第1話Part.7~がんばれ鮑礼!妹のために!~
鮑礼に案内されて宴の席を設けた部屋に入った花関索たち。上座は鮑三娘の父たる鮑凱と花関索の母である胡金定。そしてその近くに少し距離を取っているが向かい合って花関索と鮑三娘が座った。そしてその後ろには鮑礼・鮑義の鮑兄弟。花関索の隣が鮑義だった。
急な事なので用意が十分ではないと鮑凱は言っていたんだがそんなことを全く感じさせない珍味の数々が並べられていた。まあここもさすがに金持ちの鮑凱といったところだな。
宴の始まりはもちろんまずは一杯。鮑凱と胡金定はあまり酒が強くないのでこの一杯だけ。そして鮑礼の花関索と鮑三娘の百年の仲を願っての百杯飲みが始まった。鮑礼は珍味に舌鼓を打つ余裕もない。まあこの頃の酒は蒸留酒なんかに比べたら大したことも無い強さではあったんだが、それでも杯で百杯は尋常ではない厳しさだ。しかも鮑三娘はしっかりと数えているみてえだ。
花関索は鮑凱が心を尽くして用意してくれた珍味に舌鼓を打ちながらグイっと酒を煽る。隣の鮑義も兄の鮑礼より酒に強いようでグイグイ酒を煽っていた。
「あー義弟よ。まさか本当に妹を倒すとはなァッ!」
酒はグイグイと行ける鮑義だが酒癖は少し悪いらしい。花関索に絡み酒を始める。花関索は快く応じて杯をコツンと当ててグイっと行く。それを見た鮑義は
「イケるじゃねえか。ホラもっと飲め義弟よ。」
自分もグイっと飲み、そして花関索の杯に酒を注ぎ、自分の杯にも注いだ。相当いい気分になってしまってるみてえだ。しかし花関索は余裕そのもので受け、しばらく鮑義との飲み比べが続いた。
一方その頃鮑礼の百杯飲みは50杯を過ぎようかというところだった。鮑礼は生まれてこの方50杯もの酒を飲んだことは無かった。だが一度約束したこと、男として違えるわけにはいかないと飲み続けるのだった。
「ふぉうぎ、あまりみゅこどのをこまらせるでにゃい。」
最早呂律は回っていないが意識ははっきりとしているようで鮑義が花関索に絡み酒をして飲み比べているのは分かっていて、彼を窘める言葉を言っているのだが如何せん何を言っているのか分からねえ。声もしっかり通っていないので鮑義は全く止まらなかった。
鮑礼はよくこの鮑義に酔い潰されていた。彼は中々の酒豪で少なくとも鮑礼は弟以上の酒豪は見たことが無かった為、婿である花関索を心配していたんだ。
だがそんな心配は杞憂だ。逆に鮑義の方が先に酔いつぶれてしまった。豪傑たるものちっとやそっとの酒程度では酔いつぶれねえんだ。
その間の鮑三娘も少し酒を飲んでいた。まあまだ年若いのもあってそこまで飲んではおらず少し頬を染めている程度だ。だがその上気した姿が更に彼女の色香を引き立たせる。花関索は彼女に見とれちまった。
「みゅこどの、いもうとをよぉろしくたにょみますぞ。」
相変わらず呂律は回っていないが花関索が鮑三娘に見とれていることにも目ざとく気づき、彼女を気に入ってくれたことに安堵し、改めてお願いをする。鮑礼の飲酒量は70杯に及んだ。だがここで鮑礼も酔いつぶれる。元々そんなに強くねえ鮑礼がここまで飲めたのは奇跡的だろう。だが百年の仲を願った百杯飲みとしては失敗だ。
「義兄の思いに感じ入りました。ならば私が残り30杯を務めましょう。その大盃で。」
花関索は鮑礼の分を自分で受けると宣言したんだ。そして普通の盃ではなく2尺はある大盃だ。酒をなみなみと注げば常人ならそもそも持って飲むことすら能わぬ大きな盃。それを受け取って使用人に酒を注がせる。
まずは1杯目。花関索はさっきまで鮑義と飲み比べをしていたとは思えないほどの勢いで飲む。暑い日に水を飲むかのような勢いだ。
「おお!さすがは軍神の子!」
「あなたの父もよく張さんに付き合わされて飲んでいましたねえ。」
「あぁ……花関索様。さすがは私の旦那様。」
これにはまだ起きている三者も三様の反応だ。花関索はその3人に笑いかけたと思いきや2杯目を注がれるなり飲み干していく。常人ならばこの杯にある分を一気に飲めば間違いなく昏倒すると言えるほどの量だ。それをにべも無く飲み干してしまう花関索。そしてすぐに盃を突き出して次を注ぐよう催促する。
「30杯目……!」
花関索は30杯目の酒を飲み干して百年の仲を願った百杯飲みをしっかりと果たしたんだ。だがさすがの花関索もこれだけ飲めば酔いつぶれるのも当然。涼しい顔で飲み切ったと思えばすぐに高鼾。夢の中の住人となっちまった。




