26話 暴君ルドの話22
「ルド様!」
ミアが慌てて駆け寄るとルドは魔法で水を出して口をすすいだんだ。みんなに呑むなと言おうとして舌が嫌に腫れぼったいよ。
喉もキリキリ焼けるように痛くて咳き込むと、ミアに口を見せるように言われてたんだ。
「そのまま口を開けてください。治癒魔法を」
ルドの口はただれていて、どうやら普通のワインではなさそうだね。
「な…」
マッテオは驚いているとジュストが腕を掴んだよ。
「これエドモンド様からもらったんだよね?」
「あ、ああ」
「連れてくる!」
「ジュスト、待て」
「ルド様!口を動かさないで」
ミアが治癒魔法をかけているとキアーラが医者を連れてきたよ。ワインを呑んだらただれたと言うと医者は察したらしいよ。すぐに助手さんにワインを調べるように言ったんだ。
「触れ回るな。まだ内密に」
腫れぼったさが引いて呂律が回るようになったよ。
医者を下がらせて、ルドは詳しくマッテオから聞いたよ。
「その下女に見覚えあるけど、誰の使用人かわからないってこと?」
「どこかで見たことあるんだけど…。うちにいる子ではない」
「ちょっと、マッテオ。そんな身元はっきりしない人の差し入れ受け取らないでよ」
ジュストが怒ったよ。ごもっともだね。
「だってエドモンド様だっていうから」
「エドモンド様を語っただけでしょう。兄ちゃんは暗殺されそうになったんだぞ!」
「あんさつ…?」
「マッテオはこれからほいほいモノを受け取らないでね。グランデフィウーメ領主も呼ぼう。怪しいよ」
部屋を出ようとしたジュストをルドは止めたよ。
「ジュスト待ちなさい。エドモンドは無関係だろう。彼を陥れようと人の仕業かもしれない。それにこの時期にグランデフィウーメが仕掛けてくるには軽率すぎる。疑えと言っているようなものだろう」
「そう装ってグランデフィウーメだよ。心当たり多いだろう?」
領土問題のことが真っ先に頭が過るよ。ルドを下に見るグランデフィウーメが腹いせか嫌がらせしてきたのかもしれないからね。
「マッテオ、その下女のことを思い出せないの?」
ジュストが聞き出そうとするとマッテオは肝心なことを思い出したよ。
「ミアと知り合いみたいだった!」
そのミアはどこかに行ってしまったよ。多分ルドがワインを吐き出したときに服に少しついちゃったから、着替えを取りにいったのかな。
カミッラがをカスカータ領主の弟くんが来ていると知らせてくれたよ。カスカータ領主の弟くんが領土問題の担当していたから、グランデフィウーメにいたよ。
ルドはジュストとマッテオに、ミアが戻ってきたら下女について確認しておくように言ったよ。
ルドはワインで汚れた袖を隠しながら、カスカータ領主の弟くんと会ったよ。
「明日の朝、グランデフィウーメを発ちますので、ご挨拶に伺いました。カスカータにお越しの際は、また千年前のお話を聞かせてください」
「カスカータによらずに首都に戻るつもりなので、また今度お話しましょう」
ルドはワインの件があるから話を手短にすまして、彼を帰したよ。
ルドの着替えを手にしていたミアはルドがカスカータ領主の弟くんと会ったと聞いて、汚れた服のままなのになんで誰も止めないのって叫んでいたよ。
「ミア姉さん。あのワイン持ってきた人と知り合い?」
ジュストが確認すると、マッテオが教会前で話していた女の人だと補足したよ。
ミアは驚いて目を見開いたよ。
「あの子はカスカータの元奴隷よ。領主様に仕事振りを認められて平民になったって…」
部屋にいた人は氷のように固まったよ。犯人はグランデフィウーメの誰かだと思っていたからね。
「まさか…そんな」
一番信じられないのはミアだったよ。その下女と仲が良かったし、ルドのことも尊敬していたから毒を盛るなんて夢にも思わないよ。
「その人は運び手にされただけだろう。ミア姉さん、その人を呼んでこれない?」
「明日の朝にはここを発つって言ってたから、支度で忙しいかも」
「明日の朝だって?犯人は逃げる気だ。急いで。でも悟られないように。いつ会えるかわからないから話したいとか理由つけて」
「わかったわ」
ミアが急いで出ていくと、入れ違いでステファノが来たよ。
「医者から聞いた。陛下はどちらに?」
沈黙した一同にステファノが尋問開始しようとしたときに、ルドは戻ってきてしまったよ。
「げっ…」
ステファノに漏れると大事になりそうだから、犯人を特定してから話そうと思っていたんだ。
「何がげっなのです?陛下。毒を盛られたと伺いましたよ!お身体は?起きていて大丈夫なのですか?口が爛れたと聞いていますが」
ステファノの心配ですオーラにルドは苦笑したよ。
「エジリオ様がいないと途端にステファノ様が心配性になりますね」
「私はいつも陛下の御身を案じております。聖神使様は陛下の保護者ですから、心配されるのは当然でしょう」
「いつからそうなったの!」
「保護者は俺だけど」
マッテオが小声で言うとステファノがキッと睨んだよ。
「マッテオ。お前には言いたいことがたくさんある」
マッテオが奴隷の習性か、ははーわかりましたと膝ついて頭を下げたよ。
ルドはまだ口に違和感があってしきりに口を触るよ。ステファノに凝視されて口から慌てて手を離したよ。
「それでミアは?」
「陛下!」
「ステファノ様にも話すから。とりあえず座りましょう。あーあ。料理が冷めちゃったよ」
フォークでお肉を刺そうとするとジュストに手を掴まれたよ。
「ワイン吐いたときに飛び散ってたからやめたほうがいいよ」
「猛毒じゃないから少量なら平気…」
「兄ちゃん、そういうところが迂闊なんだよ」
「ジュスト様、もっと言ってください」
「…ステファノ様とジュストはいつから仲良くなったの?」
しぶしぶフォークを置くと、食べ物を粗末にしてごめんなさいと神様に謝罪の言葉を口にしたよ。
ミアが戻ってきて、ワイン持ってきた下女を応接室に待たせているというから行ったよ。
下女さんはミアに部屋で話そうよと言われたのに、ルークススペース王の教会の応接室に通されたから不安そうな顔をしていたよ。
ぞろぞろ行くのも緊張させちゃうからと少人数にしたけれど、ルドとステファノがいる時点で、下女さんは緊張しちゃったよ。子どものジュストも来たけれど、キャラ的に癒やしポジションにならなかったよ。
この下女さんはルドも王様になる前に会っていたよ。
「久しぶりですね。カスカータの奴隷屋敷に行って、あなたたちとお茶をしたのが随分昔に思えます」
「お、お久しぶりです。私もあの時の貴族さんが王様になるとは思いませんでした」
当時のことを思い出したのか、彼女の表情が和らいだよ。
「そうだね。俺も王様になれたことが、時々不思議に思います。君は平民になれたんだって?」
「はい!カスカータ領主様にお許しいただけました」
「今もカスカータ領主様の元で働いているんだね。あのお酒はカスカータ領主様から渡すように言われたの?」
「いえ。宰相様からエドモンド・グランデフィウーメ様より預かったからお渡しするようにと」
彼女が宰相というのはカスカータ領の宰相のことだよ。領主の弟くんのことなんだ。
ルドは鼓動がゆっくり鳴り、周囲の色が白っぽくなる気がしたよ。さっき弟くんはご挨拶にって、普段と変わらない様子で来たからね。彼は千年前の中央の文化を知りたいとルドに会うたびに話をしてほしいとせがまれていたし、仲もよかったと思っていたよ。
それなのにルドに毒を盛ったんだ。
嘘だと思いたかったよ。
「…それで君が持ってきたと」
「はい。そうご命令されたのですが、間違っていたのでしょうか?」
「さあ。君がそう聞いたならカスカータ宰相がしたのだろうね。エドモンドから言付けとかはもらっていないんだよね?」
「美酒だとそれだけです」
ルドは彼女とミアにカスカータ領主の弟くんを連れてくるように言ったよ。
彼は滞在先のグランデフィウーメ家が所有している屋敷にいたよ。
「陛下が千年前のことで面白いことを思い出したから、忘れないうちに話したいと」
ミアが告げると弟くんは微笑みながら行こうと言うよ。
ルドは何事もなかったように呼び出したことを詫びて、軽い食事を出したよ。
「エドモンド様も人使いが悪いですね。カスカータ様をなんだと思っているんだ」
「いえいえ。私が言い出したので。今日はあの方の母君の誕生会らしいですね」
「そうらしいですね。俺も誘われたのですが、久しぶりの一家団らんの席に邪魔してはいけないと思いましてね。
エドモンド様がくれた美酒とやらを呑みながら語りましょうか」
弟くんの顔が一瞬強ばり、血の巡りが早くなったんだ。ワインがグラスに注がれるのを弟くんはじっとみているよ。
ルドはマグナス調で話し出したよ。
「さっそく千年前の話をしようか」
「はい。ぜひ」
弟くんは我にかえり、嬉しそうに微笑むよ。
「ステファノには話したが、お前とジュストには話していなかったな。実は私は本当の名はマグナスではないのだよ」
「え?」
驚いた顔が面白いと思ったのかルドは笑うよ。
「我が王マグナスが病で死ぬと国が少々混乱してな。彼に近しい私が成り代わった。といってもマグナスではないから、配下の何人かは私を拒否した。魔法も武器でも敵わないと思ったのか、ある方法で私を殺そうとした。何だと思う?」
ステファノは澄ました顔をしているけれど、ジュストは緊張しているのがバレバレだよ。
「毒、ですか?」
「正解。私は王となるべくして王となったわけではない。だから王のように幼少のときから毒にならすことはしておらず、毒の耐性がなかった。ルドの身体のように」
ルドはグラスをくるりと回してワインを呑むよ。
「どうした?お前も呑め」
カスカータ領主の弟くんに少し動揺が見えたよ。
「いただきます」
口に含むとスパイスのような香りが鼻腔を抜けて、タンニンの苦味が去ったあと微かな果実の甘さが残ったよ。ルドももう一度呑んで、微笑むよ。
「旨いな、これは。エドモンドがお前に預けたそれではないがな」
「そうなんですね。てっきりそのワインかと」
「あとで呑もう。そうそう、少し不思議だったのは明日会うエドモンドが美酒を先に渡したことなんだ。あいつは私にすべて呑まれたくないから、人に預けずに自分で持ってくるんだ。がめついだろう?
先に呑むなとエドモンドは言わなかったのか?」
「いえ、そのようなことは」
「言わなかっただろう。なんせそのワインはお前が用意したのだから」
「え?私が?」
「そのようなことはないと言ってみよ」
弟くんは言おうとして、ルドがじっと自分の目より視線を下に向けているよ。
ルド嘘発見器の前に、観念したのかふっと笑ったよ。
「どうして私だとわかったのです?」
「お前の下女、元奴隷は私とミアの知り合いだ。ミアに会わないようにわざわざマッテオに渡したのだろう?
逆に聞くが、なぜこのような稚拙なことをした?エドモンドが毒にたけているし、ここはグランデフィウーメだからカスカータは疑われないと?」
「おっしゃる通りです」
「弁解は?」
「致しません。すべて私がやりました。兄上…領主はいっさい知りません」
「動機は領土のことか?」
「そうです」
腹をくくったのか命乞いもしないよ。
「お前の子どもが小競り合いで死んだからか?」
「そうです」
ルドは軽く息を吐きながら椅子に深く座ったよ。
「お前が不服なのはわかる。グランデフィウーメは豊かだ。そして欲深い。カスカータの長年よき隣人であったことも、憎き敵であったのも理解している。
三男と四男だったな、小競り合いで亡くなったのは。グランデフィウーメとぶつかれば、お前のような親が増えるだけだ。だから土地を半分にして事をおさめた。お前の兄はグランデフィウーメに土地をやって、その倍の土地をやると言ったら喜んだぞ。でもそこの元領主が削りたくないと駄々をこねたからな」
ステファノは頬をひきつらせているよ。自分はカスカータと同じ意見で、グランデフィウーメに土地をやりたくなかったんだと言いたげだよ。
弟くんは少し黙ってから、呟くように話し出したよ。
「子どもが死んでまで守ろうとした土地を奪われるのが我慢なりませんでした。息子たちだけではなく、我が国の土地を兵士たちが命をかけて守ってくれています。それを何もない場所だからといってくれてやろうとは。国土はあなたのもので、あなたの身です。陛下は何も思われないのですか?
陛下はグランデフィウーメに甘いです。我が国の方が大きいのに何故強く出られないのです?」
ステファノも大きく頷くけれど、黙っていたよ。
「国土は王の身ではない。数多の民の暮らしている地である。
強く出ると言うことは力でねじ伏せると言うことか?
…故郷の土地が、人々が血で染まるのが嬉しいと思うの?殺される民は俺の親戚かもしれない。戦争を回避しない理由にならないの?それとも殺してほしかった?」
「あなたはルークススペース国の王です。今守るのは故郷ではない、あなたの国でしょう!」
弟くんは珍しく怒ったよ。ルドは冷ややかに笑みを浮かべるよ。
「グランデフィウーメもいつかは我が国となる。だからあの国境はなくなり、我々のものになる。
俺にとってはあの小さな土地は些事であったが、お前たちにとっては大きな土地であったのだな。
理解しきれなかったことは詫びる。
ただ自らの主張のために、致死に達しないからといって王に毒を盛るのはよろしくないな」
カスカータ領主も弟くんもルドの計画は知らされていなかったよ。だから、思い詰めちゃったのかもしれないね。
「…何故。何故それをおっしゃってくださらなかったのですか?」
「言えばいつグランデフィウーメを取り込むかと聞くだろう?今は国を大きくするよりも発展させ、貧しい者を飢餓から救うことだ。
お前が毒を盛ったと言うことは、俺はお前にとって王の器ではないと思ったからだろう?成り代わりたかったなら何故猛毒を使わなかった?」
ワイングラスをくるくると回すけれど呑まなかったよ。
カスカータ領主の弟くんはずっとそれを見ていたよ。
「私は陛下を嫌いでも憎んでもいません。マグナス陛下を敬愛しております。ただルド陛下は…」
黙ってしまったよ。
自分のところの下女使うし、ルドに毒を盛ることは計画的だったとは考えにくいよ。計画的だったらもっと上手い方法があったはずなんだ。衝動的にしてしまったようだね。
「俺が農民出だから許せないか?この身体を殺せば俺とマグナスも死ぬ。
お前の気持ちはわかるが、致死に至らぬとも誰かに毒を盛るのは許されない。
それ以上許せないのは、お前が信用を裏切ったことだ」
ワインが急に膨張してグラスを割ったよ。破片が散り、テーブルクロスを赤く染めていったよ。
「千年前のことを思い出したと言っただろう?」
カスカータ領宰相はルドの震えた声と強い眼光に息を飲んだよ。
「神使たちはあたたかく、ステファノもえげつない方法は避けるから忘れていたよ。人は笑顔の裏では憎しみを抱き、今日腕を組んで踊ったと思えば、明日刃を突き立てる。
敵軍に包囲されたマニュスの弟を助けにいって、そいつに刃を向けられたことがあったな。あのときも今と同じように沸き立つような感情を抱いたものだ。
この世に冷たい冷たいところがあったことを、思い出させてくれてありがとう」
くつくつと笑いながら立ち上がって、テーブルクロスについた染みを見たよ。赤いワインが浮き出て小さな水玉になったんだ。テーブルクロスには微かに赤く残されていたよ。
「千年前は家臣たちが見せしめに、生きたまま門に吊るせと言ったからそのようにしたが、お前はどうしてほしい?」
「あ…あぁ」
ヴィペラ事件を思い出したみたいだね。ガタブルしているのを不愉快そうにルドはしているよ。
「死ぬと分かって俺に毒を盛ったんじゃないの?奴隷の少年が俺に魔法を放ったときと同じように、許されると思った?ねえ?」
宙に浮いた血のような赤黒い水が震えたよ。
「っ!兄ちゃん!だめだ。ここで殺したら!」
ジュストが叫ぶよ。カラカラに舌が口にはりついて、情けない声になってしまったけれど。
「どうしてだめなの?」
「どうしてって。私怨で犯人を殺すことを防ぐために法を作ったのは兄ちゃんだよ!もし殺しちゃったら兄ちゃんが…」
ルドが今度は裁かれるよ。
無表情に見つめるルドが恐かったけれど、ジュストは勉強したことを一生懸命話して、ルドが復讐してもいいことはないと言ったよ。
ルドは魔法を止めると浮いていたワインは落下したよ。
「…ジュストの言う通りだ。凄いな、ジュストは。いつそんなに法律を覚えたの?」
いつものようにルドは微笑みを浮かべているよ。
ステファノはふぅと長い息を吐いて、自分が肩の力が入っていたことに気づいたよ。
カスカータ領主の弟くんも息を吐いてから、ルドを見上げたよ。
「あなたは今ルド陛下なのですか?」
マグナスのような性格なのに、ルドの口調のときもあって混乱したんだ。ルドは寂しそうに笑うよ。
「ずっと俺だよ。千年前の記憶は誰のものかわからない。お前に毒の耐性がないと言ったのはマニュスだった」
「どういう?ずっと陛下とは?霊が憑いているのではないのですか?」
ルドは割れたグラスの破片を眺めているよ。
「エジリオも教会も俺については霊憑きという判断を下した。神々の教えにはない現象だからだ。
死にゆくお前に語ってもいいけど、ここにはステファノとジュストがいる。異端審問にかけられたら困るんだ。だから教えない」
ステファノは心当たりがあったよ。ルドとエジリオが、やたらゲレルの長老から宗教について聞いていたと息子から報告があったからね。転生という考えもステファノも知っていたよ。
自分の王は神々の教えの外の存在なのか。
エジリオに確認したけれど、霊が憑いているとしか言わなかったよ。
もし本当に転生者ならば、消すべき異端の者なのか、あるいは新たに神々が教えを示しているのか。
ステファノは判断がつかないよ。ただ今のルドが霊憑きという言葉で片付けられないということだけはわかったんだ。
「中央の言葉がわかる人間が一人いなくなる。本当に残念だ」
もう話すことはないと護衛を呼んで、カスカータ領宰相を教会の一室に監禁するように命令したよ。首都オリゾンテに護送されることになったよ。
ステファノも事実関係を調べるように指示してから、マッテオを呼びつけたよ。
「親だとかいう割りには、陛下を危険な目に合わせているではないか。出どころが分からないものや見知らぬ者から受けとるな」
「これは奴隷なのだ。毒味をさせたらよいのでは?」
事情を聞いたステファノの息子も蔑むように言うよ。マッテオは言い返すことができなくて、うなだれているよ。
ルドも迂闊だったと思うし、自分がいけなかったと反省したよ。だけどマッテオを庇おうとすればするほど、奴隷だからってステファノたちはマッテオを責めるし邪険にしたよ。
「やはり陛下のお側に置いておくべきではない。この件について罰するべきだ」
ステファノの含みにルドは危険だと思ったよ。このままマッテオをそばに置いておけばカスカータ宰相のように利用する人も出てくるかもしれない。ステファノをはじめ、人殺しである奴隷マッテオをルドのそばに置くのをよくないと思う人がマッテオを消すかもしれない。
そう、マッテオが殺されるかもしれない。
「私どもは不手際のあった使用人や奴隷は役目から外してきました。このマッテオを父と思ったとしても、彼は奴隷であり陛下の実の父君ではありません。例外と扱えば規律が乱れますゆえ、ご判断を」
ステファノがここぞとばかりマッテオを追い出しにかかるよ。
マッテオは不安そうに集まった要人をみているよ。
ルドは目を伏せてから深呼吸したよ。
「わかった。マッテオを神殿から追放する」
「ルド?」
思ってもみない言葉にマッテオは驚いたよ。ルドはマッテオを抱きしめてから、両腕をつかんで言い聞かすよ。
「マッテオ、よく聞いて。マッテオは利用されたんだ。俺のそばにいたらマッテオが傷つくかもしれない」
「利用?今回は俺が馬鹿だったよ。それはわかったよ。もうしないから。追放ってなんだよ。二度と会えないのか?せっかく会えたのによ!一緒に暮らすって言ってたじゃないか。俺たち家族だろう?」
「…ごめん、マッテオ。またあの家でマッテオと暮らしたいけど、王様をやめたら俺の願いは叶わない。ごめん。
元気で」
護衛を呼んでマッテオが暮らせるよう、家とお金を用意するように言ったよ。
「ルド、そんな…」
「…連れていって」
「ルド!ルドォ!!」
護衛たちに捕まれて叫ぶマッテオに背を向けて、耐えるように目をつぶったよ。
「ご英断です、陛下」
ステファノに褒められたけれど、全然嬉しくないよ。
「しばらく一人にさせて」
ステファノたちは黙って部屋から出ていくよ。ルドは手を叩くと隠し扉から男の子が出てきたよ。
「お呼びでしょうか?」
「ちょうど君を呼びたかったんだ。話しは聞いていたかな?」
「はい。マッテオ様のことは俺たちも心配していました。陛下の親の顔をする奴隷と、よく思わない貴族の人も多かったので」
「俺も知っていたよ。言わせておけばいいと思ったけれど、こんなことになってしまった。お願いがあるんだけど」
少年は笑ったよ。
「陛下に救われた命です。何でもご命令を」
お願いをしてから、寝室に向かったよ。ミアが心配そうにお食事はと聞くけれど、まったく食欲がなかったよ。
いらないと言ってから寝室に入ると、キアーラが待っていたよ。
「キアーラはごはん食べたかな?」
「いいえ。あなたこそ、まだでしょう。一緒に食べましょう」
「やめておくよ。疲れてしまった」
ルドはキアーラと目を合わせないでベッドに腰をおろしたよ。キアーラはルドの隣に座ったよ。
「聞いたわ。マッテオさんのこと。よかったの?」
ルドはごろんと寝転んだよ。
「キアーラ。一人にさせてくれ」
「あなたのせいじゃないわ。カスカータのせいよ。あなたは正しいことをしたの。息子が死んで、それを恨んであなたに八つ当たりを…」
「あいつのことは今は言わないでくれ!ひどい気持ちになる!すべてを疑いたくなるんだ」
会うたびに千年前のお話をと乞われて目を輝かして、中央の言葉を話そうとした。それがルドは嬉しかったんだ。
裏切りにルドは酷く傷ついて、誰も信じられなくなりそうだったよ。
キアーラは服を緩めて血の巡りが見えやすいように胸をさらけ出して、ルドの腕に手を置いたよ。
「私は嘘をつきません。あなたを裏切りません。
あなたを喜ばそうとしてちょっといたずらを考えて、嘘をつくことはあるかもしれませんが」
キアーラは一生懸命、ルドを励まそうとしたんだ。
ルドは白い素肌をずっと見つめていたよ。
人は嘘をつくけれど、その嘘は全部が悪意というわけではない。
起き上がってキアーラを抱きしめたよ。
「ありがとう。君を信じているよ」




