第2話Part.6~花関索、乱世へ打って出る!~
「盗賊たちを倒して参りました。」
「う、うむ……。強さは本物のようじゃな……。」
直接花関索の戦いぶりを見た訳じゃねえが続々と使用人から知らされる凄まじき戦いぶり、盗賊たちの返り血を受けたその姿はまさに鬼神の如く。このような姿を見れば並の人間じゃあビビって言葉に力を込められるわけがねえ。
強さは分かった胡員外だがそうとなれば余計に厄介。本当に盗賊とグルではなく、しかも50人の盗賊を事もなげに殲滅する膂力。その気になれば胡員外を始末するなど赤子の手をひねるよりも容易い。胡員外はガタガタと身体を震わせた。
「お父様。息子には耳の後ろに瘤があるはずです。それを見れば信じていただけるはずです。」
「おおそうか。そうであったな。」
胡金定はここに来て花関索の身体的特徴を思い出したんだ。花関索の耳の後ろに小さな瘤があるという。花関索はそう言われて右耳の後ろを触った。
胡金定と胡員外はその右耳の後ろを見始める。胡員外はもうこの若者が自分の孫であってほしいと思ったことだろうよ。もし違うとなればどうなるか分かったものではない。
2人は花関索の耳の後ろを見て、そして触れて瘤があることを確認した。こうして花関索が関雲長と胡金定の子であると証明できたというわけだ。
「おお!まさに……まさに!疑って済まなかった。」
「大事ありません。お久しゅうございますお祖父上。」
胡員外は孫に会えたうれしさとほんの少しの安堵の表情を見せながら花関索に詫びた。花関索は最初から気にしておらず、自分を認知してくれた祖父をやっとお祖父上と呼ぶことができたんだ。
その歓喜たるや尋常な物じゃあなかった。孫に生きて再会できた上にその武勇と志は父譲りとくれば最早英雄の器。孫がそのような大人物に育っていたことを祝って宴が始まった。
胡家荘を上げての宴席は三日三晩続いた。花関索は三日三晩も留まるつもりはなかったんだが、胡員外が中々放してくれなかった。元は溺愛していた孫。花関索が関雲長の手助けをする旅に出るとなれば次いつ会えるかは分からん。まあお爺ちゃん心という奴だ。多分な。
胡員外も三日三晩の宴でやっと気が済んだのか。いや多分済んではないだろうが、花関索の男としての一世一代の戦いをこれ以上邪魔してはならぬと遂に花関索を旅に出すことにした。その時母親である胡金定がこんなことを言いだした。
「私も索について参ります。」
と。胡員外はぶったまげてそいつは一体どういう了見かと胡金定に尋ねる。久々に会った孫だけでも悲しいのに最愛の娘まで旅に出るんだ。そりゃあ胡員外が怒っても無理はないが、胡金定だってただ思いつきで言った訳じゃあない。
「あの人は索はおろか私が生きていることも知らぬはずです。そのようなところに索が息子だと言ってあの人に近づいても信じてはくれないでしょう。ですのでそれを知る張さんに私がまず話をしなければなりません。」
そう。花関索と胡金定は張翼徳の恩情で救われた。でも劉玄徳の配下でそのことを知っているのは張翼徳だけだ。そんな中で関雲長に花関索が会ったところで強情で誇り高い彼に斬り捨てられるだけだろうし、かといって張翼徳に花関索が会ったところでやはり直情的な男である張翼徳にやっぱり斬り捨てられるだろう。それなのでまずは胡金定が話を通すしかないと主張したんだ。
あの2人の性格を考えればその主張は一理どころか十理、百理ある話で胡員外は何も言い返せず娘に花関索の旅の同行を認める他なかった。こうして花関索と胡金定の母と子の二人旅が始まったわけだ。