62 弟 20
僕は姉の部屋で姉がスマホで僕に連絡をくれるのを待っている。
姉はうとうとと、夢と現実の狭間にいる時間が長い。
待ちきれなくて、僕は昔、姉が義兄の部屋に夜までいたときに送った内容を送信する。
『まだ帰ってこないの?』
姉はゆっくりまぶたを開けて、枕元のスマホを手に取り、スマホの画面を見て、かすれた声で言った。
「もうずっと、家にいる。」
僕は姉のスマホに返信する。
『知ってる。』
「会いに来て。」
『そばにいるよ。』
「私に触れて。」
僕は姉の唇に自分の唇で触れる。
「どこにいるの?」
姉の目は真っすぐ僕に向けられているのに、何も映っていない。
僕はベッドの上にいる姉に、覆いかぶさるようにして優しく抱いた。
姉は動かない。
しばらくして身を起こすと、姉は目を閉じて寝ていた。
姉の手からスマホを取り、枕元にもどす。
『また来るから。』
姉のスマホに送信する。
僕は姉の部屋を出て、リビングに行って義兄に話を聞いてもらうことにした。
「僕の計画は、間違いでした。僕たち姉弟は、家を出るべきではなかった。」
姉が計画したものに僕が手を加えて新たな計画をたて、実行に移した。
僕は何もわかっていなかった。
なぜ姉が、自分でたてた計画を最後まで実行しなかったのか。
姉の僕に対する愛が、深くて大きすぎる。
「せめて、僕は独身でいるべきだった。」
僕は姉が結婚しても一緒にいられるような結婚相手を見つけて、浅慮にも夢を見てしまった。
姉が常々言っていたように、僕たちは別々の人と結婚し、子供を作るべきで、それが正しい生き方だから、幸せに繋がるのだと思い込んでいた。
「僕は将来の二人の幸せを求めて、姉を不幸にした。」
「彼女に、とても愛されているという自覚はある?」
義兄の突然の言葉に、僕は何と返せばいいのか迷った。
「彼女は毎日、僕に愛の言葉を告げることで弟の君に愛を伝えているんだ。」
僕は義兄が何を言っているのかわからない。
姉と義兄が抱き合って、キスして、姉が義兄に愛を告げる。
あれは、夫婦のいつもの光景ではないのか?
「彼女が僕にくれているのは、感謝の気持ちだよ。
彼女は弟に一途だからね。心のどこにも、他の人に恋する余裕なんてないよ。
僕は、夫という家族の一員として、彼女に愛されているんだ。
僕はたまたま彼女が求める条件に合致した男だから、彼女と付き合えたし、結婚できた。
夫の子を彼女が欲していたから、僕は彼女を抱いた。
彼女は子供が欲しいと言いながら、身体は僕を拒んでいた。
僕が彼女を、どう抱いたか、わかるか?」
義兄が僕を刺すような目で見る。
僕は立ち尽くした。
「彼女は、僕が煮え切らないから、僕を怒らせて僕に自分を抱かせたんだ。
僕と彼女はカモフラージュのために結婚したから、いつか子供が持てるかも知れないと思っても、僕はあまり期待していなかった。
彼女がいれば、それで満足だったからね。
僕は彼女が嫌がる素振りを見せたら、直ぐに手を出すのをやめていた。
でも、彼女は違った。子供を持ちたくて必死だったんだ。
彼女は僕に抱かれるために、わざと僕が怒ることを言った。
僕たちの先輩と、関係したと言ったんだ。」
僕は立ち尽くしたまま、義兄の言葉を聞くしかなかった。
「僕は、一途な彼女が好きだ。君に一途なら、彼女は浮気しないだろ?
君は彼女の弟だから、僕にとって男ではない。彼女を守る、協力相手だ。
でも、彼女は浮気したというんだ。裏切られたと思った。
僕は感情のままに、彼女を押さえつけて犯した。
彼女、終わったら「ありがとう」って言ったんだ。
彼女は、浮気していない。
君だけの、彼女だ。」
僕は姉さんが「夫に抱かれた」と、僕に笑顔で報告した時のことを思い出した。
「ここまでしないと、彼女は僕に抱かれることができないんだ。
これがどういうことか、君にわかるか?」
義兄が、話すのをやめない。
これまで言いたかったことを、吐き出しているのだ。
「そんな彼女が、君がいるかも知れないのに、毎日僕に抱き着いてキスして、愛の言葉を告げる。
そこに、どんな意味があると思う?」
姉は、僕の姿が見えなくても、僕が家にいることを知っている。
僕は義兄にも、そのことを伝えてある。
姉は、僕に、夫婦仲を見せつけているのだと思っていた。
「弟なのだから、立場をわきまえなさい」と、行動で示されているように感じていた。
「あれは、僕ではなく、君に向けた行為だよ。
君に対する想いを言葉にし、見えている僕に向けて言ってるんだ。」
僕は、義兄の言葉に打ちのめされた。
姉の、深くて、濃くて、大きな、愛。
僕は、姉が怖くて逃げていた。
姉の愛に飲み込まれそうになるから、姉がたてた計画にのったふりをして、普通に見えるカタチを整えようと必死だった。
半面、姉と離れるのが嫌で、姉の近くに居ようと画策した。
とても卑怯な方法で、僕は毎晩、姉を添い寝させることができた。
調子にのった僕は、姉の子供が欲しくなった。
きっと姉に似て、可愛いに違いない。
姉の子供を自分で作るわけにいかないから、姉を挑発して、姉が好きな男との間に子供を作らせようとした。
姉はどうせ、これまでも似たような行為を男としているのだ。
僕が嫌だと言っても、今さらだろう。
しかし、僕は姉が、僕の声が聞こえないと知って、しかも「夫に抱かれないといけない」と姉に言わせるような夫婦関係に不安を覚えた。
僕は姉の様子がおかしいので、「しばらく姉に触れないで様子をみて欲しい」と言っただけで、姉と義兄の関係を確認しなかった。
僕は、自分の間違いを認めるのが怖かった。
今、姉が好きなはずの男は、姉の自分に対する好意は恋愛の意味での好意ではなく、家族の愛情という意味での好意だと言った。
僕は、姉に、何をさせた?
好きな男と愛し合わせるつもりで、何を受け入れさせた?




