第1話Part.6~百杯飲んで百年仲睦まじく~
鮑凱が待つ座敷に案内された花関索。そして後ろに鮑三娘も続く。花関索は義父となる予定の鮑凱に頭を下げて挨拶をした。鮑凱は頭を下げた花関索をしばらく見定めるような視線で見た後に
「面を上げてくだされ、婿殿。」
そう言ったんだ。こうやって結婚の挨拶をするのは初めての花関索。だが彼の前世の記憶から持っていた純粋な想像は「お前などに娘はやらん!」と頑固に言われるものだと思っていたんだが、鮑凱は花関索を婿殿と呼んだ。そりゃあ鮑三娘が出していた条件をしっかりと満たしたわけではあったんだが、一言位は何か否定的な発言をされるのではと思っていた花関索は少し拍子抜けしたが
「あ、ありがとうございます!義父上!」
「お父様、ありがとうございます。」
「おお、娘がここまで惚れ込むとは。まさに英雄に相応しき方でございますな。」
花関索は鮑凱にお礼を言ってまた頭を下げる。畳に頭を打ち付けるのではというくらいの勢いだ。鮑三娘も続いて嬉しそうに礼を言うと、鮑凱はいつもとは明らかに違う娘の姿を見て特に異論を挟まず花関索を婿と認めた判断が間違っていなかったと確信し白い顎髭を扱きながら好々爺然とした笑顔を見せた。
「さて何分急故に何も準備ができておりませぬが、今宴の準備をさせております。」
「お父様!宴では礼兄上が私たちの百年の愛を願い百杯の酒を飲んでくださるそうですよ。」
「なっ。わ、私は酒はそこまで――」
「――飲んでくださいますよね?」
「はいっ……。」
鮑三娘の無茶振りがここで出た。鮑礼はあまり酒に強くは無いのだがさっきのこともあって鮑三娘に睨まれている。もう鮑礼はやるしかなかった。鮑凱も鮑礼が酒に弱い事は知っているのだが、それでも妹が嫁ぐということでそのうれしさを表現していると思ったんだろうな。手を叩いて喜んだんだ。
「婿殿、貴殿の風貌、そして我が娘を打ち倒す強さ、とてもただ者とは思えませぬが、私は花関索と言う名を知りませぬ。貴殿はどちらから参られたのですかな?」
「私はつい最近まで嵩山で道士の花岳先生より教えを乞うておりました。」
「ほう。して何故山を下りられたのですかな?」
鮑凱は花関索の強さと漂わせる風格でただ者ではないことを見抜いてはいたんだが、花関索と言う名を知らなかった。鮑凱も娘の鮑三娘を嫁がせるために様々な豪傑たちを探していたのでそこそこ詳しい自負はあった。しかしそこに引っかかって来なかったんだ。それで気になって花関索本人に尋ねた。
花関索はつい最近まで花岳先生の元で修業していたと答える。だが当然そこに別の疑問が出る。じゃあ何故山を下りたのかだ。今は特に道士としての修業も行っていないし、道士は一生結婚しない者も少なくないんだがこうして鮑三娘を娶ろうとしている。
こうなると花関索の出自に関して話さなければならない。花関索は母の胡金定に目配せをした。そして胡金定も頷いた。彼の言わんとしていることを即時に察したわけだ。
「これは内密にお願い致したいのですが、実は私の父は劉皇叔に仕える関雲長なのです。」
「あっ、あのっ、ぐ、軍神関羽ですか……?」
「はい。」
「い、いや……まさか……しかし娘を倒す強さ、関羽殿の子なれば当然か……。」
花関索は鮑凱と鮑三娘に自分の出自を教える。鮑凱は大きく狼狽えてしまったが、今まで負けを知らなかった鮑三娘があっさりと負けてしまったという強さ、たしかに関雲長の子となれば説明がつくと納得した。
「そして我が父は今も民の為戦っていると聞き、私も馳せ参じようと思った次第です。」
「何と……立派な心掛けです。劉備軍の駐屯地ならば私が知っておりまするぞ。」
「ほ、本当ですか義父上!」
「我が娘には早く嫁いで孫の顔でもと思っておりましたのでなぁ。英雄豪傑揃いと謳われ、名君と名高い劉皇叔の軍中に佳き方が居られぬかと探しておったところだったのです。」
「お、お父様……。」
良い事は続くもんなのか、なんと鮑凱が劉玄徳の軍が駐屯している場所を知っていたんだ。鮑凱が言うには劉玄徳の軍は英雄豪傑揃いであるので鮑三娘の婿にピッタリの将が居るのではないかと思ったようだ。鮑凱はチラッと娘を見ながらそう言うと、その視線に気づいた鮑三娘は顔を赤らめて恥ずかしそうにした。
そして花関索は遂に劉玄徳の軍が駐屯してるのが興劉寨という場所であることをつきとめた。やっと父に会えると思うと身体を震わせながら歓喜した。花関索は鮑凱に厚く礼を言う。
話を続けていると鮑礼が座敷に入ってきた。今度は慎重だった。また何かまずいことをして妹に無茶振りされては敵わんと思ったんだろうな。4人に宴の準備ができたと告げに来たんだ。鮑礼に連れられて4人は場所を移すことにした。




