48 弟 16
姉の彼氏の妹は、天真爛漫そのままだ。
姉の結婚に協力してもらうついでに、僕は彼女に僕の彼女のふりをしてもらう。
姉の嫉妬が心地好い。僕が姉の彼氏にどれだけ嫉妬しているか、姉が知らないはずがない。姉も僕の気持ちを少しは知ればいいのだ。
この苦しいばかりの想いを、身体を繋げることのできないせつなさを、他人にお互いを渡さないといけない理不尽さを、僕たち姉弟は共有した。
店を出ると、彼女は僕に提案したとおり、僕にキスするふりをした。でも、この位置だと、していないことがわかってしまう。
僕は彼女に屈み込んで、姉からはキスしていると見えるようにした。
数分間その体勢でいて、元の姿勢に戻った。
姉の方を見ると、彼女の兄と抱き合っていた。
僕は辛くて、奥歯を噛み締めた。
「辛いね。」
隣から声が聴こえてきたので彼女を見ると、彼女も苦しそうにしていた。
「これからどうする?」
彼女にきかれ、僕は答えた。
「僕と、結婚する?」
彼女が僕を見て、ふっと笑った。
「ムードがないけれど、許してあげる。結婚してあげてもいいわよ。ただし、私の一番はお兄ちゃんだからね。」
僕も笑った。
「了解。僕の一番も姉だ。お互い様だね。」
僕たちはお似合いの夫婦になるだろう。
完全に擬似夫婦だ。
その後、僕は彼女と事務的に結婚について話し合い、お互いの意思を確認した。
その日、夜になっても姉が帰って来なかった。連絡しても、出てくれない。
僕は姉を迎えに姉の彼氏の家にタクシーで行った。
姉は帰りたくないと駄々をこねていた。
見かねた僕は家に入って、まさにこれから男としようとしている状態の姉を連れて帰った。
家に帰ると、僕は姉の服を全部脱がせて身体を隅々(すみずみ)まで洗った。
姉を僕の部屋に連れて行き、髪の毛を乾かしてブラッシングし、まとわせていたバスタオルを取り外してベッドに寝かせた。
あんなものを見せられて平気でいられるほど僕の精神は成熟していない。
僕は恋人のように、姉を食べ始めた。
姉は抵抗するどころか喘いで喜び、僕を下にして恍惚の表情で僕を食べ始めた。
身体が熱い。姉の身体も、とろけるように熱かった。
僕は歓喜した。
姉は、結婚しても僕のものだ。
身体を繋げる行為をしなくても、姉の心は僕のものだ。
姉のキス一つで、僕は天国に行ける。
たまらず、思ったことが言葉になって口をついた。
「愛してる。」
姉は、こたえてくれない。
僕は姉を、夜にリビングで苦悩する母のようにはしたくなくて、告白めいたことは極力避けてきた。
結ばれることのない二人が想いを確認しあっても、そこにあるのは幸せではなく、苦悩の始まりでしかない。
けれども、限界だ。
このまま姉が僕から離れていくは耐えられない。
姉の希望に添って姉の計画を進めても、苦しいばかりで少しも楽しくはない。
このまま計画に従って行動すると、姉は僕ではない男の身体を受け入れて、僕ではない男の子供を身篭る。
仕方がない。僕では姉に、子供を作ってあげられない。僕ではない男しか、姉の子供を作ることができない。
結婚もしてあげられない。
姉に一生独身でいさせるのは、嫌だ。
姉のウエディングドレス姿を見たい。
姉の子供を可愛がりたい。
結婚相手は、せめて姉の好きな男であって欲しい。
だから、僕は姉を彼女の兄と結婚させようと画策した。
これさえうまくいけば、姉も僕も、一生幸せでいられるはずなんだ。
姉弟二人で生きていくのは無理がある。
今は実家で生活していられるが、親が老いても姉弟で生活すれば、奇異の目で見られるに違いない。
姉にはよくわかっていたのだ。
だから彼氏を作った。
僕を煽って僕にも結婚しろと促した。
姉も僕も、別々に結婚して子供を持てば、幸せな姉と弟でいられる。
別々に結婚して子供を作っても、僕たちは姉弟だから関係が崩れることはない。
頭ではわかっている。
わかっているのに、感情がついてこない。
姉が他の男とベッドに入ることを、良しとできない。
姉が僕よりも他の男を想うことに苛立ちしか感じない。
正しい道に添って生きようとしているのに、どうして苦しいんだ?
姉が僕ではない男を見ようとするのを阻止するように、僕は姉に愛をささやく。
姉は僕だけを見ていればいいんだ。
僕だけに抱かれていればいいんだ。
子供ができない方法で、僕を受け入れさせようか?
心だけでなく、身体も僕に慣れさせようか?
しかしそれは、不幸の始まりだ。
してしまったら、姉弟とはいえない。
僕にとろけた姉を前に、理性で自分を抑えつつ、恋人のように姉を愛した。
僕は痺れるような幸福感を味わい、姉を手放せない自分を認めた。
僕の幸せは、姉と共にいることでしか得られない。
兄さんは愛する女性に子供を作らなかった。
僕と兄さんの立場は似ているのかもしれない。
兄さんは、本当に幸せなのか?
僕は、姉と弟で、本当に幸せになれる道を進んでいるのか?
兄さんを愛した母が幸せなのは、見ていればわかる。
だから、これまで姉の幸せを疑わなかった。
今夜久しぶりに姉と恋人のように触れ合うまで、姉の状態に気付かなかった。
自信がない。
倫理的に社会的に正しい方向に進んでいるのに、不安が付きまとう。
何か見落としている?
僕は何を見落としているんだ?




