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振り向かない彼女を飼う方法  作者: 一会
第1章
5/81

5 弟 1



 ぼくの朝は、姉ちゃんに起こされて始まる。


 「ほら、起きなさい!」


 掛け布団をとられた上に姉ちゃんの大声がうるさい。

 ぼくは体を丸めて二度寝の体勢に入る。


 「毎朝抵抗して、よく飽きないわね。

  ふふふ、お姉ちゃんを甘くみると痛い目を見るわよ。」


 いきなり、上から重いものが乗っかった。

 むにむにしたものがぼくの体に当たる。


 嫌々ながら目を開けて、ぼくに馬乗りになっている姉ちゃんに降参を伝える。


 「おはようございます。」

 「おはよう。ご飯、できてるわよ。」


 ぼくの上から、美人の姉ちゃんが挨拶をする。



 「起きるから、どいて。」


 ぼくが当然のことを言うと、姉ちゃんは笑顔になった。


 「どいてください、よね?」


 朝から疲れたくない。

 ぼくは従順な弟を演じることにした。


 「どいてください、お姉様。」


 姉ちゃんの口がきゅっと結ばれ、目が輝き出す。


 まずい。加減を間違えた。


 姉ちゃんはぎゅっとぼくに抱き着いて言う。


 「可愛い! 大好き!」


 姉ちゃんの体は全身柔らかい。

 ぼくは男なので、そろそろ姉ちゃんの抱き着き攻撃を回避すべきだと思っている。


 思ってはいるけれど、結構気持ちいいので、大人しくされるままになっておく。


 「もしかして、ぎゅっとされるの、好き?」


 姉ちゃんがぼくに抱き着いたままきいてくる。



 「誕生日、おめでとう。好きだよ。」

 「ありがとう。素直でよろしい。」



 ぼくは母さんと兄さんの会話を真似て、状況に合う言葉で本心を言い、相手の錯誤を誘発させる。

 ぼくの片想いは、表面上は噛み合う会話になっている。


 父さんには不毛だとあきれられ、母さんにはほどほどに、と苦笑いされ、兄さんには頑張って耐えて、と同情された。

 頭ごなしに否定しない理解ある親たちのおかげで、ぼくは今日も幸せな朝を迎えられている。


 ぼくは起きて洗面所に顔を洗いに行き、日常を繰り返す。





 父さんの言う通り不毛なことは理解しているので、姉ちゃんは姉ちゃんの、ぼくはぼくの、別々の相手と恋愛すべきだとぼくは思う。


 姉ちゃんは二十歳になり、母さんの親友である兄さんに告白する。

 そして確実にフラれる。

 フラれた姉ちゃんは、手作りの夕飯で釣った男と恋をする。


 ぼくはどこかの誰かと結婚して家庭を築く。

 恋をするかどうかはわからないけれど、家族を作るという目標があるので、結婚相手に愛情を向けることはできると思う。



 ぼくは姉ちゃんの血の繋がった弟なので、姉ちゃんとどうこうなるつもりはない。

 どうにかしようにも、世の中できないこともある。

 無理をすればできないこともないけれど、不幸になるのが明らかな道に進む気はない。


 だから告白もしないし、姉ちゃんの幸せを思って可愛い弟でいてあげている。


 ただ、弟として、姉ちゃんの相手を査定する権利はあると思う。

 だから、兄さんが日本で生活すると本人からきいて、ぼくは力強く思った。


 大人の力は借りれるときに借りるべきだ。

 中学生のぼくではわからない人間性も、兄さんならわかるはずだ。




 ぼくの親はぼくの気持ちを頭ごなしに否定しない。

 けれどもきっちり監視されている。


 ぼくは来年度、高校生になる。

 親はぼくの管理体制を強化し、今回兄さんがぼくのサポートにあたるためにこの家に戻って、また下の階に住むことになった。


 ぼくは姉ちゃんに何かしようと考えていないのでそこまで警戒する必要がないと思うのだけど、父さんと兄さんは「そのうちにわかる」と言って譲らない。





 「兄さんの会社はどうするの?」


 兄さんは海外で会社経営している。

 日本に在住して大丈夫なのか?



 「君たちが大人になったら、また日本に住むつもりだったから大丈夫だよ。

  君が精神的に大人になるのが早かったから、予定を繰り上げた。」


 ネットで繋がった画面上に映る兄さんは、うれしそうに言った。

 兄さんは母さんのそばにいたいから、待ちきれないのだろう。




 兄さんは母さんの親友であり、このマンションの上下に繋がる二世帯型の部屋の持ち主で、僕たち家族の一員として僕たちを助けてくれる。


 姉ちゃんとぼくは、父さんと母さんが忙しい間、兄さんに世話してもらった。

 ぼくは4歳までしか兄さんと同居していないので記憶に薄いが、姉ちゃんが言うには、ぼくたち姉弟は兄さんに育てられたようなものらしい。


 兄さんが母国で仕事を始めるために家を出るとき、姉ちゃんは泣いて手がつけられなかったと父さんが言っていた。

 当時の姉ちゃんにとって、兄さんは大きな存在だったのだ。


 その気持ちのまま年に一回会うことで、姉ちゃんは兄さんに恋をした、と勘違いしている。



 兄さんが女性にとってあまりも理想的過ぎるのだ。

 姉ちゃんが周囲の男性に目がいかないのは仕方がない。

 でも、兄さんへの気持ちは恋ではなく憧れだと、気づいてもいい頃だ。


 ぼくは姉ちゃんの幸せを願うので、さっさと兄さんに告白してフラれて、きちんとした恋をすべきだと思っている。


 でも、姉ちゃんの相手は姉ちゃんに釣り合う男でないといけない。

 姉ちゃんを幸せにできる、姉ちゃんを裏切らない男。


 姉ちゃんが夕飯で釣った相手がいい男だったら男を応援してやるけれど、悪い男だったら男に姉ちゃんをあきらめさせる。

 だから、ぼくは早くその男に会う必要があった。





 「お兄ちゃん、もうすぐ帰って来るね。」


 姉ちゃんが朝食を食べながらうれしそうに言った。


 「母さんが空港に兄さんを迎えに行って、一緒にお昼を食べてから家に帰るから、夕方には兄さんに会えるよ。」


 ぼくがは姉ちゃんがトーンを押さえるよう、事実を言った。


 「今日、私、早く帰って来るね。」


 姉ちゃんはぼくの言いたいことに気付かず、気持ちのままに言った。


 ここで講義をサボって母さんと一緒に空港に行く、と言わないのが姉ちゃんだ。

 姉ちゃんは自立心が強いので、感情に流された不要な行動はとらない。



 今晩は、姉ちゃんの誕生日祝いと兄さんの同居の祝い?で、家族そろって夕飯を食べる予定だ。

 ぼくも兄さんに直接ききたいことがあったので、兄さんの帰宅を楽しみにしている。



 朝、いつも通り慌ただしく出かけるを準備し、ぼくは姉よりも先に家を出て学校に向かった。

 


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