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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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19話 暴君ルドの話15

 前から左二列目にいた、ひげもじゃで汚ならしい男が目を丸くしていたよ。


「マッテオ?」


 男がうんと頷くとルドは目隠しを投げ捨てて、飛びついたよ。


「捜した!」


「え、あ?ありがとう。ってお前、王様って何だよ。意味わかんないんだけど。畑どうしたんだよ」


「伯父さんたちに全部あげた。家は壊せなくてとっておいてって頼んだけど。

 マッテオが生きてた。うう…」


 ルドは嬉しくて涙が止まらないよ。マッテオは照れ臭くて、笑いながらわしゃわしゃルドを撫でたよ。


「ルド。大きくなったな。背は俺の肩くらいしかなかったのに同じくらいになっちまって。綺麗なかっこうしているし、本当に誰かと思ったぜ」


「マッテオは元気そうでよかった。怪我もしてなさそうだし」


「ああ、元気だ。何回か売られたけど、いい主人に会えて生きてこられたよ。お前はどうしたんだよ。本当に」


 再会の高揚が落ち着いてきたルドは、グランデフィウーメ領主に礼を言って、マッテオの持ち主にお金を払うと言ったよ。持ち主さんとは話がついているらしく、お金はいらないって言われたよ。


「あ、マッテオは今のところがいい?家族とかいる?」


 マッテオの今の暮らしがわからないから、ルドは本人の意思を確認したよ。マッテオは少し笑ってルドの肩に手を置いたよ。


「俺の家族はルドとジーナだ。あとロレンツォも」


 ルドも少し笑ったよ。


「おうちに行こう。ジーナが待っている。その前に色々マッテオには言いたいことがあるけどね」


「え?あ。ジーナを売った金を持ち出したことだよな。あのときも謝ったけど、反省もしている」


「俺が怒っているのはそこじゃないから!ちょっと二人きりで話したいのですが」


 領主とエジリオに断りを入れたけれど、二人きりにさせてもらえなくて、護衛としてエジリオとリクが部屋にいたよ。エジリオはマッテオのことを知らないし、ルドの話からいい人という印象はあるけれど、人を殺しているという話も聞いていたからね。ルドに何かしないか念のため様子を見るつもりみたいだよ。


「さっきの続きだけど」


「あ、うん」


 マッテオは怒られるのがわかってるから、身を縮めてるよ。


「何で俺に相談しないで市場に行ったんだよ。ジーナを捜すって言ったよな、俺」


「だから早く買い戻さないとどこかに売られちまうし、実際いなかっただろう?」


「そうだけど、見つかってもあのときのお金でジーナは買えないよ!うちそんなに持ってないの知ってるだろう?」


「あっただろう?ジーナを売った金」


「…奴隷商人は自分の取り分があるから、買ったお金に上乗せするんだよ?それに売ったのは伯父さんだから、契約書のサインしていない俺がやっぱり売りませんって買ったお金と換えてくれないの」


「あ、そうか。俺がジーナを見つけても買えなかったのか」


「そうだよ。しかもマッテオは奴隷じゃないか。奴隷が奴隷は買えないだろう?俺は色々売って金を作ろうと思っていたのに、マッテオが!」


 マッテオは耳をふさいで身を引いたよ。


「悪いって言ってるってば!怒鳴るなよ。俺はあんまり考えがないのを知ってんだろう?」


「うん」


「うんってはっきり…。それでジーナは見つかったって言ってたな?元気か?」


 ルドが項垂れるから、マッテオは最悪を覚悟したよ。


「見つかったよ。生きている。でも…」


 ヴィペラの名前は伏せて、ジーナを見つけたいきさつと、数多くの暴力を受けて心に深い傷を負っていることを簡単に説明したよ。


 マッテオは怒りだしたから、ルドは必死に止めたよ。


「俺が復讐した。だからマッテオはだめだ。奴隷のマッテオが貴族を傷つけたら俺でもかばいきれない。

 マッテオが奴隷なのは罪を犯したから。俺は王様になったけど、王様だからそこを曲げてはいけないんだ。マッテオが犯人を傷つけたら、俺は」


「ああ。わかってるよ。犯人ってやつに何もしないよ。

 復讐って殺していないよな?」


「うん」


「そうか。よかった。お前が人殺しにならなくて」


 よかったよかったと、安心したようにマッテオは笑うよ。ルドのためを思っている人がいるっていうことを、エジリオに言われたことが、はっきりとわかったよ。


 ルドがジーンと感動しているのに、マッテオは怒られたくないから、話題を変えようとしたよ。


「で、なんで王様になったんだ?」


「ああ。俺が天候を操る魔法が使えるってわかったから。マッテオは何も聞いてない?」


 マッテオは最上級魔法を使える青年がグランデフィウーメの出身で、国を興したというざっくりな話しか知らなかったみたいだよ。

 ジーナの話よりも手短に話したよ。あんまり物事を深く考えないマッテオは、そっかと簡単に納得したよ。


「ま、俺はルドが元気だってわかったから安心した!

 あと、本当にジーナに酷いことをした奴を殺さなくてよかった。ロレンツォのこともあったから。俺も喧嘩っ早いけどよ、お前も短気なところあるから」


「親に似たんだよ」


 疲れたとばかりにルドはお茶を飲もうとカップに手をのばそうとしたら、マッテオに抱きしめられたよ。


「ちょっとこぼすじゃないか」


「お前がこんな俺をまだ親とか思ってくれてるのが嬉しくて。少しこのままでいいか?」


「うん」


 ルドはやっとマッテオとジーナに再会できたんだ。視察が終わるとオリゾンテの神殿へ帰ったよ。


 もちろん、キアーラに逢ってからね。そのときにマッテオを紹介して、キアーラが領主におねだりしたことを聞いたんだ。


 ルドはさらにキアーララブになっちゃったみたいだよ。二人のあまーい雰囲気をかぎとって、マッテオは帰りの馬車の中で、ルドから色々聞き出していたよ。


 顔を真っ赤にして話すルドが面白くて、根掘り葉掘りマッテオは聞いたんだ。ルドもルドで相談相手がほしかったから素直に話したよ。


 エジリオも一緒の馬車に乗っていて、ルドはキアーラとの約束とか言わなかったから、全部話したマッテオへの信頼の強さに少しもやっとしたみたいだね。




 ルドの神殿()で、変わり果てたジーナの姿を見たマッテオは束の間、声が出せなかったよ。


 怒りや悲しみばかりが込み上げて、懐かしさや愛しさは浮かんでこなかったんだ。


「マッテオ?」


 ジーナが甘えるように呼ぶと、マッテオは無意識にジーナへ走って抱きしめたよ。


「ジーナ…!」


 二人ともたくさん泣いているから、ルドは二人きりにさせてあげようと思ってドアノブに手を触れたよ。


「そばにいなくてよろしいので?」


 エジリオが聞くとルドは笑ったよ。


「せっかく二人が再会できたんだ。子どもがいたら邪魔ですよ」


「そういうものですかね?」


「ルド!」


 マッテオがルドを手招きするよ。ルドはそばにいくと力強い手で引っ張られて、ジーナと一緒にマッテオの腕の中にいたよ。


「みんな生きててよかった…!ルド。本当にありがとう」


「ええ。本当に。死にたいとか言ってごめんね、ルド」


 三人で泣いて、そうしたらもう一緒にいられなかった時間が嘘のように埋まって、笑っていたよ。


「そうだ!紹介したい子たちがいるんだ。魔法がとてもうまいんだけど、身寄りがなくてね」


 三人養子にしたというとマッテオが驚いていたよ。


「俺はいつの間にか、じいちゃんになっていたのかよ。この歳で?やめてくれ」


「子どもというよりはきょうだいみたいだよ。マッテオも子どもみたいに思ってくれると嬉しいな」


 ジュストたちを呼ぶとマッテオはしきりに鼻やら目を拭くよ。


「めちゃくちゃ顔がぐしゃぐしゃなのに、ここで紹介するのかよ!」


「マッテオはもうひげもじゃだから関係なくない?」


「第一印象大事だろう?」


「もうマッテオってこういう人って話したからもう印象とか意味ないよ」


「お前な!どうせ考えなしって言ったんだろう!」


「うん」


 ローザとアズーロがくすくす笑っているよ。ジーナはふふと笑ったんだ。


「子どもたちに笑われているわよ」


 マッテオと三人の紹介が終われば、アズーロとローザはもう懐いたよ。


 ジュストだけは加わらずに、ルドに言ったよ。


「よかったね。会えて」


「うん」


 子どもっぽい笑顔に、ジュストはルドの本当の笑顔なんじゃないかって思っていたよ。



 ルドはマッテオとジーナ、三人の子どもたちに囲まれてとても満たされた気持ちになったんだ。常にあった渇きはどうしてか消えていたよ。



 マッテオは神殿という慣れない場所で暮らすようになって戸惑っていたよ。力仕事が得意なマッテオは一日中、部屋の中でじっとするのが苦手だったんだ。


 ルドの育ての親ということで、奴隷や元奴隷たちはマッテオのことを丁寧に扱うから、恥ずかしくて仕方がなかったらしいよ。


 仕事はないかとお手伝いしようとすれば、マッテオ様は何もなさらなくていいのですと言われてしまうから、一人で歩けないジーナと一緒にいたよ。


「なあ、ルド。何かやることないか?」


 一日の仕事を終えたルドはジーナの部屋に必ず寄るから、その時にマッテオは聞いたよ。


「うーん。何かあるかな?作物の試験場を作ったばかりだから、人が足りているか聞いてみようか?」


 ステファノが以前から虫や天候の変化に強い作物を調べる施設を作っていて、ルドもやることにしたんだ。遺伝子という考えはないから、品種改良とかしていないよ。各地からいいと聞いた作物を取り寄せて増やしたり、肥料の研究をしているよ。


 さっそく翌日にマッテオと一緒に試験場へ行ったよ。まだ戒めをつけていて、段差に(つまず)くとマッテオが片手で支えるよ。


「そのペラペラしたのはいつまでつけているんだよ」


「ペラペラって覆い布のこと?みんなが俺のこと恐いと思わなくなるまでだよ」


「お前のどこが恐いんだよ?みんな恐がっていないじゃないか」


 マッテオはあんまりピンと来ていないみたいだよ。


 こんなことをしてみんなが恐がっているってルドが言うから、マッテオは段々イライラしてきたよ。


「ルドは理由がなくて人を傷つけたりしない!お前が小さくなることはないんだ!」


「だって!」


「だってじゃない!お前がそれ外さないなら、俺がずっと背負ってやる」


「は?」


 マッテオはルドを肩に担ぎ上げたよ。


「ちょっとおろしてよ!!」


 王様が奴隷に担ぎ上げられているんだ。みんなどうしたのって感じで見ているよ。


 神使たちのお祈りの時間が終わり、エジリオはルドが試験場にいると聞いてやってきたら、足をバタバタしているルドを見つけたんだ。


 マッテオもエジリオを見つけて、ズンズン近づいてきたよ。体格のいいマッテオは熊みたいでちょっと恐いよ。


「聖神使様!ルドはいつまで顔を隠さなないといけないんですか!」


 エジリオもいつ外させようと思っていたよ。


「そうですね。そろそろよろしいのでは?」


「そんな適当なのかよ!あんたねっ」


「マッテオ。エジリオ様に向かってあんたってだめだよ」


「ルドは黙ってろ。俺は子どもが顔を隠さなきゃいけないってことがおかしいって思ってるんだ。そもそも、あんたら大人が周りにたくさんいて何で子どもを止めない!あんたらが顔を隠せよ。

 この子は誰かのために隠しているんじゃない。自分がまた誰かを傷つけるんじゃないかって恐くて隠してるんだ。そうじゃないってなんで誰も言ってやらないんだ!」


 事件のときはルドは成人していたけれど、マッテオの中ではルドがまだ子どもらしいよ。自分の家族が顔を隠さなければならないのが許せなかったというのもあるみたい。


 ルドはバタバタするのを忘れたよ。自分はそう思っているのかと、妙に納得したよ。

 エジリオもそうかって納得したよ。マッテオのまっすぐなところが、ルドにそっくりなんだ。


「申し訳ございません。私どもの不手際です」


「エジリオ様のせいじゃないんで!」


「だからルドは黙ってろ。お前はいい子だし、自分の意見をぐって飲みこんじまうときがある。

 聖神使様、俺は奴隷だし、いつもルドのそばにいられないから頼んだぜ。

 あともう一つ、こいつは子どもだから夜中まで働かすなよ。寝るのも仕事だ」


「俺はもう大人だし子ども扱いするなよ」


 マッテオはルドのお尻をバシッと叩いたよ。


「お前は背伸びしすぎなんだよ。全然笑ってないし、この前ジーナの作った飯残したし!全然らしくないから腹立つんだよ」


「…」


 疲れていてお腹すかなかったんだって言ったら、またお尻を叩かれそうだね。


「お前は王様として生まれたわけじゃねぇよ。農民だ、農民。らしくないことして無理すんな。

 それに、俺はルドの中に誰かいるのは昔から知っていた」


「え?」


 ルドはエジリオたちと会ってから転生を知ったから、マッテオが知っているはずがなかったんだ。


「お前の両親が死んで何日か経ってかな。夜中に家から出ようとしてよ。変な言葉を話してて。俺がどうしたって羽交い締めにしたら、勝手に身体が動いて床に転がったら、動けなくなったんだ。ルドの身体が淡く光ったから、こいつは俺に魔法を使ったんだってわかったよ。それまで魔法使ったことがないのに使っているし、驚いたぜ。

 でさ、今度はガキらしくない言葉使いでなんか言ったんだよ。えーと、ここにいてはならない、帰らねばならぬとかなんとか。

 親が死んでおかしくなったのかと思ってさ。この後三回くらいあって。しばらく俺と一緒に寝るようにしてたんだ。でも霊の話を聞いて、そいつが現れていたのかって納得した」


 マッテオはルドが人を操る魔法を使えるのがわかっていながらも、受け入れてくれたみたいだよ。


「全然覚えてない…」


「だろうな。次の日聞いてもケロって忘れてたから、俺も忘れてた」


 ドヤ顔しているマッテオにエジリオは忘れるなと呆れていたけれども、後で幼いときのルドのことについて聞こうと思っていたよ。


「えっと、俺が言いたいのはお前はお前だってことだ。マグナスだっけか?そいつはお前じゃない。そいつが何を考えようが、自分をしっかり持て。

 勝手にどこかに行くなよ」


「うん。ん?勝手に行くなっていうのはこっちのセリフだからね!」


 話を蒸し返されると思ったマッテオはルドをおろしたよ。

 目隠しを外すと日の光がとても眩しかったよ。目が眩んでまっすぐ歩けなくて、結局マッテオに背負われたんだ。


「歩くからおろして!」


「目が慣れるまでだめだ」


「もう慣れた!」


「嘘つけ」


 試験場で働いている人たちはルドが背負われて驚いたけれど、マッテオと話していると子どもっぽくて微笑ましく思ったみたいだよ。王様だしヴィペラ事件もあって、ルドと直接会ったことがない人は何となく恐い人だって思っていたからね。


 マッテオはすぐに試験場の人たちと仲良くなって、働くようになったよ。試験場にも奴隷がいたけれども、ちゃんと休憩もあったし、平民と変わらない食事も出されていたんだ。



 即位して二年が過ぎると、あらたな問題が起きたよ。ルドの結婚問題だ。


「俺の子どもができても、その子が最上級の水の使い手になるかわからない。血筋とか関係なく、みんなが王だと考える人が王になればいいと思います」


 そんなことを言っちゃうから議会が大騒ぎになるんだ。ステファノをはじめ、貴族はルドの子どもに王の継承権があると考えていたからね。ルドは度々貴族の考えや風習から離れたことを言うから、貴族たちは混乱したよ。


 対してエジリオはルドがそう考えるのも無理はないと思っていたよ。ルドの言う通り、魔法は遺伝が濃く出るけれど、親の能力が強くでるかと言われるとそうではないんだ。


 ルドの両親も魔法は使えたけれど、火と土で、水属性はルドの母方の家系の人に多くでたらしいよ。


「結婚相手の家が政治に影響を与えるべきではないし、そうするつもりもありません」


 断言しちゃったよ。


 宰相のステファノ的には舌打ちものだけれども、ルドとキアーラの関係は続いているから、ルド的にはこの方法で収めたかったんだ。




 ルドとキアーラは手紙のやり取りをしていたけれど、久しぶりにキアーラはルドに逢えるからお洒落したよ。


 質素な服装のルドを見て、気合い入れすぎたと焦ったよ。ルドは華美な服装は好まなかったなんだ。食事もパンやパスタとメイン一種がつくくらいで、とても王様の食事に思えないよ。ミアとジーナがいつも作ってくれるけれど、料理を勉強したわけではないから、コックさんが作る料理は作れないんだ。


 え、コックさんって言わないの?シェフの方が馴染みがある?


 今の日本ってそうなんだね。レナータでは料理人のことをクオーコっていうからクオーコって言うね。


 聞き慣れない?わかったよ。シェフね。


 で、ルドは毎日の食事だから食べ慣れた味が安心したんだよ。


 王様のご飯が作れないと神殿のシェフさんとかは不満みたいだから、たまにお願いしているよ。そうなるとミアが不服らしいから、難しいね。


 キアーラとのデートはシェフさんが作ってくれるよ。


 ルークススペースでデートの定番美味しいご飯を食べて、二人は神殿のお庭を散歩したよ。


 この頃には小川や噴水ができていたんだ。噴水の前のベンチでお喋りをするけれど、神使やら護衛やらがいて、ちっとも二人きりのロマンチックな感じはしないよ。


 もちろん、護衛たちは距離はとってるけどね。


 キアーラは目を合わせてくれなくて、(うつむ)いてしまっているよ。


 ルドは気になって聞いてみたんだ。


「恥ずかしくてお顔が見られないのです…」


 だそうだよ。


 ルドはキアーラ可愛いって脳内で連呼しているよ。本当は叫びたいらしいけど、王様だから我慢しているみたいだよ。


 ルドはキアーラと手を繋ぎたいけれど、とても恥ずかしがり屋のキアーラを考えて握れなかったんだ。

 目隠しした方が手を握れるんじゃかいかって思って、グランデフィウーメに行くときはわざと目隠ししたよ。


 あざとい気がするけれど、グランデフィウーメの貴族の中では、ルドを恐がっている人もいたんだ。


 ヴィペラ息子もそうだけど、ロレンツォを殺せと言ってルドに舌を破裂させられたビゴン隊長とかね。


 ルドに冷たく当たった人たちはビクビクしていたよ。


 そんな周囲のことを気にせずに、グランデフィウーメにいったときには必ずキアーラとデートしたよ。


 キアーラは目隠ししたルドの手を引いてお庭に連れていったりしていたから、段々ビビり貴族たちは、ルドに冷たくした代表格のキアーラが何もされないのなら俺らも大丈夫じゃね?って考えるようになったよ。


 農民王って小馬鹿にする人もいて、そういう人たちがいたずらを考えたよ。


 少し魔法が使える奴隷の少年に、ルドに向かって魔法を放てと命令したんだ。奴隷の少年はルークススペース王が奴隷たちを解放していると聞いていて、尊敬していたし魔法を放つのは嫌だと思っていたよ。


 でもご主人様にやらないと食事を抜くとか言われたんだ。それでもやりたくないと言ったら、ご主人様が王はお前が魔法を使えると知ればお前がほしいと言ってもらえるかもしれないよって言ったんだ。


 少年は自分も平民になれるかもしれないと思って、乗せられてしまったよ。

 

 ルドはそんな企みを知らないで、キアーラに夢中だったんだ。キアーラに手を引かれて話をしていると、奴隷の少年は植込みの陰から炎の魔法を放ったよ。


 一番安全な城壁の中で攻撃を受けると思ってもみなかったキアーラは、防御を忘れてきゃって悲鳴を上げたよ。


 ルドは熱を感じて咄嗟にキアーラの腰に腕を回して、炎と反対方向へ飛びながら水の魔法を放ったよ。


 魔法は相殺されて消えたんだ。奴隷の少年は恐くなって逃げようとしたよ。


「待ちなさい!」


 ルドは魔法で少年の行く手を阻んだんだ。


 護衛たちはすぐに少年の身を取り押さえて、ルドの前に引きずり出したよ。


「奴隷の子どものようです。持ち主を探します」


 ルドに報告をしてから、護衛はどこかに少年を連れていこうとしたよ。


「その子をどうするつもり?」


 遊びだったとしても王様に魔法を放ったんだ。ルドの護衛たちはこの子を殺すことしか考えていないよ。


「この奴隷はあろうことか陛下に魔法を放ったのです。処分致します」


 護衛の中に元奴隷もいたから、少年の行動が信じられなかったんだよ。元奴隷たちはルドが苦しい暮らしから助けてくれたから、尊敬していたり神のように思っていたんだ。


 恩人であり、奴隷の救世主に奴隷(・・)が攻撃することに腹が立ったんだ。


「言い分を聞かずして殺してはなりません。それにこの子はあなたたちとは違う。グランデフィウーメ領の奴隷です」


 ルドは奴隷の少年が基本貴族や庭師しか入れない庭園にいることが疑問だったんだ。子どもの背格好を聞く限り、庭師の見習いや庭で働いているわけではなさそうだったよ。


 グランデフィウーメの貴族の誰かが命令したって、すぐに気づいたんだ。だからグランデフィウーメの奴隷だって強調したんだ。


 またもや騒ぎになったよ。奴隷少年の持ち主はすぐに現れなかったんだ。奴隷少年に主人の名前を聞くけれど震え上がってしまって、うまく話せないんだ。


 ルドは少年の肩を擦りながら、ゆっくりでいいよと話しかけたよ。


「命令されたの?いたずらだったの?」


「…魔法使えるって王様に見せれば、奴隷じゃなくなるって聞いたから」


 この子の持ち主は名指しされなくて安心しただろうね。血液の流れを視て(・・)嘘をついていないから、ルドは言い分を信じたよ。


「そうか。奴隷の生活は嫌だよね」


「…はい」


 もう一度持ち主はいないかとルドは周りに呼び掛けても、集まった貴族たちは知らないようだよ。


 それもそのはず。命令した本人は来ていないからね。ルドが嘘を見破れるから、見つかっちゃうと思ったみたいだよ。


「持ち主はいないようです。現れるまでこの子は俺が預かりましょう」


 これには犯人は焦っただろうね。奴隷だからその場で斬り殺されて口を封じられると考えたから、安全地帯でぬくぬくしていたんだ。


 少年を罰すべしと元奴隷の護衛たちは声を上げたよ。それにルドは悲しかったんだ。


「この子は誰かから聞いたのか、命令されて俺に魔法を放ったんだ。奴隷である理不尽をあなたたちは知っているでしょう?」


 ルド大切さで言ってしまったことに護衛たちは反省したよ。


 騒ぎを聞いて駆けつけたヴィペラ父は、ルドを見て逃げたくなったよ。


「この子は魔法を俺に見せれば平民へ引き立ててくれると、誰か(・・)から聞いて俺に攻撃したそうです」


 ルドの含み気づかないヴィペラではないよ。


「左様でございますか。噂を聞いた奴隷がこの子どもに話したのでしょう」


 ヴィペラはそういうことにしたかったけれど、ルドは引かないよ。


「この子の持ち主は出てきていません。ヴィペラ様たちはお忙しいでしょうから、探す必要はありません。この子を預かっておきますので、もし名乗り出るならこの子をお返しします」


「わかりました」


 ヴィペラ父は名乗りでないだろうなと思うと同時に、犯人に何してくれるんだよと思っていたよ。


 王様が殺されかけたんだ。ルークススペース国が、グランデフィウーメ領に報復として戦争をふっかけてもおかしくないんだ。


 兵の数を一つとってもグランデフィウーメに勝ち目がないよ。


 ヴィペラ父はルドが戦争や難題をふっかけてこないようだから、ひとまず安堵したよ。ルド側の護衛たちはピリピリしていたけれどね。


 ルドは護衛たちに奴隷少年が落ち着いたら話を聞くように言っておいたよ。


 結局、この奴隷少年に命令をする使用人の名前がわかっても、ご主人様って呼んでいて主人の名前は教えてもらっていなくてわからなかったんだよ。


 キアーラとのデートが台無しになってルドは残念に思っていたよ。


「キアーラ様。お怪我は?」


「大丈夫ですわ。ルドは凄いのね。目隠しをしていても的確に魔法を放てるのね」


「あ…」


 ルドは目隠しをしていたのを忘れていたんだ。真っ暗な視界の中で、白くもやになっている人形のようなものが視えていたんだ。


 背丈や体格からして大体誰だか判断できたよ。


「目の前にいるのはキアーラ様で。斜め前にいるのはヴィペラ様?」


 話してもいないのに、どんどん当てていくんだ。


「目隠し外れたか?」


 リクがルドの覆い布をめくるときつく縛られた目隠しが現れたよ。


「してるな。なんでわかるんだ?」


「『視える』んだ。目隠しして魔法なんてしないから誰も気づかなかったのだろう。

 はは。 こんなことで新たな境地を見いだすとは。目隠しが無意味になってしまった。中央(ケントルム)の魔法博士たちが生きていたら、さぞかし驚くだろう」


「視えるって?解説頼む」


 視ようとすると暗い中に白い水がもやのように視えると説明したよ。それには周りにいた人は愕然としたんだ。


「つまりルドが目を隠しても相手の位置もわかるし、魔法が使えるから目隠しが無意味になったと」


「そういうことだね」


 キアーラは凄いわとお目々キラキラさせていたけれど、ヴィペラ父は恐怖に思っていたよ。


 目を封じればルドは魔法が使えないから、自分たちは安全だと思っていたからね。


 グランデフィウーメでも目隠ししないことになったよ。

 領主はヴィペラ父の報告を聞いて、報復しないとはいえ、ルドはいつこの件を持ち出すかわからないから、ご機嫌取りをしなくてはと考えたよ。


「仕方ない」


 領主は娘を呼び出したんだ。


 ルドはキアーラのデートを中止したあと、ミアや護衛など魔法を勉強している人たちを集めて、目隠しさせて訓練をさせたよ。


 全員が視えるようになったわけではないけれども、ルド以外でも目を隠しても『視える』ということがわかったよ。


 あとは目が見えない状態で『視える』ようになるメリットがあるかどうかだね。訓練させて何かしらの効果がなければ、無駄な訓練をさせてしまうからね。


 このことを国にいるブルーノやカリーナに伝えるために手紙を書こうと、夕方グランデフィウーメ教会の部屋に戻ったよ。


 ルドの部屋は一つが執務室で、扉を隔てて、寝室になっているよ。


 寝室はプライベートルームだから、掃除してくれる世話係以外は勝手に入れないよ。休みたいし、寝室で手紙を書こうとしたんだ。


 だから部屋を開けてベッドの天蓋越し人影が見えて驚いたよ。


「誰かいるの?」


 剣に手を置いて恐る恐る天蓋を(めく)ると、薄着のキアーラがちょこんと座っていたんだ。

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