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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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22話 暴君ルドの話18

 矢の雨をジェンテ・デル・カヴァッロは馬を巧みに操って、かわしたり盾で防いだよ。


 すばしっこいから狙いを定められずに、魔法の使い手たちは苦戦したよ。


 ジェンテ・デル・カヴァッロに魔法が()たったんだけれど、なんと魔法が消えたんだ。


「魔法が消された?奴らは魔法を使えるようになったか。駄目だな」


 何がと将軍やエジリオはルドを見たよ。ルドは目を軽く伏せてから深呼吸したよ。


「千年前の知識は役に立ちません。相手が魔法を習得したとみて、攻撃すべきです」


「しかし、プラテリアの人間から連中が文字も魔法を使わないと聞いています。何かはったりをしているのかも」


 魔法が消える。


 ヴィペラ父が使っていた魔法の道具が頭に過ったよ。魔法によって発動する道具、つまり魔法具はあまり種類がなくて紛い物が多かったんだ。だから魔法の使い手は魔法具に頼らなかったよ。


「ジェンテ・デル・カヴァッロが高度な魔法具を開発したと思えません。何度かやれば破壊できるようなものかもしれませんので、攻撃を続けましょう」


 魔法具の使用回数があるものがあるよ。魔法具の核になる天然石の中には、魔法をかけると魔法が宿ることがあるんだ。モノに灯りの魔法をかけても光らないけれど、特定の天然石だとずっと光っているとかね。でも効果は時間が経つと薄れてしまうし、持続性があったり何回も使える天然石はとても高かったんだ。


 効果のあるものは高価ってことだね!


 あ、寒い?懐炉(カイロ)あるけど使う?



 魔法の使い手たちはめげずに攻撃をすると、四回(あた)ったジェンテ・デル・カヴァッロの身体に直撃して落馬したよ。


「やはり回数制限があるようですね」


 将軍はさらに攻撃を指示するよ。ルド側の攻撃網を抜けたジェンテ・デル・カヴァッロの一人が飛び出すと、兵列に向かって大人の男の掌サイズの黒い物を投げたよ。


 何だかわからないけど落ちてきたものを人は避けるよね。兵たちは石かと馬鹿にしながら避けると、地面に落ちた瞬間、破裂音と火の粉が散ったんだ。


 音って戦場ではかなり重要だよ。撤退進軍の合図も音だったのもあるけれど、敵が周囲にいるのか、伏兵がどのくらいいるか耳をそばだてて、自分たちより多いと思えば無理しないで引く判断にもなるしね。

 特に馬は音に敏感で臆病な動物なんだ。大きい音に驚いて逃げようとするよ。ジェンテ・デル・カヴァッロの馬は慣らしているのか、堂々走っているんだ。

 

 あ、ジェンテ・デル・カヴァッロが何を投げたかキミは気づいたかな?まだわからない人、すこしヒント出そうかな。


 ルークススペース兵は聞いたことのない音にとても驚いたよ。きっと元寇の戦法に驚いた日本の武士と同じ気持ちだっただろうね。


 わかったかな?


 答えは火薬だよ。元寇が使ったのは、てつはうと呼ばれていたかな。

 ダイナマイトとかそんな威力があるものではなくて、爆竹の弱いのみたいな感じかな。ルークススペース国を含めたレナータ地方ではまだ火薬はなかったよ。


 なんでなかったのか。

 

 魔法があるからね。火を使いたかったら魔法使うけれど、ジェンテ・デル・カヴァッロたちは魔法を使わないから道具を作って生活を便利にしようとしたんだ。


 ジェンテ・デル・カヴァッロがどうして魔法を使わないのか、あるいは使えないのかは、まだ彼らをよく知らないルドには謎だよ。


 何人かフェローチェの兵がいたけれど、爆音を聞いて教会の爆破を連想させたと後日笑いあったそうだけれども、このときの兵たちはパニックになったよ。


 魔法同士ならば見たことのない魔法でも果敢に攻撃したり対応できるのに、小さな石ころみたいなものが大きな音を立てて爆発したことに驚いたんだ。他にも仕込んでるんじゃないかって何人かその場を離れようとすると、周りもつられて浮き足だってしまっているよ。


 こうなってしまえば、隊長たちがいくら鎮まれって声を張り上げても兵たちは聞かないよ。


「なんだ、あれ」


 ジュストは興味津々だけれど、ルドはなるほどと呟いたよ。


「あの石のせいでプラテリアやフォレスタが驚いて兵を引いたのでしょう。破裂音が派手で、火は弱い。中れば怪我をするでしょうけれど、避ければいいことです。

 まずは兵に平常心を取り戻してもらわないと。ジュスト。予定より早いけど、あれやるよ」


「ん?いいの?畑荒れちゃうよ」


「畑は荒れたら直せばいい。人の命は直せない」


 その言葉にエジリオは微笑んだよ。周りにいた兵士や護衛たちは浮き足だっていたことに恥じたよ。


 土魔法のジュストと水魔法のルドなら、落とし穴は朝飯前だから、敵を落馬させるために作ろうと作戦を考えていたよ。でも落とし穴ってことはいくつも穴を掘るから畑が荒れてしまうんだ。簡単には上れないくらいの深さの落とし穴を作って落としてから、土で埋めて殺したとして、そのあとその畑を使うわけだから農民の心情的に嫌だよね。


 ルドはすぐに魔法を展開しようとしたけれども、ジェンテ・デル・カヴァッロがバラバラに動いているから、なるべくひとまとまりになってもらって、落とし穴に落ちてほしかったよ。


 作戦を考えているうちに騎馬隊が敵と戦い始めたけれども、敵の持つ長い槍に突かれて次々に落馬するよ。槍を突いた敵とは別の敵がやってきて、落馬した兵を矢で射るよ。そのヒット率が半端ないし、ずっと手綱を放して、腰を捻って後ろ向いて矢を射つんだ。この技術にルークススペース兵は度肝を抜かれたよ。


 しかも火薬の破裂音に馬が驚いて、多くの騎馬隊が馬に振り落とされてしまったんだ。それを狙って敵は攻撃してくるよ。


 この殺戮(さつりく)をジュストが見ないようにルドは手で目を覆ったよ。


「兄ちゃん。何してんだよ。俺は戦いに来たんだ。俺にも戦わせろ!」


 でもジュストの声は震えていたよ。子どもの強がりかと将軍たちは思っているけれど、ルドは手を放したよ。


「わかった。ジュスト、王属魔法部隊、魔法の兵を!」


 味方の兵を守るように三メートルほどの魔法でてきた兵が二十体現れたよ。


 ジェンテ・デル・カヴァッロも驚いたみたいだね。小さな銅鑼(どら)のようものを打ちならし始めたよ。これにルークススペース側の馬はまたもや驚いていたけれど、魔法の兵はズンズン進んで騎乗のジェンテ・デル・カヴァッロを掴んだりして襲いかかったよ。


 魔法でできてるから攻撃を受けても痛みを感じないから、敵をどんどんやっつけていくよ。


 浮き足立っていた前方の兵が持ち直して、落馬したジェンテ・デル・カヴァッロを剣で倒していったんだ。


 集まったジェンテ・デル・カヴァッロの騎兵は銅鑼(どら)を長く叩く音が鳴り響くと、どうしてか後退し始めて、街からと遠ざかるよ。


「逃がすな!追え!」


 将軍が好機と見て進軍を命令したよ。ルドはモヤモヤしたんだ。魔法の使い手はプラテリア・フォレスタ連合軍にもいるから、兵の数で同数いや遊牧民の方が少ないのに苦戦するとはおかしいと考えたよ。


 ルドは叫んだんだ。


「深追いはしてはならない!まずは街にいるプラテリア領主たちに話を聞く!」


 こうしてルドはプラテリアの街に入っていたよ。ジェンテ・デル・カヴァッロを入れさせないために、全軍は入れずに街の外壁に待機させたよ。


 フォレスタとプラテリアの両隊長はルドに感謝感激の言葉をいいまくるけれど、フォレスタの隊長に指揮権を渡せと言うと難色を示したよ。


 王とはいえ若いし、農民出身の人間に軍を任せるわけにはいかないと思ったらしいよ。


「兵をお貸し(・・・)いただければ我が軍が敵を倒します」


「我が軍とはフォレスタが倒すと言うことですか?」


 ルドは確認しただけで深い意味はないよ。でも将軍は王と自分を差し置いてフォレスタが全軍の指揮をとることに怒ったよ。


「貴殿はここにおわす陛下をなんだと思っているのだ!貴殿らはルークススペース陛下の配下であるのだ。それを!」


 ルドは将軍にまあまあと落ち着くように言うよ。


「長年バラバラだった領主や民が一つの国になったのです。いきなりまとまれというのは難しいと俺も考えていましたし、だから他勢力の侵略を受けた際は独立性を尊重し、侵略を受けた地域の領主が指揮権を持つと定めました。これはすべての領主が賛成で一致しました。

 なので、この場合、フォレスタの隊長ではなくプラテリアの隊長が王である俺に対して指揮権を主張するなら理解できます。ただフォレスタはプラテリアの応援。

 まさかフォレスタ領主はこの戦いで勝利をおさめて、プラテリアを支配下に置こうとは考えてはいないでしょうね?」


「そのようなことはもちろんありませんとも」


 フォレスタはルドの下につきたくはなかったけれど、隣の国がどんな脅威になるかわからないから、とりあえず仲間になっておけば攻撃されないだろうと考えたみたいなんだ。


「それを聞いて安心しました。もしそうであったら、フォレスタは軍法違反で罰しなければなりませんでした。

 今は国の中で割れている場合ではありません。一団になり、戦うときが来たのです」


 将軍や王属部隊の隊長がそうだそうだと合いの手を入れるよ。フォレスタの隊長は居づらくなってきたみたいだよ。


 ルドたちのいるプラテリア城の一番豪華な部屋の扉が慌ただしく開かれたよ。


「報告します!敵兵が!北の砦から出てきてこちらに向かっています」


 ジェンテ・デル・カヴァッロによって落とされた北の砦と領城は十数キロの距離で、農地や牧草地帯が広がっているから見渡しがよかったよ。


 ルドは城で北の砦の方角が見えるところに来たよ。もう敵は数キロ先に迫っていて、護衛から渡された望遠鏡を覗かずに薄く笑ったよ。


「おかしいと思いましたよ。報告では敵は二千にも満たないのに、プラテリア・フォレスタ合同軍がなぜ敗走したのかと不思議で仕方なかったのですよ」


「二千にも満たない?私どもはちゃんと万に届く軍勢で、半数以上が騎馬隊だと陛下とフォレスタ領主様に知らせを飛ばしたと聞いております」


 プラテリアの隊長は必死でいうし、フォレスタの隊長は頬がひきつっているから、これはフォレスタ領主が原因だと誰もが思ったよ。


 フォレスタ領主もジェンテ・デル・カヴァッロに領地を荒らされてたことがあるし、いつも多くて百か二百しかこないからプラテリアが何を騒いでいると考えちゃったらしいよ。


 プラテリアはフォレスタとルドへの知らせは同時に出していなくて、頼れる援軍として近くのフォレスタに先に飛ばしたんだ。それを受け取って、フォレスタ領主は、砦を落とされてパニックになって数がたくさんいると勘違いしたのねと勝手に解釈して、首都オリゾンテにいる自分の弟へ伝書鳩を飛ばしたんだ。


 フォレスタの隊長はフォレスタ領主がルドへ報告した内容は知らないよ。でも領主からプラテリアが万を超す敵兵だとか騒いでるから行ってあげてと軽く言われて、隊長もそうっすねという軽い感じで出陣したみたいだよ。


 ルドの元にはプラテリアの伝令が砦が落ちました!と一報を入れて、そのあとにフォレスタ領主が敵は千か二千らしいという連絡があった。ルドはその情報を元に出発してしまって、あとでプラテリア領主から詳細の伝書鳩が送られてきた。というのが真相らしいよ。行き違い、タイムラグは電話のない時代あるあるだっただろうね。


 一万の兵に半数が騎馬隊という情報にお留守番を任されたステファノは顔を真っ青にしたらしいよ。ルドには五千しか兵をつけていなかったからね。最初は三千ねとステファノが言ったけれど、辛酸なめさせられた千年前の記憶からルドはもっとだと言ったから、五千になったんだ。


 ルドは敵勢を見て動揺している各隊長たちを見渡すよ。


「色々うかがっている時間はありません。皆さんの思いや考えはそれぞれでしょう。でも俺たちは一つの国になりました。ここで一つにならなければ国になった意味がありません。

 我らの神々を信じぬ、異教の蛮族を退け、この地に天の国(パラディーゾ)を築く。その第一歩が、今日この日なのです」


 エジリオもルドの演説に追随するよ。


「神々はルークススペース国に加護を与え、必ず異教徒を破るでしょう。そのためには陛下の元で団結しましょう」


 普通、神使や聖神使なら神々の元でと言うけれど、エジリオは陛下と言ったんだ。そのおかげで、聖神使様がおっしゃっているのだからとプラテリアの隊長はルドに片膝をついて、指揮権をルドに渡すと言ったよ。


 ここまできたらフォレスタが指揮権を主張できなくなったよ。フォレスタの隊長はルドに膝をついたよ。


 ルドはそれを見てから望遠鏡を覗き込んで敵兵を見たよ。最前列は騎馬隊で、遅れて後列に何やら木でできた大きなものを馬に引かせているんだ。


「俺は彼らが魔法も文字も持たない蛮族だと聞いていましたが、あれは砦を破壊できる投石機では?」


 将軍も望遠鏡を覗き込んでまさかと思ったよ。プラテリアの隊長は顔が蒼白になったんだ。


「砦にあった投石機が奪われたんだ。くそっ砦に火を放てば!」


 砦にいた兵は逃げるのに必死で、砦に火を放つ間もなかったみたいだよ。


「敵は使い方は知っているのか?」


 将軍がプラテリアに聞くけど、さあしか答えられないよ。今回の戦いで北の砦では使用されていないけれど、遊牧民だからどこかで戦争しているのを見ていたかもしれないしね。


「あの爆音と火が出る石を投げ込まれたら厄介です。住民の避難は?」


「城の外の民は収容しましたが、中で逃げるところは…」


 ルドもプラテリアの狭い街にぎっしり家が建っていて、壁の外に暮らしているであろう農民たちが広場で大勢不安そうな顔をしていたのを見ていたよ。


 兵が火薬が破裂するのを見てパニックを起こしたのだから、平民が見たら大変なことになるのは安易に想像できたよ。


「投石機は木でできているから先に燃やしましょう。あんなに固まって動いてくれているし、こちらも罠を張りやすい。

 ここからでら、こちらの地盤は少し固いようなので、水脈がはっきりと視えません。将軍、土の使い手を集めておいてください」


「御意。仕掛ける場所は壁の前ですか?」


「少し離れたところがいいでしょう。あちらの騎馬は厄介です。馬を減らしましょう」


 といったけれども約一キロ先で相手は全軍を止めてしまったよ。相手も様子をうかがっているのかとルドは考えたけど、違うのかもしれないと思ったんだ。


 敵の動きはまだなさそうだから、北の砦が落ちたいきさつをプラテリアの隊長に手短に聞いたよ。


 まずジェンテ・デル・カヴァッロが約五十騎が北の砦を襲撃して野戦になりかけたところに、なぜかジェンテ・デル・カヴァッロが逃げたんだ。


 これはなめられてはいかんとプラテリア兵は追いかけると、逃げ帰ろうとしていたはずのジェンテ・デル・カヴァッロの騎馬隊が、急に後ろ向きに体を捻っ矢を放ったんだ。高いヒット率で、兵がバタバタ倒れていくからプラテリア兵が引こうとしたときには遅くて、待ち伏せをしていた敵に周りを囲まれ、矢の雨が降り注いだんだ。


 砦の半数以上の兵はここで死んでしまい、応援にいった部隊も殺されてしまったというよ。敵といえばこのジェンテ・デル・カヴァッロぐらいだったから、砦は小さくて百人はいなかったとされるよ。


 もしもあの軍勢がプラテリアの街へ押し寄せていたらと考えると結構まずかったのに、報告では大丈夫だと言い張るプラテリアとフォレスタのプライドの高さにルドは苦笑しか浮かばないよ。


「陛下が深追いするなと仰られて、助かりました。もしあのまま追いかけていたら北の砦と同じことになっていたかもしれません」


 将軍は冷や汗をかいたよ。別にルドは敵の戦法を知らなかったし、街に入ったのはプラテリアに戦況や敵のことを確認したかっただけだったんだ。


 素直にそんなこというから、将軍は感心するように頷いたよ。


「陛下は飾らない方ですね」


「本当に」


 エジリオも同意しているけれど、ルドはどうやって勝つか思考の中だったよ。


 魔法を使うには一キロは離れすぎているよ。もし敵が動かずにこちらを誘い出す作戦なら、街を出て戦うか籠城するかだね。


 魔法の射程距離は訓練した人なら十メートルくらいで、遠くなると威力が落ちるよ。マエストロクラスになると百メートルに届く人がいたよ。


 だから雨を降らすという上空まで届く魔法を使えるルドは破格なんだ。ルドいわく『視える』ようになれば自然の力を借りて魔法を遠くに飛ばすことができるそうだよ。


「そういえば兄ちゃん。マグナスさんが街を沈めたことがあるんだよね?兄ちゃんならあの距離は届くんじゃないの?」


「実はあれは細工が必要なんだ。まずは地形を知ること。あとはその地形を生かして、事前に地下水をよそへ流しておく。 街の地下が空洞になったところで土魔法で地面を崩落させる。それで街を消したんだ。地下水が多く流れ込んでしまって、抜く量より溜まる量が多い場合は作戦は失敗する」


「結構面倒?」


「ああ、面倒だね。でも成功したときの威力は凄いぞ。プラテリアより小さな街であったが、沈む様を見た隣の国の王が私に従うと慌てて使いを寄越したからな。使者の必死な顔は愉快であった。ふふふ」


「エジリオ様。すみません。マグナスさんが出てきちゃったみたいです」


 エジリオ的には、暴れ馬のマグナスの手綱をたくさんの人のいる前でとりたくなかったよ。


「…ジュスト様はお気になさらずに。それで陛下はどうなさるつもりで?」


「どうもなにも。敵の情報がなさすぎることに腹を立てておる。

 千か二千という話だっただろう?それが万近くにのぼっている。敵勢の全てか?やつらの本拠地は?遊牧民らしく、常に本拠地が移動しているならば追いかけて抹殺するのは阿呆だ。

 親戚単位で行動する連中がこの数になったのだ。あちらもこちらと同じようなことをしたということだ。本当に万を超す民を移動させて暮らすというやり方をしているならば興味深いが…」


「こちらと同じとは?」


 ルドは敵を端から端まで眺めたよ。投石機の組み立てを始めているから、敵は使えるようだね。


「バラバラだった遊牧の民は一つにまとまった。強力な指導者が現れた可能性がある。しかも、統制がとれた軍を持っている。だとしたらかなり脅威だ。ほら、こちらは軍規を無視する輩がいるわけで」


 痛烈な皮肉にプラテリアのせいではないのに、隊長さんが汗だくになっているよ。フォレスタの隊長さんはルドの変化を怪訝そうに見ているよ。


「プラテリアもフォレスタも我が軍であり、陛下の指揮下にあります」


 将軍は噂のマグナスに緊張気味みたいだよ。


「では我が物か見せてもらおう。穴掘り開始!私が魔法で連中を前へ誘き寄せる。

 敵軍がいるあたりの土地が少々草が生えなくなるがいいか?」


「草が生えなくなる?枯らすのではなく?マグナスさんはそんな魔法使えるんですか?」


 ジュストは草を生えなくする魔法があるのは知らないよ。


「私が考えている方法は水属性にはないから、土属性に力を借りる。ジュストは毒の魔法は知っているか?」


「まだ習っていない」


「そうか。聞いただけだ。気にすることはない」


 ルドはジュストの肩を叩いて、城から離れて街の外壁に行くと言い出したよ。


「危険です!」


 将軍やエジリオに止められるよ。


「魔法を的確に操るのはここは遠いし、戦場が見えにくい。攻撃系をするならば私が連中に近づくか小細工がないとあの距離には届かない」


「…承知しました。毒の魔法は何に使うのです?」


 将軍はあれこれ意図を考えているけれど検討もつかないよ。


 ルドは口許を緩めたよ。


「今にわかる」


 城の一室で手持ちぶさたにしていたエドモンドがルドに呼ばれたよ。


「あなたがこの戦いに力を貸すことによって、グランデフィウーメ領主様はどうお考えになる?」


 ルドはたずねるとエドモンドは暇そうな顔から姿勢をただしたよ。


「同盟領として助力せよと(めい)を受けております」


「ではさっそく頼みます。あなたが使える毒の魔法は何ですか?」


「毒?」


 エドモンドが想像以上の数の魔法を挙げてくるから、ルドは感心したよ。


「毒殺されそうになったらエドモンドを疑いますね」


「なぜそうなるのだ!護身と探究心の成果と言ってくれ!」


「では、水に溶けやすいという魔法で…」


「…」


 エドモンドは流されたことに不満そうな顔をしたよ。エジリオは二人のやり取りを笑いをこらえて聞いていたよ。


 ルドが選んだ魔法にエドモンドは不思議に思ったよ。


「その魔法は水に薄めると殺傷能力は低いぞ?」


「でも一番疲れないのでしょう?一番体力を使わず、敵にダメージを与えるのに効果的な方法がいいです」


「それはそうだが」


「エドモンドは敵の戦闘能力をみてどう思いました?」


「厄介だなと思ったが?」


「敵では厄介ですね。味方になれば?とても力強い戦力になります」


 エドモンドは目を丸くしてから、ルドの後ろに立っていた将軍とエジリオを見たよ。二人も驚いているよ。


「陛下、まさか蛮族を取り込むつもりなのですか?」


 将軍はエジリオをちらりと見るよ。味方にするということは異教徒が国に入り込むかもしれない。教会は認められないことだよ。


「神々のご加護のない彼らに教えを説くのです。きっと彼らも神々の教えの素晴らしさを理解して、神々を信じるでしょう」


 ルドはエジリオにニッコリと笑いかけるよ。ジェンテ・デル・カヴァッロを改宗させよと言っているんだ。


「ジェンテ・デル・カヴァッロが陛下に忠誠を誓ったとなれば、私は神々の使いとして神のご加護のないあわれな民に教えを説きに行きます。ただ問題なのは…」


「言葉が通じるか、ですね。こちらも交渉するのに言葉がわからないとできません」


 プラテリアの隊長を呼ぶとやつれた顔の領主も来たよ。


 街の外壁を敵に囲まれた状況になって、ずっと神々に助けを乞うお祈りをしていたみたいだよ。だからルドが来て会議をしているのに来なかったんだ。


「も、申し訳ございません。陛下をお迎えもせずに」


 作戦が始まったと聞いたから、余計に会議をすっぽかしたことがまずいと思ったよ。跪いてルドに詫びたんだ。


「お祈りをしていたなら仕方がありません。不安だったでしょう。王である俺が来たので安心してください。

 お疲れのようですが、休めていますか?これから戦闘になりますが、もしものときに逃げられないのは困りますから、今のうち休まれた方が」


「と、とんでもない!陛下が自ら戦うと聞いております。それなのに私が寝ていることはできません。私もいざとなれば領主として民を守るため戦う所存です」


 プラテリア領主は怒られなかったことと、むしろルドの心遣いにジーンときてしまったみたいだよ。


「ではあのジェンテ・デル・カヴァッロの言葉と話せる者と、彼らをよく知っている者を連れてきてください」


「承知しました。しかし、どうして?」


 プラテリア領主にルドの推測したことを話したよ。家族単位で動いていた遊牧民が一つにまとまって国を興したのではないかってね。


 プラテリア領主もジェンテ・デル・カヴァッロの変化に戸惑っていたようだよ。


「それはありますね。数百年前に奴らがこの地に来たときには、軍勢のようだったと記録があります。まだ私の先祖はこの地を治めておりませんでしたが、様々な有力者が治めていた土地が乗っ取られたと聞いています。同じことが?」


「おそらく。彼らがこの地に移動したのは、追われてか、住んでいた地に牧草が育たなくなったのか。今回は数年前の熱波によるものかと」


「熱波はあるでしょう。陛下が来てくださらなかったら、この地も枯れたままで私どもは飢え死にしておりました。奴らの土地も酷いと聞いております。奴らの土地と行き来している農民がおりますので、連れてきます」


「頼みました」


 プラテリア領主たちが部屋から出ていくとエドモンドに聞いたよ。


「そういえば、自称俺の弟子はどこに行ったのです?」


「馬車を降りたときは見かけなかったが?」


「まさか馬車に乗ったままではないでしょうね。外壁に行くついでに見ていきましょう」


 物資が置いてあるところにいくと、何台か馬車が置かれていて、守るように兵が数人立っているよ。


「マエストロ・ブルーノは見かけませんでしたか?」


「はっ!こちらの馬車におります」


 ドアが開くとうずくまって、死にたくないって呟いてガタガタ震えているブルーノがいたよ。


「マエストロ!」


「へ、陛下!それではブォナノッテ」


「何がおやすみなさいですか!今はお昼です!何のためにあなたは来たのですか?

 これから俺が雨を降らせるからあなたも手伝ってほしいと思ったのに」


 ブルーノはがばっと身体を起こしたよ。


「つ、ついに天候を操る魔法を教えていただけるのですね!」


「そう思ったのですが、ここでお昼寝(ピソリーノ)するなら仕方ないですね」


「寝ません、寝ません。今物凄く起きています!」


 馬車から出てきたブルーノはやる気アピールしてきたよ。


「では魔法部隊。マエストロと共に作戦お願いします」


 ジュストが前に出るとブルーノが一歩下がったよ。


「ジュスト様もいらっしゃるということは…。穴堀りはいやだぁ」


 ブルーノはドナドナされました。



 ジュストはルドに力強く頷いてから、騒いでいるブルーノを連行している兵の後をついていくよ。


 ルドはジュストを急遽(きゅうきょ)兵士見習いという立場にしたんだ。これなら人を殺しても兵士だから地獄(インフェルノ)に行かないと考えたよ。


 ルドも特別に神使兵にしようという意見もあったけれど、ルドは拒否したよ。


 罪を犯せば死後必ず裁きの神(ジュリシーオ)の元に行き、裁きを受ける。神様に会いたいがため免罪される方法を取らなかったんだ。


「この(せい)の後に裁きの神(ジュリシーオ)様に会えるのだろうか。会えたら聞きたい。どうしてビゴンは生きていて、ロレンツォが死なねばならなかったのかを。

 どうして俺が転生したのかを」


 ルドは兵が慌ただしく行き交う外壁の上に立って、敵兵を眺めて呟いたんだ。


 その呟きは誰にも聞かれず、草原の草と土の匂いを運んできた風に消されたよ。


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