73 妹 9
私は現在、妊娠後期に入ろうという状態で、元"恋人"と同居している。
弟さんの家は、姉弟の愛の巣と化している、はず。
日曜日に、呼ばれて久しぶりに結婚相手の家に行くと、午後の日差しが差し込むリビングで、お義姉さまがくつろいでいるところだった。
お義姉さまは最近とても明るい。
自信に満ちた、神々しいまでの明るさだ。
私の結婚相手は、お茶を運んだり肩を揉んだりと、実の姉にあくせく尽くしている。
お兄ちゃんに、お義姉さまの恋人になってもいいと言われたはずなのに、その姿はまるで、横暴な姉と小間使いのような弟。
ーーおっかしいな~?
作品では、もっと甘甘だよ~?!
お義姉さまが私を見て、女神の如く輝くような微笑みを見せてくれた。
「いらっしゃい。座ったままで、ごめんなさいね。こちらに来てくれる?」
お義姉さまに言われて座った場所の前には、見覚えのあるものが、、?
「これね、ちょっと、不適切なところがあると思うの。
いえね、内容は素晴らしいのよ。
でもね、多くの人は、勘違いするかもしれないから、先に言っておいた方がお互いのためにもいいかなー、と思って。」
「お義姉さま、これをどこで手に入れたの、、?」
「知り合いが、届けてくれたのよ。」
お義姉さまは微笑みを絶やさない。
恋人が出した紅茶を美味しそうに飲んでいる。
私はテーブルにあるものの出所はわかっているのにルートが分からなくて、頭の中でいろいろ考えていた。
口が渇くので、出された紅茶に口をつける。
私の元"恋人"で、現在はただの同居人が用意したものと、同じ味だった。
テーブルの上にある、まだ画になる前の、私のストーリーの原稿の最新作。
昨日、弟さんのファンの幹部に提出したばかりの、、。
弟さんのファンたちの賛同が得られないと、私のストーリーは作品にならない。
どこかの段階で、潰されるのだ。
弟さんのファン層は職業的にも幅があり、熱心な人が多い。
私が弟さんの結婚相手でいられるのも、ファンクラブの幹部が偽装結婚だと知っているからだ。
私の友達が私のブラコンを得々と説明し、決して弟さんに手を出さないと納得させた。
幹部たちは、弟さんが誰かと結婚するよりも姉弟で結ばれるのが平和的だと意見が一致しているので、私の存在はカモフラージュもかねて、ちょうどよかったらしい。
私が姉弟愛のストーリーを組み立てていると知ると、真っ先に提出するよう要請された。
拒否権はない。
私の妊娠のときには流石に命の危険を感じたけれど、弟さんのDNAの継承のため、渋々認めてくれた。
何事もいちいち幹部の承認が必要だけど、反対に幹部の承認さえとれたら物事がスムーズに動く。
ファンの力によって本は瞬く間に売れるし、妊娠中は「彼の子だから」保護したいという理由で、外出時に同行者がついてきて、買い物の荷物を持ってくれたり、電車の中で人に押されないよう空間確保までしてくれる。
面倒な分、利点も多いのだ。
今は、子供の服やおもちゃやベビーベッドなどが贈られてきていて、「お返し」に悩まされているところだ。
これも幹部と話し合いが必要だろう。
さて、これがここにあるということは、幹部の誰かが持ってきた、ということだ。
ーー幹部がお義姉さまと、接触??
内容は、ファン待望の、弟さんのアレコレなのに?
「この話の、"弟"の行為が、どうしても受け付けないの。」
お義姉さまはゆったりと構えて、内容について意見する。
ーー素晴らしい、感動的な内容だと思うのだけどー?
私は置かれた紙の束を手に持って、ちょうど"行為"のところを読む。
要約すると、こういうことだ。
~~結ばれることのない血の繋がった姉と弟。
弟は、周囲の説得により、妻を妊娠させなければならない。
弟は姉を想いながら、妻のそこだけを求めて、可能な限り短時間で終わらせる~~
ーーいい話だよね?!
私は、何が悪いのか分からないので、お義姉さまをじっと見た。
お義姉さまが優雅に紅茶を飲んでいると、席を離れていた弟さんが一枚の紙を私に出した。
ファンクラブ会長の署名入りの、要望書だ。
1."弟"は、"姉"しか見ない。
2."弟"は、"姉"しか触れない。
3."弟"は、"姉"に絶対服従。
「お義姉さま、、、?」
書き直せ、ということらしい。
それにしても、どうして幹部ではなく、お義姉さまが、私に言うの?
弟さんがお義姉さまのそばに来ると、お義姉さまは弟さんの腰を抱いた。
二人で見つめ合って、次第に顔が近づいて、口を開いて濃厚なキスをし始めた。
ーーな、な、なにをしてるんですかーーー!!
私は瞬きもせず、ずっと二人の濃いキスを見ていた。
詳細に説明していいのか、いやダメだろう。
私はこんなキスをしたことがない!
目の前で行われていることから目を離せない。
淫靡な行為も、美人が行えば、美しい画になるということか!
ーーうわっ、そんなことまでする?!
清純で真面目そうな、普段の二人からは全く想像できない卑猥な行為だ。
何分たっただろう。
上気してとろけた顔の二人が、やっと口を離した。
名残惜しげに見つめ合い、色気を漂わせたまま、二人が私を見る。
ーーひいいっ! その目をこちらに向けないで!
眼差しだけで、身体を熱くさせられる。
「"姉"と"弟"のこういうシーンの方が、妻との接触よりファンの方に喜ばれると思うのだけど、どうかしら?」
私はこくりと頷いた。
参考シーンまでも、見せられた。
確かに、ファンにはこちらの方がウケるだろう。
私は色気を放出させたままのお義姉さまの、赤らんだ唇を見ていた。
お義姉さまは私の視線に気づき、席を立つと私の隣に来て、私の頬にそっと唇を触れさせた。
お義姉さまが私の耳元でささやく。
「家族のキスよ。」
私は顔が赤くなっているのを自覚した。
頭がくらくらする。
お義姉さまの色気に当てられて、ここにいるともっとくらくらしそうだ。
同性の恋人の手ほどきではこんなことで全く感じなかったのに、どういうことか、お義姉さまに触れられると、身体が痺れてしまう。
ーーミイラ取りがミイラになる。
私は正気を保つため、念仏のように「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と繰り返し心の中で言って、テーブルにある紙束を持ってほうほうのていで玄関を出た。




