25話 暴君ルドの話21
プラテリアのチーズはゾリグの舌に合ったらしく、食事の度にチーズ、チーズと言うようになったよ。
「このままだと全部ゾリグに食べられちゃいそうだ。妻たちにも食べさせてあげたいから我慢してほしいな」
ゾリグはチーズよりルドの妻に興味が移ったみたいだよ。
「光帝陛下の奥方はどういう方ですか?」
通訳さんも興味津々みたいだよ。ルドはにっこり笑って、とても美しい人なんだと言ったよ。
我慢五分だけど。
首都オリゾンテに着いたゾリグは、見たことのない大きな街にキョロキョロしっぱなしだったよ。
「お帰りなさい。陛下」
キアーラが出迎えるとルドは抱きしめて頬にキスしたよ。
「無事に終わったよ。プラテリアのチーズも持ってきたから一緒に食べよう」
「まあ!楽しみだわ」
「ジェンテ・デル・カヴァッロの王の子を預かったんだ。紹介するよ」
その王の子はぽーっとキアーラを見ているよ。ルドは何回か呼ぶとやっと我にかえって、ゲレルの言葉で挨拶をしたよ。
キアーラは何この獣臭い子と思っているけれど、ルドが連れてきちゃったのだから仕方ないと挨拶をしたよ。またゾリグがぽーってなっているから、ジュストはにやにやしたよ。
「ゾリグはキアーラ姉さんに惚れたのか?」
からかうとゾリグは顔を真っ赤にして怒ったよ。
「そんなことはない、こんなに綺麗な人を見たのは初めてで…ぷぷ。ごめんなさい」
通訳さんは我慢しきれずに笑うとゾリグは顔を真っ赤にして、ポカポカ叩くよ。
改めてキアーラにゾリグが人質であることを話すと納得してくれたよ。
「あなたがまた養子にしたのかと思いました。私との子はいらないのかと」
「何をすねているんだい?そんなことはないし、しばらく視察にはいかないことにするよ。今夜は一緒にいよう。
しまった、風呂に入らず君に触れてしまった」
「そんなの気にしないわよ。本当にお風呂好きね」
ラブラブなのを見せつけられて、ゾリグの恋は瞬殺されたよ。
水は貴重だからレナータの多くの地域では入浴の習慣はなくて、農民でも貴族でも身体を拭く程度だったよ。
ルドは自称マニュスの記憶が現れてから、毎日お風呂に入らないと気が済まなくなったみたい。中央には温泉が各地にあって、入浴の習慣があったんだ。
首都オリゾンテの中心街には天然の温泉がないから、水を沸かしてバスタブにお湯を張るしかないんだ。水不足のときはルドが自分で魔法を使ってお湯を張ったらしいよ。
ルドの帰還を聞きつけて、学校を抜け出したアズーロとローザが抱きついて無事を喜んでくれたよ。
「マッテオ、お願いがあるんだけど」
ルドのお願いは、三十過ぎのマッテオに異国の言葉を覚えるという困難を与えることになったよ。
マッテオにゲレルの言葉で水晶に紋様を刻んでもらおうとしたんだ。それが、通訳さんやゾリグに何度も発音が違うと怒られて、マッテオは泣きそうになったよ。
「俺らの言葉ではダメなのか?」
水晶に魔法の力が宿っているのか実証実験からはじめたんだけれども、レナータの言葉でもできるかはまだ試していないよ。
「試してみようか?呪文は?」
エジリオが書いたのを見せるけど、マッテオは文字が読めないんだ。
聞いて覚えるしかないから、これまた長い呪文でマッテオの受難は続くよ。
「別の人は?」
エジリオが変えた方がいいんじゃないかって匂わせると、明らかにマッテオは安心するよ。
秘密を守れてさらに魔法が使えないという人を連れてくると、調べたら魔法が使えたりして、人選に手間取ったんだ。
それまでマッテオが頑張るってことになったよ。
何度も復唱するうちに紙に書かれた文字も覚えたみたいで、本人は嬉しかったそうだよ。
「先祖の霊に守ってもらえるように願いながら刻むんだ」
マッテオが苦戦しているのを見ていられなかったのか、ゾリグが助言してくれたよ。
「神様じゃなくて先祖に守ってもらうのか?」
「彼らは先祖を大切にしているんだって。呪文には意味があるんだ。マッテオは言葉の羅列で覚えようとしているから覚えられないんだよ」
ルドは言葉の意味を説明してあげたよ。マッテオはなるほどと思うよ。
「我らの祖先よってところ、神様ではだめなのか?先祖の加護ってやつをもらうなら、俺はゾリグたちの祖先とは関係ないから守ってもらえないぞ?」
「それもあるけれど、レナータの言葉で魔法が発動するかわからないし」
「そっからかよ!魔法の使い手がやればよくない?」
「ここまで頑張ったんだから、やってみようよ」
ルドに励まされてマッテオは呪文を覚えたよ。
ゲレルが使っているナイフを渡されたけれど、あまり綺麗に彫れないよ。
「固いな。本当に綺麗に彫れるのか?」
半信半疑にみんなが思っていると、ゾリグは呪文を唱えながらだと彫れるって言ったよ。
マッテオは言われた通り、呪文を唱えながらナイフを水晶にあてるとバターを削るように滑らかに水晶の表面が彫れたよ。しかも水晶は淡く光ったんだ。
「なっ、さっきと全然違うぞ!」
「光った、ということは水晶自体に魔法の力があるということですね」
エジリオが感心しながら、マッテオにさらに彫ってみてと言うよ。マッテオは楽しくなったのか、呪文をすらすらいいながら彫ったよ。
彫ったところがゲレルの紋様と同じになったとき、また光ったんだ。
「完成だよ」
ゾリグはお疲れっという感じでマッテオの肩を叩いたよ。
「本当に使えるかですね」
ルドはマッテオが彫った水晶をテーブルに置いて、軽く水魔法で打ったよ。そしたら透明な膜みたいなものが現れて、水を弾いたんだ。
「凄い!俺も魔法使えるようになった!」
マッテオは喜んでいるけれど、水晶の魔法の力を借りているだけだけどね。
レナータの人がどうして水晶に魔法の力が宿っていると気づかなかったのかは、魔法が使える人が魔法具を作っていたから、自分の魔法で水晶が光ったり効果が現れたと思っていたんだ。
「魔法が使えない人でも魔法具を作れるということがわかりましたね。これは国の重要な技術であり、資源になります」
ルドが難しい話をしだすと、エジリオは真面目な顔で頷くよ。
「国外に漏れるのはよくないでしょう。国の領主たちには?」
「まだ黙っておきます。宰相とこれから話します。
これで魔法が使えない人でも魔法に携われる。貴族も平民も魔法が使えなくて悔しい思いをしている人の一つの救いになればよいのですが」
貴族は魔法が使えて当たり前なところがあって、使えない人は肩身がとても狭かったんだ。学校には魔法の授業は必ずあるから、使えない人は劣等感を覚える人は少なくないよ。ルドは学校で差別されたり悪く言われていたことを思い出して、魔法のことでつらい想いをする人がいなくなればいいと思ったよ。
魔法が使えないし、不器用なマッテオが魔法具が作れるなら絶対に他の人も魔法具を作れると考えたんだ。
そんなことを考えていたのかとマッテオは感心しながら、ルドの手に水晶を乗せたよ。
「お前が持っておけ。お守りないんだろう?」
「俺が?大丈夫だよ。魔法使えるし、護衛もいるし。マッテオこそ持っていて」
ルドはマッテオにあげるつもりだったみいだよ。
「魔法だって疲れれば使えなくなるんだろう?いざっていうときがあるかもしれないんだ。お前が持っておけ。ま、俺が彫ったものよりいいものが出来たら、それをくれよ」
「わかった。ありがとう」
ルドは微笑んでポケットにしまったよ。ゾリグがふふと笑ったんだ。通訳さんがゾリグが笑った理由を教えてくれたよ。
「お守りは成人の証に自分のために作りますが、想いを寄せている女性や妻ができたときに水晶を取りに行き、お守りを作って渡します」
男から男へはあげないから、それがちょっとゾリグは変なのって思ったらしいよ。
バレンタインのチョコレートを男友だち同士であげる感じかな?
マッテオはジーナに作るとはりきっていたよ。ルドもキアーラに作ってあげようと考えていたよ。
ゲレルの紋様は他の天然石にも使えるのか、色々な実験はブルーノやカリーナたち研究者に任せたよ。
ステファノに水晶のことを話すと、とても喜んだよ。すぐにゲレル国にある採掘場を抑えようと言ったら、ルドが止めたよ。
「彼らにとって聖域でもあります。強制的に奪ったら戦争になるかもしれません。採掘は彼らにやらせて、加工は我が国でやりましょう。プラテリアは辺境で貧しい。技術を教えてもいいのではないでしょうか?」
プラテリアの特産品にしてあげようと考えたよ。ステファノは渋ったけれど、プラテリアはチーズや毛皮くらいしか売るものがなくて、武器や工芸品などはよそから買っているよ。
採掘場所から近い加工場があるのは、運ぶ手間も省けて便利だしね。
ゲレルが採掘した水晶をプラテリアが買って加工して売ることになりそうだけれども、国としてはどこも絡まないから利益がないとステファノは考えたよ。
「税をかけるとか」
「プラテリアが嫌がりそうですが。何かいい案は…。そうだアリエーテ神使様に知恵を借りましょう」
「アリエーテ神使様?裁きの神様の神使様ですよね?」
「神使になる前は商人だったそうですよ」
アリエーテには法や裁判についての仕事をしてもらっていたよ。神殿にいたみたいで、すぐに来てくれたよ。
「蛮族との戦争の勝利、おめでとうございます」
お祝いを言ってもらったけれど、ルドは訂正したよ。
「我々はジェンテ・デル・カヴァッロを蛮族と呼ばないことにしました。彼らの国はゲレル。とても興味深いことがありまして」
水晶が採れる上、魔法の力が宿っていることがわかったこと、防御の魔法具を作る技術をゲレルが持っていたことを話したよ。
「蛮族にそのような知識が…。魔法が使えない者が魔法具を作れるとは不思議ですね。
それでプラテリアに作らせ、国としてはどこかで利益がほしいということですよね?手は色々ありますが」
まずは原料の水晶の採掘を国営でやる方法。ゲレルたちに採掘してもらうけれど国が管理や運営をし、プラテリアに売るという方法だよ。ゲレルが勝手によそに売ったり、よそが勝手に採掘をすることを防げるよ。ステファノは一番それがいいと思っていたよ。
あとは加工したものを国が買い取り、売るという方法。誰に売ったかがわかるというメリットがあるよ。
「採掘量と加工品の数、もちろん失敗作も含めて管理できれば、ゲレルまたはプラテリアが国以外のところに流すことを防止することができます」
魔法具がたくさん造られるようになれば、味方の防御力が上がるけれど、敵国や仲の悪い領主の手に入ったら相手も防御力上がっちゃうよね。戦争を有利にしたければ道具の性能をあげたいというルドたちの考えを読んで、アリエーテは神使らしくない商人の考えで提案したよ。
「原石を買ってプラテリアに売る。加工したら国が買って売る。国が間に入ることで高くなりそうですね」
ルドは農民出だからか、高価なものに馴染めないみたいだよ。
アリエーテはいえいえ違うと言うよ。
「国が出所を保証しているわけですし、質も上質ですよとお墨付きにもなります。現在紛い物が多く出回っていますので、商人たちは本物か確かめる方法がなく、あまり魔法具は扱いたくないんです。ほら確かめるとなれば魔法が使えなくてはなりませんし、回数制限があるなら確認分が無駄になり、価値が下がります。
国の証明がついているのは本物だということになり、試さなくてもよくなる上、付加価値もついて多少値上がりしても、商人や貴族も買うでしょう。販売権を国が持っていれば、硬貨のように世の中に流れているものを操作できます」
ルドは商人的な戦略を考えるのは苦手だから、アリエーテの助言はとても助かったよ。
「一儲けできそうな素材ですね。ふふ。
あっいけません。昔の癖が。欲を捨てて神々に全てを捧げなければならないのに」
アリエーテは懺悔をするから、ステファノは自分は俗物でごめんなさいと心の中で神様に謝っていたよ。少々の欲はこの地に天の国を作るためだからね。
ステファノはマッテオが彫ったお守りを見て何か閃いたよ。
「陛下は指輪はされないので?」
「指輪?うーん手にはめていると気になっちゃって、あまり好きではありませんね」
それでも薬指には結婚指輪をしているよ。とてもシンプルで宝石類ははめこまれていないよ。
結婚指輪の起源は諸説あるけれど、ルドの時代には指輪をはめている人は多かったみたいだよ。
ルドはいらなそうだけれどもステファノは何か考えがあるみたいで、ルドの指のサイズをはかったよ。
ルドはそんなことを忘れて、水晶の研究の報告を楽しみにしていたよ。
ゾリグといえば、チーズブームが去るとパスタブームが来たみたい。毎食パスタパスタって言って、ルークススペースに来て初めて持ったフォークで器用に食べていたよ。ゲレル民はスプーンや箸を使って食べていたみたいだよ。スプーンメインか箸メインか、その氏族によっても文化は違ったらしいよ。
ゾリグはスプーンしかなかったようだから、くるくる回して食べるフォークが楽しかったみたい。
プラテリアやフォレスタから略奪したときにパスタも奪ったけれど、美味しいゆで方を知らないから、そのままバリバリ食べるか、伊勢うどんみたいにぐにゅぐにゅになったのを食べていたらしいよ。
プラテリアと仲がよかった長期定住の氏族はゆで方を知っていたから、おいしいパスタをフォークを使って食べていたよ。
「パスタはアルデンテが一番おいしいのです!」
ミアは美味しそうに食べてくれるゾリグを可愛がっていたよ。
「ミア、ミア。パスタ!モルト・ブォーノ!」
ゾリグは人の名前と食べ物を覚えるのが早かったらしいよ。あとは女の人を褒める言葉とか。マッテオが教え込んだらしいけれど、恥ずかしくて本命にはなかなか言えなかったようだよ。
数年後の話だけれども、ゲレルの言葉を覚えた奴隷がいて、ルドが平民にしてあげたら通訳さんになったよ。通訳になった元奴隷さんたちは、プラテリアで大活躍することになったんだ。
それまでは言葉が通じなくてみんな苦労したよ。ゾリグは不便と感じていないのか、ルークススペースの人とコミュニケーションとったよ。プラテリアの貴族を介して文字の書けないグチュルクと手紙のやりとりをしていたんだけれども、どうやらゾリグはやんちゃで手を焼いていたらしいよ。
ルドは押し付けられたのかとモヤッとしたけれども、ゾリグは持ち前の好奇心でルークススペースの文化に慣れていったよ。
怒涛のように一年が過ぎた年の暮れ。ルドは夕飯を家族一緒にとることにしたんだ。マッテオたちだけではなく、ゾリグも呼んで大所帯になったよ。
ミアが気合いを入れて、みんなの分のごはんを作ったよ。
特別なご飯だと聞いてゾリグは楽しみにしていたけれど、ソーセージとレンズ豆を煮込んだものとパンが出てきて、ゾリグはあれっと思ったよ。大きな牛の肉が出てくるのかなって楽しみにしていたようだね。
「レンズ豆は形が硬貨に似ているから昔から、その年の最後の日に食べるとお金持ちになるって言われているんだ」
日本では大晦日に長生きできますようにって年越しそばを食べる人が多いけれど、レナータでも年末に願掛けをしたみたいだね。
ゾリグはうまいうまいと食べて、いわれは忘れてしまったようだよ。
「ルドは金持ちだから食べなくていいだろう?」
マッテオが冗談を言うとルドは宙を眺めながら笑うよ。
「財政はあまりよくないよ…。もっとレンズ豆食べておく」
コンキッリア山の塩とゲレル国の水晶で財源確保したルークススペースは順調に行くと思われたよ。でも治水や運河作りで大規模な公共事業をしているから、お金はギリギリらしいよ。
「難しい話は置いておいて。来年もみんなで食事をしよう」
そう言うとみんなが楽しそうにごはんを食べて、ルドはとても幸せだったよ。
でも新年早々、カスカータとグランデフィウーメが小競り合いを起こしたという一報で、ルドは短期の単身赴任決定になってキアーラが怒っちゃったよ。
「私も行きます!」
離れるのイヤイヤキアーラに負けたルドは、キアーラも連れてカスカータへ向かったよ。
マッテオとジュストが久しぶりにグランデフィウーメに行きたいと言うから、一緒に行くことになったよ。
小競り合いの原因はというと、国となれば領土はどこまでって決めるよね。隣り合っているカスカータとグランデフィウーメは、長年未解決の境界線があったんだ。
ルークススペース国がカスカータの言い分を聞いて、国境を決めたものだからグランデフィウーメは不服だったけれどもルークススペースの兵力を知っているから我慢していたよ。
だから腹いせにカスカータの領地付近に兵をちらつかせていたんだ。
常にスクランブル状態のカスカータはとてもストレスだったよ。グランデフィウーメも攻撃しないで、数人の偵察隊が領地の境界付近を出たり入ったりするんだ。
我慢できなくなったカスカータの兵が攻撃しちゃって、グランデフィウーメも迎え撃ってしまったんだ。互いに小隊同士だったけれども、犠牲者がでる事態に発展してしまったよ。
ルドは双方の言い分を聞いて仲裁しようとしたんだ。この態度にカスカータ側は失望したというよ。
同盟領とはいえ領土侵犯をしたんだ。王様は戦争するくらいの強気でいてくれると思っていたんだ。
平和主義のルドとカスカータ側の温度差が浮き彫りになってしまったよ。
「妃がグランデフィウーメ出身だから強く出られないんだ。婚姻と政治は別だって言ってたくせにっていうのを、カスカータの貴族が話をしているのを聞いた」
ジュストが教えてくれたよ。
近ごろ悪い話はルドの前では出ないから、おかしいなと思っていたよ。みんな下手な話をすると追求されるし、嘘発見器のルドが怖いと思っているみたいなんだ。
ルドは争っている土地は狭いし岩ばかりであまり魅力に思わなかったし、グランデフィウーメにあげてしまって、カスカータに土地か何か他のものをあげて早くことをおさめようとしたよ。
そのことをステファノに言ったら、グランデフィウーメになめられるから、絶対に渡すなと言ってきたよ。
ステファノはグランデフィウーメをあまり好きじゃないからね。この際だから戦争してグランデフィウーメの領地を奪ってしまえって、考えていたみたいだよ。
争っている土地を半分にして分けてみようと言うと、カスカータとグランデフィウーメは不満そうだけれども納得してくれたみたい。ルークススペース議会でもルドの案が可決されたよ。自分の領地ではないから、各領主は興味ないみたいだよ。
ステファノはルドの判断にケチをつけまくったけれどね。
やっと終わったとグランデフィウーメの教会で一息ついたよ。拠点は一度閉鎖したけれど、グランデフィウーメ領主から詫びがあったから、また使わせてもらうことになったよ。
キアーラは父親のいる城はすぐと隣なのに頑として顔を出さなかったよ。エドモンドはルドがグランデフィウーメ滞在期間中に実家に帰っていたけれど、親から結婚しろと言われていたらしいよ。
同行したマッテオはというと、ルークススペースとは違って教会の外に出ないようにしたよ。それでも気晴らしに庭に出て花壇に何が植えられているか見ていたよ。お仕事は力仕事だけれど、植物を毎日見ていたから興味がわいたみたいだよ。
「マッテオ殿、でしょうか?」
花を眺めていたら後ろから声をかけられたよ。若い下女がワインのビンを手にして立っていたよ。
「エドモンド様より、美酒が手に入ったと陛下に渡してもらえるように頼まれまして。教会に行くところをマッテオ殿をお見かけしたので、陛下にお渡ししていただけますか?」
マッテオはこの下女をどこかでみたことがあったけれど、思い出せないよ。
「わかった。渡しておくよ」
ワインを受け取って教会の中に入ろうとしたときに、ミアの声がしたよ。
先ほどの下女と知り合いらしく、夕食の材料をいれたかごを持ったまま、ニコニコ話していたよ。
マッテオは楽しそうだなと思いながら、ルドの執務室に顔を出したよ。
お仕事中みたいだね。またあとでと思ったところをルドが声をかけてきたよ。
「マッテオどうしたの?暇?」
「暇すぎて死にそうだ」
「死ぬは言い過ぎでしょう。マッテオにお願いできることは何かあるかな?ん?何持っているの?」
「エドモンド様から美酒が手に入ったからルドにって」
「エドモンドが?ふーん。明日ここに来るから呑もうって言っていたけれど」
エドモンドはルドと呑むときに酒を持ってくるから、差し入れみたいなことはしなかったよ。
せっかくもらったから、今日呑もうということになったよ。
グランデフィウーメに来てもミアが料理を作ったよ。毒見係りにチェックされるから毎回不愉快みたい。
「温かい料理が冷めちゃうわ。パスタ作りたいのに」
配膳しながら愚痴もこぼしたよ。ルドは仕方ないよと笑ったよ。
「みんな俺を気づかってくれているんだし。さてもらったワインを呑もうかな」
「赤ワインと聞いたので、今日は牛肉にしました」
ミアは得意そうにいうよ。マッテオはそんなミアに冗談で言ったよ。
「ミアの料理も毒見したなら、ワインも毒見するか?」
「マッテオが呑みたいだけでしょう?」
マッテオはコルクを抜くとグラスに注ぐよ。ルドは普通のワインの色より赤黒く感じたよ。
「渋そうだな」
マッテオは味見はしないでルドの前にグラスを置いたよ。ルドはグラスを鼻に近づけるとふわっとカシスを思わすような果実感とスパイシーな香りがしたよ。ごく普通のワインだね。
一口含んで舌に転がすとえぐみを感じたんだ。普通のワインにはあるけれども違和感があったよ。
『…は毒の耐性がないから、怪しいと思ったら絶対に口にするなよ』
古い懐かしい記憶がふわりと過ると、ルドは口のものを皿に吐き出したよ。




