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振り向かない彼女を飼う方法  作者: 一会
第4章
60/81

60 姉 20


 

 義妹(いもうと)は、弟と繋がったときのことを、細かく教えてくれた。


 弟は、私を想いながら、短時間、私ではない女性と、自宅ではない場所で、した。


 私は涙を(あふ)れさせながら、私の全てが消えていくのを静かに見ていた。





 私が弟を自分の欲に巻き込んだ。

 弟は私の被害者だ。

 私は弟に、なんて(みじ)めな体験をさせたのか。



 子供を作るのならば、堂々と女性と交わればいい。

 私を想う必要なんてない。


 私に遠慮することなく、しっかりと時間をかけて、身体中使って、お互いを想って愛し合えばいいのだ。



 でも、そういう結婚相手を選ばせたのは、私なのだ。


 弟は、私の他の人間と、喜んで性的な関係になろうとしないだろう。

 弟が心から幸せな体験ができるとしたら、相手は私しかいない。



 実の姉である私が、弟の相手をする。


 今まで、するかもしれない可能性があっても、決して姉弟(してい)の境界を越えなかったのに、今さらそんなこと、本当にできるのか?


 やらないといけないだろう。

 私が、弟の愛する女性なのだから。




 弟に抱かれて、このまま姉でいられる自信がない。

 私はきっと、もっと弟に執着する。


 弟には、姉という女性と交わったいい思い出だけを作ってもらいたい。

 弟に狂った姉なんて、弟の人生の邪魔でしかない。



 私は私を捨てていく。

 弟にまとわり付く汚く(みにく)いモノは()らない。




 弟にまとわり付くこの感情は、要らない。


 弟を見て恋する視覚が要らない。


 弟の気配を感知して喜ぶ知覚が要らない。


 弟に愛を向ける汚い感情が要らない。


 弟に醜い欲望を向ける私は、もっと要らない。




 要らないものを全部捨てる。

 私は綺麗な存在になって、弟を受け入れ、弟を満足させてあげたい。


 弟に対する執着だけは、要らないのに、どうしても残ってしまう。

 





 義妹(いもうと)はいい子だ。

 私は義妹のおかげで、不必要な多くの感情を捨てることができた。


 雲の中にいた裸の私は、透明な防弾ガラスの衣装に包まれて、視界良好な上空から世界を見ることができる。




 (あふ)れる涙をそのままに、弟の妻に弟の子を産んでくれることを感謝した。


 弟の妻は自分の子であることを主張するけれど、このまま弟が誰とも交わらない可能性が高かったことを考えると、弟と交わり、子供を産んでくれるのはありがたいことなのだ。




 義妹が私にいろいろ質問してくるので、義妹が求める答えを、義妹が求める反応と共に返していく。


 今、感情を持ってなくても、かつてあった感情を思い出すことができるので、状況にあった言動をとることができた。



 義妹の駆け引きが弟に関することに及ぶと、弟を惑わした愚かな姉として弟に責任をとるため、義妹の提案にのってあげた。



 義妹は始めから私が気に入っていたけれど、もっと気に入ったようだ。

 その気にさせてよかったのか判断に迷うけれど、恋人がいる身で私としたがるのは私の責任ではない。


 私に向けてうっすらと特殊な好意を向ける義妹に、微笑みをあげた。






 退院の日、私は体力のない身体を叱咤(しった)し、無表情にならないよう気をつけながら夫と共に自宅に帰った。

 夫は私を気遣い、かいがいしく世話をしてくれる。



 私はこの人に何もお返しできていないことに気づいて、妹が言っていたように積極的に動くことにした。



 私は夫に抱き着いて、夫の口にキスをした。

 少し照れたという感情を取りだして心にまとい、微笑んでみる。


 夫は驚いた顔をして、キスを返してくれた。

 夫とのキスも、何も感じない。

 私は喜んでる表情を作り、夫を見た。


 「愛してる。」


 かつて弟に思った感情をのせて、夫に感謝を伝える。

 夫が私を抱きしめてくれた。




 とても(だる)いので、自室のベッドで休ませてもらう。




 感情も性的な感覚もなくたって、何とかなるものだ。


 私を世話してくれる夫に感謝し、私は毎日夫に抱き着いてキスし、「愛してる」と言って感謝を伝えた。


 私の悪阻(つわり)はあれほど酷かったのがうそのように物を食べられるようになり、これまでの栄養を摂取しようと、お腹いっぱい食べている。






 自室に一人でいるとき、私は一番幸せだ。

 感情を取りだして表情を作る必要がない。

 無表情でいる時間は、とても居心地がよかった。



 私には何もない。

 何もないから、心を揺さぶられず、平穏で幸せでいられる。



 こんなに健康的に過ごしているのに、私のお腹はお腹の子にとって環境が悪いらしい。 


 絶対安静と先生に告げられ、私は家のベッドに寝転んで、家事も何もしない生活を過ごした。





 母は私の入院中から私の世話をしてくれ、今も母が身の回りことをしてくれている。

 母は私が無表情でいても、何も聞かないでいてくれる。



 子供の頃は母が私に愛情をかけなかったと思っていたけれど、今思い返すと、細かいところで私の心を救ってくれていた。

 子供に対して嘘をつかず、大人の話を子供の目線でもわかるように話してくれた。



 とてもいい母親だったのだと今更気づくとは、私はどれだけ幼かったのか。

 






 とにかく、私は子供を産んで身体を元の状態に戻し、弟に私を抱かせないといけない。

 弟に私を好きなように抱かせ、(みじ)めな最初の体験を忘れさせないと、弟を幸せにできない。



 子供を作らないのだから、予防に婦人科で薬を処方してもらおう。

 その方が、弟も私の身体を自由に抱ける。



 やることはいっぱいあるのに、安静にしているしかないのがもどかしい。







 そういえば、最近、弟はどうしているのだろう? 

 姿を見かけない。忙しいのか?



 私は枕元のスマホに手を伸ばし、弟に連絡を入れる。

 スマホの着信音が鳴った。

 手に持っているスマホには、着信が表示されていない。


 確かに鳴ったのに、空耳か?


 私はスマホを戻してまぶたを閉じた。







 私は小さな子供の頃の夢を見た。

 弟は私より5つも年下で、小さな頃の年の差は、大人になってからの差よりもとても大きく感じる。



 弟は、私の頭をよく撫でてくれた。

 小さな手を一生懸命伸ばして、私を(いや)そうとしてくれた。


 私は弟の前でしゃがんで、弟に頭を撫でてもらいやすいようにする。

 そうすると、私と弟は同じくらいの目の高さになって、お互いの顔が近くにあるのだ。

 弟の顔が、成長して、大人の顔になっていく。




 18歳の弟が、私に愛を告げた。


 私に愛を告げた口で、私に他人と結婚して子供を産むよう促した。


 毎晩のように私と添い寝しておきながら、いかにも愛し合ったというように、結婚相手を抱いたと報告した。



 最後に聞いた弟の言葉は何だっけ?

 しっかり記憶しておかないといけないことを、忘れてしまった。




 私はもう一度、記憶の底にある一番古い記憶から順に、弟のことを思い出す。

 うとうとして意識が朦朧(もうろう)とする中で、スマホの着信音が鳴る。



 昔、私の帰りが遅いと、弟が心配して毎回連絡をくれた。


 私も、帰りの遅い弟に、連絡を入れてみようかな?


 枕元のスマホに手を伸ばし、私は着信があったことを知った。



 弟からだ。すぐに返信する。



 私の帰りが遅いから、弟が心配していた。


 私が『もうずっと家にいる』と伝えると、『知ってる』と返信が届いた。

 だったら、会いに来てくれてもいいのに、弟はずっと私と会ってくれない。




 弟は、私の前から姿を消してしまっていた。



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