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13話 深く沈む記憶の夢欠片を追う

『ねぇ、ティパルー。占星術師様、喜んでくださったね』

『うんっ! でも、あの結晶(おはな)何に使うのかなぁ?』

『ふふ、ティパルーにはまだ分からないわよ』

『あー! おねーちゃん、せんせーじゅつしさまと同じこと言うー!』


 これは、前の夢の続き?


 でも、今度はちゃんと見える――姉の顔が。


 私と同じ白銀色の髪は綺麗な三つ編みで束ねて、宝石みたいな黄色の瞳をした、八、九歳ぐらいのとっても綺麗な少女だ。

 白のマントローブにマフラーも巻いた雪国の格好をしているから、私の故郷は寒い国なのかな。


『ティパルーも大きくなったら、あの遺跡様を祀る巫女になるんだから、お姉ちゃんと一緒に占星術師様に色々教わる?』

『お勉強はキライだもん……。でもでも、お絵かきは大好きだよっ!』

『ははは。何の話をしているかと思えば』

『!! 占星術師様!』

『あ、せんせーじゅつしさまだー!』


 私と姉が占星術師に駆け寄る。

 よほど懐いているのか、私なんか占星術師の足に抱きついてる。……お転婆すぎでは?


 占星術師も二人を優しく受け止めてるけど、子供目線でも、やっぱり顔は見えないままだ。


『ティテシア、ティパルーはまだ魔法が使えないから巫女の勉強はまだ先だ』


 占星術師が私と姉を軽々と抱き上げた。


『でも、占星術師様。私の妹だもの、いずれは勉強しないといけないでしょう?』

『そうだな。だが、()じゃない。()()なティテシアなら解るだろ?』

『……はい』

『それに、ティパルーは今はお絵かきに夢中だからな』

『? 何のお話? 難しいお話は分かんない!』


 話がついていかない私は、ぷくっと頬を膨らませた。

 そんな私を見て、二人が笑う。


『おやおや、ティパルーはご機嫌斜めになったか』

『本当。ふふ、ふふふ。リスみたい』

『むぅ』

『そんなティパルーに、もちろんティテシアも。二人に一つ冒険を与えよう』

『! ぼーけん!! お使いだー!』


 途端ワクワクし始めた私の顔は、かなり輝いている。目だってキラッキラ。

 姉も、占星術師の役に立てるのが嬉しいのか、パァッと笑顔を見せた。


 ……え、姉の笑った顔かなり美人なんですが?


『あの遺跡の地下に、純度の高い魔素の結晶(はな)が咲いているのは知っているだろ? そこから“虹色の結晶”を取ってきてほしいな。あぁ、もちろん、祭壇に祀ってある物は絶対に触らないこと、欲しいのは、周りに咲いている結晶だ』

『いつもの占いにお使いになるんですね!』

『それもあるが……近頃、ドラゴンがこの辺りを彷徨(うろ)ついててな。祓うためにも必要なんだ、頼めるか?』


 私と姉がお互い顔を見合わせ、強く頷いた。


『はい!』

『うんっ!』

『良い子だ』


 だから、顔を見せて下さい!


 そこから場面が切り替わるように、フィルムが切られるような音がした。


 切り替わった視界に映ったそこは、松明で照らされた……たぶん、遺跡の中?


『ティパルー、寒いからお姉ちゃんとおてて、繋ごうか』

『うん! ありがと、おねーちゃん! あったかいねぇ!』


 私がそう言えば、姉がニッコリと微笑む。

 お互い色違いの手袋を着けている。

 姉が青で、私が赤。


 ……今なら、イスカの言うことも少し分かる気がした。私の姉は、女神だ。


『地下に行くの、儀式以来だわ。大丈夫? 怖くない?』

『だいじょーぶだよ! おねーちゃんと一緒だもん!』

『ふふ。お姉ちゃんも、ティパルーと一緒だと心強いわ』


 ザザザ、と目の前にノイズのようなものが走る。


 あぁ、まただ。

 またそうやって、夢はコロコロと場面を変える。


 それじゃ駄目だ。もっと、もっと深く追わないと。


 私は夢を追うように、螺旋階段を駆け降りるように、記憶の断片を追いかける。


『!! ティパルー、来ちゃダメ!!!』


 声のした方へ振り向けば、そこには成長した姉の姿。


『お姉ちゃん!』

『っ……、今のうちに逃げるわよ!』

『わわっ!』


 姉は咄嗟に私の手を取り、あの遺跡の中へと逃げる。


『ねぇ、お姉ちゃん! 何で、何でドラゴンが村に――!? 』

『分からない。でも、最近頻繁すぎるほどドラゴンが飛んでるっていうのは占星術師様から聞いてた。今は、占星術師様から教わった魔法が少し効いてるみたいだけど……私のはまだまだ未熟だから、いつまで持つか――っ!』


 ドンッ! という衝撃音と共に遺跡が大きく揺れた。


 体に芯まで伝わる地響き、体に感じる衝撃、夢というより現実のような感覚に襲われる。


『……嘘でしょう? 遺跡()の中まで追ってくるって言うの?』


 姉の顔に、焦りと困惑が滲んでいた。


『お、お姉ちゃん、地下! 地下に行けば、占星術師様の結界が張ってある!』

『そうね。あそこなら、さすがのドラゴンも手出しは出来ないものね。走れる? ティパルー』

『う、うん! ……あのね、村一番の魔法を使う巫女のお姉ちゃんでも、敵わない?』

『言ったでしょう、まだまだ未熟だって。悔しいけど、全然敵わないわ。占星術師様ですら、魔素の結晶を使わないと祓えないんだもの……無理よ。…………私は非力だわ』


 姉の後ろを走っていた私は、この時の姉の表情は見えなかった。


「っ! お姉ちゃん!!」

「!? ティパルー!」


 衝撃の揺れで姉と手が離れ、私は――。


 手が離れたと同時に、夢は呆気なく終わってしまった。






「…………ティテシア。私の、お姉ちゃんの名前……」


 目が覚めれば、まだ辺りは真っ暗だった。

 監獄の就寝時間が早いから目が覚めてしまったのか、それとも、もうこれ以上見せたくないという記憶の暗示なのだろうか。


 でも――。


「知ることが出来た。姉の名前……それに、雪国というか村。巫女っていうのは、まだ分からないけど」


 寝返りをうち、目を瞑る。

 今見た夢の続きが見たいから。だって、恐らく次は姉がドラゴンに襲われてしまう場面だったと思う。


 お願い、その先が知りたいの。








 と、まぁ私の願いも虚しく、次に見た夢は美味しそうな生姜焼きサンドイッチを持ったイスカだった。

ここまで読んで頂きありがとうございました。


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