16話 暴君ルドの話12
グレータからジーナという奴隷がいるという連絡を受けて、急いでグランデフィウーメに行ったよ。
護衛をたくさん連れて奴隷商人がいる市場に行くと目立つから、信頼するリクだけを連れて行ったんだ。
ステファノもついていきたかったけれど、何度もグランデフィウーメには行くのが嫌だから、カスカータでルドを待つことにしたよ。
奴隷商人は三人のジーナという名前の女性を並べて、どうだという顔をしたよ。でもルドの知っているジーナはいなかったんだ。
「陛下。もうこの中にいるジーナでよいのでは?みな子どもを産んだ経験がありますし、お母様の代わりになるでしょう」
ルドはお母さんがほしかったわけではないからね。
奴隷商人の言い方に腹が立ったから、ルドは手間賃を押しつけて建物から出ていったよ。リクは黙ってルドの後をついていったよ。奴隷商人の考えをリクはわからなくもないよ。育ての親とはいえ、奴隷に固執するルドが、周りの人たちには異様に思えたんだ。
この飢饉で多くの奴隷は口減らしとして殺された。ジーナとマッテオは殺されたかもしれない。
ルドはそれを考えないようにしていたんだ。早く見つけて安心したかったのかもね。
ジーナたちが売られた奴隷商人ではないところに売られたかもしれないから、必ず市場に行ったら全部のお店に行くことにしているんだ。
大小合わせて十数軒の奴隷を扱うお店を見て、どこにもジーナとマッテオはいなかったよ。
肩を落として歩いていたら、お店とお店の建物の間、薄暗く細い路地の先に奴隷扱っていますという看板が見えたよ。
「そっちに行くのか?」
リクは裏通りのさらに暗い場所は、やましいお店が多いから護衛が少ない中で、ルドを行かせたくないよ。
「あんなところにお店あったんだ。行ったことないね。ちょっとだけ見ていい?」
「店の中は入るなよ。さらっと見るだけだ、さらっと」
ルドは看板の前に立つと不衛生な、おしっことかのね、臭いが鼻をついたんだ。病んだ奴隷が檻に入れられていたんだ。檻の前には格安!訳ありって書いてあって、どう見ても不健康な奴隷ばかりだよ。
狭い道に檻が並べられて、奴隷たちが死んだ目をしていて、こちらすら見ようとしていないよ。
檻にはちゃんとした屋根はなくて、雨が降れば彼ら彼女らは濡れてしまうよ。ルドは腹が立って仕方ないんだ。
「どうして病気の人たちをこんな場所に閉じ込めておくの?」
「俺は趣味ではないが、こういう奴隷を買っていたぶるのが好きな奴もいる。すぐに死ぬからとか考えてる…。俺は思ってないからな!睨むなよ」
酒は飲むわ、だらけたリクだけど、神使だよ。人並みには慈悲の心はあるから、奴隷たちの姿に心を痛めていたんだ。
「…ルド?」
幻聴かと思えるような微かで、懐かしい声がしたんだ。
ルドはイライラがパッと消えて、急いで周りを見たよ。
横幅が三メートルほどの檻には五、六人入っていたよ。売られたくないのか奴隷たちは陽の当たらない檻の奥の方へいたけれど、一人の女の人が片手で格子を掴んで見上げたよ。
髪の色と面影は捜し求めている人に似ているけれども、骨と皮ばかりの痩せ細った身体で青白い顔だったから、健康ではつらつとしたジーナとは重ならなかったよ。
「ジーナ…?」
「ルドなのね?」
嘘だと言いたかったよ。だってジーナの右手の手首から先がなくて、何度も殴られたのか顔も腕も痣だらけだったんだ。
ルドは無意識に檻の前で両膝をついて、ジーナの頬に触れたよ。
「ジーナなの?」
「そうよ。ルドなのね?ああ、死ぬ前に神様が逢わせてくれたのね。感謝します」
女の人の心臓は嘘をついていなかったんだ。ルドの後ろでリクが息を飲んでいたよ。
ジーナの腰と足が変に曲がっていたんだ。暴行されて売られたんだって火を見るよりも明らかだったよ。
「捜したよ、ジーナ」
「捜してくれたの?ありがとう。大きくなったわね、ルド。
とても綺麗な服ね。ねぇ、新しい国の王様ってルドって名前って聞いたわ。あなたと、同じ」
「そうだよ。その王様が俺だよ。ここから早く出してあげる」
「そうなのね。凄いわ。あなたは昔から勉強していないのに、魔法が使えたから凄い子なんじゃないかって思っていたの。
…このままでいいわ、ルド」
「どうして!早くおうちに帰ろう」
ジーナは涙を浮かべて、一緒に行けないって何度も言うよ。
「王様と奴隷は一緒に住めないでしょう?あなたのことだから、奴隷に育ててもらったって言うでしょう?
でもそれは過去のことよ、ルド。あなたは私を忘れなさい」
「なんでそんなこと言うの?ジーナは俺の母親だよ。こんなところにいたくないでしょう?」
「いたくないの。ここにいたくない。死にたいの。ここも地獄も同じよ。もしも出来るなら全部忘れたい」
ルドは驚きで目を見開いたけれど、ジーナが死にたいと言うほどの仕打ちを買った人間がしたんだ。
ギリギリ歯を食いしばって、怒鳴り散らしたいのを我慢したよ。
ここの店主にジーナを買うというと、店主はにんまり笑ってジーナの体調と見合わない金額を言ってきたんだ。
ルドは妥当な値段を言う気力もなくて、言い値で買ったよ。
「このお金はお前に支払ったんじゃない。ここにいる奴隷の健康と食料の分だ。また来るときによくなっていなかったら、ここを潰すぞ」
店主は何を言っているんだこの貴族っていう顔をしていたよ。
だいたい病気の奴隷を買ってオモチャにできるのは裕福な人間だから、貴族が多かったよ。
ジーナを抱えて、信用できる一番近い水の神教会に行ったよ。
ガリガリのぼろ雑巾のようなジーナの姿に、グレータをはじめ神使たちは悲しそうな顔や心配そうな顔をしていたよ。
「その方がルド様の育てのお母様ですか?」
ずっとルドが捜していた人だし、とても元気な姿で再会できるとグレータは疑ってはいなかったから、とてもショックを受けたんだ。
教会の救護用のベッドを借りてルドは治癒魔法をかけたけれども、ジーナは外も中も怪我だらけで、どこから手をつければいいのかわからないよ。
「いいの。ルド。あなたはあなたのいるべき場所に帰りなさい。私はあの檻から出してもらっただけで幸せなの。お願い死なせて」
「やめてよ。そんなこと言わないでよ」
「夜が怖くて眠れないの。私を買った人が殴って、そして…」
サクスムのときの女の子の母親のように、立場の弱い女の人が犠牲になったことに、ルドは悔しくて憤りしかわいてこないよ。
ジーナを買った主人は激しい暴力を振るったみたいなんだ。何度も骨折したけれど、正しい治療を受けさせてもらえなかったから、彼女の腰は曲がってまっすぐ歩けなくなってしまったよ。
グレータもそばで聞いていたけれど、十代の少女には過激だったみたいで、ずっとふるえていたよ。
ルドは治癒魔法を忘れてジーナを抱きしめたんだ。
「ジーナにそんなことする奴ばかりじゃないから。お願いだから死ぬとか言わないでよ。マッテオを見つけるまで頑張って」
「…ごめんなさい。もう売られて終わったと思ったのに、ずっと思い出してしまうの」
心に治癒魔法は効かないから、ルドはジーナを助ける方法がわからないよ。
ジーナは身体のすべてが痛くてもう嫌だというから、ルドは頑張って治すよ。身体の中の方は効かないから、キアーラにやった魔法をかけることにしたんだ。
グレータや他の神使にはジーナの心を救う方法を考えてほしいと頼んだんだ。彼女たちが部屋から出ていくけれど、リクは残ったよ。
「ジーナ。今からとても強い魔法をするから驚かないでね」
ルドは集中して身体に治癒魔法を練り上げたよ。ジーナに恐くないからと優しくいいながら、口移ししたんだ。
リクは見たことのない魔法に驚いたけれど、これかと思ったよ。
ジーナが治癒魔法が効いたのか、すぐに眠ったよ。ルドはキアーラの時みたく倒れなかったけれど、ふらふらだったんだ。
「ルド、これか?キアーラ嬢にやった魔法は」
「そうだけど?」
「なるほど」
病で死ぬと思っていた少女がキスで病が癒える。キアーラがルドに惚れてしまうのは仕方ないかとリクは思ったよ。
「お前、頻繁にやるなよ?」
「エジリオ様にも止められている。親しい人しかやらないし、秘密にするよ」
「そういう意味じゃない。女、特に若い女の子はやめとけよ」
ルドは怪訝そうにリクを見るよ。
「キアーラ嬢がお前に惚れてるっていうのは?」
おニブなルドもさすがにわかっているよ。
「もうやらないよ」
ジーナは眠っているから一度教会に預けることにしたよ。
リクはグランデフィウーメ城の教会まで馬車で帰ろうと言ったけれど、ルドは歩いて帰ると言ったよ。
ルドはジーナが見つかって嬉しいような悲しいような、どうしようもない感情のまますぐにエジリオたちのいる教会に帰りたくなかったんだ。帰れば王様にならなくちゃいけなくて、物思いにふけることはできないよ。
仕方なくリクは後ろからルドについて行ったんだ。
夕暮れのグランデフィウーメは水不足だった少し前の暗い影は消えて、少しずつ平穏を取り戻していたよ。
遊び足りないのか、子どもたちの声が小さな広場から聞こえてきたんだ。
「この正義の味方、ジュスト様が成敗してやる!」
十歳くらいの男の子がドヤ顔で拳を作っているよ。敵役の子どもがにやりと笑って水の壁を魔法で作ったんだ。
「お前のうっすい壁なんか俺の土の兵が壊してやる!」
男の子が魔法で簡単に三体の土の兵を出したことに、ルドとリクは思わず曲がり角に隠れて観察してしまったよ。
土の兵は身体が水で壊されながらも、水の壁を突き破って進んでいくよ。近くには女の子が二人に声援を送っているよ。
「くそ!」
水魔法の男の子は水の弾を発射させて兵を砕いていくよ。子どもの遊びとは思えない高度な魔法の攻防に二人は釘付けになったんだ。
「な、なんだあのガキどもは」
「貴族ではないね。格好からして奴隷でもなさそうだし。ストリートチルドレン?だったらここにいちゃいけない」
「ルド?」
遊んでいる子どもたちは、人影をみてパッと逃げたよ。
「待って!俺は水の使い手のマエストロだ!君たちの魔法凄いね!驚いちゃった。どこで習ったの?」
いつしかブルーノに押し付けられたマエストロの勲章を見せると、子どもたちは恐る恐る顔を花壇や木から出したよ。
「本物?」
水魔法の子がルドの前にやって来たよ。
「おい、アズーロ!餌かも知れねーぞ」
土の兵を出していた子が慌ててるよ。
「餌?」
ルドが頭を傾けているとリクがあーと言いながら、ルドの隣に並んだよ。
「大丈夫だって。お前らを奴隷商人に売り飛ばしたりしないからよ。俺は闘いの神様の神使、リクだ。この人は…」
王だ、なんて言ったら大変だなと思ったリクは言いよどんだよ。ルドは子どもたちににっこり笑いかけたよ。
「俺は元々農民だったけど、魔法で認められて貴族になったんだ。ねえ、君たちはどこで習ったの?」
酒飲み不真面目リクでも神使効果は抜群で、子どもたちは素直に話したよ。
「俺らはじーちゃんに習った。俺ら孤児だから、売られないように色々教えてくれたんだ。でも…食い物がなくなってじーちゃん食わないで俺らにくれて…」
餓死しちゃったみたい。木の影に隠れていた女の子が泣いちゃったよ。ルドはアズーロと呼ばれた水魔法の子の頭を撫でたよ。
「ねえ、君たち。もう一回魔法見せてよ。もし君たちがマエストロになれる力があれば俺が教えてあげる。美味しいものも食べられるよ」
「え?本当に?」
女の子も寄ってきたよ。土魔法の子は警戒心が強いみたいだけど、お友だちがルドの話しに食いついたから仕方なくそばに来たよ。
「本当だよ。パニーニおごってあげる」
お腹すかせた子どもたちはすぐに飛びついたよ。
アズーロは自慢の水の弾を見せて、女の子は火の弾を見せたよ。
リクは火の使い手だから女の子の力量を見て、このまま路上生活者にするのはもったいないと考えたよ。だからリクもルドを手伝うことにしたよ。
「そこの土のガキ。お前はどうなんだよ。この貴族のボンボンがパニーニおごってくれるってよ。平民に金を出さない貴族がおごってくれるんだぜ?」
「リク…。その言い方はないんだけど」
仕方なさそうに土魔法の子が魔法を使ったよ。
「俺はジュストだ!あんたが悪い貴族なら俺がこらしめてやる!」
「うんうん、なるほど。そのためには力と知恵をつけなくちゃ。ジュスト、アズーロ、えっと…」
「私はローザ!」
ローザはぴょんって飛びながら手を上げたよ。
「ローザね。このままの生活でいいのかな?きっと奴隷にされるのは時間の問題だよ。
リクも君たちを気に入ったみたいだし、神使になるか、俺の元で貴族になって悪い貴族をやっつけるか、考えてみて。あ、パニーニを食べながらでいいよ」
近くのお店がまだやっていたから、パニーニを買ってあげたよ。
リクもちょうだいって手を出すから、リクと自分の分も買ったんだ。
子どもたちはムシャムシャ食べるのに夢中だよ。
「私、マエストロになれる?」
ローザが口のまわりにソースや食べかすつけて聞いたよ。
「頑張ればなれると思う。文字を覚えなきゃいけないけど」
「もじ…」
「文字覚えればうまいもの食えるのか?」
アズーロの頭の中は食べ物でいっぱいみたいだね。
「文字を覚えて魔法を使えればね。俺もまだまだ文字を覚えていないから、一緒に覚えよう」
「俺がんばる!」
「私も!」
「お前ら!もう少し慎重になれよ」
ジュストは慌てるよ。ルドはリクを見てあれと思うよ。
「リクがいるのに信用されない…?」
「神使様は信じるけど、貴族のおっさんは信じられない」
「おっさん?」
ルドは辺りを見渡すからリクは大笑いしたよ。
「おっさんってルドのことじゃね?」
ルドは自分の分のパニーニを落としそうになったよ。
「おっさん?俺まだ十代だよ」
「知らねーよ。老け顔」
ジュストは言いたい放題だね。ルドはしきりに自分の顔を撫でるよ。
「どこが老け顔?」
「もう暗いし、今日は最上級魔法使ったから、少しやつれているだけだと思うぜ?」
リクがフォローしているけど、ルドはショックで泣きそうだったよ。
「早く帰って寝る…」
「そうしろ。で、このガキどもはどこで寝泊まりさせるんだ?」
「教会の部屋は空いてないかな?」
「あそこは一時的にいいが、基本神使か貴族しか入れないぜ?使用人にしては歳が若すぎるし」
グランデフィウーメの拠点は領主城の敷地の中だからね。
「養子にするのは…」
「十代で十かそこらの歳の子持ち、はえーな。てかステファノのおっさんが許さないと思うぜ」
「ステファノ様をおっさん呼ばわりするってリクって凄いよね…。ま、若年向けの養成学校作ろうと思っていたから、話を進めるのにいいね」
「お前、時々強引だよな」
「エジリオ様ほどじゃないよ」
「あいつは強引じゃない。人に話をするのを忘れて進めちまうだけだ。自己完結型なんだ。さて、早くしないとおばちゃ…アグネーゼ様あたりが騒ぐぜ」
ルドは残りのパニーニを口に入れると立ち上がったよ。
「さて、君たちはどうする?神使になるか、貴族になってマエストロを目指すか。嫌だったらいつでも勉強辞めてもいいけど、ここに戻るのはおすすめしないよ」
「ついてく!」
「私も!」
アズーロとローザは元気よくルドの周りを飛び跳ねるよ。ジュストはため息をついて、手についたパンくずをなめてからルドたちの後ろをついてきたよ。
ルドの手を引かれて元気だったアズーロとローザは、領城の門の前に立つとピーンと背筋が伸びて足が止まってしまったんだ。
「えっとここ…」
「うん。グランデフィウーメ家のお屋敷だけど、俺はその近くに間借りさせてもらっているんだ」
ここまで来て王様だって話さないのはどうかと思うよね。ジュストなんて顔が真っ青だよ。
「お前!俺らを奴隷兵にするつもりかよ!」
「え!なんでそうなるの?」
ルドは心底驚いているけど、リクは子どもたちの驚きは仕方ないよなと思うよ。多分この子たちは普通の貴族の屋敷に行くのだと思っていただろうからね。
「とりあえず中に入ろうぜ。もう真っ暗だし」
門番も困ってるから、リクがカチコチの子どもたちの背を押して中に入ったよ。
わざわざ門番が馬車を用意してくれて教会の前まで乗ったよ。子どもたちは初めて乗る馬車に大喜びだったんだ。疑り深いジュストもはしゃいでいたけど、教会の前に着くと真顔になったよ。神使や貴族が出てきたからね。
「お帰りなさい、ルド様。グレータから知らせが来まして、お母様が見つかったと。しばらくは水の神教会にお預けください。私どもでお心を救う方法を考えます」
アグネーゼがそう言ってくれてルドは少し安心したよ。男のルドよりも女性の神使の方がジーナも話しやすいだろうと思っていたからね。エジリオはジーナの発見を静かに祝い、子どもたちに目を向けたよ。
「ところで、陛下。その子どもたちは?」
「陛下?」
ジュストがルドを見上げて、はあ?って顔をしているよ。
アズーロなんて、へいかって食べ物?とか考えていたよ。のんびり屋さんだね。
「この子たちを養子にすることにした」
「ルド、説明不足だぞ」
「あーそのー」
ルドがマエストロなのは事実だけど、もう一つ付け加えて連れてくるべきだったね。
気づいちゃったジュストがふるふるしだしたよ。
「あ、の、さ。ここってグランデフィウーメ領主の城だろう?その中のでっかい教会にルークススペース国の王がいるって。名前って、確かルドって…」
エジリオやアグネーゼは呆れ顔でルドを見るよ。でもルドはにこにこしているよ。
「よく知っているね、ジュスト。俺が老け顔の王様だよ。黙っててごめんね。きっと君のことだから、逃げようとすると思ってさ」
「今すぐあのボロ街に帰してくれ!」
「え?ジュスト。帰っちゃうの?」
「ごはんくれるって」
「お前らは食い意地張りすぎだろう!」
アズーロとローザは顔を見合わせて、なんで怒られているかわからないよ。
「ルドさんって貴族なんでしょう?」
「俺らが頑張ればおいしいもの食べられるようにしてくれるって」
「待てこら。普通の貴族ならそこでいいかもしれないけど、そこのおっさ…。ルドさんは王様なの!お前らが手を握ってニコニコ一緒にいちゃいけないの」
「いけないの?」
ローザが言うとルドもいけないの?と聞くよ。
「別のところに王様いるけど、レナータには王様っていないって聞いたけど」
アズーロが中途半端な知識を出してきたよ。
「とりあえず中に入ろうか?」
ルドが勧めるけど、アズーロとローザは中に入っていいのか感が出てきてしまったよ。
「ところでこの子たちはどうして連れてきたのです?親がいないのなら近くの教会に預けていただければよいのでは?」
エジリオたちも説明がほしかったんだよ。ルドはくまをつくって疲れた目を輝かせたよ。
「この子たち凄い使い手になりそうで!」
「パニーニ餌に釣ったんだ」
「こらリク!人聞きの悪いこと言わないでよ。この子たちの魔法を見てくださいよ!エジリオ様も驚きますよ」
ジュストはジリジリ後退して逃げる機会をうかがっているよ。それをエジリオは目ざとく見つけたんだ。
「一人、嫌がっているみたいですが」
「この子は疑り深いみたいなんで」
「俺は貴族にならないからな!アズーロ、ローザ。帰るぞ!こんなところにいちゃだめだ。俺らのとーちゃん、かーちゃん何で死んだか忘れたのか!」
アズーロとローザは、はっとなってルドから離れたよ。
ルドはまだ心の底では自分は平民だと思っていたから、貴族だって遠ざけられるのがショックだったんだ。
ジュストは興奮しているのか叫んだよ。
「いい仕事があるって貴族のところへ奉公に行ったら、皿割ったとか何とか言われてローザのかーちゃん殺されたんだ。皿でだ!俺らのとーちゃん、かーちゃんみんな仲がよかった。どうして殺されたって聞きに行っただけなのに。
だから俺は帰る!お前らに飼われない!」
びしびしルドに指を差すから、ステファノの息子が前に出て止めようとしたよ。
その前にルドがジュストの目の高さに視線を合わせて、人差し指を握ったんだ。
「君たちの怒り、俺もよくわかるよ。俺は父のように母のように慕う奴隷に育てられた。その二人の子どもは無実なのに首を斬られて殺された。
俺は…君たちも味わった理不尽をなくしたいと思っているんだ。
ジュスト聞いてくれ。俺は君たちと出会えたことが僥倖だと思っている。奇跡だって。あそこにいたままでは君たちの能力も思いも、貧しい生活の中で埋もれていくだけだ。
いいのか、それで?世の中、そんなものだって何もしないで不貞腐れていいのか?
俺は農民だった。なのに王という立場になって機会を得た。君たちは俺と出会った。王という人間をジュストはどういう立場かわかっているよね?」
ジュストは目を丸くして息を飲んでいるよ。
「君にも機会をあげる。貴族と張り合える知恵と能力をつけさせる。もし俺が弱い者をいじめていたら、お前が俺の首を斬れ。でも今のお前にはその判断力も立場もない。それを得られるかはお前ら次第だ。どうした?臆したか?正義の味方じゃなかったのか?」
ジュストは震えていたけれど、目はまっすぐルドに向けられていたよ。
十歳かそこらの子どもには重い問いかけかもしれない。でもルドはジュストなら応えてくれると思ったんだ。アズーロとローザはジュストより年齢も考えも幼い。この子たちを守るために彼は必死に考えて生きていたから、その生き抜く力を信じたかったんだ。
「あんたが正義じゃなかったら、俺がぶっ飛ばす」
ルドはにっこりと笑って、ジュストを撫でたよ。
「やめろよ!ガキ扱いすんな!」
「あ、ごめん」
ジュストは難しいお年頃みたいだね。ルドは素直に離れたよ。
「そういうことだから、この子たちの力を見てほしい」
エジリオは微笑んで、頭を下げたよ。
「承知致しました。能力を見るには外がいいでしょう」
エジリオが剣を抜いて駆け出したよ。
「何をやってるんだ?」
ジュストは馬鹿にしたような顔をしていたけれど、ルドはローザによく見ておくようにいうよ。
「あの方は聖神使エジリオ様。火の使い手でマエストロの称号も持っていらっしゃる」
「え!聖神使様なの!」
「本当?すごい人じゃん」
アズーロとローザはやっぱりのんびり屋だね。ジュストだけは汗だくだったのは何でかな?
ボッと円状に炎がついたよ。子どもたちが歓声をあげたから、エジリオは得意げだよ。
「さて会場が整いました」
「エジリオ様、楽しそうですね。ところでどうやって彼らをあなたのところまで行かせるんです?」
直径十メートルほどの炎の円が描いてあって、エジリオは真ん中にいたけどニコッと笑ったよ。
「俺もやれってことですか?疲れてるんですけどね」
ルドは魔法で炎の一部を消して、子どもたちが渡るときに熱くないように、水の柱を立ててあげたよ。
子どもたちは緊張した面持ちでルドが作った道を通るよ。
「さて、ジュストとアズーロの戦いを邪魔してしまったから続きをどうぞ」
ルドが言うとジュストは大きく息を吸って、土の兵を三体作ったよ。
「あの歳で三体同時!」
貴族やお偉いさんが驚いているのを見て、ジュストは機嫌をよくしたみたいだよ。鼻高々になっていたからアズーロは水の兵を作ったよ。
「じゃあ、私も!」
ローザはエジリオの炎を借りて炎の兵を作ったんだ。
「ローザ、ずりーぞ!」
「俺、不利じゃね?」
ジュストとアズーロは批難しているけど、ローザは涼しい顔だよ。
「文句言わないの。先手必勝!」
それぞれに火の兵を向けたよ。
三属性のぶつかり合いに大人たちは我を忘れて、のめりこんでいたよ。
領城の方からも何事かとたくさん人が見に来たんだ。どこから聞き付けたのか、ブルーノとカリーナも来たよ。この二人、ルドの追っかけをまだしてるみたいだね。
子どもたちの激闘にリクは呟いたよ。
「あいつらさ。すげーな」
「俺も想像以上だったよ」
ジュストたちをルドの養子にすることをステファノも認めたよ。
生きていればロレンツォと同じくらいだから、ジーナはどう思うかなとルドは少し心配していたんだ。
ジーナの怪我はよくなったけど、すぐにはジュストたちには会わせなかったんだ。
ジーナが見つかったのに何日もグランデフィウーメに滞在しているものだから、ステファノがしびれを切らしてカスカータから来ちゃったよ。
ルドが懸命にジーナの看護をしているから誰かにやらせたらいいと言ったけれども、エジリオがそのままにさせてあげてくださいと頼んだよ。
「ジーナ殿をあのようにした犯人を探して何をしてしまうかわからないとおっしゃっていて。もし彼女がもし亡くなれば、マッテオ殿を自ら探しに行ってしまうでしょう」
ステファノが折れて、国政はステファノが主導でしばらくやることになったよ。これには多くの人は不満に思ったよ。
ルドもこのままではいけないと思っていたけれど、ジーナは夜が怖いというから、一緒に寝てあげたんだ。
「あなたが小さいときに一緒に寝たわね。逆になっちゃったわ」
「そうだね。俺がいればこわいやつはこないよ。だから安心して寝て」
ジーナが寝ると、ルドは執務に戻るよ。やることはたくさんあるからね。
「そろそろ国に戻っていただかないと。グランデフィウーメにいいようにされているのではと噂が流れています」
カスカータ領主の弟くんも来ちゃったから、ルドはマッテオの捜索は一時中断することになったよ。
「馬車の旅になるから、少しお庭見ていこうか」
ジーナを支えて歩いているとジュストたちが庭を駆け回っているよ。
ルドを見つけて、アズーロがルドに抱きついたよ。
「兄ちゃん。遊ぼうよ」
「アズーロ!兄ちゃんは女の人を支えてるんだ。危ないだろう」
しっかりもののジュストが怒ったよ。ルドはいいんだと笑ってアズーロを撫でたよ。
立場上、三人の養父だけど歳はきょうだいのようだから、自然に三人はルドを兄と呼んだよ。
「紹介するね。俺の母であり姉でもあるジーナだよ」
やんちゃな子どもたちを見てジーナは微笑みを浮かべたよ。
「ジーナよ。みんな元気ね」
三人は痩せ細ったジーナに驚いていたけれど、ローザは涙を浮かべてジーナの手のないほうを握ったよ。
「大丈夫?」
「大丈夫よ。ルドが私を見つけてくれたから」
「なんで売っちまったんだよ」
ジュストが直球で聞くよ。こういう時は子どもは容赦ないよね。
「それは…」
「私がいけなかったの」
ルドは話しにくいだろうから、ジーナは自分から話したよ。子どもがわかるように簡単に。
それでも長くなるから庭のベンチに座ったよ。
ルドもとても無力だったことと、貴族になって馬鹿にされながらも王になったこと。やっとジーナを見つけたけれども、こんなにボロボロになってしまったこと。
「兄ちゃん。ごめん。俺、酷いこと言った」
ジュストは貴族は悪い人たちだという考えが抜けていないから、ルドをすぐに批判してしまったことを悪いなって思ったみたいだよ。
ルドはジュストを抱きしめて、いいんだって言ったよ。
「俺も貴族嫌いだから。俺らが変えていこう。この世界を」
ルドはステファノに呼ばれて、子どもたちにジーナの相手を頼んだよ。律儀なジュストはずっとそばにいて話していたけれど、じっとしていられないアズーロがどっか行こうとするから追いかけたよ。
ジーナの隣にローザが座ったよ。
「あなたはルドのこと好き?」
「大好き!でも遊んでほしいし、魔法を教えてほしいのに全然会ってくれないの」
足をぶらぶらさせてローザは膨れ面になったよ。
ジーナが撫でるとローザは嬉しそうに笑うよ。
「お母さんって呼んでいい?」
ジーナは驚いたけれども、ローザは親を亡くしたんだって聞いていたよ。
「いいわよ。あなたもルドと同じね」
「え?」
「あの子も本当の両親を亡くしているから。みんな血は繋がってないし、身分も違うけれど、家族になれるのね。あの子はそういう世界を望んでいるのかしら」
とても夢みたいな国と呟いたよ。なんでジーナが夢だっていうのかローザにはわからなかったよ。
ローザはジーナがこんなにボロボロになった詳しいことも奴隷の辛い生活も知らなかったんだ。
でも知らなくていいことをローザは知ってしまったんだ。
「おや何故、領主様の庭園で奴隷がくつろいでいるのか?」
いかにも貴族風の五十代くらいの男が近づいてきたよ。ジーナは目を見開いてガタガタ震えだしたよ。
「あ、あ…」
「お前。売ったはずなのにここにいるのだ?」
ローザはジーナと男を交互に見たよ。
「あんたが、おか…ジーナを?」
男はふっと嗤ったよ。
「正確には息子が買ったのだがな。平民風情もここにいるのはおかしい。あの平民上がりの王も追い出さねば」
男が頬を叩くとジーナはあっけなく転がったよ。
「なにしてんのよ!」
ローザは魔法を出すと、どうしてか男に中らず消されてしまったよ。
「え?」
男は剣の鞘のままローザを殴ったよ。そして剣を抜いたんだ。




