20話 暴君ルドの話16
ルドは薄着で頬を染めているキアーラを数秒見て固まってしまったよ。
「どうしてここに?」
グランデフィウーメ内にある、ルークススペース国の教会。つまり他国にある日本大使館の大使の寝室に招いた覚えがない女の子がいるという、とてもおかしな状況なんだ。
キアーラがルドに逢いたくて応接室から勝手に来ようとも、ルドの部屋以外にもエジリオやアグネーゼとかの部屋がいくつかあるから、場所を知らないと見つからないと思うんだ。そもそもお付きの人がキアーラのそばにいつもいるから、勝手な行動はできないはずだよ。
「こちらの召使いにルドの部屋を聞いたら、ここに通してもらいました」
それこそ甚だおかしいよ。
召使いも神使も国王の部屋を簡単に教えるわけがないよ。ルド自身も許可した記憶もないからね。
教会内であり、神使もいるこの場所で未婚の男女が間違いをおかしそうなシチュエーションにすることはありえないよ。
神々の教えは結婚したら、イチャイチャしていいよってことになっているから、神使同様に召使いの教育もされているわけで、召使いがキアーラの要望を断るはずなんだ。
ルドはこの建物の中にグランデフィウーメの内通者がいるんじゃないかと考えたんだ。
キアーラに着替えるように言って天蓋を下ろしたよ。ルドが真顔で言うものだから、キアーラは失敗したと泣きそうになりながら上着を羽織ったよ。
ルドが驚きながら抱きしめてくれるって想像していたらしいよ。
キアーラがベッドから出てくると呼び鈴を鳴らして、アグネーゼなどの神使や召使いを執務室に集めるように言ったんだ。
集められた人たちは、どうしてキアーラがここにいるんだろうという顔をしていたよ。
エジリオも来て、キアーラがルドの執務室にいることに目を丸くしたよ。
ルドはもう一回キアーラにいきさつを聞いたんだ。
「お父様がこの教会に行ってきなさいとおっしゃって、こちらの召使いがルド陛下の寝室へ連れていってくださいました」
正直に話すと騒然となったよ。
「私はお連れしてません!」
召使いたちはいっせいにキアーラの訪問を知らないと言ったんだ。キアーラも集まった召使いの中で、部屋に案内した召使いがいないと言ったよ。
アグネーゼもキアーラが教会にくれば、誰からしら知らせるはずなのに聞いていなかったよ。
「奇妙なことが」
アグネーゼは困惑しているけれど、エジリオは眉を寄せてルドと同じことを考えていたんだ。
ルドはエジリオとアグネーゼを執務室に残して、他の神使と召使いには口止めして仕事に戻したよ。あとで新人の召使いが一人いなくなっていたから、その子じゃないかという話になったんだ。
詳しくキアーラから話を聞きたいと、ルドは寝室にキアーラと二人で戻ったよ。
「キアーラ様。あなたはお父上からどういう扱いをされたかお分かりですか?」
「扱いとは?」
昼間の件をうやむやにしてくれたお礼に、自分の娘をルドの慰みに差し出したんだ。領主としては別の女の人を送り込みたかったけれど、ルドの性格上突き返すとわかっていたようだね。愛するキアーラなら無下にしないし、敬虔な信徒であるルドが結婚前に娘に手を出さないだろうという考えもあっただろうけれど。
グランデフィウーメ領主の想像通りにルドはキアーラに手を出さなかったよ。
代わりに猜疑心を抱かせたけれどね。
キアーラはルドがやんわり言うとショックを受けたみたいだよ。
「お父様は私を?そんなわけないわ!」
「では結婚前の女性が男の部屋にいるということは、どういうことかお分かりですか?」
キアーラもさすがにそこは考えたよ。でも純粋にルドに逢いたいという想いが勝っていたんだ。そこを領主は利用したんだ。
「わ、私はただルドと二人きりになりたかったのです」
「俺があなたの気持ちを考えないで、無理矢理ってこともあったんですよ」
「あなたはそんな人ではありません!」
声を張り上げて否定してくれるのはいいけれど、ルドはキアーラの盲目さに額を押さえたよ。
「もう少し疑ってください…。あなたは利用されたのだというのがわかりましたので、エジリオ様たちには言っておきます」
隣の部屋に行こうとするから、キアーラは後ろから抱きしめたよ。
「私のこと、馬鹿な女だとお嫌いになりましたか?」
キアーラは嫌われたんじゃないかって不安で、不安で仕方がないよ。
ルドはくるりと向き直って言ったよ。
「心配になっただけです。俺がいると聞かされて、他の男が来たらどうするんです?俺と別れさせて、その男と結婚させたいとなったら、そういう手段をとるかもしれないんですよ」
キアーラは父の仕打に泣いちゃったんだ。ルドは焦ってキアーラを抱きしめたよ。
「不安にさせてすみません。気をつけてほしいだけです」
「はい…」
「キアーラ様」
「はい…」
「愛してます」
ルドから愛の言葉を聞いたことがなかったキアーラは耳を疑ったよ。
「もう一度言ってもらえますか?」
「愛しています。だから気をつけてください。他の男の部屋に行かないでください」
「はい…!」
腕の中の笑顔に、思わずルドは額にキスをしてしまったよ。口にとおねだりするキアーラを撫でてから、また今度と言ったんだ。あんまりエジリオたちを待たすと突入されてしまうからね。
まさに突入しようかとアグネーゼが息巻いているのを、エジリオが宥めていたところに、涙で濡らしたキアーラを支えているルドが出てきたよ。
キアーラはハンカチで目を押さえながら言ったよ。
「きっとお父様に聞かれるでしょう。ルドと何があったかって。お城に帰りたくない」
「帰らなくてここにいたら、それこそ話を進めようとするでしょう」
「わかっています!私は領主の娘です。お父様のお考えで私の結婚相手は決まります。だからルドと結ばれたらいいなと思ってはいけませんか?ルドを困らすのは私の父なのでしょう?私が家を出れば…」
「キアーラ。落ち着いて。家を出るって全部捨てることだよ。両親もきょうだいも。それはとてもつらいことだろう?」
ルドが言うとエジリオもキアーラに考え直すように言うから、怒ったよ。
「つらいわ。わかっているわよ。でもルドが私と別の女の人といたり、私が別の男の人と結婚するって考えるとつらいの。
あと少しで私は成人します。そうしたら、お父様がルークススペースよりも繋がりを強くしたいという領主や貴族の家があったら、私はそこに嫁がねばなりません」
ルドは思った以上に時間がないことがわかったよ。難しい顔をしている恋人に、我慢五分のキアーラはまた怒ったよ。
「ルドがオリゾンテ様のことを配慮しているのは知っています。オリゾンテ様を説得すればいいのね?」
「説得なら、俺が今しているから。キアーラがすることは何も…」
キアーラはばっと立ち上がって、すたすたドアの方へ歩き出すよ。
「キアーラ?」
「ルドが頑張っているなら、私も頑張ります。数日考えさせて。では失礼します」
お供もつけないで帰ってしまったんだ。
「どうしよう…」
「キアーラ様の件もそうですが、まずはグランデフィウーメ領主がされたことです。宰相がお聞きになったら激昂されるかもしれません」
エジリオが冷静になるように呼びかけたよ。
グランデフィウーメがルドの私室に誰でも送り込めると暗に匂わしたわけだからね。
ルドを、ルークススペース国を配下のように考えているのではとステファノなら警戒するはずだよ。
ルドは故郷の拠点を手放したくはないけれども、一度引くべきかと考え直したよ。それにマッテオとジーナは見つけられたからね。グランデフィウーメに滞在する個人的な理由がなくなってしまったよ。
「グランデフィウーメの拠点を閉鎖する」
朝一番に使者を送ると、かわいそうに起きてほやほやのグランデフィウーメ領主は頭の血が上ったよ。
「キアーラがしくじったのか!キアーラを呼べ」
しくじったのはグランデフィウーメ領主だけどね。
娘はご機嫌麗しゅう、お父様と不機嫌そうに挨拶をしたよ。
男を落とすテクニックを家庭教師や学校で何を習ったのだと露骨に言われて、控えていた侍女たちが顔を真っ赤にしていたよ。
「ルークススペース陛下はグランデフィウーメのものではありません。陛下がそのような判断をくだされては仕方がないのではないですか?私が失敗したというより、お父様があの教会に手の者を送り込んでいるからでしょう!」
キアーラもろくに寝ずにルドが警戒する理由を考えていたよ。もちろん、抱きしめられて愛してますと言われたのを、何度も思い返して寝られなかったのもあるけどね。
キアーラは半ば父親とケンカしたまま、ルドが第二拠点を閉鎖してルークススペースへ帰る頃に、少ない供を連れて向かったんだ。
ルドに逢わずに、ステファノと一対一で話すことにしたんだ。ステファノは無視できないから、一応会ったよ。
キアーラの決意を聞いてできるならば、陛下の嫁として認めると言ったんだ。
普通、ルドの親代わりのマッテオとジーナが言うならわかるけど、他人のステファノさんがルドの恋人に難癖つけるんだ。小舅らしくて面倒だね。
ステファノに言ったことをルドにも話したよ。
「グランデフィウーメの名も、私物も、侍女もいっさい置いていきます。だから私の身につけるものと部屋を用意していただけませんか?」
二十歳のルドはカチンコチンに固まったよ。年下の彼女の凄まじい覚悟を見せつけられたからね。
キミがもしルドだったらどう思う?二十歳そこそこになったばかりで、全部捨ててあなたの元へ嫁ぎますって言われたら。
ルドは家族は離ればなれになってはいけないと考えだから、キアーラを説得したよ。でも逆に言い返されてしまったよ。
「貴族の女は婚家のものになります。育ててくれた家から離れ、遠いがゆえに一度も逢わずに親と死別する人もいます。覚悟はするものだと従姉妹のお姉様から聞いていました。
ルドは私と結婚はしたくないのですか?」
ルドも結婚したいけれど、キアーラが犠牲になるのがとても嫌だったんだ。自分が頑張るからと言ってもキアーラは覚悟を決めちゃったからね。
「私は一度死を覚悟した身です。あなたが治してくれなかったら、今日まで生きられなかったのでしょう。だから、この命はあなたのものです」
重いぜ、キアーラ。
青年よ、まだまだ世にはたくさんの女の人がいる。
でもルドも決心したよ。
「わかりました。あなたを迎える準備をします」
キアーラはまだ両親を説得できていなかったんだ。母親には泣かれたし、父親には勝手なことをするなってね。
結局は娘の意地が勝って、両親は折れたよ。
ルドはキアーラと結婚すると、マッテオとジーナに話したよ。マッテオはキアーラの烈婦感にビビっていたけれど、ジーナは困惑しながらも色々知恵を出してくれたよ。
「何も持ってこないの?貴族のことはわからないけど、持参金とか必要なのでは?」
花婿側が結婚式の費用や生活費を出すから、その分花嫁側が持参金を持ってくることが多かったよ。今回何も持ってこないから、ルド側が全部出すことになるよ。
お金のことは置いておいて、キアーラは寂しいのではないかとジーナは思うよ。元奴隷だけれども女の人だからね。キアーラには気に入った宝石や服くらいあるだろうって考えたんだ。
ジーナはキアーラの好みを知らないから、結婚式の相談ということでキアーラの侍女を呼びつけたよ。ほらドレスの仕立てとかもあるからサイズ確認だとかなんとか言ってね。
ジーナが率先してキアーラの服や装飾品の好みについて聞いたんだ。
ステファノにキアーラが決意を示した半年後、千〇二一年にルークススペース国とグランデフィウーメ領の境の川でキアーラの受け渡しがされたんだ。川の中州に簡易的な建物が建てられて、キアーラは侍女と別れて、その建物に入ったよ。女性の神使二人が見守りながら、髪飾りから下着まですべて外して、ルークススペースが用意したものに着替えたんだ。
服を手に取ったキアーラは驚いたよ。よく着ていた工房の服だったんだ。ルークススペースにはお店がないはずだから、二度と着ることはないと思っていたんだよ。
服に袖を通して、ルークススペース側に渡るよ。去っていく対岸の侍女たちを見送ると自然に涙が溢れたんだ。
馬車に乗ると涙を拭ってまっすぐ前を向いたよ。ルドのいる首都オリゾンテには馬車で二日はかかるけれど、近くの街まで愛しいルドが待っていると聞いたからね。
ルドは笑顔のキアーラに逢って安心したよ。
「ルド。この服だけれども…」
「ああ、それは。ジーナがミアたちに頼んで用意したんだ。俺は全然そういうの疎くて…。ジーナが気に入ってくれるといいなって言っていたよ」
ルドが用意したと言うのよとジーナから念をおされたけれども、素直なルドは正直に話したよ。
キアーラはジーナを何度かルドが散歩に連れているのを見たことがあったけれど、話したことはなかったよ。マッテオは熊みたいな体格のいい男の人だから、キアーラは少し恐かったんだ。でもルドの養子たち、アズーロやローザがマッテオの腕にしがみついて遊んでいるのを見て、微笑ましいと思えたみたいだよ。
神殿につくと、キアーラはルークススペースの幹部たちと挨拶をしたんだ。本当に侍女一人も連れてこなかったから、ステファノをはじめ反グランデフィウーメ派はキアーラを認めるしかなかったよ。
そしてルドの家族にも会ったよ。
まっさきにマッテオに支えれていたジーナに感謝を伝えたよ。
「私の好みの服や装飾品をご用意いただき感謝します。お義母様」
ジーナはルドになんで黙っていなかったのと目配せしてから、にこやかに笑ったよ。
「気に入ってくれてよかったわ。何も持ってこれないと聞いたからおつらいでしょう?私は元奴隷で、両親が死んで売られるとき、人から見たら大したものではなかったけれど、唯一の母の形見を勝手に捨てられてしまってね。とても悲しかったの。ルドのために、あなたもそんな想いをさせてしまっているのではと思って申し訳なくて」
「いいえ。本当に嬉しいです」
色やサイズは違うけれどもキアーラが使っていた家具に似たものを用意したら、嬉しいと涙を流して喜んでいたよ。
「この身だけしかないと思っていたから嬉しいわ」
キアーラが涙を拭っている後ろで、マッテオがルドに何か言えと小突いたよ。
「キアーラ。君一人じゃない。これから俺らが家族だ」
「うん。そうね。本当にあなたと家族になれて嬉しいわ。ルドが最近、私のことキアーラ様って言わないし」
「あ…」
ルドは頭をかいているとキアーラは腕を回してきたよ。
「私はグランデフィウーメ領主のご令嬢ではないの。もう敬称はいらないからね」
「わかったよ」
ドアの方でローザがくすくす笑って、ジュストとアズーロがニヤニヤしていたよ。
ルドとキアーラの結婚式は大々的に行われたよ。
チェンバロやリュート、ハープなどの演奏が、神殿に昼夜問わず奏でられていたよ。
どんな曲だって?
フッフンフンフン~。
分からないって?仕方ないでしょう、ボク当時の楽器も楽譜も持ってないんだから。
キミの世界で近いのは…、バロック時代以前かな。バロック時代ってなんだって?G線上のアリアを作曲したバッハは知ってる?バッハが活躍する前の音楽だよ。
ハイドランジアでは、ピアノの発明や音楽家がサロンを開いて演奏するのは、もう少し後になってからだよ。ルドの時代はどちらかというと音楽と言えば教会で歌われる讃美歌だよ。平民が楽器を手にして音楽を楽しめるのは近代後半からだね。だから、この時代の神々のために作られた教会音楽がメインになるよ。
ルドの結婚式のために作曲されたものもあったようで、讃美歌ではない個人のために曲が作らるという当時では珍しくて、近代に繋がる要素があったとされるよ。作曲家に依頼した人の中に神使がいたというから、ルドを神扱いするという意味で教会音楽であったという見方もあるとかないとか。
そんな小難しい話は置いておいて、国民たちは王様をお祝いしようと各地の広場でルークススペース家の紋章が掲げられて、お祭り騒ぎをしたよ。
オリゾンテの街で一番大きな広場の建物からルドとキアーラはお披露目したんだ。多くの国民が二人を見ようとして、押し寄せたというよ。
ルドは視察にいくたびに民から歓迎されたけれども、その土地の貴族たちが集めたんじゃないかって斜め横の考えをしていたんだ。
でもたくさんの人たちが自分を祝福してくれていることに感動したんだよ。
「陛下、おめでとうございます!」
「ルークススペース王、万歳!」
ルドはキアーラの腰に手をまわして、国民に手を振ったんだ。歓声がわっとあがったよ。
ルド直属の護衛や魔法学校の生徒たちがいっせいに魔法を放ち、虹を作ったり、火の鳥や水の鳥が空を舞ったよ。
「きれい」
キアーラは嬉しそうに見上げていたよ。
結婚したら夜のお楽しみ!
エロ話は路上で話するとセクハラになるから省略するよ。
え、楽しみだったって?それはキミの想像に任せるよ。ふふ。
と言ってもキアーラがルドといると緊張しちゃう子だったんだ。初めての夜にガチガチキアーラになっていたよ。ルドはキアーラを撫でて今日は早く寝ようって言ったよ。
キアーラは初夜よ!って緊張もしたし、気合い入れすぎちゃったんだ。慣れない生活や結婚式が楽しみで寝不足だったし、あたたかなルドの腕の中でコトンと寝てしまったよ。
ガチガチキアーラは何日も続いたから、慣れるまでルドは待つことにしたよ。毎日ルドを見ているくせに毎夜、頬を赤らめるから、可愛いなと眺めていたんだよ。ノロケだね、ノロケ。この野郎。
結婚式といえばキアーラは実家と勘当のような状態だったから、グランデフィウーメ家から誰一人来なかったよ。
後日、ルドの友人として個人的にエドモンドがお祝いに来たんだ。
「キアーラ様とは順調か?」
何気ない一言のつもりだったけれど、ルドのニヒルな笑いにエドモンドは焦ったよ。
「ま、まさか。キアーラ様があれだけの覚悟されたのに破局…」
「違いますよ。エドモンド様はどうやって女性をリラックスさせていますか?」
さすがに三週間経ってもガチガチキアーラなのが困っているんだ。もちろん、ルドが視察で神殿にいないときもあるけれど、なるべく一緒に寝るようにはしているよ。
それを聞いたエドモンドはルドを気の毒だと思ったよ。
「生殺し…」
「黙りなさい」
「悪かったって。なんでそんなに緊張されているんだ?一回試しに勢いで…」
「最低だな、お前。おニブの代わりに私が頑張って、ぬいぐるみ置いたり、花をベッドにまいてみたりしているのだ」
「うわ、いきなりマグナス様降臨しないでください。心臓に悪いです。ぬいぐるみとは可愛いですね。女慣れをされているマグナス様でキアーラ様を…」
噂のマグナスモードにエドモンドは興味半分畏れ半分だったよ。
「ふざけないでくれる?マグナスは俺と別の人だよ。キアーラとられるって嫌なんだけど」
「ルドに戻った?霊憑きってそんなに切り替わり早いのか?」
エドモンドにもルドは素を出しはじめたようだね。エドモンドはキアーラにも会ってお祝いを言ってから帰ったよ。
帰りを待ち受けていたグランデフィウーメ領主から、呼び出されてキアーラの様子をあれこれ聞かれたよ。
「孫は!」
結婚して一ヶ月で気が早いよね。ガチガチキアーラの話を出して、待ってあげてくださいと言ったよ。
「家庭教師はあの子に何を教えたのだ!」
またもや怒ったことに、エドモンドはキアーラには言わないことにしたよ。
好きな人と結婚してルドは政治も順風満帆かと思ったけれども、ところどころ躓くことがあったんだ。
まずは人は嘘をつく。己の都合を通すため、報告を偽ることがあるよ。
各地で治水工事がされているけれど、時には切り立った崖や深い森に分け入って、土地を拓いていかなければならないんだ。
大事故もあり、多くの奴隷が死んだこともあったんだけど、情の深い王が聞けば工事を中止するかもしれない。
各領主や街の長は不都合な事実を隠そうとしたんだ。
ちょっと工事が遅れているけど順調だって報告した領主さんはにこやかだけど、血の流れがところどころおかしかったんだ。
「もう一度、終了見込みと負傷者数の報告をお願いします」
「あ、はい。終了は来年の春になる見込みで、負傷者は軽傷者ばかりです。落石事故だったとのことです」
「落石事故ですか。死者はいなかったのですね?」
「はい」
「…死者は何人ですか?奴隷ですか?」
ルドの追及がはじまって、ステファノはため息をつきそうになったよ。虚偽の報告をされれば政治も歪んでいくからね。
「陛下は嘘を見破る眼をお持ちだ。正直にお話するように」
ステファノにも言われてしまったから、領主さんは嘘を突き通せなくなったよ。
「も、申し訳ございません。詳しい資料が手元になく…」
「どこにあるのですか?」
「領内の城に」
「伝書鳩でもつかって取り寄せてください。何日かかりますか?もう一度報告する機会を作ります」
「か、かしこまりました!」
こんな感じだから、報告する人の緊張感が凄かったらしいよ。
それを見ていた次の報告する人は、正直に森の水源での作業で、魔物が出て大勢亡くなったと話したよ。
「何故それを早く報告しないのです?」
ルドは怒っちゃだめって自分に言いきかせながら聞いたよ。
ひとつの国となったとはいえ、各領主の自治意識は高かったよ。他の領主から兵を借りたりすると、貸しを作ると考えるんだ。
まだ起きていないけれど、よそから侵略されたときに対応するのは、まずは侵略された地域の領主がするよ。どうしてもだめだってなってからルドの持つ国王軍が出るんだ。この決まりにルドはもどかしさを覚えていたけれど、自治意識が強い領主たちの反発が強かったから、そう決まっちゃったんだ。多数決制をとったのはルドだから飲むことにしたよ。
「叱っているのではありません。どうして我々は国という一つの形になったのですか?助け合うためではないのですか?
魔物の被害が大きい、または見込まれる場所に王属部隊を出します」
王の直属部隊は元々護衛部隊だったのが、この数年で人が増えたから名前を変えたよ。
貴族もいたけれども、ほとんどは魔法に秀でた平民や元奴隷だったんだ。でも優秀な奴隷はなかなか集まらなかったんだ。
最初は奴隷を一定期間国へ貸すように命令したけれど、働き手を失いたくない農民たちが従わなかったんだ。もし帰ってきた奴隷が平民になっていたら、ふつうの平民と同じような待遇にしないと罰金がが取られたんだ。
農民にとってなんもメリットがないのにやるわけないよね。ルドがなんで気づかなかったというと、学校の仕組みを作っていて手がまわらなかったんだ。宰相たちルークススペース国幹部に任せちゃったんだ。
人が集まらないと聞いて、ルドはこれではだめだと魔法が使える奴隷を出した農民には奴隷の相場と同等もしくはそれ以上のお金を出すってことにしたよ。
奴隷市場に売るよりも高く売れるといって売る人たちが増えたんだ。
そんなことがあってなんとかルドの計画は少しずつ進んでいるよ。
グランデフィウーメもそうだったけれど、首都オリゾンテは魔物が少ないんだ。国王軍に経験を積ませるために、遠征にいかせていたけれども、この費用もばかにならないからね。
治水工事を手伝わせながら、魔物退治もさせようという話になったよ。
治水工事をした奴隷も能力を認められれば平民になれたけれども、その基準は各領でも違うし、評価もばらばらだったよ。
堤防を作ると言っても作業ってたくさんあるわけで、全員が同じ作業をしているわけではないよ。結局は現場を指揮している人の判断次第になってしまうよ。
なかなか評価されないって奴隷の間では治水工事は不評なんだ。
ルドは王属部隊の隊長たちに何かヒントがないか見てきてと頼んだよ。
「承知致しました!」
元気いっぱいで出ていった隊長たちを見送ったあとに神殿の中に戻ると、ジュストが手にたくさんの本や書類を抱えて部屋に入ろうとしているのが見えたよ。手に荷物を持っているからドアが開けられないみたいだね。
ルドの養子だから、ルドの部屋の並びにジュストたちの部屋があるんだ。
「勉強かい?」
ドアを開けてあげると、ジュストは重たそうにいうよ。
「学校に関する規則。あれだめこれだめだから、何でかって調べるの」
「うん?ジュストは何がだめなのが嫌なの?」
政務の補佐してくれるステファノの息子に時間あるか聞くと、休憩時間だと言われたから、ジュストの話を聞くことにしたよ。
ジュストは学校でいい成績をとって、優秀だって先生から聞いていたよ。
アズーロとローザは勉強が苦手で、魔法の練習ばかりしているみたいだよ。
「外に出られるのは剣術の授業だけ。休み時間に外で友だちと遊びたいよ!」
お休みの日以外は授業が一日びっしり入っていから、遊び足りないみたいなんだ。
学校が終わればお迎えがきてしまうから、放課後遊ぼうってことができないよ。
「そうだよね。俺は一年しか学校に通ってないし、半分は雨降らしにいっていたから。学校は知識溜め込むところで交友を温めるとか考えてなかったな」
「兄ちゃん友だちいないだろう」
「…」
ルドが満面の笑みを浮かべたから、ジュストはもう触れなかろうと思ったよ。
エドモンドは友だちノーカウントらしいね。カリーナは友だちじゃなかったのかな?
「時間割変えるのも…。教室にずっといるのも嫌だよね。実戦はさせられないし。
ジュストはどうしてほしい?」
王様に直訴って凄いね。ジュストはそんなつもりはないから、お兄ちゃんに愚痴をいう感覚で話したよ。一応なんで学校にルールがあるか理由を調べて先生に話そうとしたらしいよ。
「偉いな。ジュストは。他の子の話しも聞いたんでしょう」
「べつに偉くないよ。どうやったら学校生活が快適に過ごせるか考えているだけだから」
「うん。頑張って」
ジュストの調べものを見てあげながら、ルドは学校も変えていかなきゃなと思ったよ。




