第2話Part.7~俺が花関索……?花関索だって!?~
『ところでだなこの時、花関索は大きな1つ、大きなできごとを思い出したんだが、坊主は分かるか?』
【え?関羽が自分諸共母親を殺そうとしたのを腹から見てたとか言うのかい?】
『違う。花関索は自分の前世というものを思い出したんだ。』
【は?前世?何言ってんだいおっちゃん。】
『彼の前世は三国志の時代からは想像もできない、鉄の馬や鉄の鳥が人を乗せて動き、小さな箱に入った人間がひたすら何かを話していたりというものがある世界に暮らしていた。それはもう神か仙人の世界なのかとも思える世界だった。』
【ええ……。】
『その世界では花関索の伝承が知られていてだな。』
【いや待てよおっちゃん。前世なのに花関索の話が知られてるなんておかしくないか?】
『いいところに気がついたな坊主。じゃあその辺りの話を少ししようか。』
【おっちゃん、いくら何でも荒唐無稽すぎやしないかい?】
花関索は胡員外の家で初めて酒というものを飲んだんだ。彼は幼少の頃からこの歳まで道家の花岳先生の元に居た。飲酒を禁じていない宗派もあるにはあったが、花岳先生は酒を飲まなかったので家に酒があった事も無い。
しかしそれは花岳先生個人のことであって花関索に特に禁じるということはなかった。でもまあ修業に明け暮れていた花関索もそこまで酒に興味を示さなかったので今まで飲んだことなかったんだ。
だが酒を特に嫌悪しているわけでもないし、武将に酒は付き物ということで花関索も胡員外から杯に酒を注がれてグイっとあおった。
酒と言えば張翼徳が悪い意味でよく知られているな。酒好きで飲む量も凄まじい。しかしそれに付き合える関雲長もやはり相当強いわけで、その息子である花関索も相当強かった。初めて飲酒したというのにまるで水でも飲んでいるかのように飲む。
そして胡員外も「これぞ英雄の器。」とか言ってドンドン勧めていく。しかし酒に強いとは言ってもさすがに限度はある。結局花関索は酔いつぶれてしまった。
何とか寝室まで連れて行ってもらって仰向けに寝かせてもらった花関索は天井がグルグルと回るような感覚に襲われながら、昔のことを思い出していた。いや前世と言っていい記憶だ。今暮らしている三国の世とは全く違う景色、人、まるで夢か幻か。だが自然とその世界を受け止めている花関索も居たんだ。間違いなくこの世界を知っている。そう思った時には花関索の意識は眠りに落ちてしまった。
意識が戻った時は頭痛と凄まじい身体のだるさに襲われていた。完全に二日酔いってやつだな。胡員外の使用人に「花関索様」と呼ばれて一度首を傾げた。だが再度名を呼ばれると自分が花関索であることを思い出した。
そして昨日、酒に酔って意識もはっきりしないままに見ていた記憶の映像もまさに自分のもの。花関索として生を受ける前の記憶とはっきり認識したんだ。
にわかには信じがたい。彼の前世の世界では花関索は架空の人物とされた人で、その彼の活躍のお話が総じて花関索伝と呼ばれていた。彼の記憶ではたしかに自分はこの世界で生きてつい最近花関索と名乗り始めたことは間違いない。
花関索となったこの男は架空のお話の世界の人物として転生してしまった。そう考えなければ説明がつかないことだらけでそう結論づけるしかなかった。
花関索は重い身体を動かして外に出た。広い庭だ。ここでなら武器を振るっても問題なさそうだ。花関索は使用人に槍を持ってきて欲しいと頼む。使用人は走って槍を取ってきてくれ、花関索に手渡した。礼を言ってから周囲を確認して槍を振るう花関索。
二日酔いの身体であるため万全ではないのにも関わらず凄まじい轟音を響かせながら風を切り、鋭い攻撃を繰り広げる。この一撃なら上等な鎧を付けた将ですら胸板を貫いて絶命させることができるだろう。
こんなことは前世の頃なら絶対にできなかったはずだ。やはり自分は前世とは全く違う自分に生まれ変わったということがはっきりと彼は自覚したわけだ。
「朝起きてすぐに鍛練か。さすがワシの孫じゃ。」
「お、おはようございますお祖父上。これはやはり欠かせませぬ故。」
妙な感覚を感じながらも花関索は胡員外に挨拶をする。胡員外はうれしそうに顔をしわくちゃにして笑ってから、「鍛練が終わった後はまた飲もうぞ。まだまだ付き合ってもらうぞ。」と言って昨日宴席をしていた部屋へと消えていった。そこからまた二日飲んだのち、花関索と胡金定は関雲長に助力するための旅に出発した。