第1話Part.5~女傑を屈服させて惚れ込ませるのってキモチイイ!~
花関索と鮑三娘は馬を降りた。鮑三娘が負けるのを初めて見た鮑家の者たちは信じられないといった面持ちだった。だが当の鮑三娘はというと顔を赤らめて恥じらいの表情を見せていたんだ。
自分より強え相手と結婚すると宣言してから遂に現れた男。つまりは花関索に心底惚れちまったってわけだ。そんな単純なと言いたくなる気持ちも分かるが、やはり鮑三娘は武人の気質があるんだろう。さっぱりとしたもんだ。
「……信じられん。」
「花関索殿。一度我が父にも会っていただけませぬか!?」
「娘さんを娶ることになるとなれば当然のことです。」
鮑礼が花関索に彼らの父である鮑凱に会ってほしいと言う。今は用事で出払っているという話だが、今日中には帰ってくるはずだと。花関索も鮑凱の娘の鮑三娘を娶るという話になるのだから当然一度は会う必要があると分かってるからそれを了承した。
鮑凱を待つ間は花関索と鮑三娘は2人きり。鮑兄弟と花関索の母胡金定は気を利かせて鮑凱が帰るまで2人で話す時間を与えたわけだ。まあ会ってからまだ半刻も経っていない上に話したのも手合わせする前のほんの一言二言。それも男女が愛を語らうようなものでもねえ。そんな2人に鮑凱を待つこの時間は幸いだった。
「花関索様……。」
「ど、どうしました……?」
花関索に惚れこんでしまった鮑三娘はさっきまでの強気な彼女はどこへやら、顔を真っ赤にしながら恥じらう姿を見せている。彼女の瞳は潤んで正座している彼女は膝を擦り合わせるような動きをしている。
花関索はこんな鮑三娘の姿を見て戸惑った。さっきまでと全然様子が違う。今の鮑三娘はむしろ花関索の好みの女子のようだ。
「あ、貴女のような美しく、そして強い女性を娶ることができ、うれしいです。まだ義父殿の許可を頂かなければなりませぬが。」
「心配ございません。父は必ず花関索様を気に入ってくださいます。それに私は既に決めました。もし認められずとも私は貴方様について行きます。ですから私を必ず連れて行ってください。」
花関索は鮑三娘を娶るにはまず義父となる予定の鮑凱の許可をいただかなければと言ってみた。すると鮑三娘は真っ直ぐな瞳で仮に認められなくても花関索に付いて行くと宣言したんだ。更にはもし認められなくても自分を置いて行かず連れて行って欲しいと懇願した。
花関索の心中は満たされていた。あの強気でそして今まで闘った者たちの軟弱さに半ば男などとすら思っていたあの鮑三娘が今自分に心底惚れこんで懇願している。花関索は征服感に満ち満ちて、女傑を惚れ込ませるこの感覚に病みつきになりそうだった。
「必ず離しません。もちろん貴女と義父殿の仲も引き裂きません。」
「あっ……か、花関索さ、ま……。」
花関索は鮑三娘の手を握って力強い言葉を彼女に掛けた。鮑三娘はいきなり手を握られて驚いたのか言葉がたどたどしくなる。お互いの顔がかなり近い。花関索はこのような美人を近くで見たのは初めてだ。
すっきりと通った鼻筋、桜色の瑞々しく柔らかそうな唇は色気を感じさせる。そしてさっきよりも更に潤ませた綺麗な瞳は本当に吸い込まれそうに感じ、鮑三娘と目を合わせた花関索は彼女から目を離せなかった。
目を離せない、でもこれ以上何かするでもない。表情には全く出ていないんだが花関索は完全に緊張して固まっちまった。花関索は初めてだし、記憶を持っている前世でもこんなことをした覚えがない。ここからどうしたらいいのか分からなかったんだ。
すると鮑三娘の方は目を閉じた。明らかに接吻が欲しいって行動だ。花関索も鮑三娘が目を閉じたことで我に返った。だがどうすりゃいいのか分かんねえってのは変わらない。だが何とか意を決して鮑三娘に唇を近づけていった。
「花関索殿ォッ!父がお戻りになりましたぞ!」
「あ……。」
せっかく接吻しようと思ったのに鮑凱が戻ってきたことを伝えに来た鮑礼に邪魔されてしまった。いや鮑礼が悪いわけじゃあないんだが何とも間の悪い事この上ねえな。この状態をしっかりと見ちまった鮑礼も何とも気まずい。「な、仲、睦まじいぃことは……よ、良い事……ですな……。」と言うのが精いっぱいだ。
「兄上?」
「は、はい!」
「覚えておいてくださいね。」
鮑三娘の声は優しい声だった。でも普段鮑三娘は鮑礼に対して礼をつくしてはいるがこんな柔らかい声では話しかけない。明らかに怒っている……。鮑礼は当然気づいている。そして次には覚えておけとの言葉。鮑礼は一体何をさせられることになるのか、何にしても過酷であることは間違いない。鮑礼の顔はまるで婦女子が白粉を塗ったかのように蒼白になっていた。
鮑凱には既に鮑三娘が花関索に敗れ、彼女は花関索と婚姻を結びたがっていることは伝えており、あとは鮑凱が花関索を見て気にいるか否かだけだ。鮑礼に連れられ花関索と鮑三娘は鮑凱が待つ座敷へ向かって行った。




