表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流刑の覇王  作者: 卯月よひら
序章
1/278

ストーリーテラー

 おーい、もしもし。そこの人。


 そうそう。キミだよ、キミ。


 時間あったら、お話聞いていかない?


 こんな街中で声をかけてくるのは怪しい勧誘か居酒屋の呼び込みだって?違う、違う。ボクはメニュー持っていないじゃないか。

 それかド派手なピンクのジャケットとズボンだから大道芸かと思ったって?それも違うよ。


 ボクは物語を語る語り部(ストーリーテラー)だよ。テラって呼んで。

 大丈夫、変な飴ちゃんあげないから安心して。髪は緑だけど地毛だよ!えー仮装してるわけじゃないんだけどな。この世界の人にはない髪の色だから仕方ないか。


 そろそろジャグリングや玉乗りしないのって、こんな都会の人通り多いところでジャグったら警察来ちゃうよ。公園でやっているけどあれは場所によっては許可必要なんだよ。ってちょっと、ボクは道化師(ピエロ)じゃないよ。昔の琵琶法師的な感じで、各地を回って物語を語っているよ。


 目が見えてるって?だから琵琶法師っていうのは例えだって。せっかくここまで話しをしてくれたなら、聞いていってよ。


 キミは剣と魔法のファンタジー好きかい?お前の格好がファンタジーだって?酷いな。これはボクの一張羅なんだよ。地味だと誰も目を止めてくれないでしょう?


 目立ちたいなら某動画投稿サイトで話せって?カメラの前でノーリアクションの上、ひたすら一人で話してるって悲しいよ?しかも再生回数が出るから、少ないと地味に傷つくし。途中で視聴者が止めてもワンカウントだからやってみればって、余計に傷つくけど!


 うん、そろそろお話にいこう。物語の舞台はハイドランジアという大陸だよ。話さらりといったって?ツッコミ大歓迎だよ。シャイなボクがわざわざ路上に立って声をかけているのは、人とコミュニケーションしたいからなんだ!


 あ、そんな痛ましい目をしないで…。


 おっほん。


 ハイドランジアは日本語でいうなら、紫陽花(アジサイ)になるよ。もちろん、ハイドランジアという言葉もこの大陸の言葉にはないから、キミたちの世界の言葉に合わせて、ボクがなるべく近い意味と音で和訳(・・)しているよ。ほら、聞きなれない人物名とか連発されても覚えられないでしょう?


 某夢の国のアトラクションのタ◯ー・オブ・テラーにでてくるシルキ・ウ◯ゥンドゥって一発で覚えられた?


 夢の国行ったことない?ごめん、後でネットで調べてみて。


 さて、ハイドランジアの由来だけど、紫陽花のように四枚の花びらを東西南北に広げたような形をしていたから、そう名前をつけられたんだ。大陸の全貌がわかったのはつい最近のことなんだ。


 そういえば紫陽花の花びらって言ったけど、あの四枚は花びらではなくて本当はガクなんだ。本当の花びらは真ん中の丸くて小さいやつで、真花(しんか)というよ。真実の花って感じで、なんか格好いいね。え、思わないって?


 今の話から、ハイドランジア大陸は紫陽花のガクの形をしていると言った方が正しいけど、それだとみんな分かりにくいから花びらっていうことにするね。



 ハイドランジア大陸には五人の有名な王がいたよ。みんな水の魔法が使えて、天候を操るほどの巨大な力を持っていたんだ。普通の人は天候まで操る力もないし、操れても魔法を使いすぎて死んでしまうんだ。


 歴史家の中では一人は王と呼ぶべきではないと物議を醸しているんだけど、ボクは王として語るね。


  どんな王様がいたかというと、軽く説明してから一人一人話していくよ。


 まずは古代、ハイドランジアの中央(ケントルム)、紫陽花で例えるなら真花の部分を統一した王、統一王マニュス。この地域は豊かで多くの有力な豪族がいたから争いが絶えなかったんだ。そこを平定したのがマニュスという男なんだ。


 あ、東西南北は地球と同じで、北半球のような気候だよ。北に行くほど寒くて南に行くほど暖かいんだ。



 大陸の中央(ケントルム)から見て東の花びらに位置するギムペル地方、マニュスから二百年後に奴隷として生まれたサクスムは不遇に怒って反乱を起こしたんだ。奴隷たちに希望を与えたことで奴隷王サクスムと呼ばれているよ。

 王として即位はしなかったから、この人を王というべきではないと歴史家が主張しているんだけど、ハイドランジアでは一般的に奴隷王といえばサクスムで通ってしまっているよ。また彼については後で話すね。



 中世に入ると大陸の西の花びらのレナータ地方で、ルドという人が王になった。彼は水害や干ばつから民を救ったから、とても民に人気だったんだよ。でも身分が低く、農民出身だったから貴族たちから馬鹿にされていたんだ。結構傲慢な人だったといわれてて、圧政を敷いていたらしい。言うことを聞かない人を処刑しまくったため、暴君ルドと後世で呼ばれるようになったよ。でも臣下に裏切られて最期は殺されてしまうんだ。



 近代に入っても人は飢饉に苦しめられていたんだ。中央(ケントルム)から北の花びらに位置するエルスター地方に水魔法が使えるアニバルという人が、畑を潤し人々を飢饉から救ったんだ。人々から神聖視されて、水神王アニバルと呼ばれるようになったんだ。


 さて現代になるとダムを作ったり川の流れを変えたりして、水を調整する技術が発達したんだ。


 キミたちの国は水が豊富にあるから想像できないと思うけど、よその国も同じようにハイドランジアも水問題は深刻だったんだ。水魔法が使える人が村に一人でもいると安泰と呼ばれるほど水は重要だったんだ。水を巡って争いはこの時代でも絶えず、それを解決したのが賢王リアム。南の花びらアナベル地方出身だけれども中央(ケントルム)に近いところで生まれたとされているよ。


 この五人の王がハイドランジアの歴史に名を刻み、今もなお人々から語り継がれているんだ。


 興味持ってくれたかな?


 ではでは、まずは統一王マニュスの話をするよ。


 といっても彼は今から三千年以上前に生まれて記録があまり残っていないんだ。紙がまだ発明されてなくて、岩や木に文字をガリガリ彫っていた時代なんだ。刃物の切れ味はよくないから、かなりの時間をかけて彫ったと思うよ。キミたちが図工やら美術で使った彫刻刀の方が、断然切れ味がいいから当時の人が見たら(ねた)ましく思うだろうね。


 え、彫刻刀だと岩掘れないって。そうなの!?あれ結構切れ味よさそうじゃないか。ボク、彫刻刀使ったことないから岩もいけるかと思ったよ。


 それでお話に戻るけど、資料が残っていたとしても古代文字と呼ばれて、現代文字の系統が違うから読めない文字なんだ。


 ほらこの世界にロゼッタ・ストーンってあるじゃない?あれみたくエジプトの古代文字ヒエログリフとギリシア語が併用して書かれていて読めた!みたいなものが出土していないんだよ。だから口伝や後の人が残した書物から彼の行動や人物像を紐解くしかないんだ。


 はっきりしていることは彼が中央(ケントルム)を平定して、王として即位した年をハイドランジアの紀元と定めたということ。あ、キミたちの世界だと紀元というと西暦でイエス・キリストが生まれた年を基準にしているけど、今から話すのはその紀元ではないよ。


 ハイドランジア暦は統一王マニュスの即位した年を紀元としているよ。


 日本にも皇紀ってあるじゃない。それと同じだよ。え、皇紀って知らない?神武天皇が即位した年を紀元と定めたものだよ。今だとあんまり使われていないのかな?


 マニュスの話しに戻るけど、彼が生まれたのはもちろん紀元前になるよ。たまに紀元をつけずに何年と言いかたするけど、キミたちが使う西暦ではないから気をつけてね。


 マニュスが即位したときの年齢はわかっていないんだけど、大体三十代から四十代といわれているよ。亡くなった年ははっきりわかっていて、紀元十三年。そのあとに成人していた息子が王に即位したといわれているから、マニュスが即位したのは二十代前半ではないというのが通説だよ。


 彼が生きていた時代を現代から見て古代と呼ぶよ。中央(ケントルム)は四つの地域に挟まれている上、土地が豊かだったんだ。それで古代の有力な豪族たちが中央(ケントルム)を巡って激しい取り合いをしていたんだ。そう、剣と魔法を使って。当時の剣は斬るというより殴って使っていたみたいだよ。


 まだ鉱物が安定して入手できないし、製造技術も高くなくて武器を大量に作る技術はなかったから、魔法が使える人が重宝されたそうだよ。魔法は当時の中央(ケントルム)で八割くらいの人が使えて兵士になるには魔法が使えるのが必須だったんだ。マニュスは豪族の一人で、武功をたてながら中央(ケントルム)全域を支配したというよ。


 大陸統一してないのに統一王って大きく出たなって思ったでしょう?


 当時はまだ測量技術もなく、中央(ケントルム)の人々は世界の広さを知らなかったんだ。ふっボク今、格好いいこと言った。


 え、聞いてなかった、ごめんって。キミ結構酷い人だね。って待って訂正するから、どっかに行かないで!


 中央(ケントルム)の南には魔物が住む広大な森があって、簡単には人々が通り抜けられなかったんだ。だからアナベル地方は未知の場所で当時の地図には記されてないよ。


 中央(ケントルム)という呼び方も当時はしていなくて、そう呼ばれたのは人が大陸全土に移動できるようになって測量技術も発達してからなんだ。だから古代の中央(ケントルム)の人々の世界は、その狭い地域が全てだと思っていたんだよ。あ、もちろん何とか地方という言い方は後からできたから、古代の人たちは自分達が大陸のどこ地方にいるという認識はなかったよ。


 さて、南は行けなかったのはわかるけど、他は行けたでしょうって。


 そうだね。大陸は紫陽花の花びらを広げたような形をしていると話したよね。


 東側のギムペル地方、西側のレナータ地方、北側のエルスター地方は行けたには行けたよ。でも東側のギムペル地方の中央には高い山がそびえていて、越えるのが厳しかったんだ。人々はそこから先はすべて山だと解釈したんだ。


 西側のレナータと北側のエルスターは中央(ケントルム)にいる人たちとは別の人種が治めている地域だったから、中央(ケントルム)の人は簡単には行けなかったんだ。だから北の方だとか西の方のあの辺という、ざっくりした言い方をしていたんだ。


 文献もろくに残ってないのになんでわかるって?

 それは紀元千年辺り、ちょうど暴君ルドが生きていた時代に各地で貴族の有力な勢力や、宗教者が神々の教えを広めるんだとかいって聖戦をしに遠征したりしていたから、ハイドランジアには中央(ケントルム)と四つの地域に分けられるとわかったからなんだよ。


 すでにこの頃は紙が発明されていて、ルド時代の文字も現代ハイドランジアに使われている文字と同じ流れになるから訳せるんだ。


 だから古代の統一王の辺りの話が書いてあるのを集めて推測したよ。残念ながら統一王の人柄はわからないけれど、おそらく中央(ケントルム)の人だから肌は白くて髪の色は金か茶色だったとされるよ。


 次は大陸の東側の花びら、ギムペル地方にいた奴隷王サクスムの話だよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ