28話 暴君ルドの話24
テラ「むずかしいおはなしがつづいたから、ちょっといきぬきしよう!だいして、ルドのだいだっそう」
カスカータ領宰相ショックが落ち着くころ、キアーラの妊娠がわかったよ。
神殿がおめでたい雰囲気の中、さらにいくつかの治水工事と運河が完成してルドはとても日々に満足していたよ。
国の様子を見たいなと思ったけれど、視察に行くと人がぞろぞろ一緒に来るし、好きなように見られないからとても嫌だったよ。
「自分の治めている国の首都くらいまともに見られないなんて、おかしいと思う」
と、ルドはいざというときの脱出通路を思い出して、にやりと笑うよ。
「すこしくらい俺がいなくてもいいだろう」
エジリオとステファノ宛に、ちょっと出掛けてくるって執務室の机の上に書き置きをしたよ。お金をポケットに入れて、帽子を深く被り執務室の本棚をずらすと扉があったんだ。
「よしよし」
ルドは扉を開けて中に入るとロウソクを灯したよ。本棚を戻して、暗くて狭い通路を進んだんだ。
「陛下。お飲み物をお持ちしました」
カミッラがドアをノックしても返事がないよ。仕事に没頭しているのかなと思って、ドアを開けるけどルドの姿がないよ。
「おかしいわね。ここにいらっしゃると聞いたのに」
カミッラは書き置きに気づかないで、執務室を後にしたよ。
それから一時間後、ルドの護衛が書き置きを見つけて大騒ぎになったんだ。エジリオはルドの大胆な行動に怒りを通り越して大笑いしたよ。
「脱走ですか。陛下にしては珍しいことをなさる」
「笑い事ではないですぞ、聖神使様!護衛をついていないのに市中に出るとは!」
ステファノは烈火のごとく怒ったよ。
「私もよく護衛の神使をつけないで外出するので、陛下のことをいえませんが。首都はレナータの中で一番治安のいい街ですから」
エジリオ、フォローになってないよ。リクも仕方ないよなと思っていたよ。
「あいつは根っから農民だから、身体が動いてないと気が済まないんだ。今までよく我慢していたと思うぜ。前に庶民がよく行く酒場で飯食いたいっていってたから、捜してくるよ」
「リク様。お願いします」
ステファノに頼まれるとリクは俺も保護者だなとまた笑ったよ。
そのルドは神殿の隠し通路を抜けると庭の木陰に出たよ。埃をはらって立ち上がると、しまったと思うよ。
「地味な服を選んだけれど、貴族だってすぐにばれるな」
脱走には協力者が不可欠だと思ったよ。
木の陰に隠れて周囲をうかがいながら、神殿の外壁へ向かうよ。
正面の門は昼間は大きく開かれているけれど、それ以外は他の領城と同じように壁に囲まれていたんだ。街に出るには門から出るか、壁を越えるしかないよ。門からでは変装は帽子だけだから、門番にバレると考えてやめたよ。
そびえる壁を背中をのけぞらせて眺めるよ。
ルドは水魔法ばかり使うけれど、水の属性である氷魔法が使えるよ。氷はすぐに溶けてしまうから使いどころがわからなくてあまり使ってなかったけれど、足場になるのではと氷を階段状にしてみたよ。
一段目に片足を置くとパリンと割れてしまったよ。
「薄かったかな?」
厚めにすると両足乗せても割れなかったよ。トントンと登って壁の上まで顔を出して周囲をうかがうよ。見回りの兵士らしい人が通りすぎると壁の上に座って降りる氷の階段を作ったよ。
「ふぅ氷魔法は結構つかれるな。使いこなすには練習が必要だね」
某アニメの氷の女王様みたく、数分で巨大なお城を造る超ハイレベルで、国中を冬にできるドチートな魔法は、ルドには無理のようだね。
「お前、何を…」
どうしてか先ほど通りすぎた兵士さんが戻ってきて、ルドは見つかっちゃったよ。相手は王様だとわかったみたいで、あんぐり口をあけて見上げているよ。
ルドは急いで降りると、半分のところで氷の階段が割れて落ちかけたよ。
「おっと」
すぐさま氷をはったから落下は避けられたよ。
パパッと降りて、驚いている兵士さんの方へ走っていくよ。
「お願いがあるのですが、上着を買ってきていただけますか?お金はこれで…」
「あ、あの。陛下ですよね?」
後方から話し声が聞こえてきたから、兵士の腕を引っ張って近くの茂みに一緒に隠れるよ。人が通りすぎるのを待ってから、ルドはにっこり笑って話したよ。
「俺はルークススペース王ではありませんよ」
「いやいや。見たことありますもん」
「王の影武者です」
「本当かよ!影武者がどうしてここに?」
「息抜きをしたいのですが、色々事情があって外に出してくれないのです」
「大変なんだな、影武者って」
兵士さんはいい人らしく、すっかり嘘を信じてしまったよ。
「今なら抜け出せると着の身着のままで出てしまい、連れ戻されるのは時間の問題でして」
「いかにも貴族って感じだしな。ここを抜けても、市街地出るまでに兵士いるし」
「そうですよね…」
ルドががっかりしていると、兵士さんは自分の胸を叩いたよ。
「わかった!ここで待っていろ。コート持ってきてやるから。仕事終わったから付き合ってやる。どこ行きたいんだ?」
「え?いいんですか?うまい酒場に行きたくて。オリゾンテに来てから一度もそういうところに行ったことないんですよ」
「大変なんだな、影武者って」
本日二回目の感想だね。
影武者がいるって公言しちゃったら、偽者がいますよって言っているようなものだから誰かに教えてはいけないよ。ルドの影武者を名乗るのはおかしいんだけれど、兵士さんは気づいていないみたいだね。
ルドはしばらく隠れているとコートを持ってきてくれたよ。
「俺も一緒に行くから兵士に会っても大丈夫だろう」
「ありがとうございます。お名前をうかがってもいいですか?」
「ロドルフォだ。あんたは?」
「オオカミ。格好いい名前ですね。俺は…」
決めていなかったから、ちょっと悩んだんだけど、言えない事情なのかとロドルフォが勘ぐってくれたよ。
「名乗れないならいいぜ。そうだな…。マッテオでいいか?俺のダチの名前だけどよ。呼びなれたほうが俺も忘れないし」
ルドは軽く目を見開いから、コートを着ながら笑ったよ。
「マッテオで構いません。父の名前ですし」
街の中心地へ歩き、神殿から離れて兵士の姿が見えなくなるとルドは聞いたよ。
「どうして俺を助けてくれたのです?」
「ん?陛下の話を聞きたいし、うまい飯屋行きたいんだろう?助ければさ。あれさ」
「ふふ。お礼はしますよ。ごちそうしますから、おすすめのお店を教えてください」
ロドルフォはルドが街を見たいと言うと案内してくれたよ。
街で一番大きな広場の中心には噴水があって、ルドがこの街は華がないと言ったら造られたんだ。
ロドルフォは知ってるだろうけどと、そう教えてくれたよ。
「噴水ができてどうでしたか?」
「人が多く集まるようになったな。陛下が王妃様と結婚したせいか、噴水に恋人と一緒にコインを投げれば結ばれるっていう噂があってな。恋人たちがコイン投げてるぜ」
噴水にはたくさんのコインがあったよ。ルドは自然と微笑みが浮かんだよ。
「どこから話が出たんですかね。でも微笑ましくてよい話です」
街の至るところに彫像が置かれていて、レナータの芸術家たちが、ここ首都オリゾンテに集まっていたよ。
教会や街を華やかに作品で飾っていたよ。でも芸術家は貴族や神使かなれて、神々や神話にちなんだ題材ばかりで、画家の個性は必要とされていなかったよ。
ルドは夕焼けに染まった空がよく見える広場の中、ずらりと並んでいる神々の像に思わず手を合わせたよ。
「神々に見守られているようです」
「あんた結構真面目?ここは聖神使様が設計したと言うぜ。人の集まる広場だから神々の加護があるようにって」
「エジリオ様らしいですね」
神様効果なのか、彫像に見られているせいなのか、この広場でのスリなどの犯罪が減ったそうだよ。
「聖神使様と話をすることはあるのか?」
「影武者ですからね。そういう場面もあるんですよ」
にぎわう市場を軽く見てから、ロドルフォがよく行く店に行ったよ。
ガヤガヤ客の声が店いっぱいにして、久しぶりに見た光景にルドは楽しくなったよ。
「それで陛下ってどんな人だよ」
店の隅のテーブルにつくと、ロドルフォが聞いてきたよ。
「守秘義務があるので話せないことは、たくさんありますが」
聞かれて自分って、どう思われているのだろうと思うよ。
「優しいとも、怒らせると怖いとも。エジリオ様は、たまに老神使と話している気分になるそうです」
「へえ。そうなんだ」
「兵士たちはどう思っているのですか?陛下のことを」
「そうだなぁ。農民出なのに王族みたいなことするって驚いているぜ。規律は前よりは厳しくなったけど、理不尽なこと言ってくる上司がいたら罰してくれるし、おおむね評判いいぜ。
でも平民になった元奴隷と、兵士として肩を並べるのを不愉快に思っているやつもいる」
兵士は貴族出身者ばかりだから、身分最下層の奴隷が武功を立てた上、王のそばにいるのが貴族のプライドとして許せないよ。
ロドルフォも元々オリゾンテにいた貴族だよ。借りたコートは素材感からして、ちょっとお金がある平民が奮発して買うようなものに見えるから、下級貴族のようだね。
「そうですか。あなたはどう思いますか?」
「俺?別に俺は武功を立てて上に立とうとは思わないが、家柄がいいというだけで簡単に上の地位についちまうのがちょっと腹が立つことはある。奴隷たちと呑むのも楽しいし、嫌だとは思わないな」
「上に立とうと思わないですか。欲のない方ですね」
ロドルフォが店員に注文していると、店の外が騒がしくなったよ。
「奴隷はこの店に入るな!」
店主らしい人が男の人を押し倒して、蹴っていたよ。
「俺はもう奴隷じゃない!」
「黙れ。元奴隷は奴隷だ。お前みたいなのが店に入れば迷惑なんだ」
男の人は悔しさをにじませて、立ち上がったよ。
「どうされましたか?」
ルドは差別があると元奴隷たちから聞いていたけれど、実際見ると心が痛んだよ。
「奴隷が店に入ろうとしてるんだ」
「俺はもう奴隷じゃない!店に入ってはいけないなんて法律ないだろう!」
男の人は焼き印を見せたよ。
「法律がなんだ?誰が汚ならしい奴隷がいる店で飯を食いたいんだ?奴隷なんだから金もないだろう!」
「彼のどこが汚いのです?元奴隷といっても平民です。神々は誰もが幸福であるべきと仰っておりますので、誰もが酒場で酒を呑むのを拒否したりしませんよ?」
水の神を象った青い石のネックレスを見せると、店主は面倒くさそうな顔をしたよ。
「神使様がなんで酒場にいるんですか?ていうかその格好神使じゃないじゃないか」
「私はグランデフィウーメの水の神教会から派遣されました。オリゾンテの街は初めてで散策しておりましたら、お腹がとても空いてしまってこのお店に立ち寄ったのです。お酒の研究ついでに少々。私はそこの方とお食事をしたいのですが、駄目ですか?」
神使に逆らうわけにはいかず、店主は渋々許したよ。
「あんた。神使なのか?」
ロドルフォはしげしげと神使の証を見るよ。
「仕事柄必要なので。雇い主が神使様であられますので、俺も神使になりました」
ルドは大分免除された神使の修行をして、大神使になっていたよ。
ロドルフォも王様が神使になったって聞いていたから、影武者も神使にならないといけないのかって納得してくれたよ。
「助けてくださり、ありがとうございます。神使様とお食事できるなんて」
助けた元奴隷さんはとても感謝していたよ。彼は土魔法が使えたから、ゲレルとの戦いでジュストと一緒に穴堀りしてたらしいよ。そのときは奴隷だったけれど、ジュストたちが平民にしてあげた上、兵士にしたんだ。
奴隷だったときに行けなかったお店に行きたいと街に来たけれど、断られる店が多かったんだって。
「では、ロドルフォ様と同僚なんですね」
「ん?俺とは別部隊だろう。あんた元奴隷なら王属部隊だろう?」
「魔法が少々使えるだけで剣はまったくダメです。見習いなのでまだ部隊が決まっていないし、陛下の謁見はまだまだ。というよりできるかどうかも」
気の弱そうに笑うよ。ルドもロドルフォも、この元奴隷が兵士としてやっていけるのか気になったよ。
「あんた、兵士になれば人斬らなくちゃなんねえ。大丈夫か?」
「そうですよ。魔法の研究職もありますし、そちらの方がいいのでは?」
「研究職がよかったのですが、文字がまったく駄目でして」
文字が読み書きできないと研究職につけなかったよ。
「奴隷ではなくなっただけでも嬉しいんです。俺ら元奴隷を救ってくださった陛下のために頑張ります」
「そうですか…」
ルドは何とかしたかったけれど、今の制度上、救済処置には限界があったんだ。奴隷を減らせば貴族や農民の反発も出るしね。
「せっかく店に入れたんだし、呑もうぜ!」
ロドルフォがジョッキを高くあげると食事をはじめたよ。元奴隷さんことジョルジョの生活やロドルフォの愚痴を聞いたよ。
「あんたは、どうなんだ。マッテオ?憂さ晴らしに来たんだろう?」
ルドは民の生活を知りたかったから、聞き手に回っていたよ。
「俺は日々神々に祈り、民の幸せを祈っています」
「真面目、 真面目。疲れないのか?」
「疲れたからここにいるんですよ」
「だろうな」
ロドルフォは周囲を見て聞き耳立てていそうな人がいないか確認して、ジョルジョにこそっと教えたよ。
「こいつ、本当は神使様じゃなくて陛下の影武者らしいぜ」
「えっ!影武者なんているんですね。では陛下とは会ったことが?」
その王様本人だけどね。
「ロドルフォ様、ペラペラ話さないでくださいよ。もちろん、ありますよ。俺は水魔法が使えるからってグランデフィウーメから連れてこられまして、ずっとオリゾンテにいるのに街にも行けなかったんです。なので憂さ晴らしに外に出たのです」
「なるほど、そういうことか」
がっしり肩を捕まれてルドは勢いよく後ろを振り向くよ。神使姿のリクがにんまり笑っていたよ。
「やっと見つけたぜ!」
「あれ?なんでいるの?」
「なんでってお前を捜していたんだよ。アホ!」
ギリギリ羽交い締めにされて、ルドはすぐにギブアップしたよ。
「本当に疲れたぜ!なかなか見つからなくて困っているところに、酒場に入ろうとした元奴隷を神使が助けたって聞いてよ。絶対お前だと思った」
「何?広まっているの?」
「大丈夫。その酒場なら酒が呑めると踏んだ元奴隷たちが、俺かと思って聞きに来たんだ」
「広まってるじゃないか。まだ呑み足りないから帰らないよ。リクもどう?」
「俺は神使だ。呑まないぜ!」
「へぇ、この前エドモンドが持ってきたワインが余ったから、一緒に呑んだのは誰だったかな?ほら座って。指を組んで」
反論できなくなったリクは、素直に椅子に座ったよ。
「運営費用のために作っている酒を闘いの神様の神使たちがすべて呑んでしまったというのは?」
「…事実でございます。でも俺が全部呑んだわけではない!」
「戦争も今は少なくなり寄付金も減った。資金繰りに困った闘いの神教会のために、ルークススペース国の教会の寄付金を一度すべめ集めて均等に各教会に分配する方法を考えて、その調印したのは誰でしょう?」
「あなた様です!」
「俺がここにいたことを黙っていてほしいのですが」
「承知しました!」
「潔く答えたその心と、俺を捜してくれた詫びをふまえて酒をごちそうしましょう」
お酒が置かれてリクはのんでしまったよ。リクの買収完了。
「はっ!しまった!」
「面白い神使様もいるんだな」
ロドルフォとジョルジョはお腹を抱えて笑っているよ。
「リクは不真面目ですが、他の神使様は立派ですので」
「お前な!確かに俺は不真面目だけど、結構偉いんだぜ?」
「どの辺が?エジリオ様と腐れ縁は自慢にならないからね」
「うっ先手打たれた。神使兵の指揮官だったときもある」
「今は?」
「何もありませんよっ」
リクはお酒をあおるよ。
「うめー」
「リクって神使服着てるけど、普通のオッサンだよね」
「うるせー。お前はなんだよ。そのコート。どこからかパクったのかよ」
「ロドルフォ様から借りたんだよ。鳥かごに入れられた鳥のように、外に出られない陛下の影武者マッテオは束の間の外出を求めたのです」
そういう設定ねとリクはちらりとルドの連れの二人を見たんだ。
「こいつと知り合い?」
出会ったいきさつをそれぞれ話すよ。リクはルドが氷魔法使えることに驚いたよ。
「お前、氷も操れるのかよ」
「あれ?知らなかった?」
「初耳だぜ。ずっと観光してたのかよ。出たいと言えば出してくれるんじゃないの?」
「前みたいにリクと二人だけって無理でしょ。観光だけしてたわけではないよ。オリゾンテに住んでいるのにまったく街を見てないって変でしょう」
「まあな。ステファノのオッサンに頼めば何とかしてくれるんじゃないか?」
「またステファノ様のことオッサンって呼んでる。怒られるよ?」
「俺よりまずお前が怒られるぜ。エジリオの説教が待ってる…」
店の入り口がざわついているから何だろうと見たら、リクの表情が固まったよ。
ルドは振りかえるとハハハと笑ったよ。
「聖神使様がお出ましとは。リク、お迎え来たよ」
「どう考えてもお前だから」
神使服姿のエジリオがまっすぐルドたちのいるテーブルへ来たよ。
「脱走した神使を捜しに行った神使が、その神使と酒を呑んでいるとは。お前も説教受けたいか?リク」
「いやいや。何年も聞いておりますので、改めてお言葉いただかなくても結構ですよ」
リクはそういいながら、お酒を全部呑みほしたよ。エジリオの冷たい微笑みにロドルフォはすぐに逃げたいと思うよ。
ルドはすくっと立ち上がって堂々去ろうとしたら、エジリオに肩を捕まれたよ。
「この近くの教会の懺悔室を特別にお借りしたので、あなたは私と一緒に来るのです!」
「えー。俺は市中を視察しただけです。懺悔することはありませーん」
「エジリオ。こいつ酔ってるフリしてるから」
「リク、裏切るなよ!」
エジリオはロドルフォとジョルジョに視線を向けるよ。ロドルフォは兵士姿だからルドの脱走に関わったのだろうと即座に考えたよ。
「あなた方は?」
「はっ!私はロドルフォ、階級は騎士であります!配属は神殿の警備です!」
「あっ、私は兵士見習いのジョルジョと申します!」
「お二人も一緒に来なさい」
「エジリオ様、今からですか?メインがきたばかりなんですよ。エジリオ様はご飯は?」
「誰かのせいで食べ損ねたのです!仕方ない。食べ物を粗末にしてはなりませんから、食べなさい」
「エジリオ様も食べましょうよ。ここのティーボーンステーキ美味しいですよ」
エジリオは椅子を借りて優雅に座り、ルドが食べ終わるのを見ているよ。
「エジリオ様もどうぞ」
お肉を切って取り分けたよ。エジリオは出されたのだから食べることにしたよ。お祈りの言葉を言ってから、フォークを手に取ったよ。
「エジリオ様が設計された広場を見ましたよ。神々に見守られているような気持ちになりました。フェローチェの火の神教会もエジリオ様が携わっていると聞いてます。出来たら見に行きたいですね」
エジリオの厳格な表情がいくぶん和らいだよ。
「気に入っていただいたようで安心しました。フェローチェの教会はまだ着工してまいせんので、あと十数年はかかるでしょう」
「十数年で建てられるのか?敷地について揉めてるって聞いたぜ」
リクが余計なことを言うよ。
「揉めてる?」
「信徒はでかい教会を建てたいけど、周辺の住民は家のすぐ隣が教会の壁にになって圧迫感あるから嫌だって」
「フェローチェの街自体か古くて、家がぎっしりつまっているからね」
ルドはフェローチェの街並みを思い出しながら言ったよ。
「元の大きさでよいだろうと私も信徒たちに話してはいるのですが…。百年以上信徒は自分たちの教会を持てませんでしたから、意気込んでいるのですよ」
「大きさではなくて気持ちが大切なのに」
「おっしゃる通りです」
「あー、フェローチェって教会大爆発したところですか?」
ロドルフォは自信なさげにいうけど、ジョルジョに至っては知らないみたいで大爆発?って驚いているよ。
エジリオは約二百年前のフェローチェの事件を教えてあげたよ。ルドが補足したよ。
「エジリオ様がフェローチェの領主様に半ば脅…説教して教会建設に貢献されたとか」
「その話はやめてください」
「エジリオ様って結構破天荒なところありますよね。お一人で酒場に行くと聞きましたし」
「向こう側の店と反対側の店も行ったことあるぜ」
あとは、どことどことリクが指を折って言うよ。
「リク!」
「俺は聖神使様の護衛だから色々知ってるぞ」
「エジリオ様の付き添いなら、酒場に行ってもしかたないね。俺も誘ってほしいな。またあちこち回ったときみたいに色々なお店に行きたいもの」
無邪気そうにいうから、エジリオは駄目だって言えなくなったよ。リクはくつくつ笑ったよ。
「エジリオ。気づいてるか?こいつに振り回されてるの。気を確かに持たないと買収されるぞ」
「お前みたく私は酒に釣られない!出会ったときから振り回されてる」
「出会いは普通でしたよ?むしろ、出会った日に何も言われずに領主様の城に連れていかれるし、急に手合いを申し込まれた俺の方が振り回されている感はありますけど。
エジリオ様が神使様たちを困らせないなら、俺も我慢しますよ」
「困らせてはいない」
「困ってる、困ってる」
リクが合いの手をいれるよ。エジリオはついに額をおさえたよ。
「お前たちといると調子が狂う!」
リクとルドは笑ったよ。
ロドルフォは聖神使を困らせるルドとリクが、すごいなと思っているよ。
ご飯を食べ終わるとルドは大人しく近くの教会に行ったよ。ロドルフォはすっかり暗くなった空を見上げて、ジョルジョに言うよ。
「あんた夜まで呑んで平気か?元奴隷狩りが横行しているらしいから」
「同じ見習いが被害にあいまして。幸い怪我ですみましたが。一応ナイフは常備してます」
「元奴隷狩り?」
元奴隷を狙って金を奪う人がいるみたいだよ。元奴隷は奴隷よりも自分のお金を持っているから狙われやすいよ。被害者を殺すケースも多くて、元奴隷だから殺してもいいと奴隷に対しての差別があるようだね。
「そんなことが。多いのですか?」
「最近よく聞きます。首都だけではなく、都市部で横行しているようです」
エジリオは知っているようだね。ルドは少しムッとしたよ。
「俺は何も知らないです」
教会の中に入ると、エジリオは一般の人がいないか確かめてから言ったよ。
「最近のことなので、陛下に報告がされなかったのでしょう。調べますか?」
「その手の犯罪は貴族の兵士よりも、神使様たちのほうが耳によく入るでしょう。もし全財産を奪われて生活が困窮することがあるようなら、法整備が整うまで教会が被害者に手をさしのべていただきたいのですが。お願いできますか」
「かしこまりました」
ロドルフォとジョルジョは、ん?っていう顔をしているよ。祭壇の前についたから、各自神様へご挨拶と祈りをしたよ。
「ご無事と伺い安心しました。陛下」
ここの裁きの神教会に所属する神使のアリエーテが迎えに出てくれたよ。
「心配おかけしてすみません。ゆっくり市街地を見たことがなく、このようなわがままをしました。ご迷惑をおかけした方々に詫びる前に、今日出会った二人に謝罪を」
ロドルフォとジョルジョの前に向き直って、コートを外してロドルフォに返したよ。
「改めまして、俺の名前はルド・ルークススペース。影武者など嘘をついて申し訳ございませんでした。コートもありがとうございます。お二人のお陰で、貴重な体験ができたことを感謝します」
「え、本物だったの?」
ロドルフォは目を丸くして、ジョルジョはあわわと身体を震わせてから膝をついたよ。
「本物です。俺の影武者はいませんよ」
エジリオも否定しないから、ロドルフォは慌てて膝をついたよ。
「数々のご無礼をお許しください!」
「無礼をしたのはこちらですから」
ルドは立つように言ったよ。
「楽しい一時でした。また一緒に呑めたらいいなと思います」
二人は是非と言うべきなのかと、エジリオを恐る恐る見たよ。威厳漂う聖神使の顔になって問いただすように言ってきたよ。
「陛下の脱走を手伝ったのはロドルフォ様ですか?」
「いいえ!あ、はい…」
逃げてきたと聞いたのにコートを貸してあげたし、街を案内したからね。ジョルジョは酒場で出会ったから怒られなかったよ。
ロドルフォはとばっちりだったけれど、本人は王様と聖神使と話したって後日自慢していたみたいだよ。
「お帰りは気をつけてくださいね」
ルドは握手をして二人と別れたよ。
教会の外に出たジョルジョは夢のような気分だったよ。
「陛下と話せた上に握手まで…!」
「いい人だったな」
「はい!」
ルドは馬車に乗ると鼻歌まじりにいったよ。
「第二首都を建設しようと思います」
人が増えちゃって泊まる施設が足りないから、首都に出稼ぎに来た人が路上で寝泊まりする人もいたよ。今の街を広げようというステファノの意見もあって話が進まなかったんだ。
「お決めになりしたか」
「はい。平民が中心になれる街を作ります。奴隷も元奴隷も気軽に入れるお店も作りたいです。
初めて訪れた人が、神々が出迎えてくれているような気持ちになれる門があったらいいなと思います」
「天の国の扉ですか?」
ルドは微笑んだよ。
「あなたに任せてもいいですか?」
「御意」
第二首都の建設は議会で承認されて、ルド主導で行われることになったよ。
卯月「一日で捕まったけど大脱走だったのか?次回も続大脱走だそうです。お楽しみに」




