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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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21話 暴君ルドの話17

 ルドは一ヶ月の半分以上は首都から離れて各地を視察に行ったりしたんだ。何日も首都オリゾンテの神殿に帰らないから、お留守番のキアーラは寂しかったみたいだよ。


 帰ってくる度にルドは今日の夜は!と意気込むけど、色々重なってキアーラとイチャイチャできていないよ。


「結婚して半年。それはないだろう…」


「わかっていることを言わないでくれる?エドモンド」


 ルドは珍しくやけ酒を飲んでると、エドモンドもつきあったよ。エドモンドは一年だけ、ルドの付き人をすることになったんだ。


 グランデフィウーメ領主から探りが入っているみたいだけど、エドモンドはうまくかわしているみたいだよ。


「夜遅くまで飲んでないで部屋にいったらどうだ?」


「キアーラが朝に熱があったらしいから、俺に風邪をうつしたら嫌だからとかで今日は逢っていない」


 ふっと嗤って酒をあおるよ。エドモンドは気の毒に思いながら、ルドに酒をついであげたよ。酒が空になったからエドモンドが呼び鈴を鳴らしたんだ。


 世話係の女の人ではなくて、マッテオが水を運んできたよ。ルドしかいなかったらズカズカ部屋に入るけれど、エドモンドがいるからドアの前で入室の許可を待ったよ。


「マッテオ、そんなのいいからお酒」


「ルド、飲み過ぎだぞ?明日、アズーロとローザの試験を見に行くんだろう?二日酔いとかいったらダサいぞ?」


 (さかづき)に勝手に水をドバドバ入れるから、ルドは怒ったよ。


「何割ってるんだよ!ワインが薄くなるじゃない!」


「はい、酒は終わり。顔も赤いし、目がとろんとしてるぞ」


 ルドの頭をぞんざいに撫でられるのは、ルークススペース国内でマッテオだけだろうね。


「こどもあつかいしないの!俺はおとなだ!マッテオものむ?」


「俺はいいよ。また今度な。担がれたくなかったら、歩けるうちにベッドへいけ」


「わかったよ~」


 と言いながら千鳥足だから、マッテオは仕方ないとルドの腕を掴んで部屋に連れていってあげたよ。


 次の日、二日酔いのままアズーロとローザの昇級試験、つまり飛び級するための試験を見に行ったよ。文字や基礎知識がなかったから、年齢よりも低いクラスに二人はいたんだ。魔法に関して大人顔負けだから、他の子どもたちとレベルが違いすぎて浮いちゃってたんだ。


 飛び級の初めてのケースたがら、ルドが視察に行ったよ。二人は筆記試験を終えて、魔法の実技試験のときに緊張していたけれど、ルドの顔を見たら笑顔で手を振ったよ。


 大勢の大人たちの前で試験だから緊張したんだ。意図的にルドが大勢呼んだんだよ。何故かというとルドの養子だから、コネで飛び級出来ると考える人がいるから、コネではなくて二人の能力が本物ですよと見せるためだったんだ。


 二人は無事に試験を突破して、ジュストと同じクラスになったよ。


「二人とも凄くて驚いたわ」


 キアーラも一応養母だから、アズーロとローザの試験を見ていたよ。


「だろう?俺の見る目は正しかったわけだ」


「パニーニで釣ったんでしょう?」


「リクから聞いたの?」


 ルドとキアーラは久しぶりに一緒に夜を過ごしたよ。


 いい雰囲気になって、今だ!ってルドはキアーラを抱きしめたよ。ガチガチキアーラじゃなかったんだ。

 

 唇を何度も重ねて、さあイチャイチャ行くぞっていうときにドアをノックする音がしたんだ。


「陛下。お休みのところ申し訳ございません」


 護衛がドア越しに言ったよ。


 本当にお邪魔だよね。


「…三十分待って」


 キアーラは一晩の間違いじゃないのと膨れっ面になったよ。


「火急の用件だと宰相が」


「支度するから」


「承知しました」


 キアーラがルドに抱きついたけれど、その手をどかしたら怒っちゃったよ。


 キアーラをなだめているとまたノックされちゃったよ。急いで上着を肩からかけて、天蓋はおりているのを確認したよ。キアーラは布団を肩までかけてぷいって横を向いちゃったんだ。


 部屋に入ってきたエジリオと宰相のステファノが、天蓋の中のルドへ頭を下げたよ。


「陛下並びに王妃様、お休みのところ申し訳ございません。我が国北部のプラテリア領でジェンテ・デル・カヴァッロの襲撃を受けまして、砦が一つ落ち、周辺の村で略奪にあっているとのことです。援軍を求める早馬が来ました」


「ジェンテ・デル・カヴァッロ?馬の民とは何ですか?」


 ルドは聞いたことがなかったよ。ステファノも噂くらいで、実際に馬の民という人たちは見たことはないみたいだよ。エジリオは知っていたみたいだね。


「遊牧民です。元々中央(チェントロ)より南の方ーアナベル地方辺りーにいたそうですが、百年近く前にここレナータと北の方ーエルスター地方辺りーの境に移動したと言われます。度々プラテリア領周辺に出没し、略奪がされてきたそうです」


「遊牧民とは?」


 キアーラは聞き慣れない言葉だから、ルドを見上げたよ。ルドはキアーラを撫でながら言ったんだ。


「俺の記憶が正しければ、定住しないで家畜のエサがある場所を求めて移動して生活している人たちのことを言ったと思う。ヒツジとかヤギの放牧してたんじゃないかな。

 …中央(ケントルム)の南か。そういう民族がいて、南の方の国は手を焼いたと記憶している。高い壁を作って馬で乗り越えられられないようにしていたはずだが。千年も経てば破られるか」


 知識を引っ張り出したら自然とマグナス口調になったよ。キアーラの前ではマグナスモードになったことがないから、少しうかがうようにこちらを見ているよ。


 エジリオはリクから高い壁の話を聞いたことがあるから、あれは千年前の建造物なのかと小さく興奮したよ。


「リクからも壁の話は聞いております。今では一部が壊れて南から中央(チェントロ)へ往来の道になっています」


「やはり壊れていたか。もし同じ蛮族ならば、いささか手強いだろう。命知らずで、魔法は使えぬくせに馬をたくみに操ってかわしてくる。態勢が整っていない兵列に突っ込んでから、こちらの混乱に乗じて仲間が襲いかかるという戦い方に手を焼いたと聞いている。

 同盟国であった南の国から援軍を求められて、私のかわいい魔法の使い手を十人送ったが、戻ってきたのは三人であった。

 私は行きたかったがどうしていけなかったかは思い出せないが、もし同じ蛮族ならば七人の仇をうちにいきたいものだ。ああ、でも千年経っておる。あちらも戦があったのは忘れているだろうな」


「陛下自らご出陣されなくともよいかと思います。プラテリアに接している領主も軍を動かしておりますゆえ」


 ステファノが言うけれど、ルドはだめだと言ったよ。


「それぞれの領の隊長クラスが集まるのだ。今回の指揮権はどこにある?」


「戦場になっているプラテリアに指揮権があります」


「プラテリアはあてにならん。あそこは小さい。隣のフォレスタが指揮権を取ろうとするだろう」


「私も危惧しております。ただ法で定めておりますので」


「…」


 片膝を立てて、顎をのせながらルドは考えたよ。


「法は人々に浸透しなければ紙切れ同然だ。やはり私が行く。戦場に行かなくても好き勝手にするなと圧力はかけられるだろう。

 お前たちはこの件をあまり重要とは考えてはおらんだろう。国をまとめられるかどうかは蛮族に勝つかどうかだ。いや、勝たねばならん。プラテリアのような小さき土地でも王は民を守り、(ないがし)ろにせんと示さねばならん」


「承知致しました。出兵の準備をします」


「プラテリアの地形があまり思い出せん。詳しい者を朝の会議に呼んでくれ。王属部隊も連れていくことにする」


 ルドは上着をつかまれたよ。キアーラが上目でルドを見つめているよ。


「今のはマグナス様のお考えです。陛下は残ってくださいませ」


 離れたくないのか可愛いなと頬を撫でると、嫌そうにキアーラが身を引いたよ。


「触らないでくださいませ。私に触れていい男性はルドだけですの」


「私はルドだし、この身体はルドだ。どこが違う?」


「全く違います。ルドを戦場に連れていかないでください」


「キアーラ。妻として夫の身を案じるのは当然だ。だが王妃としてはお前は不合格だな」


「な!」


 ルドの顔と声で言われたのがとてもキアーラは不愉快だったよ。


 ステファノもルドと同じことを考えていたけど言わないよ。キアーラの大爆発のとばっちりを食らいたくないからね。


「私はあなたの妃ではありません。ルドの妃でございます!ルドが行くなら私も行きます」


 話す場所を間違えたなとステファノは後悔しても遅いよ。ルドはため息をついたよ。


「来たければ来るがよい。ただし、お前が蛮族に捕まり、犯されても助けはしないぞ」


「やめて。ルドの声で、顔でそんなこと言わないで!出ていってよ。ルドの身体から出ていって!聖神使様、どうして霊を祓わないのですか!」


 エジリオも失敗したなと思っていたけれど、この夫婦喧嘩というべきかわからない状態の仲裁に入るべきかと悩むよ。


 ルドはキアーラの手を力強く掴んだよ。キアーラは自分を抱きしめてくれた優しい手はなくて、抗えない力で押さえられて恐くて震えたよ。


「私が恐いか、キアーラ。

 お前の甘ったるい頭で少しは考えてみよ。蛮族は略奪した。略奪はモノだけではない。人間も含まれる。

 千年前の蛮族に奴隷の風習はなかったが今はわからん。男や子どもは売り飛ばされてかもしれん。女は蛮族の男の慰みに使われたかもしれん。

 だから捕らわれた我が国の者を早く取り返さねばならん。

 お前も女だろう。キアーラ。そして妃だ。ありえぬがルドが討ち取られたあと、お前はその男の妻にされるかもしれん」


「あなたは討ち取られません。私が盾になって代わりに死にますから。勝手に死んだり、怪我するのは許しません。ルドのことだから戦場に立とうとするでしょう。私がルドの目の前に立ってやめさせます。それなら宰相たちの苦労も減るでしょう」


 負けじと言い返すよ。ステファノもルドが前線に行くと踏んで、どう止めるべきかと考えていたんだ。キアーラの案は魅力的だけれども、兵士ではないキアーラを戦場に連れていくのはあまりいいとはされなかったよ。


 ルドことマグナスはくつくつ笑ってキアーラの耳元で囁くよ。


「お前が他の男に抱かれていると想像するだけでも怒りで我を失うだろう。その綺麗な肌と可愛い顔が傷つくと考えると腹が立ってたまらない。だからこの安全な神殿にいてくれ。私の愛しい人」


 頬にキスをすると離れたよ。キアーラは目を丸くしていたよ。


「待たせたな。ステファノ、エジリオ。詳しいことは明日の会議で決める。だが、これは決定事項だ。ステファノはこの神殿に残ること。ここを守れ」


「御意」


 ステファノは一緒に行きたかったけれど、武人ではないし、足手まといだと思ったから引いたよ。引かない人がただ一人いたよ。


「これは聖戦ではない。エジリオは聖神使だから戦場に行かせたくはないが」


「お傍で陛下と兵士の勝利を神々に祈っております」


「…いつから戦いの神(バッギア)の神使になった、火の神(フィアン)の神使よ。リクを連れていく」


「陛下!」


 ルドはため息をついたよ。


「とある神使いわく、聖神使には一人神使の護衛をつけなければならないが、今の聖神使様は逃げ足が早くて、みな護衛をいやがっているそうだ。その聖神使が、とある王を追ってしまったら護衛もつらかろう。仕方ないから連れていくしかないか」


 ステファノは吹き出したけど、エジリオは真顔だよ。ステファノは笑いをおさめて改めて頭を下げて言ったよ。


「準備にかかります。陛下はお休みください」


「すみません。お願いしますね」


 ルドモードになったとキアーラは息をついたよ。二人が出ていくと、ルドはもの凄い勢いでキアーラに謝ったよ。


「ごめん、さっきの本当にごめん!嫌なこと言ったよね!

 キアーラの気持ちわかるけど、戦争って何が起こるかわからないんだ。数が戦況を左右するというけれど、本当に侮れない人たちなんだ」


 キアーラは怒涛の謝罪を聞いていたけど、なんだかルドの急変がおかしくて笑ってしまったよ。


「わかっているわ。マグナス様も私のことを思って言ってくれたってことも」


「よかった。あのね、キアーラ」


「なに?」


 ルドは赤面して目をそらすよ。


「続きをしたい」


 キアーラも真っ赤になったよ。ずっと素っ裸なのに今さら何だろうね、この夫婦。


「い、いいわよ。そのかわり、さっきマグナス様が囁いたこと。ルドの言葉で聞きたい」


 ルドはあれかと笑って耳元で囁いたよ。


「その綺麗な肌と可愛い顔が傷つくと考えると腹が立ってたまらないんだ。だからこの安全な神殿にいて。俺の愛しい人」



 朝の会議の前にエドモンドが部屋まで迎えに来たよ。着替えは済んでいたけれど、キアーラが甘えモードになっていてなかなか離れてくれなかったよ。


「今日の昼に出るから、その前にもう一度逢おう」


「本当に?」


 朝から熱々ぶりを見せられてエドモンドは苦笑しているよ。


「急がして申し訳ございませんが、お時間が」


 付き人嫌な役目その一。どんなお取り込み中でもお時間を知らせる。


 キアーラが物凄い不機嫌になって、隣の部屋に行っちゃったよ。ルドも不機嫌になったから、エドモンドも困ったよ。会議室に向かいながら早口でルドが言うんだ。


「聞いた?遊牧民がプラテリアの砦を落としたっていうのは」


「先程聞いた。朝の会議はそれだろう?」


「夜にステファノ(宰相)とエジリオ様が直々に俺の部屋に来たんだ。夜だよ、夜。会議を開かないと何も決まらないんだから、朝言ってもいいじゃないか」


 ルドなら即刻全員叩き起こして会議をはじめて、朝にプラテリアへ出発するかと思ったけれど、やたら夜を連発するよ。そしてエドモンドはルドの部屋にキアーラがいたことをついでのように思い出したよ。


「お前ついに夫婦になれたのか?おめでとう」


 ルドは手を大袈裟(おおげさ)に振って怒ったよ。


「いい雰囲気だったのを邪魔されたんだよ!頭の片隅に蛮族のことがちらつくし、仕切り直しても微妙だったし!」


「間が悪いな、お前…」


「今日出発だよ。何なの!さっさとあの蛮族どもを地中に埋めて窒息させて、帰ってきてやる」


「…今、ルドだよな?」


 ルドから答えがかえってくるまえに会議室についちゃったよ。エドモンドは入れないから、あまり怒るなよと言ってルドを見送ったよ。




 ジュストはどうしてか、会議室に向かっているよ。ステファノの長男に部屋まで迎えに来られてびっくりしたんだ。大人の貴族たちはジュストを王の子のような扱いをあまりしなかったんだ。ルドがジュストたちを魔法の使い手として養子にしたとはっきりいったから、跡継ぎ扱いをしていないんだ。だから宰相の息子が直々に呼びにくることに驚いたんだよ。


 ジュストは戸惑いながらルドの隣の椅子に座ったよ。本当なら王子様席だけど、王様の養子だからとりあえずという感じで座らせたんだ。


「ジュストには説明している時間がなくて悪かったと思う。

 みなさんは事前に聞いていると思いますが、一昨日の昼ころプラテリアの砦をジェンテ・デル・カヴァッロが落としたという知らせが入りました」


 ジュストの困惑は深くなったよ。侵略を受けているということは戦争になる。兵士でもない子どものジュストが呼ばれた理由がわからないんだ。


 会議で出陣に向けて色々決まっていくけど、ジュストが呼ばれた理由が明かされたのは最後の方だったよ。


「複数で同時に行う大規模魔法が必要になるかもしれませんが、まだ軍の訓練のみで実戦で行っていません。

 俺と一緒に魔法を使える者を選び、連れていきます。ただ、多くの者が戦争未経験でしょう。恐ろしければ残っても構わないと思っています」


 ジュストの方に視線が集まるよ。魔法の使い手としてジュストを連れていきたいけれど、子どもだからルドは悩んだんだ。


 ジュストはすくっと立ってルドの前で礼をとったよ。


「兵士が恐れを理由にして戦わないのはなんのための兵士でしょう。俺は兵士ではありませんが、日頃の訓練の成果を試す機会が来たと思っています。どうか連れていってください」


 ルドはジュストの立ち居振舞いに驚いたよ。ステファノたちもジュストたちを初めて見たときは教育できるのかと思っていたけれど、これを見て満足そうに頷いていたよ。


「わかった。連れていく。ただアズーロとローザは置いていく」


 ジュストもそう思っていたから、賛成したよ。


「それでは俺が帰ってくるまで、みなさんに留守を預けます」


 会議は解散して、慌ただしく準備が始まったよ。


 ルドはキアーラの機嫌が直っているかなって心配だったけれど、部屋に入ると抱きついてきたから直ったみたいだよ。


「気をつけて」


「ああ。留守は任せたよ。ジーナたちをよろしく」


 短い会話の後に鎧に着替えたよ。練習で着たことはあったけれど、実戦は初めてだからその重さを身体に感じると緊張が広がったんだ。


 大きく息を吸うと着せてくれた護衛が心配したよ。


「きつかったでしょうか?」


「いえ。少し緊張しただけです」


「緊張ですか。陛下もなさるのですね」


「農民だったし、戦争は初めてだから震え上がって逃げ出さないか不安もあります」


 護衛は目を見開いて驚いたよ。


「そのようなことはないでしょう。もし震え上がるような脅威が迫ったならば、必ず私たちがお守りします」


 護衛は目を輝かせて拳を握るよ。


 ルドは馬車に乗り、プラテリア領に向かうよ。といっても馬車では一週間はかかるから先遣隊を走らせたよ。ステファノ的には先遣隊で決着がつくだろうし、ルドは最後に登場して王は辺境の小さな街も見捨てないアピールしてもらおうと考えていたよ。でもルドは戦うつもりだったんだ。


 馬車にはルドとジュスト、エジリオが乗っているよ。リクは馬に乗ってルドの馬車の近くで護衛をしているよ。


「エジリオ様。間接的な殺人について話したのを覚えていますか?」


 エジリオはルドが何を言おうとしているのかすぐにわかったよ。二人が話し合ったのはルドが王になる前だから、命令した人も殺人罪にあたると、領主たちが罪の意識をもてば戦争がなくなるのではないかと考えていたよ。


 でもルドは王様だ。兵士にジェンテ・デル・カヴァッロ、馬の民を殺してもいいと命令したんだ。


 王様は兵士でも神使兵、処刑人ではない。間接的な殺人を罪だと神々が認めているのならば、ルドは罪を犯したことになって裁きの神(ジュリシーオ)によって裁かれて地獄(インフェルノ)に行くかもしれないよね。


 その辺りについて詳しいことは教義(教え)にはなかったんだ。


「お祈りをさせてください」


 エジリオはジレンマに悩んで、ルドにかける言葉が見つからないんだ。


 神々にルドの祈りが届くように、祈りの言葉を言ったよ。


 馬車がガタガタ揺れても、ルドの周りはとても静かだとジュストは感じたよ。


 祈りが終わるとルドは微笑んだよ。


「俺に何があろうとエジリオ様は剣を抜いてはいけませんよ。聖戦ではありませんから」


「ジェンテ・デル・カヴァッロは私たちの信じる神々とは別の神を信じているといいます」


「エジリオ様。自分に嘘をついていけませんよ。もう異教徒殺しはしたくないでしょう?」


 エジリオは目を伏せたけれど答えなかったよ。ルドに別のことを聞いたよ。


「ジェンテ・デル・カヴァッロを追い返したところで、また襲撃してきます。陛下はどうするおつもりですか?千年前の中央(チェントロ)のように高い壁でも築きますか?」


「それは無駄な労力です。プラテリア周辺の民はジェンテ・デル・カヴァッロの土地にも行って生活をしているといいます。その往来を妨げることになります。ジェンテ・デル・カヴァッロの住む地より北って、どうなっているのだろう。エジリオ様は行ったことありますか?」


「北はありませんね。冬は厳しく慣れていないと雪に阻まれて、下手に外にいると命の危険があるといいます。

 ジェンテ・デル・カヴァッロの住むところは雪は降りますが、北の地よりも少ないようです。でも冬は草が枯れる。食糧を求めて村を襲うと聞いています」


「では今回も?」


 会議では詳しいジェンテ・デル・カヴァッロの動機は話されていないよ。エジリオは神使ルートで得た情報を話したよ。教会は小さな村から大きな街まで至るところにあるから、情報網は下手したら領主よりも大きいかもしれないんだ。


「おそらく数年前の熱波が原因でしょう。牧草を求めている彼らは大勢では移動しません。家族や親戚単位だそうです。普段村を襲うのはたかだか十数だったと聞きます。それが千を越す軍勢になった。つまり、自然にか、示し合わせたのか広い草原で彼らは集まり、プラテリアを襲撃したということです」


「なるほど。田畑を耕さないのだから、自然に生える草や実りに頼るしかない。大分生活は苦しいでしょうね」


「兄ちゃん、まさかその馬の民を助けようとか考えていない?」


 ジュストに言い当てられてルドは苦笑したよ。


「彼らを全て殺すよりは、住む土地に帰ってもらったほうがお互いにいいわけで。教会は異教徒を殺しますか?」


「陛下のおっしゃるとおり、帰ってもらった方がいいですね。抹殺となればこちらも無傷とはいかないでしょう。

 ただ善良な信徒が捕らわれて苦痛をうけたとなれば、神々に代わり私たち神使が罰を下します」


「構いません。罰する前に必ず調べてからにしてください。彼らの神々の教えや考え方を知りたいです」


「陛下、不要です。異教徒ですから」


 ルドは困ったように微笑むよ。


「神々の教えにマニュスやサクスムのことはなかった。何かヒントがあるかもしれません」


 ジュストには転生について話していないよ。エジリオはルドを異教徒の思想に染めたくはないと思っていたから、やめさせたかったんだ。ルドは見越して言ったよ。


「知ることと信じることは別ですよ」


 エジリオはため息をついて、ルドが知ったことを自分も教えてくれるのならという条件で飲んだよ。


 ジュストは黙って二人の会話を聞いていたけれど、何か隠しているのは感じていたよ。お利口だったから口には出さなかったんだ。


 でも、何を話しているのっていう顔をしていたから、ルドはちょっと嘘をついたよ。


「二人の霊に同時に憑かれるってないらしいんだ。あと記憶も共有できているから、他の人と俺は違うのが気になるんだ」


「俺もマグナスって人が出ているのに急に兄ちゃんになるし、たまにどっちかわからないときがあるから不思議だったんだ。

 もしかしたら魂が同化しちゃってるんじゃないかって思うときがあるから…本当に大丈夫なの?」


 ルドは嘘ついて悪いなと思ってたけれど、エジリオはなるほどと言ったよ。


「魂の同化ですか。考えたこともありませんでした。でも、一度祓いの魔法をルド様にかけましたが、まったく効果なく」


「聖神使様でも祓えない霊って大分手強いね」


 逆にジュストを不安にさせてしまったよ。エジリオは大丈夫と胸を張ったよ。


「私の師は祓いの魔法を使えませんでしたので、私は知りませんでしたが、今詳しい者に習っているのですよ」


「そうなんですね。エジリオ様なら兄ちゃんの霊を祓えると思います」


「ありがとうございます」


「本人前でそれを申すか、お前たち」


 ルドが足を組んで目を細めているよ。隣に座っていたジュストはピンと背筋を伸ばしたよ。マグナスは怖いらしいね。


 それが面白かったらしく、わざとルドはジュストの頭を撫でるよ。


「ん?大人しいな。撫でたら子ども扱いするなって怒っただろう?」


「それは兄ちゃんだったから…」


「私はルドで、ルドは私だ。お前が噛みついたところで私は怒らないぞ?」


「それ、よく言いますよね。兄ちゃんは自分がマグナスさんで、マグナスさんは自分だって言わないもん。そうやってマグナスさんは兄ちゃんだって、兄ちゃんに言い聞かせてるんじゃないんですか?」


 ルドは軽く目を開いたよ。


「面白い説だな。な?」


 エジリオを見たけれど、何か考えているようですぐに言葉を返さなかったんだ。


 しばらく自称マグナスがジュストいじり、ではなく可愛がっていると、この日泊まる街に着いたよ。


 早く戦場に行きたいと思うけれど、兵を急がして疲れさせたくもないから、もどかしい思いのまま夜を明かして、プラテリアに向かったよ。


 やっとプラテリアに着いたらびっくり。ジェンテ・デル・カヴァッロがプラテリア領城がある街の壁の周りをうろうろしていて、攻め込む隙をうかがっているよ。


 知らせが来た当初は十数キロ先の砦が落とされたけど攻防していて、周辺の領主の軍が行ったし大丈夫って話だったよ。


 国王軍の先遣隊がルドたちを見つけて慌てて報告をしたよ。すでにジェンテ・デル・カヴァッロが街を囲っていて下手に街の中に入ると突撃されそうだし、数的に先遣隊が戦ったら不利だと思って戦わず、互いににらみ合いが続いてるそうだよ。


「私が出陣しなくともよいと言ったのはどこのどいつだ!」


 マグナスモードでキレるから、先遣隊の隊長さんもエドモンドも身を縮めたよ。付き人の嫌な役目その二、他人が怒られているのを見る。逆もしかり。


「中の様子はわからんのか!」


「し、知らせを飛ばしましたが、なかなか返事がこず…。数刻前にプラテリアとフォレスタの隊長の返事が来ましたが」


 先遣隊がついたのは三日前の夜だそうだよ。


 来てくれた応援を数日放置して返事を寄越さないって凄いね。ボクが応援だったら知らないって怒って帰っちゃうけれど。


 ルドは差し出させた手紙をぞんざいにひったくって読んだよ。国王軍が来るまで立てこもるべきというプラテリアと、国王軍が来るまでにジェンテ・デル・カヴァッロと戦うべきとフォレスタが対立してまとまっていないよ。


 きっと落とされた砦近くの戦いで、主導権がはっきりせず、現場が混乱して退却したんだろうね。

 混乱ってなんだって?そうだね、例えばプラテリア軍の隊長が右へ行けというのにフォレスタ軍の隊長が左へ行けと言ったら、兵士たちはどちらに行けばいいのって思うよね?戦場では致命的な問題が発生していたんだ。



「私の言った通りではないか。ステファノを連れてくればよかったな。あいつに全部任せてふて寝できたのに」


「ふて寝するのは予想が外れたステファノ様では?」


 エジリオが堂々とツッコミを入れるから、エドモンドやジュストたちはさすが聖神使様と尊敬の目で見ているよ。


 敵も気づいて、壁の周りにうろうろいたのが集まり出したよ。


「さて。こちらとプラテリア側で挟み撃ちしたいのだが、プラテリアは戦う気はあるのか?先ほどからジェンテ・デル・カヴァッロがバラバラに動いているのに矢すら放たん」


「矢が尽きたのかもしれませんね。連中は素早いと聞きましたが?」


 国王軍の将軍が言うよ。


「矢がないなら石でも投げればいいのに」


 ジュストが言うと自称マグナスは吐き捨てたよ。


「石すらないのかもしれないぞ?援軍頼みはレナータ流か?戦うかどうかも決断できぬのなら、千年前ならば責任を取らせているが?」


「こちらが開戦すれば中から出てくるでしょう。もし戦わずに(こも)っているのならば陛下がおっしゃるとおりになさったほうがよいかと」


「弱小のプラテリアは領主が責任を取らされればつらかろう。尻でも叩くか」


 ルドは俺が来たから戦うぞっと連絡をプラテリア側に入れてあげたよ。返事が来る前に、陣形を整えたんだ。


「さて始めるか」


 ルドは胸を張って手を真上に上げてから、振り下ろしたよ。一斉に矢と魔法が放たれ、ジェンテ・デル・カヴァッロとの戦いが始まったんだ。


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