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6.5話 勉強は絵本で、教団にはソルトを②

「女神、待たせてしまったことを許してほしい。望むなら懺悔も喜んでしよう!」

「だ、大丈夫ですよ。懺悔なんて望んでもいませんし…喜ぶって、どういう神経してるんですか?」


 数時間後、夜ご飯と一緒に書物を持って来たイスカに、最初は待ってましたと椅子から立ち上がりたかったのだが、喜んで懺悔するという彼の言葉に気が抜けてしまった。


 イスカは真鍮色の歯車の魔法陣で鍵を開け、「失礼する」と中に入って来た。

 そして晩ご飯と、抱えていた書物をテーブルの上に置く。


 見た目重厚そうな書から、背表紙すら豪華な書、革表紙の如何にも年代が経っていそうな書まである。


「女神の知りたいものをもとに厳選してみた。この世界……と言ってもアルヴィヴ大陸が主なのだが、大陸の歴史や魔法の歴史、魔女に関連した史実や物語だ」

「こんなにもたくさん……。ありがとうございます、イスカ看守官!」

「鉄格子越しじゃない間近の女神からの感謝の迫力!!! 礼を言うのは俺のほうだ、女神。女神のおかげで、俺の狂信者スキルが日に日に高まっているのだから」

「出来ればそっちではなくて、看守スキルのほうを高めてください」

「それと、……これを」

「?」


 イスカが一冊の本を私に差し出した。

 受け取ってみると、薄い、なんだろう、見た感じは絵本っぽい。


「あの、これは?」

「書物は字ばかりで難しいかと思って、女神のため、解りやすく絵本にしてみた」

「え、絵本!?」


 可愛らしい表紙に『これを読めば初めてでもわかる! 女神の知識の蓄えになってほしい絵本!』って書いてある。


「ここに積んである書物にも似たようなことが書かれているが、簡単なイラストと読みやすい文章で作ってみたから、よければ読んでみてくれ」

「あ、ありがとうございます。晩ご飯を食べ終えたら、読ませていただきますね」

「女神の狂信者として当たり前のことをしたまでだ」


 さ、さて。今日の晩ご飯は――、茶色と赤色の丸っぽい何かに、バゲット、付け合わせのサラダと紅茶だ。あ、チーズも、デザートのカップケーキまである!


「変わったメインですね」

「肉を丸めて揚げた、肉団子だ。照り焼き風味と、トマトソースの二種類のタレをかけてある。大きいほうが食べ応えがあるのだが、女神の口が裂けると世界が滅ぶからな。一口サイズにした」

「……私の口が裂けても滅びませんよ世界は。聞いたことありますか? 口が裂けて世界が滅んだことがあるとか、そんなぶっ飛んだ歴史が」

「いや、ないが?」

「でしょう? なら、私の口が裂けようが世界は滅びません、絶対です」

「悟った顔の女神の横顔を拝まずにはいられない! ……女神、俺はもう重症なのだろうか? この衝動を止めることが出来ないなんて、狂信者として情けない!!」

「…………ソ、ソウデスネ。かなり重症だと私も本気で思います」


 私は手を合わせて、肉団子と言う食べ物をフォークで刺す。

 スッとフォークが通り、感触からすでに柔らかいのが分かった。


(!? 前の生姜焼きサンドも美味しかったけど、これも美味しいぃっ……!!)


 パクパク、黙々と食べる私を見て、イスカは「女神に捧げた供物たちも喜んでいるだろう」とか色々呟いていた。



「……ふぅ。食べたー」


 晩ご飯とデザートを食べ終え、シンと静まり返った部屋でお腹を擦りながら、ふと書物に目をやる。

 だが、高く積まれた書物よりも、一冊だけカラフルな――そう、イスカ手作りの絵本のインパクトが大きい。


 この、イスカ手作り絵本のほうから読んでみるか。解らなかったら他の書物で調べてみよう。十分ほどで解るって言ってたし。


《さあ! お話のはじまり、はじまり!》


《むかし、むかし。あるところに、世界を支える大きな世界樹〈聖なる()〉と呼ばれる大木がありました。名前の由来は、“生い茂る枝葉が天を覆うように広がり、遠くから見ればそれはまるで聖杯のような形”をしていたからです。

 そして、聖なる()を中心としてアルヴィヴ大陸が生まれました。

 大陸誕生から百年後、聖なる()の対、反対側の世界にも対界樹〈逆なる()〉が存在すると賢者が国王に伝えました。逆なる()は黒く淀んだような見た目から別名〈邪神〉とも言います》


《世界樹、聖なる()を守護する三人の賢者がいました。書の賢者、杖の賢者、円環の賢者と呼ばれ、仲良しです。対する、対界樹の逆なる()にも三人の守護者がいます。それが“魔女”でした。逆なる()の根元に座り魔法を生む者、だったのですが、とある魔女が地上界で魔法を使ったことから、いつしか()という定義に当てはめられてしまいます。魔女の怒りを買った人間たちは戦で負け、失い、魔女の存在をやがて悪から恐怖の対象に変えました。

 そして、畏怖と、逆なる()の根元に座る者という意味を込めて“邪神の隣人”と呼ぶようになりました》


《三人の魔女――〈雨期の魔女〉レアメ、〈幽幻燈(ゆうげんきょう)の魔女〉ソムタルテ、〈箱庭の魔女〉アルカフネは地上界でも有名です。

 他にも〈始まりの魔女〉と呼ばれる始祖がいるのでは、と言われていて、その存在は謎とされています。

 魔女たちはドラゴンの火をくべた箒に乗って空を飛びます。

 ただ、今となってはドラゴンは絶滅危惧種で接触禁止令が敷かれています》


《魔女との戦によって、対界樹や魔女、魔法使いの存在が大陸全土に表沙汰となったことで時代は大きく変わり動き始めました。大陸にも魔法が流行り、そのおかげで生活が豊かになっていきます》


《やがて、聖なる()を創世神と崇拝する教団が出来ます。第一教団〈アドアステラ・ロアーズ〉と、そこから分派した第二教団〈アストルムダイアー〉、そして魔女を崇拝する第三教団〈ソムニゥム・サブリエ〉。今やこの三教団は大きな力を持っていて、教主は代々世襲です》


《終わり☆》


《オマケ。ここ風見鶏のコンスライニ監獄砦(ギャリソン)は、元は罪を犯した魔法使い専用の監獄で、現在は大罪人を主に収容している。地下には数百年投獄されたままの魔法使いもいるから絶対に近づかないこと》



 私はパタンと絵本を閉じた。


「……やっぱり私、魔女の名前見ても知らない。三人の賢者は、聞いたことあるようなないような……。私が小さい頃には魔法はすでに存在してた気もするし、ドラゴンだってたくさんいたと思う――」


 ダメだ。思い出そうとして近付いたら遠ざかって、気になる事柄が多過ぎて何も掴めない。

 詰め込みすぎるのかな、頭パンクしそう!


「知りたいって気持ちが先走ってる……。焦って大事なこと見落とすよりも、時間かけてでも一つ一つ調べて解決していこう」


 大丈夫、時間はあるんだから。焦らない焦らない。


 私は頬を小さく叩き、積まれた一番上の書物を手に取ってみた。

 表紙には『アルヴィヴ大陸の成り立ち』と書かれている。


 パラパラと捲ってみれば……字、字、字!! 挿絵の一つもない!

 大陸の成り立ちなのに地図すら載ってないとは。あぁ、みっちりと並ぶ字に目がチカチカしてきた。


 私はイスカが「目が疲れた時に女神を癒してくれる」とくれた、ホットアイマスクなる物を目に当てる。

 じんわりと温かくて、目が()けそう……。


「気持ちいぃ。……それにしても、この絵本との差。イスカ看守官の手作りだから怪しいかなって思ってたけど、先に絵本(こっち)を読んで正解だったかも」


 絵本に描かれた、上手すぎる挿絵たちに感謝したと同時に、私はイスカのスペックがどうなってるのか気になったのだった。




 その頃のイスカは、ジャンヌのソルト撒きの後始末に追われていた。


「……監獄長の命令だからって、限度があるだろうが」

「だって第二教団の奴らだよ? 聖水ぶっかけたいけど、それを嬉しそうに受け止める変態(やつら)だよ? 思いっきり撒いたほうが効き目あるかなぁって思って」

「テヘペロするな。ったく、ふざけんなよ。女神の料理に使うソルトまで撒きやがって……!」

「それはごめんね、イスカ先輩。お詫びにソルト買っておくから許してよ」

「なら、王都で有名なパピヨンナイト印のソルトな」

「はっ?! ちょ、いやあれかなりの超高級――」


 サァっと顔を真っ青にしたジャンヌは、口元を引き攣らせた。

 だが、イスカはそんなのお構いなしだ。


「女神の料理人捧げるためだと思えば安いもんだろ? それで許してやる。あぁ、文句は受けつけんからな」

「……イ、イスカ先輩の鬼~!!」


 経費で落とそうかな、と項垂れるジャンヌの横を通り過ぎて、せっせと掃き掃除するイスカは、女神(ティパルー)のための掃除スキルを上げていくのだった。

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