第2話Part.2~大盗賊・王令公~
「この山に居るのか?」
「へ、へい。間違いありやせん。」
「そうか。敵が襲ってくるかもしれない。鮑仁、気をつけて行こう。」
「はい。花関索様。」
『所詮は盗賊共だ、捕まった奴の命など――』
【――ちょちょ、鮑仁って誰だよ。】
『ああ、鮑三娘の諱や字は伝わってねえから鮑家の3番目の娘ってことで鮑三娘と呼ばれてるわけだが当然本名は違うんだ。』
【そうなの?】
『それで旦那の花関索が鮑家の三娘!って呼ぶのはちょっとおかしいからな。かと言って妻の名前を呼ばないのも妙だ。だから兄貴の礼、義とくれば仁だろってことで勝手に鮑仁ってことにさせてもらった。俺は変わらず鮑三娘と呼ぶがな。すまねえが覚えておいてくれ。』
【分かったよ。】
それじゃあ話を続けるぞ。所詮は盗賊共だ、捕まった奴の命など知らんと矢でも射かけてくるかもしれねえ。そういうわけで花関索は鮑三娘に警戒を促したんだ。もちろん鮑三娘もそれは分かっている。2人は警戒しながら山を登っていく。
だが矢は射かけられることはなかった。どうやら王令公とやらは仲間の命を粗末にする奴ではないようだ。
盗賊共の案内で山を登ると1軒の掘っ立て小屋が見えてきた。盗賊共の話によればこの中に王令公が居るとのことらしい。
「王令公と名乗るコソ泥がここに居ると聞いて参った。民を虐げる者は私が許さん!」
花関索は掘っ立て小屋に向かって大声で呼びかけた。大盗賊を名乗る者に対してコソ泥とワザと煽り立てる言葉を選んで挑発をする。縛り上げて連れてきた盗賊共はこの花関索の挑発に震え上がっている。どうやら王令公にも相当聞きそうだと花関索は思った。
「何だい?騒々しいねえ。てめえらがしっかり見張ってねえからだ!」
中から甲高い怒声が聞こえたかと思えば、掘っ立て小屋の壁を突き破って男が飛んできた。その粗末な格好からこの男も盗賊だということはすぐに分かった。いくら粗末な作りとはいえ大の男を木の壁を突き破ってなお飛ばすほどの力でこちらに飛ばしてきた。相当な剛力の持ち主だ。
そしてその突き破られたところから1人の女が出てきた。甲高い声から女の声かと感じていた花関索だったがまさか本当にそうだとは思っておらず目を丸くして驚いた。
その女は身長が6尺6寸ほどで日に焼けた素肌、そして何といっても大きな特徴は髪型だ。頭の側面の髪をガッツり刈り上げている。そして頭頂部から後頭部は髪を伸ばし、それを束ねている。束ねている髪は背中の中頃までの長さだ。
「お前が王令公か。」
「何だいアンタらは。」
当然のことながら王令公は相当機嫌が悪い。花関索と鮑三娘を睨みつけて威圧している。花関索が連れてきた盗賊たちは震え上がっちまって全員首を垂れて怒りがこちらに飛び火しねえようにと祈ってるようだった。
「お前たちがこの辺りの民を虐げていると聞いて参った。」
「だったらどうしたってんだい。」
「許しては置けぬ。改心するというなら無暗に命は奪わぬ!」
「フン、アタイらの何が分かるってんだい。」
「何ぃ?」
改めて王令公に向かって民を虐げるのはやめろと言う花関索であったが、悪人にも三分の理という言葉があるように盗賊にも盗賊なりの言い分があるものだ。だが王令公はその言い分を言うつもりもないらしい。言ったところで花関索には理解できないからだと言って。
「あらぁ?なぁにぃコレ?姉さん、またやったの?」
少し緊張感のない声が王令公の後ろから聞こえてきた。また女の声だ。王令公を姉さんと呼ぶということは彼女は妹ってことだな。
この女は姉よりも更に日に焼け、最早小麦色と呼べるほどに焼けている。身長は6尺5寸ほど。髪型は姉とは違い髪は短めで肩に掛かるか掛からないかくらいの長さ。
「あれぇ?新入りさん?」
「そんなわけないだろ。コイツはアタイらに仕事やめろって言いに来た奴さ。」
「ふぅん。姉さん、やっちゃうの?」
「当たり前さ。アタイらの野営地を知った以上生かしておくわけにはいかないよ!」
「あぁ~。かわいそうに。姉さんの馬鹿力の犠牲者がまた1人……。」
「ったく。誰が馬鹿力ってんだい。さて、そういうわけだから覚悟しな。」
敵を前にして姉妹は呑気な掛け合いをしているがどうやらやる気らしい。だが妹の方も姉の力は信用しているらしい、彼女が負けるなどと毛の頭ほども思っちゃいないようだ。
王令公は部下に自分の得物を持ってこさせた。部下が3人がかりで持ってきた戦斧を軽々と肩に担ぎ上げるとんでもねえ怪力だ。
「それじゃあアタイの戦斧で叩き潰してやるから覚悟しな。女の方は手出しさせねえから安心して逝きなッ。」
花関索と盗賊団の頭目、王令公の闘いが始まった。
名前を呼ばずに通そうかとも考えたのですが、私の技量ではとてもではないですが難しそうなので申し訳ありませんが、便宜上花関索は鮑三娘を鮑仁と呼ばさせてもらいます。悪しからず




