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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
14/278

13話 暴君ルドの話9

テラ「あけおめ、ことよろ!」

卯月「…。え、それだけ?挨拶したいからって大晦日の笑ってはいけないアレを全然見ずに書いたのに!

 愚痴はさておき、今年もよろしくお願い致します」

テラ「このコメントはいつまであげてるの?さんがにちすぎて、よんだひとは、ん?っておもわない?」

卯月「大丈夫。12話の時点でブックマークゼロだから。ネット上でテラの一人語り状態だし、んって誰も見てないから誰も思わない」

テラ「え、うそ。ぴえん」

卯月「さてお待たせしました。続きをどうぞ」

テラ「ながされた!」

卯月「あけおめも言ってる人いるのかな?ぴえんも廃れるから無理して流行り追わなくていいと思います」

テラ「う…」

「ルド様ぁ!」


 悲鳴に近い誰かの声を聞きながらルドは痛みに耐えて、魔物の眼に魔法を放ったよ。両目が破裂した魔物は制御を失ってルドに覆い被さるように落ちてきたんだ。


 下には死んだ魔物、上には何キロあるかわからない重そうな魔物。挟まれたらぺったんこになりそうだね。


 目を瞑って衝撃に備えたら、上から熱風がきて、魔物が押されてルドの真横に落ちたよ。地面に落とされた黒い刃(ラーマネーラ)はバタバタ動いていたよ。


 逃げようと起こした身体に黒い刃(ラーマネーラ)の羽が当たって、ルドは吹き飛ばされたんだ。


 熱い炎の塊が飛んできて今度は魔物が吹っ飛んだんだ。耳を塞ぎたくなるような断末魔の悲鳴が響いたよ。


 魔物の気配がしなくなると、辺りはしんと静まり返っていたよ。


「ルド様!」


 エジリオは駆けるように山肌を下りていくよ。地面に倒れて動かないルドを見つけたんだ。


「エジリオ、気をつけろ!魔物がいるかもしれない」


 リクも警戒しながらついていくよ。エジリオはルドの元につくと、息をしているか、大怪我をしていないか確認したんだ。


「い…」


 ルドは痛そうに顔を歪めたけど、生きていたよ。よかったね。


「出血はないですね?どこを打ちましたか?」


「背中。首を捻って…」


 エジリオは急いで首の治癒魔法をかけたんだ。もし首の骨を折っていたら歩けなくなるかもしれないからね。


 エジリオは火の使い手だから、淡い炎がルドを包んだよ。これは燃えないんだ。


 駆けつけたリクもルドの足を動かして折れてないか、怪我してないかルドに聞いたよ。


 幸いルドは打撲ですんだみたいだよ。


「魔物は…」


「あらかた倒せました。ルド様のおかげです。ルド様の奴隷の方もとても強く、私がここにくるまで魔物を退けてもらいました。

 申し訳ございません。守れとおっしゃたのに危険な目に合わせてしまい」


 ルドはエジリオの魔法がとてもあたたかくて、うとうとしていたんだ。謝るエジリオに驚いて目を見開いたよ。


「どうして謝るんです?エジリオ様は聖神使様ですから、俺より偉いし、あの場で俺が戦うのはおかしくないわけで…」


 今度はエジリオが驚いてから呆れたよ。


「偉いとか身分はこの際関係ありません。ルド様を失ったら多くの民が渇きと飢えに苦しみます。ご自分を大切にしてください」


 ルドの手をとって、神への祈りの言葉を囁いたよ。ルドはエジリオのお祈りに呆気にとられたよ。


「俺、神様じゃないからそのお祈りは…」


「私たちにとって神に等しき方です。そのお力と千年前の叡知(えいち)を授けてください」


 困り顔でリクに助けを求めると、受け入れろって目で言われてしまったよ。


 ルドは色んな思いが駆けめぐったけれど、結局言葉にならなくてエジリオの手を握り返したよ。


「エジリオ様。俺は神様でも神様の使いではありません。嘘はつきたくないので。でもあなたの渇きを潤すことができるならば嘘をついても構いません」


「ルド様…?」


 ルドは力を振り絞って、もう片方の手もエジリオの手に重ねたんだ。


「神々はいらっしゃらないのではないかって考えたことあります」


 エジリオは神々がいると人々に教える立場だから、ルドに神様はいると言わないといけないよ。でもエジリオは口を閉じたままだったんだ。


「ロレンツォが死んだとき、どうしてこの子は死ななければならなかったのだろうって何度も思ったんです。こんな理不尽許されるのか。あの子は少しサボるしヤンチャで。どこにでもいる普通の子で、罪を犯したわけではない。でも奴隷だからといって無実なのに殺されてしまった。

 無実の人を殺したのに兵士は生きている。どうして裁きの神(ジュリシーオ)様は裁かない!奴隷はモノだから、人ではないから、あの兵士に罰を与えないのか。ロレンツォは俺の弟だ。あの子をモノとした神々は間違っている!あの子は人間です!

 でも俺は祈ってしまう。神々に助けを求めてしまう。崖から落ちる間も助けてくださいと願ってしまいました。

 エジリオ様、神々はいらっしゃるんですよね?正しいんですよね?俺はロレンツォが死んだ理不尽は神々のお望みだと考えねばなりせんか?俺が違うですか?」


 エジリオは神々はいらっしゃって疑ってはなりませんという言葉が、喉にからんで出てこないよ。


 聖戦という名の暴力で、幼い子どもすら異教徒の子ということで抹殺したのは正しかったのか。神様たちから未だに応えないんだ。


 だからエジリオも聖神使でありながら、悩んでいたんだね。


「いらっしゃいます。神々はいらっしゃいます」


 ルドの手を強く握りしめたよ。ルドはエジリオの胸中ははかれないけれど、エジリオもつらいんだって察したよ。


「俺は農民だったから家と畑しか世界を知りませんでした。ロレンツォが死んで、外は冷たいんだと思ってました。エジリオ様の炎はとてもあたたかいですね。出会わせてくれた神々に感謝を…」


 ルドは疲れて寝てしまったよ。


「はい。感謝しましょう。あなたのお心は間違いではありません。神々は私たちを試されているのです、試されているのです…」


 エジリオは治癒魔法を終えても、ルドの手を握っていたよ。リクは何も言わずにずっと見ていたんだ。


「俺は聖神使を辞めるべきか?人々を導く存在なのに、ルド様に期待してしまうなんて」


「俺も雷や、水の形をした(ドラーゴ)の魔法を見たときは水の神(アックルーア)に祈っちまったよ」


闘いの神(バッギア)様はイチ神使が他の神様に祈っても嫉妬はしないだろう。酒と戦にしか興味ないらしいから」


 女とギャンブルがついたら、ボクは神様としていかがなものかと思うけどね。


「まーな!ほら、行こうぜ」


 エジリオはルドを背負って山道のところまで出たよ。ステファノたちも下ってきていて、ルドの安否を聞いてきたんだ。


「ルド様は!」


 ミアはつんのめるように駆けよって、エジリオの背のルドの顔を覗き込んだよ。


「打撲だけのようです。お疲れで眠られています」


 ミアは大きく息を吸って、座り込みそうになったよ。


「よかった」


「あなたが魔物を退けてくれたおかげで、ルド様の元へ早く行けました。ありがとうございます」


 聖神使に礼を言われてミアは少し頬を赤くしたよ。


「いいえ。当然のことをしたまでです。私がルド様の元へ行きたかったのに」


「お前が駆けつけも治癒魔法かけられないんだから意味ないだろう」


 男の奴隷たちがミアをからかったよ。


「へたっぴだけどかけられます!」


「うるせぇよ。ルド様が起きちまうだろう。聖神使様。俺が背負いますので」


「ありがとうございます。今は足場が悪いので山を下りてからで」


「人を背負ったまま下りるのは危険ですから、聖神使様に何かあったら…」


「後ろにいるデカブツを背負って一山越えたことあるので、ルド様は軽いので問題ないです。さあ行きましょう」


 奴隷たちは自分でルドを運びたかったんだけど、エジリオも運びたかったんだ。デカブツ呼ばわりされたリクは苦笑して、エジリオの後ろをついていったよ。


「あんまり意地になるなよ?」


 リクの耳打ちにエジリオは意地は張ってないって言い返したよ。三十過ぎたオッサンなのに、子どもっぽいところあるね。


 ルドはエジリオに背負われながらずっと寝ていたよ。


 目が覚めたときはふかふかのベッドで、天蓋が下りていたよ。


「ここは…?」


 白い天蓋を開けるとルドの部屋ではなかったよ。コンキッリア山近くの街にいることを思い出して、さらに千年前の誰かさんの性格のままエジリオたちが話したことも思い出したんだ。


「げっ。俺、エジリオ様たちをお前とか呼んでたし、オリゾンテ領主様に望遠鏡借りたのに礼も言ってないし…」


 無礼の数々に頭を抱えてしゃがみこんでしまったよ。


「失礼します」


 様子を見にきたミアに見つかって大騒ぎになったよ。


「頭が痛いのですか?今すぐ魔法を!」


「違う、違う。そうじゃなくて!」


「どうしたのです?」


 エジリオがステファノとリクを連れて部屋に入ってきたよ。ルドは三人を見て固まったよ。ミアは不安になったんだ。


「やっぱりお加減悪いですよ」


「わ、悪くない!あのさ、ミア。三人で話したいから」


「むー。本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫!大丈夫!」


 ミアが奴隷なのに貴人の部屋に入れたのか、ルドはそこまで頭がまわっていないよ。ステファノはルドがミアたちを信用していると聞いて使用人として特別許したんだ。


 ミアが出ていくと、ルドは三人に向かって謝ったよ。


「ごめんなさい!!千年前のあの人に乗っ取られてたとはいえ、お三方にはとても失礼な態度を取ってしまいました!!」


 三人はきょとんとなったけれど、リクがまっさきに持ち直して大笑いしたんだ。


「千年前の奴のせいで、お前のせいじゃないぜ。気にするな」


「私も気にしてませんよ。お加減は大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫です」


 ステファノは怒ってるんじゃないかって恐くて見れなかったんだ。


 ステファノは一言も言わずにルドの前に立つものだから、恐縮してしまったんだ。


「今はルド殿だな?」


 ステファノには霊がついていると言う話をしているから、ルドはうんと頷いたよ。


「魔物から我々を救ってくれたことを感謝する」


「い、いや。あそこには俺が行きたいと言ったから。言わなければ兵士は死ななかったわけで…」


「どのみちあの魔物たちは街を襲っていただろう。領主として礼を言わせてほしい」


 (ひざまず)いて頭を下げるから、ルドはオドオドしたよ。


「大したことはありませんので、頭をあげてください!」


 ステファノは目を見張ったけれど、ふっと笑ったよ。


「雨を降らして(いかづち)を落とすことが大したことがないのか?ルド殿には記憶があるようだが…?霊に憑かれた人間はそのときの記憶がないと聞いているのですが」


 エジリオも頷きながら答えたよ。


「私もそう聞いてます。想像になってしまうのですが、霊が記憶を渡しているのではないのかと思います」


 ルドは転生のことをステファノには話さないんだったって思い出して、話に合わせてうんうん頷いていたよ。


「自分の足で歩くし、口で話すから自分がしてるって思ってしまって。だから、皆さんに謝ったんです」


「ふむ、そういうことか。そのときルド殿の意識はどうなっているんだ?眠っているのか?」


 ステファノが興味もったみたいだよ。長話になりそうだから、みんな座ったよ。ルドは嘘をつくのが苦手だから正直に話したんだ。


「起きているんだと思います。自分の知らない記憶が流れ込んで口が勝手に話すんです。もしかしたら役者さんと近いのかもしれません。別の誰かを演じるって自分の考えや性格とは違うわけで」


 ステファノが役者と聞いて興味から胡乱な目になったよ。千年前の誰かをルドが演じてるんじゃないかって。それを嗅ぎとったリクが、ルドの人生では知り得ない部分があるということを説明したよ。


「ルドは古い中央(チェントロ)の言葉を話せます。私も現在の中央(チェントロ)の言葉を知っていますが、ところどころ違います。ルドは生まれも育ちもグランデフィウーメで、周りには中央(チェントロ)の出身者はいなかったとグランデフィウーメ家が調べています。レナータの文字は書けないのに中央(チェントロ)の文字は書けるんです」


「生まれ育った場所の言葉は話せて文字は書けないのに、異国の字はかける?奇妙だな。それで?」


「私がルドに話した言葉を書いてもらったことがあるんです。すると私の知っている中央(チェントロ)の文字を使っていたんです。なのに発音が違ったんです。だから話していると伝わらなかった」


 エジリオがリクの話を少し補足したよ。


「言葉は生き物だと聞きます。おそらく千年の間に発音が変化したのでしょう。ルド様に憑かれている霊からすれば、リクの言葉は音が欠けたり、省略されて聞こえるそうです」


 英語のfightってあるでしょう?今はghの発音がされていないけれど、昔はしていたんだ。例えばをghを発音していた人と、ghを発音しない人と話しているってことなんだ。だから互いに少し違う言葉に聞こえるんだよ。


 発音は時代によって違うと言うことは日本もおきているんだ。室町時代のとある天皇がなぞなぞの本を出していて、そのなかに「母は二度逢うけど父は一度も逢わない。答えは唇だ!」っていうのがあって、現代の日本の学者にとって謎だったんだ。父は「チチ」で上唇と下唇はつかないよね。母はどうしてついたかというと「ファファ」や「パパ」と発音していたんじゃないかってなったんだ。これなら上唇と下唇が二回つくよね。


 江戸時代の人はもう「ハハ」と発音していたから、江戸時代の学者も謎がとけなかったそうだよ。


 だからキミが室町時代とかにタイムスリップしたら、お互いの言葉が奇妙に聞こえると思うよ。というか方言とか考えたら言葉が通じるかわかんないよね。


 リクも昔の中央(チェントロ)の言葉に詳しい人に会って、ルドが話した推定千年前の誰かさんの言葉は千年前の言葉だって結論付けたんだ。

 

「ほう、面白いことを聞いた。その霊は神ではなく、人であることで間違いはないんですね?」


「そうです」


 エジリオの言葉にルドは激しく同意したよ。ステファノは落胆した顔になったよ。


「ルド殿が…。ルド殿の霊が使う魔法を見たときに、神が宿られているのかと思ったのだ。何もない空から雲がわいて雷が落ちてきたときには神々が人を喰らう黒い刃(ラーメネーラ)を滅ぼしてくださったのかと」


「雷の使い手数人いれば普通にでき…」


 エジリオがルドに視線で黙れと送ってきたよ。どうやらルドのことを神聖視させたいらしいね。


「魔物を殲滅し、大地に潤いをもたらすことができるのはルド様だけです。ルド様はお力をお一人のものとせず、他の者にも知恵を授けております。ルド様の奴隷たちをご覧になられたでしょう?ルド様に見いだされて、わずか数ヵ月で魔物を倒せる魔法の使い手になったわけです」


 なんか話が盛られている気がして、ルドは肩を縮めて恥ずかしそうにしていたよ。ミアたちに魔法を教えたのは実験的だったし、使いこなせるようになったのはミアたちの努力があったからなんだ。


 ステファノは深く頷いてから、エジリオに言ったよ。


「聖神使様のお話を改めてお引き受けさせていただきます。ルド殿のお住まいは我が領地に作らせていただきたく」


「お住まいに関しては他の領主様ともお話して決めさせてください」


 ルドは唾をごくんと飲んだよ。エジリオのルド統一王計画が現実になってきたんだ。今まで絵空事に思えていたから、ステファノの言葉に緊張したよ。でもその緊張がいやになつかしいんだ。


『お前の領地ではない。お前の土地は我らの天の国(カエルム)の一部である。この地は一つになる。違うか?』


 急に中央(チェントロ)の言葉でルドが言うから三人は驚いたよ。リクが訳すとステファノはそうだと頷いてから、立ち上がってルドの前でまた跪いたんだ。


「二年、いや一年お待ちください。あなたの住まう神殿を作ります」


『大きくなくていい。私はかつて奴隷の男にもなっていたから、ボロ屋でもかわまぬ。苦しき今の時代に無理して造れば民もつらかろう。まずは私の寝床より民の不安を取り除け。

 ああ、そうだな。これはどうだ。まずは賛同した諸領主から寄付や献上品をもらう。神殿を各地に造り、労働者に金をわたす。奴隷も平民も身分関係なく働いたものにだ』


 リクが訳しているときエジリオは難しそうな顔をしたよ。


「寄付だけで賄えるでしょうか?」


 ルドの中の誰かさんは椅子を指で叩いて考えているよ。リクが訳し終えるのを待っていたかのように話し出したんだ。


『白き黄金があるではないか。年間の生産量は?規模は?山全部調べたのか?』


「あの…こちらの言葉では話せないんですか?」


 リクは訳すのが面倒になったんだ。千年前の誰かさんは眉を寄せてたどたどしく話すよ。


「思考が、中央(ケントルム)の言葉だから、こちら、に急に変えると鈍くなる」


「昨日ペラペラ話してたじゃないですか」


 漂わせていた威厳がパッと消えて、ルドは目を輝かせたよ。


「久しぶりにあんなに暴れたからな!スカッとした。グランデフィウーメの連中は私を馬鹿にするからむしゃくしゃしたのだよ!」


「ルドは言い返さないなって思ってたけど、ストレスたまってるじゃないか…」


「ルドは若いし農民だからな!まだあいつらを黙らせる方法を知らないのだ。私が出ていったらみんな引くだろう?」


「今、とても引いていますが」


「なぬ!大人しい方がリクの好み(・・)か?」


 十七歳に見えない人を食った笑いかたに、リクはそれこそ対応に困ったよ。


「なんか、ルドについている霊が女なんじゃないかと思ってきた」


 ルドは目を丸くしてふふと笑ったよ。


「なかなか面白い説だ。残念ながら性別も名前も思い出ない。一つ、あの山で思い出した」


「色々思い出されていたようですが、何でしょうか?」


 リクはなるべく合わせて話したよ。


「本当の名前を名乗るのをやめて、最愛のマニュスの名を名乗ったんだった!彼が亡きあとは国を(まと)めるのは大変だったのだよ!」


 はっはっと笑うけど、リクたちは呆然としたよ。


「なんだそりゃ!あんたまさか本当に統一王か?」


 ルドのにやにやは止まらないよ。


「どうだ。お前たちの夢も広がっただろう。プランニングは任せたよ。エジリオ。ただ、ルドは嘘をつくのは嫌だそうだよ?お前としては私が統一王であった方がいい宣伝になるだろうが」


 エジリオは額を押さえるよ。


「わかりました。ルド様とお話させてもらえますか?」


「私はルドで、ルドは私だ。サクスムもルドで、認めたくはないが私でもある」


「わかってますから、お戻りください」


 エジリオは本気で手綱の取り方を失敗したら、大変なことになると思ったよ。


「なんだ。エジリオは私が嫌いなのか?」


「嫌いも何もまだ出会ったばかりなので」


「ルドのときは兄のように優しいのに、私のときはつれないではないか。わかったよ。しばらく私は黙っていることにする」


「つれないですか…」


 千年前の誰かさんはすねてしまったみたいだね。ルドはピタッと口を閉じてぼうっと宙を見ているよ。


「ルド様?それともマニュス様?」


 エジリオはルドの目の前に手を振ったけれど、反応しないよ。


「黙るって、ルドも黙るってことか?あの霊、自分はルドだっていっていたし」


「いや。そんなわけは…」


 ルドが茫然自失しているところを見たことがなかったから、エジリオとリクは焦ったよ。


「サクスム?とは人の名前ですか?聞きなれないので中央(チェントロ)の言葉ですか?」


 ステファノはルドの変化に完全についていけてないよ。エジリオはサクスムのことは黙っておくつもりだったから、どう説明しようか悩んだよ。


「人の名前です。また別の霊がついているのです。ルド様が霊憑きだと分かったのはサクスム様が出てきたからです」


「二人も霊に憑かれているのですか!サクスムとはどういう人なので?ルド殿のお身体には触りないのですか?」


 自分の上に立つ人だからステファノはルドのことを何でも知りたいけど、少し不安になり始めていたよ。


「サクスム様は…」


「あれ?俺…」


 ルドは周りをゆっくりと見渡すよ。


「ルド様ですか?」


 エジリオは聞いたけど、ルドは頭を傾けたよ。


「ルド?あなたは誰?」


「え?」


 チーン。


 完全に場が静まったよ。


 ルドは(せわ)しなく周りを見てから自分の格好を見たんだ。


「え?え?何、このきれいなかっこう」


「もしかしてあんた、サクスム?」


 リクが聞くとうんと答えたよ。エジリオはぶちぎれるのを我慢したんだ。サクスムとは会話したことあるのに忘れるのは酷いよね。


「ルド様とお話したいので代わっていただけませんか?」


「だから、ルドって誰?ここ何?俺死んだはずなのに?」


「あなたは死んでルド様という方に取り憑いているんです」


「なにそれ…。俺バカだけど、そんなことおじちゃんから聞いたことないよ」


 前のサクスムは中央(チェントロ)の言葉で話していたのに、今はレナータの言葉で話しているよ。ルドの記憶がないのにレナータの言葉を話している。


 リクはルドの転生説を疑いたくなるけど、自称マニュスとルドの切り替えが速いから霊憑き説も疑わしいらしいよ。

 ()り代と霊が交代するときは少し暴れたり、変な言葉を口走ったりするんだ。

 サクスムへの切り替えが遅かったのは霊憑きの現象に似ていたから、リクやエジリオを悩ますことになったんだ。



「おじちゃん?」


「うん。俺の親が死んでから育ててくれたおじちゃん。さいご、生きろと俺に言ってくれたけど俺死んじゃった…あっ!全部思い出した!君、火の使い手だよね!」


 ルドというよりこの場合サクスムだね。全力で窓側に逃げたんだ。ドア側に逃げないのはサクスムのご愛嬌かな。これにはエジリオは傷ついたよ。


「何なんですか!」


「ひぃ。怒らないで。鞭で叩かないで!俺、炎にくるまれて焼け死んだから火が恐いんだ。お願いだから燃やさないで!」


 カーテンにくるまってエジリオのほうを恐る恐る見たよ。


「燃やしませんよ。全部思い出したんですよね?落ち着いてください。私は神使です。あなたを害したりしません。サクスム様が生きていらした時代にも神使はいたはずです」


「しんし…?俺のいた集落にはいなかったかな。そういえばおじちゃんが、魔法が上級以上使える人は神様に愛されている人たがら、神官になるって言ってたかな?でもどこの集落にもあんまりいなかったよ。確か…集落同士で戦争が起きると神官が魔法で戦うから、多くが死んだって(おさ)の子どもが言ってた」


「そういうところだったんですね。サクスム様はどこで暮らしていたのです?中央(ケントルム)のそばですか?」


 ルドはむず痒そうな顔をしたよ。


「様ってやめて。俺は偉い人じゃないから。みんなが頼ってくれたのに守れなかった…。俺らはどこにいたかはわからかいよ。おじちゃんが俺の先祖は中央(ケントルム)の偉い人だったけど、戦争で負けたらしいんだ。俺の親とおじちゃんは中央(ケントルム)から逃げて奴隷にさせられたらしい。おじちゃんが西の方から来たって言うから、東にいたんじゃない?」


 リクはまた新しい情報が出てきて頭がパンクしかけたよ。


「偉い人とは?姓は覚えてますか?」


「知らない。おじちゃんは死ぬ前に急にそんな話して、再起をしろって言ったんだ。俺は何も知らない!岩を砕いて運ぶことしか知らない俺がたくさん考えて集落をまとめることなんて、できるわけないだろう!再起ってなんだよ。みんな死んじゃったのに…。俺は何も知らない。おじちゃんの名前も両親の名前も忘れてしまった…」


「申し訳ございません。サクスム。死という衝撃を受けて立ち直れていないのに、あれこれ質問してしまって。私はあなたを責めているわけではありません」


 サクスムが俯いて、ぎゅぅとカーテンを掴んでいるよ。


「…俺は再起するために生まれ変わったの?エジリオ様、俺はご主人様を殺して、集落を襲ってくる人を殺したから、天国の(ポルタ・デル・)(パラディーゾ)は閉ざされてしまって、俺の魂は彷徨ってしまったのですか?人を殺して地獄(インフェルノ)に堕ちるのに堕ちていないのは何故?」


 ゆっくりとエジリオはルドに近づいて、あやすように肩を撫でたよ。


「今、ルド様ですね?サクスム様の記憶と混同されてしまわれているのです。たくさん殺したのはサクスム様の罪です。あなたの罪ではありません。

 どうしてサクスム様がこの世に迷われてしまったのかは私にはわかりません。サクスム様は人を殺しました。これは紛れもない罪です。でもサクスム様は命令に従わねば主人に殺されていた、もしくは別の人、身重の女性でしたか。殺されていたんですよね?

 サクスム様はルド様と同じく優しい魂をされていらっしゃる。ルド様の一部として、成し遂げられなかったことをしてください」


「成し遂げられなかったこと?」


「サクスム様はずっと弱い立場だった。弱い立場の者も幸せになる世界を作ることです」


「誰もが幸せになる世界?」


「そうです。私はお手伝いをします。サクスム様はお一人で期待を背負われていたのでしょう。ルド様はお一人ではありません」


 ルドは頷くと、はっとなってエジリオを見たよ。小声ですみませんと謝ったんだ。


「俺、やらかしましたね」


 エジリオは苦笑してからルドから離れたよ。


 ステファノが説明がほしいとばかりに咳払いをしたよ。


 ルドはぐったりしてるから、エジリオが代わりに説明したんだ。


中央(チェントロ)の王族かと思えば、今度は奴隷と。天と地のほどの身分の者たちがルド殿に憑いていると。奴隷王ロッチャの話は奴隷から聞いたことあるが、もしかしたら中央(チェントロ)の王族の霊に憑かれた者は人の上に立つようになるのかもしれん」


「サクスムは長になったわけでもないので、上に立ったと言うべきか分かりませんが。奴隷王の逸話とサクスムは全く違いますし、あの土地に肥沃な大地があったとは考えにくいです。巨大な王国を築くなら、山脈越えないと」


 ルドは盛りに盛られた奴隷王サクスム(ロッチャ)の話を訂正をしておいたよ。


「山脈を越える?それはどこなのだ」


 地図を広げると、ハイドランジアの半分くらいしか記されてないよ。北のエルスターは四分の一しかなく、東のギムペルも山脈を越えた先はないよ。


「はぁ。奴隷だったから地図の見方も土地も知りませんでした。ただ育ての親のおじちゃんは山を越えてたっていうし、海はなくて平地で」


 ステファノからたくさん質問されたけど、全くサクスムの知識は役に立たなかったんだ。


「石の切り方と楽に運ぶ方法は知ってます!」


 サクスムの時代より道具も技術も発展しているから、多分教えられても使えないと思うよ。


 次の日、魔物に襲われた山に行ったよ。塩の採掘を見学したけど、崖ばかりで山の上の方へは山に慣れない人は行かない方がいいみたいだよ。土や岩が混ざった塩をそのまま下まで下ろしていくんだ。


 重い岩を担いでいく奴隷たちの姿にルドは涙が出そうだったよ。


「千年近く経っているのに変わらないんですね…」


 山だから休憩するのにいちいち下山するのは時間がもったいないから、昼食や休憩する小さな小屋があったんだ。そこで奴隷たちは寝泊まりしているわけではないと聞いて安心したよ。


「採掘後の洞窟で上にかける布だけで寝ていたので、ここはとても良心的ですね!」


 千年前の奴隷の扱いは酷いなとさすがにステファノも思ったよ。


 小屋の前には小さな湖があってそこで水を飲むらしいけど、そこも干上がっていて、湖の形にそって白い粉みたいなのが現れていたんだ。


 塩湖だったみたいだよ。


 ルドはピンッと閃いたよ。


「この湖に塩を溶かして、水路を引いて下まで運べば楽ではありませんか?」


 千年前の中央(チェントロ)は水路の技術が高くて、何十キロも離れた水源から市街地まで水を引いてきたんだ。


 その知識からルドは水路という発想がでたよ。


「なるほど…。しかし水が豊富にないと流せませんよ?」


 エジリオは涸れた湖から無理だと考えたよ。


「別にここの湖を使うという訳ではありません。水源を調査して水が溜まりそうな場所へ集めるんです。水源はあまりないのですか?」


 責任者を呼んで話を聞くと熱波で今は涸れているけれど、いくつか大きな水源があって近くの川に流れていくらしいよ。


(サーレ)川ですか?うん、その流れを利用しましょう。ここの塩が流れると塩害で農地は使えないのでは?」


 川の付近は作物が育たなかったんたよ。ルドの読みは当たったんだ。


「川をせき止めたら川を使う人たちが困ってしまうね。どうしようか…」


「ルド殿。後は私に任せてください」


 領主ステファノがやってくれるみたいだよ。


 ずっとオリゾンテにいるわけにはいかないから、不機嫌なグランデフィウーメの貴族を宥めて、よその領地へ行くことにしたよ。


 ステファノの後ろ楯を得て、ルドはオリゾンテ周辺の領主たちに会ったんだ。


「お水はいりますか?」


 水売りみたいなことを始めたよ。雨を降らして、さらに聖神使エジリオのありがたいお話もついて寄付(・・)をもらったよ。


「もうじき自然に雨が降ります。水かさが少ない今だからこそ、河川の整備をしましょう」


「今はいらないのでは?」


 エジリオが不思議そうに聞くと、ステファノは心得たように頷いたよ。


「民が水を求めて河川付近の土砂を掘ったりして荒れている場所があります。(サーレ)川もいつもは穏やかな川ですが時折氾濫して塩害を拡大させますからね。しかし土砂を固めるにも水は必要ですから、やはり雨を待たないと」


 ルドは空を見上げたよ。


「おそらく今年の冬は雨も雪も少ないでしょう。水をためつつ、河川の整備も進める。春には作物の種をまかねば、何人亡くなるかわかりません。例年の雨になればいいけれど、急に大雨が続くこともありますし、その辺りはわかりません」


 ステファノはエジリオの計画に賛同した領主たちを集めて、治水の会議をしたよ。その中にはグランデフィウーメ家は含まれていなかったんだ。ルドは声かけたけれども、領主は勝手に何をしていると怒って早くルドに戻るように命令したんだ。


「ということで、俺は学生ですし一度グランデフィウーメに戻ります」


 ステファノたちは残念そうにルドを見送ってくれたよ。エジリオはステファノたちとの会議に出るべきかと思ったけれど、ルドのそばにいた方がいいと判断したんだ。ステファノもグランデフィウーメがルドをどう扱うかわからないから、エジリオもついていくように促したよ。


 あちこちいっていたお陰で、三ヶ月ぶりに故郷に帰ってきたんだ。


 領主に怒られてから、学校に行くことになったよ。さすがにエジリオは学校にはついていけなかったんだ。


 久しぶりに見たとばかりに、じろじろ生徒たちから見られたよ。カフェテリアにはキアーラの取り巻き女子はいたけれど、キアーラ本人はいなかったよ。


「話がある」


 ルドをバカにしていた、いじめっ子エドモンドに声をかけられたよ。ルドは食事を済ませたから、早く教会にいってお祈りしたかったんだ。


「お帰りなさい!師匠(マエストロ)


 ブルーノとカリーナも、なぜかエドモンドの呼び出しについていくことになったよ。


 投稿ペースは明日より通常に戻ります。

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