第2話~盗賊の噂~
花関索と胡金定の親子の旅に嫁の鮑三娘も加わった。いくら強いとはいっても旅は初めての鮑三娘に鮑凱も幾らか渋ったが、まあ結局鮑三娘がごり押しで鮑凱の首を縦に振らせちまった。そういうわけで鮑三娘も関雲長に会いに行く旅の一員となった。
鮑凱から聞いた劉備軍の駐屯地である興劉寨に向かって花関索一行は進む。鮑凱の計らいで彼の痩せてしまっていた馬から鮑家選りすぐりの駿馬を授けてくれた。花関索はありがたくそれを頂戴し、まだ見ぬ父へ思いを馳せながら興劉寨へ向かう。
「これはこれは美しい娘さんを連れておられますなあ。」
「え?ええ。」
「しかしこの辺りは盗賊が現れるのです。気をつけなされ。」
「劉皇叔がこの辺りに居られるので盗賊はほとんど出ないと聞いたのですが。」
「いいえ。この辺りには元々王令公と自らを称す大盗賊が跋扈しておるのです。劉皇叔も度々軍を差し向けるのですが、奴等は神出鬼没。配下の方々も中々捉え切れぬようです。」
興劉寨にほど近い集落。花関索たちは馬を休めていたところに人の良さそうな老齢の男に声を掛けられた。
民に優しい名君としてよ~く知られている劉玄徳の軍団が駐屯している場所に近いだけあって賊が現れることはほとんど無かったんだが、この集落の周辺には王令公と称す者が率いる大盗賊団が居るのだとその男は言った。
当然その王令公とやらを劉玄徳も知っている。だから民のために配下の者に軍を預けてこの辺りを捜索しているようなんだが全く見つけられねえようで難儀していると困った顔をしていた。
「花関索様。民をお助けになりますか?」
「そうだなあ。苦しむ民は放っておけないが……。」
「私の事ならお気遣いなく。私の武勇はあなたが1番ご存じですよね?」
「盗賊の方に同情しそうだ。」
父に早く会いたい気持ちはあったが無辜の民を放っておくわけにはいかない。多分関雲長も同じ事を言うだろうという気持ちが花関索にもあった。
だがもう1つの気がかりは妻である鮑三娘のことだった。強いのは分かっているが何でもありな盗賊の戦法で彼女が傷つけられるかもしれないと思ったんだが、鮑三娘はまるで気にしちゃいねえ。
花関索は苦笑いして鮑三娘も伴い、盗賊がよく現れるという街道を2人で進むことにした。
俺や坊主は花関索と鮑三娘の強さを知ってるわけだが、盗賊共はまず2人の姿を見る。それで思うのは立派な馬と立派な槍を背負った小男と見目麗しい育ちの良さそうな女がたった2人で道を進んでいる。盗賊たちは多くの人数で群れていやがるわけでこれは馬も槍も女も強奪できると踏むってわけだ。それが間違いだと知らずにな。
「へっへっへ。兄さん、いい女連れてるねえ。」
「ぜ~んぶ寄越せば命だけは助けてやんよ。」
「俺はあの王令公の盗賊団だぜぇ?命が惜しいだろ?さっさと寄こしなぁ。」
「やはり来たな。」
「えぇ。これで王令公とやらの場所が分かりますね。」
民たちは王令公という名を聞けば震え上がっていたんだろう、盗賊団は歯茎を見せた下卑た笑いを見せながらカシラの名前を出して花関索を脅す。
だが花関索と鮑三娘は全く意に介さない。賊が来るのを狙って目立つように道を進んでいた。むしろすぐに出てきてくれて時間の無駄にならなかったってなもんだ。
「我が妻を汚い面で見るな賊が!」
「へぇ~。てめえの妻か、そりゃあいい。おめえら!やっちまうぞ。」
鮑三娘を見て良からぬことしか考えていないという顔の賊に猛烈な不快感を覚えた花関索はピシャリと言ったが、賊からすればその言葉は余計に気持ちが湧き立つものだったらしい、いきり立った賊は花関索たちに飛び掛かってきた。
まあ言うまでもねえとは思うが、花関索と鮑三娘は賊たちを簡単に叩きのめしちまった。今回はカシラの王令公とやらの場所に案内してもらう必要があったので命までは落とさなかったが、痛みのあまりまともに動ける奴は居なかった。
「頭目の居場所に案内しろ。」
「へっへへ。な、何のことだ。」
「お前たちが自分で言ったろう。王令公とやらの居場所だ。」
花関索は口の利けそうな賊の1人の胸倉をつかんで王令公の居場所へ案内しろと言ったが、賊はとぼけたフリをする。さっき自分たちで王令公が率いる盗賊団だと言っておいて何を言っているんだって話なので花関索は強い口調で今度はカシラの名前を出して聞く。
「そうか。なら用は無いな。賊など生かしておく価値も無い。槍を。」
「お、おい。慈悲!慈悲ってやつは無いのか!」
「同じ事を思っただろうな。お前たちが虐げた民たちも。」
花関索は鮑三娘に自分の槍を渡すように言うと、彼女は言われた通り彼に槍を渡す。そして槍を構えると賊は見苦しくも命乞いを始めた。聞く耳を持ってやる理由がない花関索は鼻で笑う。
強がっていた賊も遂に折れちまって、王令公の居場所を言うと言って改めて命を乞う。
こうして花関索は縛り上げた盗賊たちの先導で王令公が根城にしている山に入ることになった。




