15話 暴君ルドの話11
週に何回かキアーラと会ううちに少しずつ話すようになったよ。ルドは嫌われていると思ったから、治療が終わるとすぐに部屋を出るようにしたけれど、キアーラが学校のことを聞くから話してあげたんだ。
彼女は病気になってから自分のことを見つめなおす機会が増えたんだって。ルドに冷たくしたのを後悔しているらしく、ルドはキアーラを見直したよ。
治療のかいもなく、キアーラは快復の様子はないよ。
ルドの予言通り、各地に雨が降って日に日に気温が低くなりはじめたよ。遅い冬が来たんだ。
キアーラについてもなんとかしてあげたかったけれど、ステファノがルドの予言が当たったから本気でルドの住む神殿を造らせていたよ。そして河川の整備と塩の採掘もね。
「半年後には完成しますでしょう。そのときに即位式を」
ステファノがルドに自信満々に報告したよ。建設を急がして奴隷たちに無理させていないか、ルドは何度もステファノに確認したんだ。神殿を造り終えたら平民になれると聞いた奴隷たちが、頑張っちゃってるらしいよ。
オリゾンテがカスカータとその周辺の領主と同盟を結び、国を興すということで立場保留にしていたグランデフィウーメも本腰いれて考えなくてはならないよ。
「領主様。いかがいたしますか?俺は各領主様の政治には口を挟むつもりはありませんし、困ったことは共同で解決しようということです。カスカータの水源から運河をつくり、ポネンテなどに引く計画もあります。陸路で運べなかった重い荷物も、運河によって多く運べるようになります。
オリゾンテの塩も今まで高い税が課せられていましたが、国に加わった領地の税の引き下げも考えています」
領主がルドに脅したり、命令することが多かったのに最近逆転しているよ。
海がない内陸の領主たちは、オリゾンテから塩を買っていたんだ。塩の値段の引き下げはとても魅力的だったよ。
「同盟ならばよい。その運河も詳しい話を聞いた後で引き受けるか考える」
運河はグランデフィウーメを流れる大河から、水を引く計画もあって是非加わってほしかったんだ。
「感謝します」
これで今日の話しは終わりだとルドは席を立ちかけて、一つ思い出したんだ。
「オリゾンテ様にキアーラ様のご病気について話したら、似た病をご存知で良薬をわけていただきました。もちろん、オリゾンテ様にはキアーラ様もグランデフィウーメの名前も出していません」
グランデフィウーメ領主はルドが置いていった薬の袋を手にして、じっと見つめていたよ。
「農民が王になるのか。世の中わからんものだな」
ハイドランジア暦一〇十八年、十八歳になったルドは王として即位したよ。
国の名前はエジリオなどの位の高い神使や、ステファノを含めた領主が集まって決めたんだ。
最初アグネーゼがルドの名前からとってつけたがっていて、恥ずかしいからとルドは嫌がったんだ。
「では光りを中央の言葉ではなんというのですか?」
あれこれ意見が出て進まない中で、ステファノがルドに聞いてきたんだ。
「ルークスですが」
エジリオと護衛として会議の部屋にいたリクに、今でもこの言葉が使われているか確認したよ。
「ルークスですね。光の国か。もう少しなにかほしいですが」
「我が国なのに中央の言葉を使うのですか?」
さすがに反対意見がでたよ。ステファノは静粛にと手で抑えながら、説明したよ。
「かの場所には統一王マグナスという男がいた。マグナス王は争いが絶えない中央を統一し、平和な世を築いたという。彼は最上級の水の使い手であり、ここにおられるルド様も水の使い手である。かの王にあやかって平和な国であるように願いを込めて、かの国の言葉を使うのはいいのではと考えた次第です。この地の言葉ではルド様は恥ずかしいと仰るわけで」
統一王ネタをステファノはここでぶちこんできたから、ルドはやっぱり使うのと呆れていたけれど、エジリオは満足そうにしているよ。
「ルークススペースというのはどうでしょうか?」
「聖神使様。どういう意味ですか?」
アグネーゼは中央の言葉を知らないから戸惑っているよ。エジリオはルドを見たから、ルドから答えるみたいだよ。
「希望の光です」
アグネーゼは少女のように、そうです、ルド様は希望の光なのですと連呼するからルドは恥ずかしいよ。
「いかがですか?」
エジリオの意見にみんな賛成したよ。そしてみんなルドを見たんだ。
「…この国はみんなが意見を言って決めていきたいと思っています。その一番最初に国の名前を決めるという重要なことになりました。エジリオ聖神使様の希望の光国でいい者は挙手を」
ルド以外全員手を挙げたよ。
「ルド様は?」
エジリオの問いにルドは微笑みを浮かべて拍手したよ。
「俺はあくまでも取りまとめ役です。意見はもちろんいいますよ。これで国の名前は決まりました。ところで民に伝えるのに聞きなれない言葉は戸惑うでしょう。説明は必要かと思いますが、その統一王についてのくだりは入れるつもりですか?」
エジリオがにこやかにしているから、ルドはため息をついたよ。
『好きにしろ。私がマニュスだとは言うなよ?』
『承知致しました』
ルドは王の権限が強い絶対王政を選ばず、教会で行われている多数決で決める方法を採用したんだ。国の名前を決めるという重要なことをまずみんなで決めたという事実を作って、今後そういう方針でいくよって示したんだ。
一つの国となった各領主の中心街の広場で民に向けて説明がされたよ。その説明が聞きようにはルドが統一王の再来であるかのように語られたんだ。
その話を後から聞いて、エジリオの書いた原稿をチェックすべきだったとルドは反省したよ。
希望の光国の配下に入った領主や有力貴族は十を超えて、レナータ地方の三分の一の面積に上ったよ。グランデフィウーメ領みたいに同盟を結んでいるところを含めたらレナータ地方の半分に迫るよ。
正式に即位したことを同盟領に伝えるためにルドは自ら挨拶に回ったよ。ステファノ的には領主どもが来いって思っていたけれど、ルドは全部の同盟領の土地や街を見ていないから視察かねてと言ったらステファノが折れたよ。
最後は故郷のグランデフィウーメだったから、領主は少し不服だったみたいだね。ほら仲良くしたいなら一番最初に来いってことだね。
「一番最後にしたのは色々話すことがあるからです。後が控えているとゆっくり話せませんので」
あなたのところが一番大切だから後回しにしたんですよアピールしたら、領主の機嫌がよくなったよ。
「何を私と話すつもりなのです?」
ルドはもうグランデフィウーメよりも広大な土地を有する王様だからね。グランデフィウーメ領主も一応丁寧に扱おうと思っているよ。
あ、ルドはグランデフィウーメ姓を名乗っていなくて、ルド・ルークススペースって名前になっているよ。
「グランデフィウーメは俺の故郷ですので、第二拠点にしたいと考えています。なので、少し場所を分けていただきたいのです」
グランデフィウーメをないがしろにする気はないということに領主はよかろうと許可を出したよ。ステファノは不服だったみたいだよ。国の中で第二拠点を作るならまだしも、同盟領に作るのはいただけなかったみたいだね。
「レナータを纏めるにはグランデフィウーメが今後鍵になってきます。あそこの動きを見るためにも懐の中にいたほうがよりよく見えるでしょう」
ルドの密偵発言にステファノをはじめとする領主は驚きながらも、笑っていたよ。
「陛下は大胆不敵だ」
「まったくです」
という感じにステファノを含めて反対派を取り込みに成功したよ。このことで、ただの農民と思う領主たちは少なくなったんだ。
ルドはマッテオとジーナを探すのを諦めていなかったから、二人が生きているならグランデフィウーメ領の中か、その周辺だと考えているよ。だから、第二拠点をグランデフィウーメにしたんだ。
グランデフィウーメ領主も拠点になる場所をくれることになったよ。話の最後にグランデフィウーメ領主はキアーラの話をしたよ。
「先日いただいた薬が効きまして、キアーラも礼がいいたいと申しています」
キアーラにはしばらく会っていなかったから、元気になっている彼女を想像していたよ。
「ご即位おめでとうございます。床でのご挨拶をお許しください」
微笑みを浮かべていたキアーラをルドは驚きを持って見つめていたよ。起き上がってはいたけれど、とてもつらそうで痩せたままだったんだ。
「この薬は病のはじめのほうならよく効きます。病状が進むと身体の硬直が見られ、口も動かなくなり会話ができなくなるそうで、そうなるとこの薬は効きません。最後は寝たきりになって亡くなるそうです」
ステファノに言われていたことを思い出したんだ。
「立ち上がることは?」
「体力がなくて立てないんです」
十六歳かそこらで生涯を閉じようとしているのに、キアーラは無理に微笑んでいたんだ。それが痛々しくてルドの心に突き刺さったんだよ。
「またいつ会えるかもわかりませんので、キアーラ様と二人で話したいのですが」
領主もルドがキアーラの死期を悟ったのだと気づいたみたいだね。
部屋にはルドとキアーラだけになったよ。
「起きていろと言われたのですか?」
「…起きれるようになったのです」
キアーラの鼓動がわずかに早くなったよ。ルドはため息をついたんだ。
「貴族のそういう見栄が俺はあまり好きではないです。ご自分で寝られますか?」
「…」
キアーラはルドから顔をそむけて、微かに震えていたんだ。
「キアーラ様?」
「私。自分の身体が自分のものではないみたい。足も手もろくに動かせなくなって。首は動くのよ…。
私はどうなってしまうの?みんな何も教えてくれないのよ!あなた知ってる?」
涙をぐっと堪えたキアーラは、ルドに掴みかかって聞き出したかったけれど、身体が動かないんだ。
「横になったほうが楽ですか?」
「ええ」
ルドはごてごてと装飾がついている動きにくい上着をぞんざいに床に置いて、キアーラを支えながら寝かしたんだ。彼女の身体は薄く骨張っていて、少しでも力を入れたら折れてしまいそうだったよ。
「あなたが羨ましいわ、ルド。とても素敵で綺麗な服ね。それが王様の服なの?
私はこのまま身体が動かなくなって石みたいになって死ぬのね。…あぁ、また私は汚いことを言ってしまったわ。神使様から清く正しくあれば身体の中にいる悪魔を祓うことができて、よくなるっておっしゃっていたのに。
もう手を合わせて祭壇の前で祈ることもできなくなったわ」
病の正体がわからないから、人々は身体の中に悪魔が入り込んで悪さをしていると考えていたよ。日本でも江戸時代に虫歯とか病の原因を虫に喩えていたよね。そんな感じだよ。
ルドはキアーラの手を取って、指を組ませて胸の位置に置いてあげたよ。キアーラの手はとても冷たい手だったんだ。
きっと元気な彼女だったら、土臭いわ触らないでって怒っただろうね。ルドの手を払うこともキアーラは自分でできなくなってしまったんだ。
「祭壇の前でなくとも神々はいつもキアーラ様を見ていらっしゃいます。
どこで祈っても神々はキアーラ様のそばにいてくださいます。
ご病気のことを何も知らないことと、知ってから苦しむのとどちらがいいのでしょう。おそらくご家族は知らない方がいいと考えたのかと」
「もう答えはわかっているわ。私は死ぬのよ。動けなくなって!首も動かなくなって私は石になるのね?そうなんでしょう…」
キアーラは流れる涙を自分で拭いたいけれど、手は動かないから枕で拭おうとするけどうまくいかないよ。ルドはハンカチを出して、キアーラの手に握らせて顔の方にもっていったよ。キアーラは見開いて、どうして自分の考えがわかったんだろうと思ったよ。
「泥臭い俺がお顔に触れるのは嫌でしょう」
貴族になりたてのルドの手は爪の中まで土が入っている農民の手だったよ。貴族の女の子からしたら汚ならしかったんだ。今は野良仕事していないから土は大分取れていたけど、農具を幼いときとから振り続けた硬い手で、決して貴族の男の手ではなかったよ。
ルドがそんなことをまだ考えていることに、キアーラは反省したよ。
「もうそんなこと思ってないわよ…。ごめんなさい。あなたのこと傷つけて」
ルドはキアーラは悪い子じゃないんだって思ったよ。上手く拭えないから、ルドがハンカチを持って拭ってあげたんだ。でも次から次へ涙は流れていくよ。
「生きたいですか?」
「生きたい…!」
ルドは千年前の記憶の中に治癒魔法について思い出していたことがあったんだ。サクスムのときは、まったく思い出せなかったから使っていなかったよ。
ただ信頼関係が必要だから、ルドはためらったよ。でも彼女は生きたいと言ったんだ。
「治癒魔法でまだ試したことがなくて、成功するかわからないのですが」
ルドとして生まれてから試したことがないってことみたいだよ。
「何か治療方法はあるの?」
期待で目が輝いたよ。ルドは初めてキアーラが綺麗な人だなと思ったんだ。
「治癒魔法って外からかけますよね?だから身体の中の方に届きにくいとされています。脳、つまり頭の中が怪我をした場合、頭蓋骨が邪魔して魔法が届かないといいます」
治癒魔法は地下水を見つけて魔法を使うのとは違って繊細なんだ。地下水は適当に汲み上げられても問題ないけど、人の身体は多くの臓器が詰まっているから少しでも違うところに魔法をかけても治らないよ。例えば胃を治したいのに小腸に魔法かけたらだめじでしょう?
外側からだと肺を治そうにも覆っている肋骨に魔法がかかってしまったり、治癒魔法の効力が落ちてしまうんだ。
「中へ魔法を流し込むには口からというけれども、喉の奥までいかないし、ずっと口を開けていけなければならない」
「そうです。その方法をします」
「だめよ。その方法も試したの。私には効かなかったわ」
キアーラの口に医者が手を当てて魔法を中へ流し込んだけど、あまり効果がなかったみたいだよ。
「少し試したいことがあります。まずはこの病に効くかわかりません」
「何を試すの?」
「そうですね。試す前に約束してほしいんですけど」
「何を約束するの?」
キアーラはとても不安になったよ。ルドは嫌われているからいいやと開き直ったよ。何をする気なんだろうね。
「今からすることを誰にも言わないでください。とても強い魔法を流し込むので苦しいかもしれない。俺が酷いことをやったとあなたが言えば建国したばかりなのに、騒ぎになるのもいけませんし」
だんだんしどろもどろになるよ。キアーラは治るのならばと決心するよ。
「もうすぐ死ぬ身よ。あなたが考えている魔法を試して。それに統一王の再来で水の神様の使いだもの。任せるわ」
「キアーラ様も変わられましたね」
キアーラはやっと自然に笑ったよ。
「何度も言っているじゃない。自分の行いを見直したって。死ぬ前にあなたに謝れたことは神々に感謝しているわ」
「死にませんよ。これから治しますから」
キアーラは微笑んだよ。何人もの医者に言われて治せずにキアーラの元を去っていったから、希望を持っていなかったんだ。
ルドはステファノからもらった薬を飲ませて、キアーラの手の上に自分の手を重て目を閉じたよ。治癒魔法を自分の中で練り上げているんだ。
淡くじんわりとルドの身体が光はじめたんだ。キアーラはその光が優しくあたたかく感じて、思わず神様と呟いたよ。
「キアーラ様。目を閉じて、口を開けて。何があっても口は開けていてください」
「わかったわ」
キアーラは言われた通りに目を閉じて、口を開けていたよ。ルドはキアーラの頬に両手を置いてそのまま唇を重ねたんだ。キアーラは驚いて口を閉じようとしたけれど、閉じないようにルドの舌をねじ込まれて、吹き込まれた熱い息のようなものが口の中から喉へ、身体の中へと広がっていったんだ。
大きな物音でキアーラは目を開いたよ。一瞬意識が飛んでいたんだ。ルドが床に倒れていたよ。
「ルド…!」
キアーラは無意識にベッドから起き上がって床に足をつこうとしたけれど、膝から崩れ落ちたんだ。ずっと寝ていたから筋力が落ちていたんだね。
キアーラは腕の力もなくて、必死に這っていってルドの顔を見たよ。真っ白な顔にキアーラは緊張が走ったんだ。
「ああ、まさか。誰か。誰か!」
物音とキアーラの切羽詰まった声に、外に控えていた領主やエジリオが部屋に飛び込んだよ。
「どうしたのです!」
エジリオはルドを抱き起こして息をしていることを確認したよ。
「治癒魔法を…。誰にも試したことないからって言ってて…」
キアーラは口に手を当ててガタガタ震えたよ。ルドが魔法を使いすぎて死んじゃうんじゃないかって思ったんだ。
「キアーラは何もないのか?ベッドから自分で降りたのか?」
領主は娘の肩を抱いて聞いたんだ。キアーラは自分の身体が動くことに気づいたよ。
「動いているわ」
「よかった…」
ルドは成功して安心したけれど、見上げたらエジリオのおっかない顔があってやってしまったと思ったよ。
「陛下。何をなさったんです?」
「あ、いや~。魔法ですよ、魔法。最上級の治癒魔法を練り上げたんですけど、力の配分を多くしてしまったみたいで倒れただけです。ほら、治癒魔法があっていたからキアーラ様も治ってますし」
「ご自分だけのお身体ではありません!誰かに魔法をかけるときは相談してください!」
「ここで怒らないで!グランデフィウーメ領主様もいらっしゃるんだから!って。自分で歩くからぁ」
エジリオがルドを肩に抱えて立ち上がるよ。
「領主様。どこかお部屋を貸していただきたく」
殺気を放つエジリオに領主は無言で召使いに指示したよ。
「エジリオ様。恐いです。神使兵のときに戻られてますよ。聖神使様は何事も心を穏やかに…」
「そうですね。私は聖神使失格ですね。陛下が私の心を穏やかにしてくださらないからです!黒い刃のときといい、心臓がいくつあっても足りません!」
「これも必要に迫られて…」
「ルド。こういうときは口と目を閉じて神々に早く聖神使の話が終わることを祈りながら、聖神使の話を聞くんだ」
「リク…!お前も来い」
ガンガン素を出すエジリオにキアーラは目を丸くして、見送ったよ。
一時間以上説教をくらってから、ルドはヘトヘトになって眠ったよ。
キアーラはルドとの約束通り誰にも話さなかったよ。にこやかに何があったのですとエジリオに聞かれて、鬼エジリオを見たから余計に話せなかったんだけどね。
すぐにキアーラは萎えた足に筋肉をつけるために、リハビリをはじめたんだ。でもたまにぼうっとしているから、周囲は心配していたんだ。部屋に一人きりになると、唇に指を当てて頬を朱くしていたよ。
ルドとのあつーいキスを何度も思い出しているんだ。
あれあれ?病は治ったけど、別の病にかかっちゃったみたいだよ。
「早く一人で歩けるようになって、ルドに逢いに行きます」
一生懸命リハビリをして一ヶ月ほどで学校に復帰したよ。もう新学期が始まっていて、勉強も頑張っていたけれどここでキアーラは心が一度折れるよ。
リハビリ中は学校に行くのが楽しみだったんだ。取り巻きの女の子たちはよくしてくれたけど、たった一人の姿を探したよ。
カフェテリアに行くとエドモンドが声をかけてきたよ。
「キアーラ様。復学おめでとうございます」
「ありがとう」
と言っている間も目は人を探しているよ。
「どうかされたのです?」
「え、いえ」
「そういえばルークススペース王に会われたそうですね」
「ルークススペース王?」
エドモンドはキアーラが病で伏せていて、あまり領の周辺で起こっていることを知らないのだと思ったようだね。
「ルドのことです。彼が王になったのはご存知ですよね?」
「ああ、そうだったわね。彼に治してもらったの。礼をちゃんと言えていなくて…。王になったから学校にはいないのかしら?」
「そうですね。一年学校に通うという約束でしたし」
「ああ…。そうだったわね」
一気に学校に行く気が失せたよ。キアーラはどうやったらルドに逢えるのかとばかり考えるようになったよ。
ため息ばかりつくキアーラに取り巻きの女の子たちは心配したよ。病気は治っていないって。
でもエドモンドはピピってきたんだ。
「キアーラ様はルドに礼を言いたいのですか?」
「そうね。言いたいけれど、彼はオリゾンテにいるんでしょう?病み上がりの私にはそこまで行くのは無理です」
「ルドはグランデフィウーメに第二拠点を置くそうです。今、神使様たちが主導で神殿を建てているそうですよ。ついこの前まで共に教室にいた人が、王になったとは不思議ですね。私だけでなくてもキアーラ様でも簡単に彼に逢えないでしょう。
ただ彼は礼儀を大切にします。礼をとなれば逢ってくれるでしょう」
目が輝かせたキアーラにエドモンドは内心泣いていたよ。キアーラの心を手に入れられなかったからね。
エドモンドの入れ知恵でキアーラはルドに手紙を出したけれど、ルドはオリゾンテに行ってしまっていつグランデフィウーメに来るかわからなかったんだ。
カスカータなど水源になる地域の治水事業が始まり、ルドは奴隷や農民の取り立てて、身分や暮らしをあげる方法を考えたり大忙しだったんだ。
連日の会議の中で魔法についての法が話し合われたよ。
「アグネーゼ大神使にご提案されていた一つの魔法を複数人で使用することにつきまして、制限を設けて使用すればいいのではという話になりました」
エジリオが奏上すると、ルドは目を瞬かせたよ。随分前に話したことで忘れていたんだ。
フェローチェの火の神教会を大破させた事件で、複数人で同じ魔法を使用するのは禁止されていたのを、緩和できないかとルドは考えていたよ。ルドは天候を操る魔法を他の人が使えるようにしたかったんだ。
ただ天候を操ることは季節の神の神使から反対の意見は根強いよ。雨は定期的に降っているから水不足は解消されつつあって、緊急性は低くなったよ。でもいつ何があるかわからないから、ルドは年齢身分関係なく魔法を学ぶ学校を建設することにしたんだ。
学校には研究機関を作って、魔法だけではなく、魔法に関する法律についても研究する場所にもなっているんだ。
グランデフィウーメの貴族学校を卒業したカリーナは、この魔法学校の研究者になるために、グランデフィウーメから離れることにしたよ。学校はルークススペース国の首都オリゾンテにあるからね。
カリーナの家族も首都オリゾンテへ移住をしたんだ。下級貴族のカリーナの家は移民家系の上、グランデフィウーメでは肩身が狭かったんだ。
そういった元々故郷で肩身が狭い貴族、名をあげようとした貴族や平民がオリゾンテの街に集まったんだ。噂が噂を呼んで、学校の入学志願者や研究員志望者が想定していた数よりも膨れ上がってしまったんだ。試験に落ちた人もたくさんいたから、何度も受けていいことにしたよ。試験は一年に一度しか行われないから、平民や奴隷は勉強する時間もお金もないし、何回も試験を受けられなかったけどね。
奴隷の入学者は五人だけで、ルドの奴隷二人と元オリゾンテ領から三人だけだったんだ。奴隷も平民や貴族に混ざって授業を受けるから、最初は五人がいじめられるんじゃないかってルドは心配していたんだ。
入学者のほとんどは成人しているし、ミアたちも大人だったんだ。でもちょっとミアは大人げないところがあって、奴隷だと馬鹿にされたあとの授業で黒い刃を殺した魔法をぶっ放して、陰口叩いた人たちを黙らせてしまったんだ。
「さすが陛下直属の奴隷…」
魔法によってルドの目に止めてもらい、出世しようとした貴族たちはミアのレベルの高さに心を折れそうになったよ。
奴隷は卒業したら平民になれるから、必死に勉強したんだ。筆記試験はなくて、魔法の才能があれば奴隷は入学できるけど、やっぱり文字が読み書きできないと授業は板書があるから置いていかれちゃうんだ。ミアたちはルドと一緒に文字を勉強してきたから、何とか授業はついていっているみたいだよ。
ちなみにブルーノはオリゾンテ魔法学校の教師になったんだ。ルドにあれだけグランデフィウーメのために尽くせと言ったのにね。
ルドは時間があるとブルーノとカリーナに特別授業をしたよ。一度に同じ魔法を使う練習なんだ。
火の神の教会が大破した原因は、複数人が好き勝手に魔法を使ったからいけなかったんだ。呼吸を合わせて、互いに注意すれば事故は防げるんだ。その実験的なことをしていたよ。
ルドは慌ただしく毎日を過ごしていると、グランデフィウーメから拠点が出来たと知らせが入ったよ。ルドが即位してグランデフィウーメ領主に第二拠点の話を持ちかけてから、わずか二ヶ月で完成したんだ。
行ってみて驚き。元々グランデフィウーメ家のための礼拝所を改装して教会にしたんだ。だから、領城の壁の内側にあるし、城の隣に建てられているよ。
これにはエジリオは何かあると考えていたんだ。ルドはステファノと張り合ったに違いないと思っていたよ。ほらステファノは神殿を一年といって半年で仕上げたからね。
あ、ステファノはルドと約束通り、その神殿造りに携わった犯罪歴のない奴隷は平民の身分にしたよ。
これには多くの奴隷はステファノとルドに感謝して忠誠を誓ったんだ。その中から何人か魔法学校に入学したから、ミアたちは元奴隷たちとも仲がよくて、寂しくなかったよ。
ただ奴隷の焼き印は腕についてしまっているから、平民の証として焼き印の上に焼き印を押して消したんだ。跡は残るから、平民になれてもなかなか差別は消えなくて、この後ルドを悩ますことになったよ。
グランデフィウーメの拠点になる教会に行ったよ。もちろんステファノも代表者の一人としてね。
挨拶が終わるとにこやかに両者は歓談するものだから、エジリオは両者の腹の中を考えるのはやめておいたよ。
キアーラとエドモンドも歓談の場に呼ばれて、キアーラはルドに感謝を伝えたいと来たんだ。
ルドは治療とはいえキスしたから、気まずかったんだよね。キアーラもルドと目を合わせないし、緊張していたのか声もふるえていたからキアーラに無理はよくないと下がるように言ったよ。
ルドは気を使ったつもりだったし、気の進まないのに領主から言われてここに来たんだろうと考えたよ。ほら領主がルドの機嫌取りで、キアーラの病気がよくなったって装っていたからね。
キアーラは顔を伏せたまま、またいつルドに逢えるかわからないから、この部屋を去りたくなかったよ。
「病気は治りました。お気づかいありがとうございます。久しぶりに社交の場に出て緊張しているのです。ル…陛下は緊張されないのですか?」
エドモンドも堂々としているルドが不思議だったんだ。農民出だからもっと戸惑ってもおかしくないのに、領主たちに堂々意見言うからね。
「色々ありましたので、度胸がついているんです」
ニコッと微笑むのが胡散臭いとエドモンドは思ったよ。隣にいたキアーラをちらりと見たら、ルドを見つめてぽうってなっていたよ。
キアーラの様子を大人たちは見逃さなかったよ。
ステファノは腹の中で娘をルドと結婚させようと考えていたし、グランデフィウーメもキアーラを嫁がせようとしたよ。
キアーラとエドモンドを下がらすと、ルドにグランデフィウーメがキアーラはどうだ、健康的になっただろう、来年成人するとアピールしたよ。
ルドはニコニコ笑って、気づかないふりをして流したよ。
ステファノとグランデフィウーメ領主が明らかに娘をルドに嫁がせる合戦を始めたから、こう言ったんだ。
「俺は自分でこの人とと思う人を選びます。それに奴隷の育ての親を本当の親のように思っています。俺と結婚してくれる人は奴隷の両親を本当の両親と思ってくれる人がいいです」
ステファノは奴隷を平民にするのを認めたけれども、まだ差別意識はあるよ。ルドの育ての親とはいえ、自分の娘に奴隷を親呼ばわりさせるのは領主の家柄上いただけなかったんだ。
二人の刹那の沈黙に、ルドは寂しそうに微笑んだよ。
「人の心はすぐには変われません。少しでも、わかってもらえると嬉しいです」
ステファノは恥じていたけれど、グランデフィウーメ領主は無理だなと思っていたよ。
第二拠点のグランデフィウーメ教会の大神使にはアグネーゼがなったよ。ルドがとても信頼しているからね。
そのアグネーゼが奴隷商人からジーナという女を入荷したと聞いたというから、さっそく行こうとしたよ。王がそんなところに行くべきではないとステファノから止められたけど、ジーナの顔はルドしかわからないからね。
ルドは貴族の平服姿で護衛をつれて行ったよ。何人かジーナという名前の奴隷に会ったけれど、全員違ったんだ。
水の神教会に立ち寄って、いつものようにグレータに慰められてから帰ったよ。
新王として各地を周る日が続いて、ジーナとマッテオを探す時間がなくなってしまったんだ。
忙しい中で、ふとどうしてこんなことをしているのだろうと考えるよ。だって貴族になったのは、二人を取り戻すためにお金が必要だったからだよね。
レナータの多くの場所では雨が降り、日常を取り戻しつつあったよ。人々はルドのおかげだって、行く先々で歓迎を受けるのは嬉しかったけれど、ルドの心はひび割れてささけていたんだ。
時間が空けばグランデフィウーメに行って二人を探したよ。グランデフィウーメの拠点に滞在するたびに領主はキアーラに会わせようとするんだ。
「キアーラ様のことをどう思っているのですか?」
キアーラではなくてエドモンドが来た上、敬語を使われたから持っていたカップを落としそうになったよ。
「来年は長雨かな」
「なんの話です?俺の質問に答えてください」
「エドモンド様が俺に敬語を使ったので」
「…さすがにこの場で友人のノリはできませんよ。陛下は王なんですからね」
「まぁ、そうですが。キアーラ様がなんですか?学校に休まずに通われていると聞いていますが。彼女が卒業したらエドモンド様はアプローチするんですか?」
エドモンドは目の前のテーブルをひっくり返したい衝動にかられたよ。
「しませんよ。キアーラ様は俺に眼中ないので」
「ふーん。まぁいいけど。そういえばエドモンド様は卒業したら政治に関わるんですか?」
キアーラはルドの中でまあいいやレベルらしいよ。エドモンドはキアーラに探りを頼まれていて、どう報告しようと悩むことになったよ。
「一年は領内のことを見て回りますが」
「見て回る?収穫の畑に行って、よしたくさん取れたって、いいところばかり見ないでくださいね?グランデフィウーメは街中も農村にも浮浪者はたくさん見かけますので」
ルドにチクチク言われてエドモンドは頬をひきつらせているよ。
「ちゃんと見る!それでお願いなんだが、俺を陛下の付き人にしてください」
ルドは目をぱちくりさせて、天井を見上げたよ。
「大洪水でも起こるのかな?やはり治水事業に力をいれなくちゃ」
「おい!さっきからなんなんだ。俺はずっと本気なんだぞ」
エドモンドはバシバシ机を叩くよ。
「お行儀悪いですよ、エドモンド様。貴族の方でもご飯を待つ子どもみたいなことするんですね。
なんで急に俺の付き人なんかしたいと言うんですか?領主様の付き人ならわかりますが」
ご飯を待つ子どもみたいと言われて、エドモンドは手をお膝に置いたよ。
「俺はお前の言う通り、壁の外は全然知らないし見たことがない。お前についていけば色々見られるんじゃないかと思って」
「他力本願ですね。世界を見たければ自らの足を使い、頭を使わねば意味がありませんよ?君の考えを領主様には話したの?」
「領主様からいいと思うと言われた。他力本願って酷いな。お前と話しているとたまに年配の人と話しているように錯覚するんだが」
「たまに言われます。俺の付き人になることについてですが、例えば俺かグランデフィウーメ家のどちらかを選ばないとなったときに、どちらを選びますか?」
エドモンドはグランデフィウーメと答えようとしたけれども、ルドは友だちだからどうしようと思ったよ。
悩んでいる様子にルドはバッサリ言ったんだ。
「付き人の件は承諾致しかねます」
「ちょっと待ってくれ。俺は本気でお前が見ているものを見たいんだ」
ルドは同じ年代の若者に言われて嬉しい言葉だけど、王としては簡単にいいよとは言えないんだ。
「あなたはこの場で俺を陛下と呼んで敬う姿勢を見せた。その意味をもう一度考えるといいと思います。おうちの方針に従って一年間は領内を見て回るのがいいでしょう」
お茶を飲み干すと、タイミングよく従者が呼びに来たよ。エドモンドは仕方なく帰っていったよ。
この日はカスカータの治水工事を視察するために、グランデフィウーメを出発しなくてはいけなかったんだ。ステファノも同行するからグランデフィウーメに来ていたよ。
エドモンドの提案をステファノに言うと鼻で嗤ったよ。
「図々しい。エドモンドという子どもは考えが浅はかですな。それで陛下はどうなさるのです?」
エドモンドに言ったことをそのまま話したんだ。こう付け加えたよ。
「彼はグランデフィウーメの間諜になるつもりはなかったのでしょう。でもグランデフィウーメ側は俺の行動を話せとエドモンド様に迫るでしょうね。彼は人はいいのですが、脅されるとちょっと弱いところがあります。学校を卒業し、世間のことを理解してから、また言うのならそのときまた考えます。
俺はエドモンド様とはよき友人でありたいと思います。互いに使われる使う関係にはなりたくはありませんので」
ステファノは合格とばかりに頷いたよ。
「それでよろしいかと思います」
エドモンドは屋敷に戻ろうとしてキアーラに呼び出されたんだ。さっそく彼の弱いところが出たみたいだよ。
「それでルドは私のことをどう思っているのです?」
まったく聞けなかったことにエドモンドは、萎縮しきってキアーラに怒られていたよ。
「ルドはキアーラ様がその…。冷たくされたから、嫌われているのだろうと。その印象が強いから、自分が好かれてるとは思わないのだと」
エドモンドの分析を聞いて、キアーラは目を見開いたあと、うるうる涙を浮かべたよ。
「ああ。過去に戻れたらやり直したい!なんてことを私はしたのでしょう」
悔やんでも悔やみきれないとばかりに目を手で覆ったよ。エドモンドは女の子に泣かれておどおどしたけれども、ルドは仲良くなれば気を許してくれるはずだと頑張ってフォローしてよ。
「私もルドに冷たくしてしまいましたが、今は会おうと言えば会ってくれますし。キアーラ様は美しく聡明で誰もが心を惹かれる方。ルドもキアーラ様の美しさにきっと気づくでしょう」
「本当に?」
「はい。グランデフィウーメに次戻ってきたら会うと約束をしたので、キアーラ様もどうですか?」
「いいの?」
うるうるお目々ではにかむのが可愛くて、エドモンドは心底自分を見てほしかったなって思っていたよ。
キアーラの恋心はさておき、ルドはたくさんの貴族に会って、会議や社交を重ねると若い農民出身ということで差別や胡乱な目で見る人が減ってきたんだ。
モノや人は各領地の中で限られていたのが、一つの国になったことで、検問所で街に入る目的やらを書かされた許可書が必要だったのが身分証だけで通れるようになったから、モノや人の動きが活発になったよ。
食べ物はまだまだ足りなかったけれど、片寄っていた労働力を必要なところに送ることができるようになったんだ。お陰で治水工事が進んだよ。
ため池を作ればルドが行って魔法で水をためたりしたから、ルドが神様のお使いというのが神使たちの妄言だと思っていた貴族はルドのことを信じ始めたんだ。
べつにルドは自分は神様の使いでも神様になりたいわけではないよ。治水工事に駆り出される奴隷の中に、マッテオがいないか必死に探していただけなんだ。マッテオは二十代後半で若いし力もある。きっと農作業をしない時期には、治水工事に駆り出されるだろうと考えたんだ。
たくさんの奴隷が忙しなく働いているから簡単には見つからなくて、つらくて泣きそうになったよ。
心とは逆に王様としてお仕事をして、貴族や民から信用を得ていい王様だと言われてきた中、グレータからもたらされた一報でルドの人生がまた大きく変わったんだ。
卯月「誤字報告してくださった方。ありがとうございます。ものの見事にスルーしておりました(汗」
テラ「しっかりしてよ。ボクがまちがってるっておもわれるじゃないか」
卯月「自分で書けばいいじゃん。ボソッ」
テラ「ぜんぶんひらがなか、かたかな」
卯月「確実に誰も読まなくなりますね。あ、そういえばブックマークつけてくれた心優しい人がいたよ。よかったね、テラ。ネットで一人語りじゃなくなったよ。この前の寒波のときに某都内の公園に誰もお話聞きに来なくて、体育座りしていたみたいな寂しいことにならなくなったね」
テラ「み、みられていた!あのひ、キミがききにきたじゃないの。なのにさんじゅっぷん、はなしたないよう、ぜんぶカットってどういうこと?」
卯月「いや、歴史ネタのしかもコアなネタばっかりだったから、説明すんの面倒って思って。
今までバッサリ編集させてもらってますけど?それでもルドの話が十話超えたけど?はじめあらすじ聞いたときイメージではサクスム五話、ルド五話、アニバル五話だったんだけど?まだルドの話続くの?本題はロラって子でしょう?ロの字も出てこないし」
テラ「へへ。このまえ、キアーラのしりょうがみつかったから、はなさなきゃっておもって…。キアーラカット?ルドのおはなしは、いろこいざたゼロ?ねぇ、ゼロでいいの?」
卯月「テラが話したいそうなので、まだまだルドの話が続くそうです。よろしければお付き合いください」




