63 弟 21
姉は、姉の立場で僕を好きになったことを罰しているんだ。
最初に、僕の声を聞けなくして、自らを罰した。
僕の結婚相手は姉の入院先の個室で、姉を励ますために、姉に僕との"行為"の話を伝えた。
兄さんとの話の後で彼女に確認し、その話をしたと彼女が誇らしげ言うのを絶望感をもって聞いた。
僕の考えが足りなかった。
彼女は好意で姉に言ったのだけれど、繊細な姉に耐えられる内容ではなかった。
姉はさらに自分を罰し、僕の姿を見えなくした。
「妹が今度一緒に住むという人は、妹の恋人で、僕たちの大学時代の先輩だ。
先輩はずっと彼女に恋していると、妹が言っていた。
妹は明るくていい子だけれど、彼女のような繊細さはない。
君たちを応援しているようで、傷つけるようなこともする。
妹と離婚したいのなら、僕の方からも親にうまく言っておくよ。」
「僕は、彼女と離婚するべきですか?」
僕はどうしたらいいかわからず、義兄にきいた。
「君にはまだカモフラージュが必要か?」
義兄は僕をあきれた様子で見ている。
「でも、お腹に子供がいます。」
「愛し合ってもいない、二人の子供か?」
僕の心に義兄の言葉が刺さる。
「妹は新しくて珍しいものが好きなだけだ。
直ぐに飽きるだろうから、子供は僕が引き取って養子にして、彼女と育てるよ。」
義兄の言ったことを僕は想像した。
僕の子供と姉の子供が、兄弟姉妹として生活する。
「子供が生まれたら、彼女と離婚します。」
「今も妹は君とは住んでいないのだろう?」
その通りだ。彼女はしばらく前から、僕と住んでいない。
「君は今日から彼女の部屋に泊まるんだ。彼女に認識してもらえるよう、そばにいるべきだ。」
義兄はそこで、深呼吸した。
「彼女を抱きなさい。彼女を優しく抱いて、君がここにいると知らせるんだ。」
僕は息を止めた。僕たちは、姉弟だ。それは、してはいけないことだ。
「これまで想像したことがあるだろう? 君たちは、愛し合っている。想像しても不思議ではないよ。
もしくは、もう、、、、彼女を抱いたことが、あるのか、、、?」
義兄は苦しそうに僕を見ている。
僕は答えられない。
義兄はさらに眉を寄せ、大きなため息をついた。
「倫理的なことより、彼女が心の健康を取り戻すことの方が大切だ。
抱くのは、彼女の体調が良くなってからだ。
流産すると、彼女はもっと傷つく。気をつけて接してくれ。
僕は、彼女を抱きたくない。二度とあんな彼女を見たくない。
だから、彼女のお腹の子は、最初で最後の彼女の子供だ。
君が彼女に子供を作れないのだから、そういうことになる。」
僕は、目まぐるしく頭の中を掻き乱す現実を直視し、心を静めて考えるのに必死だった。
僕は姉であろうとする女性と、どう関係すればいいのだろう?
弟として? 男として? 姉を、・・・抱く?
「姉を抱くのは、最終手段です。僕は弟なので、姉に寄り添います。」
僕が覚悟できずにいると、義兄が苛立ったように言った。
「早く決断しないと、取り返しがつかなくなる。」
姉が今より酷い状態になると言うのか?
「何を躊躇っている? 夫の僕が義弟の君に、妻の恋人と名乗っていいと言ってるんだ。」
「その前に、姉と僕は、恋人になる資格がない。」
「そんなもの、誰も持っていない。彼女の恋人になりたいかどうかが大事なんだ。」
僕は義兄を見つめた。
「僕が姉さんの恋人になって、いいのですね?」
義兄が鼻で笑う。
「彼女の中で、君はとっくの昔に恋人になっているよ。
弟に言われて、誰が結婚したり妊娠したりしようとするか?
君が彼女の恋人だから、彼女は君の意見に従ったんだ。」
頭を殴られたような、衝撃を受けた。
姉さんの中で、僕は弟ではなく恋人だった!
「弟を恋人だと思っているから、彼女は心を壊したんだ。恋人なのに姉であることが、堪えられなくなったんだよ。」
義兄は辛そうに、顔を歪める。
「彼女は、性的なことは何も感じていない。反応を示したふりをするだけだ。
感情も、借り物だ。何も感じていない。でも、僕に対しても演技して、普通でいようとする。
僕では、手の施しようがないんだ。」
義兄の嘆きをきいて、僕は決断した。
僕は弟だけど、姉の本物の恋人になる。世間に許されなくても、そうなるのがとても自然なことだと受け入れた。
自分の親たちがとうの昔に受け入れた事実を、僕たち本人が受け入れきれていなかった。
まだ間に合う、まだ普通の姉弟でいられると先延ばしにして、姉の心を疲弊させてしまった。
僕の中でも姉は僕の恋人だったのに、弟でいようと常識にしがみついて、普通に結婚して子供を持った人を装うことに必死だった。
姉の壊れた心を治したい。
世間体や倫理観より、姉の心が大切だ。
僕が見ようとしない欠落と欺瞞を、義兄は気づいていた。
義兄は姉のために、自分の論理感や嫉妬心を抑えて、僕に姉の恋人になるよう忠告してくれた。
僕は義兄の姉への愛の大きさを知った。
この人だから姉が結婚したのだと分かった。
今だけ、僕は姉の弟であることよりも恋人であることを選ぶことにした。




