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振り向かない彼女を飼う方法  作者: 一会
第4章
76/81

76 姉 28



 直球過ぎた。

 弟が私の服を脱がせて、ぽいぽい放っていく。


 「してほしいのなら、僕がしてあげるよ。」

 

 ちょっと待って!

 私はまだ妊娠8ヶ月の妊婦!

 乱暴に扱うと、早産になって、子供の健康に関するリスクが上がってしまう!


 弟の目は全く笑っていないのに、顔は微笑みを作っている。

 私は弟の肩に手を乗せて距離をとり、弟に質問した。

 

 「じゃあ、目の前で先輩と、ハグやキスするのは?」

 

 これくらいならいい?


 「僕は、親の馴れ初めをきいているから、これくらい、という意識が危ないと知っているんだ。」


 弟に心を読まれて言葉がつまった。

 弟が私の目を見つづけながら、あきれたように言う。


 「姉さん、男が二人もいて、まだ足りないの?」


 「そういうのではなくて、私は友達でいたいのだけど、本人は付き合いたいというのよ。

  だから、ハグとキスくらいなら、してもいいかなって。」



 私は先輩の友達でいたい。

 先輩は私と恋人になりたい。


 お互いの妥協点を探しているだから、私も少しは譲歩しないといけない。

 ハグと(ほほ)へのキスなら、親しい人への友愛を示せれる。



 弟の目の色がだんだん深いものになっていくのを、私はぞくぞくしながら見ていた。


 「姉さん、その関係だと、最後には母さんと兄さんのようになるよ。」

 「ならないわ。」


 私に強い執着を見せる弟に、はっきりと言いきる。


 「先輩には、友達でいてもらう。」



 今、決めた。

 弟の目は、お兄ちゃんの目に近いものがある。

 狂気と紙一重になるような心境に弟を置きたくない。




 私と身体の関係を結んだ弟が、これまで以上に私に執着して、私と同じ、どろりとしたもので私を(から)めようとする。

 弟が()ちてきて、私だけのものになるのを狂喜する自分がいる。


 私は(おのれ)を叱った。


 これは、私の弟だ。

 狂うのは、私一人で十分だ。

 お兄ちゃんのようにさせてはならない。



 何をどうしたら、あの時のお兄ちゃんのような、恐ろしくも悲しい雰囲気を持つようになる?

 どんな扱いを受けたら、一人の人にあそこまでの執着を示すようになる?



 お兄ちゃんの家に出入りするようになってから、ずっと疑問に思っていた。

 父が家にいるというのに、いつでもお兄ちゃんの家にいる、私の母の、異常とも思える行動。

 父よりもお兄ちゃんを気遣う、母の傾いた愛情の示し方。


 父よりもお兄ちゃんと結婚したかったのかと娘の私が疑うほど、母はお兄ちゃんに関心を寄せている。



 母に私の3人目の話をしに行って、お兄ちゃんに質問したとき、お兄ちゃんは過剰な反応をした。


 お兄ちゃんは普段は表にださない、おそらく母とふたりきりのときの姿を私に見せることで、私に理解させようとした。


 ハグとキスなんて、お兄ちゃんの母国では当たり前のことのはずだ。

 そのありふれた行動ですら、お兄ちゃんの嫉妬の対象になった。


 ーーお兄ちゃんは、母の愛情に、とても飢えていた?


 お兄ちゃんの恐ろしい雰囲気は、飢餓状態にある者のそれだった。

 あの時、(むさぼ)り食われる恐怖に、私は(おび)えたのだ。


 お兄ちゃんの姿は、一人の人に執着して、縛り付けられた者の()れの果てだ。




 帰る直前、お兄ちゃんは母の視線を私から引き離して自分に向けさせ、そのまま私に話かけた。

 

 どう考えても、お兄ちゃんは私のために、人にさらしたくない自分の辛い部分を見せてくれたのだ。


『よそ見しないで。私だけを見て。』


 お兄ちゃんは言葉にせず、私にわかりやすいよう、行動ではっきりと示した。


 お兄ちゃんは私たち家族に、多くの愛情をくれた。

 経済的援助を惜しまず、何でも協力してくれた。

 たくさんのものをくれたけれど、お兄ちゃんが本心から母に求めることは、ただそれだけだということだろう。

 

 だから、母はいつも父ではなく、お兄ちゃんのそばにいた。


 母に全てを捧げたお兄ちゃんが完全に壊れしまわないよう、母はお兄ちゃんのそばにいるしか他に方法がなかったのだろう。

 まるでこれまで足りなかった分を補うかのように、母はお兄ちゃんに愛情を示し、与え続けている。



 

 母がお兄ちゃんのそばにいることを優先しても、父は母を批難しない。

 父はお兄ちゃんの状態を知っている?

 原因も?


 いつからそうなっていたの?



 普段快活なお兄ちゃんは、私が知らないところで、静かに狂っていた。

 狂っているけれど、母を見るお兄ちゃんは、この上ないほど幸せそうだった。





 「まさか、身体の関係がある友達、とか言わないよね?」

 

 弟の目の色は、まだ濃いままだ。ぞくぞくが酷くなる。



 弟の目は、私一人だけを映す。

 お兄ちゃんの目にも、母しか映っていない。


 私は、姉だ。

 恋人(おとうと)の心を独占して喜んでいる場合ではない。

 弟を、正常な世界に帰してあげることはできないけれど、せめて狂気の世界に連れて行かないようにしないといけない。


 たとえ、お兄ちゃんから狂気的な独占欲を向けられた母をうらやましいと思っていても。

 弟があの目で私を見てくれたら、どれだけ自分の中の空洞が満たされるか、想像してしまいたくなったとしても。


 私は姉なので、私から弟を(まも)らないといけない。




 「ハグとキスはするけれど、親愛の意味よ。」


 ここは譲れない。

 先輩を落ち着かせる手段がなくなってしまう。


 私は弟をじっと見る。

 弟も私を見ている。

 私たちは見つめあったまま、視線を外さない。




 しばらく見つめあううちに、私は身体が冷えてきた。

 弟に脱がされたので、私は裸だ。

 私がぶるっと震えると、弟が視線を外した。


 私から()いだ服を拾い、手慣れた様子で私に着せていく。



 「友達だ。そのほかは、一切認めない。」


 弟は私に服を着せながら言う。



 「ハグとキスは?」

 

 私は弟に確認した。



 「僕の目の前で、する気なの?」


 弟の目が、暗くなっていく。

 私は弟を苦しめたいわけではない。




 私は弟の手を掴んで、弟のベッドに連れていった。

 今度は私が弟の服を()いでいく。



 弟はお兄ちゃんと、元々の立場が違う。

 何故わからないの?



 弟がベッドの上で力無くだらりとしているのをいいことに、さっさと裸にして、可愛い(こいびと)を食べ始めた。


 弟の肌は、私より5歳下だけあってきめが細かい。

 触っているだけですべすべと楽しめる。


 口をつけてみると、弟の匂いとともに、弾力のある肌を感じた。

 舐めて少し吸うとみずみずしくて美味しくて、他のところも口をつけて味わいたくなる。


 顔を上げて微笑みながら、愛しい(こいびと)の顔を見る。


 「私が他の人にこういうことをできると、本気で思っているの?」

 


 妊娠後期になり、お腹が出てきて、体勢的に弟を食べづらい。

 そもそも、そういう欲がほとんどない。

 ところが、匂いを嗅ぐと弟が欲しくなり、口づけたくてたまらなくなった。


 これは、私のものだ。

 諦めようとして諦められず、やっと手に入れた、私の(こいびと)だ。


 私は丁寧に、愛しい恋人(おとうと)の身体に口づけていった。

 弟の肌がこれまでになく美味しく感じて、このまま全部食べてしまいたくなる。




 母とお兄ちゃんの恋がどういう経過をたどったものか、私は聞いていない。

 だから、弟が何を不安に思っているのかわからない。


 わかるのは、私が弟に執着していて何をどうやっても弟を手放せないということと、夫を大切にしたいと思っていること、先輩を泣かさないようにしたいと思っていることだけだ。



 私が弟の家に来るのと同時に、義妹(いもうと)には、夫の家に住むこと(すす)めた。

 部屋もまだあるので、私物を置ける。


 それぞれに子供もできたのだから、姉弟(してい)兄妹(けいまい)が幸せになれる在り方に変えようと、義妹(いもうと)に提案した。

 出産後は、その都度考えればいい。



 

 私は心のままに弟の身体のあちこちに口づけ、ふたりが幸せを感じられるよう、弟の身体に自分の身体を重ねようとした。

 

 「そこまでしなくていい。」


 弟に止められた。

 弟が、悲しそうな顔をしている。



 弟は何か誤解をしている。

 私は弟が欲しくなったから、恋人なので遠慮せず、先を続けようとしていただけだ。

 決して、弟にしてあげているわけではない。


 夫としたときはあれほど怖かった行為が、弟とすると怖くなかった。

 体調も悪くないし、もう一度してもいいと思っただけだ。

 儀式めいた前の行為とわけが違う。


 ーー弟は、私としたくないの?

 




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