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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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17話 暴君ルドの話13

 暴力的なシーンがあります。苦手な方はご注意ください。

 ローザの悲鳴を聞いたルドは走り出したよ。


「ローザ!」


 ルドはジーナを庇おうとしているローザに男が剣を向けていたのを見つけたよ。


 男はふんと言って剣をおさめたよ。


「これはこれは。困りますな。奴隷と平民を庭に放し飼いにされては。ここはどこの領地であるかご存知ですよね?」


 ルドは二人に怪我がないことを確認して安心したよ。


「兄ちゃん、この人だよ!ジーナをこんなにした人」


 ルドは蓋をしていた感情がドバッと溢れてきたんだ。同時に内なる声がしたよ。


 王として立つならこれ以上の感情を出してはならないという声。


 王の家族を傷つけた罪を解らせよという声。


「それは本当ですか?ヴィペラ様」


 ルドはゆっくり立ち上がったよ。ヴィペラ家はグランデフィウーメ家の側近の家柄の一つで、ルドと面識あるよ。


 ヴィペラの屋敷は領城の目と話の先にあるんだ。ジーナがこんなに近くにいたのに、助けられなかったことをルドは悔しい思いをしたよ。


「その奴隷は我が屋敷にいたが、裁縫も料理もろくにできなくてね。持っているだけでも邪魔だから売ったのだよ。それを買うとは貴殿は奇特なことをしますな」


「ふざけるな!お前が暴力を振るってジーナを追い詰めたんだろう!彼女は俺の母親だ!」


「ルド!だめよ。ご主人様に謝って。謝らないとあなたもぶたれる」


「ジーナ?」


 ルドはルークススペース王だから簡単には殴られないけれど、ジーナはまだ農民のルドだと頭の中がごっちゃになっているよ。


 ヴィペラはずっと嗤っているよ。


「その奴隷が母親だって。奴隷が王とはルークススペース国とは先が思いやられるな。領主様には加わるのはやめにしようと強く進言しておくよ」


「あなた方が加わらなくて結構です。その前にどうしてジーナにこんなことしたのですか?」


「こんなこと?さあ?息子のしたことなのでわからないが、奴隷を何しようと勝手だろう?それは常識だ」


「常識…?常識が良識だとは限らない。あなたの息子を連れてきてください」


「連れてきてどうする?謝れと言うのか?そもそも売ったのは貴殿だろう?」


 ジュストが飛び出そうとするのをステファノの息子がおさえているよ。


「ジュスト。これは俺の問題だ。君たちはジーナを教会に連れていって守ってほしい」


「わかったけど…」


 騒ぎを聞いてステファノやエジリオたちも来てしまったよ。


「どうしたのですか?」


 エジリオが聞いたけれど、ルドの代わりにローザが叫んだよ。


「こいつの息子がジーナをこんな目に合わせたんだ!」


「やめて!」


 ジーナからすれば過去の嫌なことを思い出すし、多くの人に知れ渡るってことだよ。ルドはジーナの肩を強く抱いて謝ったよ。


「ごめん、ジーナ。辛い思いをさせてしまって。誰かジーナを」


 エジリオがジーナを支えようとしたけれど、リクが手で制したよ。ルドのそばにいろということだね。


 ジーナと子どもたちがいなくなったけれど、グランデフィウーメ側とルークススペース側の主要人物が揃っちゃったよ。


「見せ物ではありません。みなさん、どこかに行ってください」


 ルドが何かするんじゃないかってエジリオたちは下がらないよ。


「ルド様。落ち着いてください。法ではジーナ殿の持ち主はヴィペラ様にあったので、ここでルド様が手をあげれば非はルド様になってしまいます」


「だから、何?これは俺とヴィペラの問題だ。口を挟まないでくれる?息子はどこにいる?」


「言ったところでどうするのだ?ここで私に手を出せば、外交問題になりますぞ?」


 ヴィペラはルドもグランデフィウーメで問題にしたくないだろうから、自分は痛い目合わないだろうって余裕だよ。


「もう一度言う、息子はどこだ?それとも息子の代わりに罰を受けたいのか?」


「奴隷はモノだ。私も息子を罰する法はないのを理解していないのかな?さすが農民王いや奴隷王だな。学もない」


 これにはステファノたちも聞き捨てならないよ。騒ぎになりそうなのをルドは煩わしそうにしているよ。


 ヴィペラがいきなり膝をついたんだ。頭を下げて謝るようにね。


 ルドは空を見上げたよ。


「ああ。裁きの神(ジュリシーオ)よ。

 どうして、ここでかの者に罰を与えないのですか?俺はそれを見られないではないか。

 どうして、罰を与えるのに被害者と同じところを同じ分だけ傷を与えてはならないのですか?

 どうして、男と女は違うのですか?」


 ルドが嘆きだしたから、エジリオたちはどうしちゃったのって混乱したよ。


「せっかく探さないでおいたのに。お前らは馬鹿だな。その穢れた考えを捨て、素直に俺とジーナに謝ればよかったのに」


 グランデフィウーメ領主とヴィペラの息子が運悪く来たよ。


「何を…」


 グランデフィウーメ領主が言う前にヴィペラの息子がゆっくり前に進んだよ。


「な、な、勝手に足が!」


 ベタンと地べたに身体を打ち付けて、父親の隣で同じ格好をさせられたよ。


「問う。お前は過去に奴隷を折檻した上、強姦して妊娠させた挙げ句、堕胎薬を使わずに腹を強打して流産させたのか?」


「何を言う!私は何もしていない!」


 頭を下げてるから地面に向かって叫んでいるよ。


「これでは心の臓が見えぬ」


 ヴィペラの息子ははねあがるように身体を反らしたよ。隣にいた父親は何事かと震えて見ているよ。息子を助けたいけれど身体が動かないんだ。


「再度問う。今、私が言ったことを認めるか?」


「そ、そんな下劣なことをするわけがない!」


 ルドは目を細めて、手を振り下ろすとヴィペラ息子は自分の意思とは関係なしに頭を下げたよ。


「この領地にも私の国にも人を操る魔法は禁止されていない。なぜなら存在しないと考えているから禁止することはできなかった。ならばやっても構わぬだろう」


 怒りで千年前の人の性格が出ちゃったよ。エジリオはルドを止めなきゃって考えているけれども、思考が空回りするんだ。みんなも同じで怖くて動けないよ。


 ヴィペラ息子が腹を抱えて苦しみ出すよ。その腹はどんどんふくれ上がるんだ。


「男を孕ますことはできぬ。でも知っているか?臓腑と臓腑の間は空っぽなのだ。そこに水を流し込めばよい。恐ろしいだろう。腹が膨れるのは。そして蹴られるのもな!」


 ルドは膨れた腹を蹴り飛ばしたよ。悲鳴があがるけれど、ルドは蹴るのも面倒だとばかりに魔法で、ヴィペラ息子の体内の水を操ったよ。激痛にヴィペラ息子は助けてと叫ぶよ。


「ジーナは何度お前にやめてと言った?その度に嗤って彼女を叩いたのだろう!くずめ!」


 相手がガタガタ震えて失神すると、ルドは舌打ちしたよ。


「弱いのう。この時代の者は。まともに魔法で防御も取れぬ。その紛い物は目障りだ」


 魔法を無効化できるネックレスが破壊されて、ヴィペラ父は恐ろしいものを見たかのようにルドを見上げていたよ。


「あ、あ…。何なんだ、お前は!」


「私のことか?王である。貴様らが侮辱するから解らせてやったのだ。私を(けな)し、王の家族を傷つけるとどうなるかを」


「お止めください!マグナス様。もうルド様にお戻りください」


 エジリオは剣の柄を握り、己を鼓舞するとルドの前にひざまずいたよ。ルドの表情のない顔にエジリオは震えを我慢して見据えたんだ。


「私はルドで、ルドは私だ。私の望みはルドの望みでもある。この親子を許しておけぬ。罰する方法をルドは知らぬ故、私が示したのだ」


「あなたの生きていた時代とは違うのです。この人たちを殺してはなりません」


「ならば法を作ればよい」


「後悔なさいます。理不尽はお嫌いでしょう?」


 エジリオにわかってもらえなくて、わなわなと身体を震わせたよ。


「ジーナの受けた仕打ちをなかったことにせよと申すのか!あれは理不尽以外なにものでもない!

 いつもそうだ。神官(・・)どもは慈悲をと言って懇願するが、裏では私を穢れたもののように言っていた。ルドはお前たちを好いているが、私はお前たちが嫌いだった。世俗を断ち神ばかり見て、それで何を救えると言うのだろう。身を切られたことない者に、子を産んだ痛みも知らぬ者に慰めの言葉を言われて響くと思うのか。所詮は貴様らは口先だけで、私に手を汚させる。

 お前もそうなのか?結局は私の敵か?」


「味方です。どうかお気持ちを鎮めてください。この人たちを殺めれば、ルド様は後悔なさいます。マッテオ殿はロレンツォ殿が殺されたときあなたを止めたと聞いています。ここに彼がいたなら止めたでしょう。あなたを思って復讐を止めるものは大勢います。どうか、今一度ルド様にお戻りください。どうしてもと仰るなら私を殺してからにしてください」


 ルドは頭を下げる聖神使を見下ろして言い放ったよ。


「このようなことで命を差し出すか。生ぬるい考えだ。邪を祓うのがお前の仕事であろう。ルドの手を汚したくなければ、私をルドから消してみよ。できねば神官…神使をやめて、私の使いになるがよい」


 エジリオは思ってもみない勧誘に咄嗟に言葉がでなかったんだ。ルドを見つめたよ。


「…私は神使です。千年前のあなたについてはいけません。ルド様と共に神々の教えの通りに国を作ると決めたのです。あなたの治めた中央(ケントルム)の国にするつもりはありません」


 ルドはああ、ここは中央(ケントルム)じゃなかったんだと思ったよ。


 エジリオにふられたけど、よく考えれば千年前の誰かさんではなくて、ルドについていくと言っているよ。人を簡単に傷つけるルドの力を恐ろしいと思いながらも、人の道へと正そうとしてくれているんだ。


「…教会に行って頭を冷やしてきます」



 誰もが氷のように固まって動けない中、踵を返して教会へ向かおうとしたときにステファノと目が合ったよ。ステファノだけじゃない。その周りにいた人たちは恐怖の眼でルドを見ているよ。


 ルドは黙って教会に入っていくと、エジリオだけは後ろからついてきたんだ。振り返らないで言ったよ。


「一人になりたいです。他の人には俺が霊憑き(・・・)だと説明してもらっても構いません」


「承知しました」


 教会の礼拝堂に入ると、静寂さに心が落ち着いてきたんだ。


 復讐できて満足してしまったけれども、最大のやらかしにルドは外に出るのが怖くなったよ。


 ステファノたちの眼が頭から離れないよ。


 今まで通り笑い合うこともできないのではないのかと考えてしまったんだ。




「陛下。お祈りの最中に申し訳ございません。何か私にできることがあればお申し付けください」


 裁きの神(ジュリシーオ)の男の神使が後ろから声をかけてきたよ。


「祈ってはいません。アリエーテ神使様。俺が何をしたか聞きましたか?」


「はい。魔法を使って男性の腹を脹らませたと」


「…俺のそばにいるのは恐くないですか?」


「いいえ。恐ろしくありません。痛いほどお気持ちがわかりますから」


 ルドは驚いてアリエーテを振り向いたんだ。まっすぐな眼とぶつかったよ。


「お隣にいっても?」


「どうぞ」


 ルドは横にずれて、アリエーテと並んだよ。アリエーテは膝をついて祭壇に向かって祈りの言葉を言ってから、話し出したよ。


「私にはかつて娘がいました。神使になる前は商売をしておりましたが、商売というものは売れたり売れなかったりと波がありしてね。決して裕福ではありませんが、とても幸せでした。

 ある日五歳になった娘が何も前触れもなく、姿を消してしました。翌日にどうしてか姿を消したところから離れた川で見つかりました。至るところに傷があり、そして…」


 アリエーテは首を振ってから話を進めたよ。


「私は犯人を捜しました。必死に何年も。妻が次男を産んだときに言ったのです。今生きている子たちを守らなくてはいけないと。商いを蔑ろにしていたので、かなり貧しい生活をさせてしまいました。妻や子どもたちからすれば、働いてくれと思っていたでしょうね。

 私は悔しかった。買い付けにいって娘から数分目を離したばかりに!」


 アリエーテは落ち着こうと、またお祈りの言葉を言ったよ。ルドはまだアリエーテの中で娘の事件は終わっていないのだろうと思ったよ。


「犯人は?」


「見つかっておりません。同じようなことを耳にする度に娘を思いだし、同時にのうのうと生きているであろう犯人を憎みました。

 私は商人でしたので、商いの仲間や相手に聞き込みをしました。それでもまったくわからず。兵は犯人を捜してくれませんでした。街の商人のたかだか子ども。そんな感じでした。私にとっては初めての子で可愛くて、今でもあの子が私を呼ぶ声が耳に残っています。

 毎日教会に通い、祈るうちに裁きの神(ジュリシーオ)教会の神使に言われてのです。あなたが正しいことをしていればきっと犯人は見つかるだろうと。私は商人として捜してはだめだ、神使なって多くの人に裁きの神(ジュリシーオ)様のお考えを広めて、犯人が悔いて名乗り出てくるようにしようと考えたのです」


 それでアリエーテは神使になったようだね。多分いさめてくれた神使さんは仕事をして家族を守れと言いたかったんだろうけど。


「でもまだ犯人は出てきません。私の不純な考えが神様にはお見通しだったのでしょうか?神使として神々と人々のことを考えなければいけないのに、娘の死顔が、苦しげに歪んだ顔が忘れられないのです」


「犯人が見つかったらどうしますか?」


 アリエーテはぎゅっと組んだ指を握っているよ。ルドと同じことをしたいんだね。

 

「アリエーテ様は俺になってはいけません。復讐する前だったら、兵にちゃんと捜査するように命じて犯人を見つける仕組みを作ると約束したでしょう」


「陛下。何故そのようなことを?犯人を見つけて、被害者と同じ傷を負わせる罰を!あなたなら可能だと」


 すがりつくような懇願にルドは悲しそうに見たよ。


「あなたはこちら側に来てはいけない。裁きの神(ジュリシーオ)様の神使として公平な裁きをできるように働きかけてください」


「どうして私に?あなたがなさるのでは?」


「王は何をしても許されるのですか?それが通ってしまえば、もし俺があなたの娘を殺した犯人だったら許されてしまう。それは間違いでしょう。

 復讐は禁じられています。俺は破りました。罰を受けねばなりません」


 逃げないルドがアリエーテには眩しく見えたんだ。


「陛下は罪だと」


「ジーナは奴隷。奴隷の前の所有者は何も権限はない。法では俺のしたことは罪のない(・・・・)ヴィペラを傷つけたことになります。復讐ですらない」


 グランデフィウーメも他の領地での奴隷の扱いは基本的は同じルールだよ。ルドの国は奴隷自体を廃止しようとしているけど、まだできていないよ。しかも、グランデフィウーメで起こったことだからグランデフィウーメの法が適用されるよ。だからルドはきっかけはジーナでも、ヴィペラを魔法で攻撃したからルドが悪いとなるんだ。


「陛下」


 エジリオとステファノが来たよ。ステファノは平静を装っているけど、鼓動が早いからルドはなるべく見ないようにしてあげたよ。


「罰は受けます。王でべからずというのならば、議会で話し合いをしてください」


 アリエーテはなんとかルドの罪を軽くできないか考えたよ。


「陛下はこの世界にはなくてはならない方です。聖神使様。どうにかなりませんか?」


「アリエーテ神使。落ち着いてください。ヴィペラ様をはじめグランデフィウーメ領主様は、陛下を訴えないと仰られました」


 ルドは怪訝そうにエジリオを見るよ。グランデフィウーメ領主ならここぞとばかり、あれしろとかここをよこせとか言うと思ったからね。


「ヴィペラ殿は陛下に謝罪したいと申しております」


 ステファノは抑揚を抑えた声で話したよ。


「…わかりました。エジリオ様。さきほどはすみませんでした。失礼なことを言って」


 エジリオはきょとんとなったけれど、ああと思い当たったよ。


「マグナス様のお考えであってルド様ではないので気にしておりません。ただご指摘いただいたのはその通りであると受け止めております」


「神使は神使苦しみもあるはずです。それを知らないで切り捨てるような言い方は間違っています。あの人の本当の名前はわかりませんが、今はマグナスと呼び方にしておきましょう。マグナスは国を広げるために戦争をしていきました。神官…神使とぶつかることも多かったようで、あまりいい感情は抱いていないようです。

 でもマグナスはエジリオ様が神使兵をされていたのも知っています。だから…」


 ルドはエジリオの肩に手を置いたよ。


「清濁あわせ持つお前が嫌いではない…だそうです。だから勧誘したようなので」


 ルドはごめんなさいと慌てて手を離したよ。エジリオはふふと笑ったんだ。


「聖神使は手を汚してきた私がなるべきではないと、他の者も私自身も考えておりましたが、亡くなった後でも名を残された偉大な王マグナス様にお認めいただいて気分が軽くなりました」


「それはよかったです」


 ルドはエジリオの心臓や血の巡りを視て、本心を言っていて安心したよ。


 もう一人緊張しっぱなしの人に聞いたよ。


「ステファノ様。俺が恐いですか?」


 ステファノはいやといいかけたけど、相手は嘘が通じないから素直に答えたよ。


「はい。正直陛下が人の心臓を魔法で潰せると聞いて、信じておりませんでした。黒い刃(ラーメネーラ)のときはあれは魔物でしたから、心臓を潰したときには抵抗感はありませんでした。それが怒りだけで人の心臓を潰せるとなれば私だけではなく、みな恐れるでしょう」


「そうだよね。恐いよね。防御する術を知らないのだから。視る方法も防御方法も国の人間には教えます。ただ国を興したばかりでいつ戦争になるかわからない。視えることは広めたくない」


「左様です。陛下の知識を伝授する者は限られた者にしましょう」


 戦争をしてきたステファノは、ルドの魔法がいかに凄い戦力か理解しているよ。


「俺が無差別に攻撃しないとわかってもらえる方法は何かないかな。目は潰したくないし」


「も、もちろんですとも。そこまでする必要はございません」


 ルドが剣に触れたからエジリオは慌てたよ。


「目を覆うのは?正直、陛下に見られると今は恐ろしいと思ってしまいまして」


 ステファノは深々と頭を下げて進言したよ。


「そうしましょう。ただ歩くのが不便だね。介添えが必要になりますが」


「介添えは神使がやりましょう」


 黙っていたアリエーテが胸に手を置いて主張してきたよ。ルドが自分の理解者だと思ったらしく、そばにいたいと考えているようだね。


「神使様のお手を煩わせるには」


「構いません。陛下は神々の教えを広めてくださる方。神使でもありますから」


 エジリオはまた色々ふっとばしたことを言ったよ。正確にはルドはまだ神使のお勉強中で神使ではないよ。


「神使様が陛下のおそばにいれば皆も安心するでしょう」


 ステファノも賛成したよ。エジリオはもとよりルドのそばには神使をつけるつもりだったから、いい口実だと思っていたよ。


 ルドは目を伏せて目隠しをして、さらに覆い布をするとまったく見えなくて驚いたよ。


「昼か夜かもわからないね」


「寝ててもばれないじゃないか」


 リクが軽口を叩くよ。


「会議…」


「寝ないでくださいね。陛下」


 エジリオがにっこり笑うけど、それもルドは見えていないよ。


「教会の前で我が国の者とグランデフィウーメの者が集まっているようです」


 ステファノの息子が報告に来たよ。


 ルドはアリエーテの介添えで教会の外に出たよ。陽射しは暖かく外なんだとわかるけど、目隠ししているから真っ暗で何も見えないよ。


「陛下。あと一歩で階段でございます」


「他の人たちは?」


「階段の下におります」


「下に行きます」


「いいえ。そのままでお話を」


 ルドにエジリオは耳打ちをすると話し出したよ。


「ルークススペース陛下よりこの度のことでお話があります」


 エジリオはステファノに確認するように見ると頷いてから、ステファノは階段をおりていったよ。


 ルドは見えないから、真っ直ぐ前を向いたよ。


私怨(しえん)により皆様に迷惑と恐怖を与えてしまったことをお詫びします。大事にしないよう計らってくださったグランデフィウーメ領主様と我が国の者に対して、感謝すると同時に、反省とし俺はしばらく目を封じます。

 俺は理不尽な世を許さない。それ故俺自身が理不尽を示してはならない。

 これで皆様に許してもらえないでしょうか?」


 低姿勢にステファノはやきもきしていたけれど、グランデフィウーメは構いませんと言っていたよ。


 ルドは反応が見えないからアリエーテに聞いたよ。


「様子は?」


「皆様納得されているようです」


 一人だけ異様にガタブルしている男がいたよ。ヴィペラ息子だね。


「もうしないので赦してください!」


 ヴィペラ父は息子を立たせようとしたけれど、こちらを向いたルドが恐くてすくみ上がったよ。


「その謝罪は恐怖ではなく心より欲しかった。今日であなた方のことは忘れます。もしも同じことをしたら俺は赦さない」


 しません、しませんとヴィペラ息子は額に土つけて誓っているよ。


 この事件をきっかけに、ルドは法律の整備を急ぐことにしたよ。法案のメンバーには被害者の意見も入れるため、アリエーテが選ばれたんだ。


 法律は全部貴族の有利になることばかり決められていたから、やっと平民や奴隷が守られることになったよ。


 ルドは会議で発言をなるべく控えるようにしたよ。ルドの力を見て、マジで神だと思った人もいて、ルドが全部っていう偏った考えの人が現れたからね。


 そういう人たちを宥めつつ、なんとか国をつくりはじめたんだ。





 急いで作ったもののなかに子ども向けの学校もあったよ。


 仕組と学校を作ったはいいけど、子どもの意見を聞いていなかったんだ。ジュストに、授業の様子や勉強の話を聞いたよ。聡いジュストはいいところや悪いところたくさん指摘してくれたよ。


 目隠ししているからジュストの顔が見えないんだ。


「目隠ししていると話しづらいね」


「兄ちゃんと俺の仲なんだから、目隠しいらないだろう」


 神使が一人控えているけど、護衛兼使用人みたいなところがあるから二人の会話に入ってこないよ。


「じゃあ、取ろうかな」


 自分で外そうとしたけれど、固く結んであるみたいだよ。


「俺が取ってあげるよ」


 ジュストはルドの目隠しを取ってあげると笑いだしたよ。


「あとついてる!」


「一日つけっぱなしだからね」


「朝起きたらすぐ?」


「うん」


 ルドが目を触れていると、ジュストがじっと見ていたよ。


「どうしたの?」


「ん?兄ちゃんの蒼い眼が隠れちゃうのもったいないなって。ローザが綺麗だって言ってたから」


 ルドは嬉しくてジュストを抱き上げると膝に乗せたよ。ちょっと重かったから椅子にだけどね。


「な、なんだよ。やめろよ」


「ごめん。なんだかこうしたくて」


 ローザがジーナをお母さんと呼ぶとアズーロも呼ぶようになったんだ。二人がジーナに甘えているのをジュストは壁に背を預けていつも見ているだけなんだ。


「きっとジュストは甘え方を知らないのよ。二人のお兄ちゃんだから」


 ジーナがそんなことを言っていたよ。だからルドはジュストが甘えたいけれど、自分はお兄ちゃんだからってがまんしているんじゃないかって思ったんだ。


 そういえば、ジーナはローザたちが毎日のように遊びに来るから、つらい記憶を思い出す暇がなくなって、笑うようになったよ。


「何で今日はアズーロを呼ばなかったんだ?兄ちゃんはアズーロに魔法教えてるんだろう?」


 ジュストはくしゃくしゃに撫でられた髪を手で直して、ちょっと不機嫌そうだよ。


「ん?お前と話したかったんだ。嫌だった?」


「嫌じゃないけど!」


 顔を真っ赤にしてそっぽを向いたよ。わかりやすいね。


 ルドは後ろからぎゅーってジュストを抱きしめたんだ。


「やめろよ!俺は子どもじゃない!」


「俺が甘えたいの」


「えぇ!大人だろう!」


「…お前は変わらないと思ったから。信念を持ってるし」


 ルドが独り言のように言うけれど、ジュストにはバッチリ聞こえたんだ。驚いて振り返ったよ。


「なんだよ。急に」


「ジュストは俺の周りにいる大人たちをどう見ている?」


 ジュストは困ったけれど素直に答えたよ。ドアの方に神使がいるから小声で言ったよ。


「聖神使様は結構兄ちゃんにベッタリだし。神使様のほとんどが何かおかしいよ。兄ちゃんのこと神様のように言っているし」


 ルドも気づいたけれど言いにくかったから、ジュストがズバッと言ってくれて助かったよ。


「ジュストは変わらないでね」


 ジュストは目を丸くしたけど、やれやれとため息ついたんだ。


「仕方ないな。俺が大人になるまで頑張ってよ」


「うん。待ってる」


 ジュストは肩の力を抜いてルドにもたれかかったんだ。

 二人はしばらく窓から夕日が照らすルークススペースの街を眺めていたよ。


 明日も投稿予定です。

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