 ルドは伯父さんの勘の鋭さに驚いたけど、だからこそ、こういうきな臭い話をしたんだけどね。


 ロドルフォはルドの後ろで息を飲んで話を聞いているよ。


「この際だから伯父さんには嘘つかないでおくね。そうだよ。カスカータとグランデフィウーメは領地について争っていた。うちの宰相は戦争で土地を奪えというし、カスカータ宰相は俺の判断が不満で毒を盛った。国と同盟領は平和に見えるけどかなり不安定なんだ。

 伯父さんと叔母さんの家族を巻き込むかもしれない。だから先に謝っておく。ごめん」


「今何がどうなるのかわかんねぇから、謝られてもな。何かあったら頼るぜ。

 マッテオがそのオリゾンテの宰相ってやつに追い出されたって聞いたけど、お前は平気なのか?」


「俺がオリゾンテ宰相に追い出されるってこと?ないよ、それは。聖神使様が俺の味方である限り、あの人は俺の言葉を信じてくれる。

 でも人はいつ誰かに恨みを抱くかわからないからね。なんとも。

 あ、そうだ。聞きたいことがあったんだ。母さんの姓ってアルコであってる?」


「あの移民女のことか?ああ、アルコだったと思う。それが?」


 ルドのお母さんは南の方からの移民家系で、ルドのお父さんが惚れちゃって結婚したらしいんだけど、周囲は反対だったらしいよ。母方の親戚はレナータで居づらくなったのか、故郷に戻ってしまったらしいよ。


「統一王マグナスの姓がアルクス。弓っていう意味なんだ。母さん方の姓は(アルコ)。まさかねって」


「は?お前の母親があの有名な統一王の子孫だって言うのかよ」


「もしかしたらってね。ちょっとロマンじゃない?俺、そろそろ行くね」


 馬の腹を蹴って走り出そうとすると伯父さんが呼び止めたよ。


「ルド!干ばつのとき雨を降らせてくれてありがとな。お前のおかげで、たっぷりのお湯でパスタが茹でられるようになった」


 ルドは笑って手を振ったよ。


「伯父さん、元気で!」


「ルドもな!」


 ルドと伯父さんはこれを最後に二度と会うことはなかったよ。伯父さんはグランデフィウーメから出ず、ルドは故郷の村に行くことはなかったからなんだ。


 馬を少し走らせると懐かしい家が見えて、近くの畑を大きな男が耕していたよ。


「マッテオ!」


 マッテオは振り返ると目を丸くしてるよ。


「はぁ?ルド?何でいるんだよ」


 ルドは馬から降りるとマッテオに飛びついたよ。


「やっとついたぁ」


「どうしたんだよ。まさかお前、追い出されたのか?」


「は?違うよ。マッテオに報告があったから来たんだよ」


 マッテオは安心したように笑ってから、ルドの顔をのぞきこんだよ。


「顔が砂ぼこりで真っ黒だぞ?まさか抜け出してきたのか?」


「へへへ」


「ステファノ様に締め上げられても知らないぞ」


「それは覚悟だよ」


「仕方ない子だ。どっから来たんだよ。馬に水やらなきゃな。お前も顔を洗ってこいよ。お連れさんも」


 ルドはロドルフォと井戸に行くよ。


「あの人がお父上ですか?」


「そうです。例のマッテオですよ。変わってなくてよかった。少しふっくらしたかな?」


 家に入ると女の人がいて、ルドは驚いたよ。彼女も驚いて、持っていたコップを落としそうになったよ。


「陛下!!」


「あれ?あなたがどうしてここに?マッテオたちに働き先を探してって、頼んだはずだけど…?」


 カスカータの元下女さんだったよ。彼女のお腹が少しふくらんでいたことに気づいたよ。


「顔洗ったか?」


 陽気に家に入ってきたマッテオに、ルドはいきなり胸倉を掴んだよ。


「見損なったぞ、マッテオ!故郷を追放された傷心の彼女に手を出すなんて!俺は面倒見てと頼んだけど、彼女の一生を面倒見ろとは言ってないぞ!ジーナのことはもう忘れたのかよ!」


「あ、え、あう…」


「陛下!マッテオさんは悪くないんです。悲しくて毎日泣いていた私を慰めてくれて。好きになって迫ったのは私なのです!」


 元下女さんは一生懸命マッテオは悪くないと言うよ。


「マッテオは圧しに弱いからね…。だからって最低だぞ!男ならそこは我慢するところだろう」


「そうだけどな。だってジーナと身分違ったから再婚できなかったし、もう二度と会えないと思ったからよ…」


「だったら結婚したって連絡くれよ。長文無理でも、お前が寄越した下女に手を出しましたくらい書けるだろう!」


「お前、そういうこと言うなよ!書けねーよ!書けても恥ずかしくて息子宛に書けないだろうが!馬鹿か!」


 元下女さんは顔を真っ赤にして下を向いてしまっているけれど、ロドルフォは必死に笑いを堪えていたよ。


 ルドは胸倉から手を放して、疲れたように椅子に座ったよ。


「子ども生まれたって報告しに来たら、まさか父親が再婚したうえに、弟だか妹が出来たと知るはめになるとは」


「子ども生まれたの知ってるぜ?わざわざ言いに来たのかよ。っ痛!すね蹴るな」


「直接言いたかったの!父親になりましたって。調子狂ったよ。

 ジーナに言わないでおこうか?」


「それもまたどうなんだろうか…」


 ルドの蹴りを避けきらずに、またすねに直撃するよ。


「判断遅い!」


「ちょっと今王様っぽいぞ」


「男のマッテオに女の人を預けるって、俺のミスだけどさ。カスカータ以外に身寄りがないっいうから、信用(・・)するマッテオに預けたんだよ?

 ジーナと別れて一年もしないうちに再婚する?しかも子ども作るし。

 マッテオと書いて最低と読むという法律作ろうかな」


「全マッテオさんがかわいそうだからやめてくれ…。

 ルド。子どものことおめでとう。名前は?」


 話をそらそうとするから、ルドは頬をひきつらせて笑っているよ。


「俺はまだ怒ってるんだけど」


「悪かったって」


「ジーナには話すけど、子どものことは伏せておく」


「そ、そうだな。ジーナには悪いことしたと思う」


 しーんと沈黙が降りて、ロドルフォは気まずくなっていたよ。


「フェデリーゴ」


「ん?」


「子どもの名前」


「あ、ああ。お前がつけたの?」


「そうだけど?」


「なんか、王様になってからのお前らしいな」


「王様になってからのってなんだよ」


「ここに住んでたころだったら、つけなさそうな名前だなって思って」


「…。そうだ。連れのロドルフォ様が寝ずにつきあってくれたんだよ。部屋空いてる?」

 

「ルドの部屋空いてるぜ」


「わかった。ベッドはそのまま?」


 ルドはロドルフォを連れて、二階の部屋に行ったよ。元下女さんが綺麗にしてくれているみたいで、そのままベッドが使えそうだったよ。


「上掛け持ってきますので」


「ありがとうございます。ここが陛下のお部屋だったんですね」


 ベッドに寝ずにロドルフォはしげしげと部屋を見ていたよ。


「あっ!農民のベッドで寝たくないですよね」


「え?気にしませんよ。兵士なんだから野宿の訓練とかしたことありますし、ベッドの有り難みはよく知ってます」


「俺は農民だったけど、野宿はしたことないな。大変そうですね。あ、まだあったんだ」


 クマのぬいぐるみを手に取ったよ。


「これは俺が生まれたときに母さんが作ってくれたんです。寂しいときにはよく一緒に寝ていたな」


 窓の外には幼いときから見ている村の光景が広がっていたよ。


「この村にいたら、子どもに平和を運ぶ者(フェデリーゴ)なんてつけないよね」


 子どもの頭を撫でるようにぬいぐるみを撫でたよ。


「陛下…」


「すみません。お疲れでしょう?寝てください」


 ぬいぐるみを元の位置に戻したけど、じっと見つめていたよ。


「持って帰ったら、汚ならしいってキアーラに怒られちゃうかな」


「お母上が作ったのでしょう?思い出のものなら持って帰ればいいじゃないですか。ご両親の形見とかは持っていないので?」


「うん。グランデフィウーメの養子になるとき何も持ってくるなって言われたから。ロレンツォが死んで何もかもが変わってしまった。あの子が俺らの運命を変えてしまったのだろう。

 いけないね。ここに来たら全部が懐かしくていつまでもいたくなる。ここにいても、昔には戻れないのに」


 そういって部屋を出ていったよ。ロドルフォは横になったけど、全然寝られないよ。


「色々聞いちまったせいで、寝られねぇよ」


 自分の王様は元農民ということだけで、何も知らなかったんだ。村に一緒に来たことで、グランデフィウーメと戦争しない理由がはっきりわかったしね。



 ルドから上掛けをもらってかけても寝つけなかったよ。


 少し寝ると日が沈みかけてたよ。クマのぬいぐるみは元の位置に置いてあったんだ。一階からいい匂いがして、ギシギシいう階段を降りていくよ。


「寝られました?」


「はい。陛下、戦利品は持ち帰らないといけませんよ。俺らは狩りに出て、クマを仕留めたけど、ちょっと道に迷ってしまって親切な農民にベッドを借りて、夕食をいただいたんですから」


 そういってクマのぬいぐるみをルドの膝の上に乗せたよ。ルドは目を丸くしてから、笑ったよ。


「ロドルフォ様っていい人ですね。俺の護衛部隊に入りませんか?」


「とても嬉しいことですが、俺は今日の当番をすっぽかしてますので、兵をクビにならなければいいですがね」


「ではクビになったロドルフォ様を俺が拾いましょう」


「拾っていただきたいのですが、宰相が許しますかね?陛下脱走の手伝いが二回目ですからね」


「はは。なんとかしますよ。さあ、早く食べましょう。グランデフィウーメの伝書鳩かりて連絡入れておかないとさすがにまずいです」


「そりゃそうですね。閉門まで間に合いますかね?」


「急げば」


 軽く食事をとって、身支度を済ませると馬に乗ったよ。


「もう勝手にくるなよ」


 マッテオに言われちゃったよ。


「元気で」


「マッテオも!」


 夕日が地平線へ消えようとしている中、慌ただしく馬を走らせて、グランデフィウーメの街壁が見えはじめたよ。人通りもまばらな道の真ん中で布のようなものが落ちていたよ。迂回しようとしたときに、その布が動いたんだ。


「何だ?」


 ルドは手前で馬を止めて降りたよ。布を捲ると小さな男の子がいて、呻き声をあげたよ。


「どうしたんだ?怪我をしているのか?」


 男の子はルドの声が聞こえないのか腕を前へ伸ばしたよ。その先には馬か人に踏まれたのか、潰れた柑橘系の果実が落ちていたんだ。


 ガリガリに男の子は痩せていて、この潰れた果物を拾って食べようとしたんだろうね。


 ルドは周囲を見渡すと親らしい人が見当たらないよ。ロドルフォは子どもに怪我がないか確認したよ。


「迷子にしてはやつれすぎてますし、捨て子ですかね?」


 妥当な線だね。そのままにしておけないから、ルドは水を与えて子ども着ているものを改めたよ。


「浮浪者や農民の服ではありません。暗くてよく見えないですが、貴族かお金がある者でしょう」


「では捨て子はおかしいですね。服を盗んだり拾ったにしても、このくらいの子どもの服をうまく手に入れられるかどうか」


「とりあえず、街にいきましょう。この子に何か食べさせなくては」


 閉門ギリギリで街の中に入ると、水の神(アックルーア)教会に行ったよ。


「夜分にすまない!開けてもらえないだろうか」


 ロドルフォが扉を叩くとグレータが出てきたよ。


「どうされました?…え?ルド様?」


 グレータはルドを見て頬が(あか)くなったけれど、暗いからルドは気づかなかったよ。


「お久しぶりです。グレータ様。お変わりありませんか?」


「ええ。ルド様やアグネーゼ大神使様がいなくなり、とても寂しいですが。今日はどうしてここに?」


 グレータは三人を教会の中に入れたよ。事情を話すとまずは伝書鳩を貸してくれたんだ。


「カスカータからおいでなのですか!ルド様は時折突飛なことをなさると聖神使様がおっしゃっていましたが、そのお通りですね。それでその子は身元がわからないと。

 身体が冷えていますね。暖炉をつけるのでまっていてね」


 少女だったグレータは、しっかり者の神使のお姉さんになっていたよ。


 薪を入れて火をつけようとすると上手くつかなかったんだ。


「あら。これは新しい薪ね。違うのを持ってきますから」


 乾燥させた薪ではなかったから火がつかなかったみたいだよ。グレータが薪をとりにいこうと暖炉からどいたとき、男の子が暖炉へ手をかざすよ。


「おいガキ、まだ点いてない…」


 ロドルフォが言おうとしたとき、真っ赤な炎が暖炉についたよ。男の子はあーうーと言いながら手を温めているよ。


「この子、魔法を使った?」


 ルドは驚いていると、男の子は身体を丸めて寝てしまったよ。魔法を使って疲れちゃったみたいなんだ。


 暖炉の灯りを頼りに改めて男の子の服装を見るよ。紋章のようなものが胸に縫いつけられていたんだ。


「見たことあるけれど、どこの家のものかまでは…」


「グランデフィウーメの貴族ですか?」


「おそらく」


「グランデフィウーメに確認してもらいましょう」


「依頼はしますが、判るまでこの子をどうするかです」


 グレータに頼もうとしたけれど、だめみたいだったよ。


「数年前の干ばつのせいで、親を失った子どもが増えまして。どこの教会もいっぱいなんです」


「そうでしたか。俺が預かることにします」


 起きた男の子はお腹がすいていたらしく、牛乳に浸して柔らかくしたパンを手掴みでがつがつ食べたよ。


「そんなに急いで食べるな。胃が驚いてしまう」


 ルドが皿が引き離すと、うーうーと獣のように唸るよ。


「本当に貴族の子どもですかね?」


 マナーも何もなっていないとロドルフォはため息をつくよ。ルドは子どもの顔をじっくり見るよ。


「目に生気がない。ひどい目にあったのでしょう」


 教会の神使たちの使う部屋を一室借りて泊まることになったよ。ロドルフォは眠かったけれど、王様の護衛は自分しかいないから寝られなかったんだ。


 ルドは男の子と同じ部屋で寝たけれど、男の子がうなされるから起きてしまったよ。


「陛下が眠れないでしょう。他に部屋がないか聞いてみます」


「俺は構いません。神使様たちを起こすわけにはいきませんし」


 ルドは男の子のベッドに入って、グランデフィウーメでよく歌われる子守唄を歌ってあげたよ。

 聞き覚えがあるのか、男の子はルドの胸に頭をあずけたよ。


「マンマ…」


「君のマンマはどこにいるのかな?」


 男の子はルドの服を掴んで、か細い声で言ったよ。


「オオカミ」


「オオカミ?」


 グランデフィウーメの中心地にはオオカミがあまり住んでないよ。


「オオカミに襲われたの?」


 思い出したくないのか男の子は答えないよ。ロドルフォは眉をひそめたよ。


「オオカミではなく、家族を魔物に襲われたとか?一人だけ助かったとか」


「街の周りには魔物はいません。街まで魔物が出て人が襲われたとなれば、もっと兵が外壁の周辺にいてもおかしくありません。ただ魔物が住む森はいくつかあるので、襲われた可能性はありますね。そうだったらかわいそうに。一人でつらかっただろう。もう大丈夫だからね」


 男の子を撫でてあげると、安心したように眠ったよ。


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