46 姉 15
私は弟の提案を受け入れ、彼と結婚を前提に付き合うことにした。
親たちにも彼を紹介し、彼と結婚する予定だと言った。
お母さんがどう思ったのか、考えないことにした。弟とのことを知っているのだから、何か思うことはあるのだろうけれど、顔にもださず、笑顔で受け入れてくれた。
弟と彼の妹は、頻繁に連絡を取り合っている。弟は彼女との今後のことを考えているのだ。私は姉なので、弟の交際を責めることはおかしい。
弟の部屋に入ると、弟がスマホを操作しているところだった。
私は弟に声をかけた。
「彼女のことが好きなの?」
弟はスマホを置いて、私を静かな目で見ている。
「僕たちは大人になったんだ。これまで通りにはいかないよ。」
弟の冷静な声をきいて、私は悲しくなった。
私たちの子供時代は過ぎ去り、二人だけの世界は過去のものになっていく。
落ち着いた様子の弟を見ていると、私の呼吸が浅くなってきた。胸が苦しくなってきたので、深呼吸を繰り返す。何度深呼吸をしても、苦しさはなくならない。
姉が弟に言えることは何もないのだ。
私は何も言えず、弟の部屋を出た。
私は彼の家に以前のように通いだした。
彼の実家にも行って家族に挨拶してきた。クリスマスイヴを彼と過ごし、正月に一緒に初詣に行ってから年始の挨拶をしに彼の実家に行った。
着々と彼との結婚に向けて物事が動いているのを感じ、気持ちが重くなっていた。
私は大学のサークルで一緒だった先輩と気晴らしに遊びに行くことが増えた。
先輩といると心を苦しめるものが何もなくて、楽しく過ごせた。
たびたび遊んでいると、先輩と待ち合わせた駅で弟の彼女と出くわし、三人でカフェに入った。
弟の彼女は明るくて、弟の彼女として他の女の子たちに負けない強さを持っていた。
彼女は先輩と二人で出かけることが多くなり、私は先輩と会えない時間の分だけ彼と二人きりで会う時間が増えた。
鏡に映る自分を見る度に、「これでいい」と鏡の中の私に言いきかせた。
私たちは別々の人と結婚し、子供を儲け、普通の当たり前の幸せを手に入れる。
弟のためにも世間が認める正しい関係で、それぞれの人生を歩むのだ。
私はお姉ちゃんだから、弟を守らないといけない。
弟が希望の大学に合格し、彼と彼の妹、弟と私の、四人で弟のお祝いをすることになった。
外食をして店を出る際に、弟と彼の妹を先に行かせた。私が彼と遅れて外に出ようとすると、外で弟が彼女と抱き合ってキスをしていた。
私は衝撃で立ち尽くした。
私の弟は、他人に愛情を向けられる、正常な弟になったのだ。
いいことだ。これは、弟の幸せにつながるいいことなのだから、わきあがってくる私の感情は正しくない。
涙が勝手に溢れてきて、後から後からこぼれていく。
彼が私を正面から抱いて、二人の光景を隠した。
「もういいから、僕と結婚しなさい。」
彼が優しく私を諭している。
「弟との関係のカモフラージュになってあげるよ。」
私を抱きしめてくれている彼が温かい。
私は彼にしがみついた。
この人は優しく、心が強い。
私は縋り付くものが欲しいだけかもしれない。
それでも、彼の他にしがみつきたい人がいない。
彼の部屋に二人で帰り、私は彼に服を脱がされた。
私は彼を拒否しなかったけれど、彼は下着を脱がさなかった。
私の弟は、きちんと他人を愛そうとしている。私が邪魔をしてはいけない。
涙がまたこぼれてくる。
彼も、下着を残して全部脱いだ。
「愛してる。」
彼が私の肌にキスをしながら私に愛をささやいた。
私は彼に抱かれるのだ。彼のものになった私を弟は受け付けないだろう。弟とはもう触れ合うこともできない。
涙が止まらない。
彼はこんな私の身体を大切に扱ってくれる。
私の気持ちを受け入れて、彼は子供を作る時まで待つことにしてくれた。
私は優しい彼と、一晩中一緒に過ごすつもりでいた。
弟は、私なんて必要ないのだ。一人の男性として、女性を愛せる人に成長した。
私がそばにいたら弟の邪魔になる。
弟は、弟の人生を生きていくのだ。姉である私が弟のそばにいられる時間は過ぎてしまった。
私は弟から離れないといけない。
弟からの連絡を無視して、私は下着姿で彼に抱きついて泣いた。
泣いても泣いても、私が弟の姉である事実は変わらなかった。
弟が迎えに来た。
私は抵抗虚しく弟に服を着せられ家に連れて帰された。
私が要らないのなら、何故迎えにくるの?
弟の中途半端な優しさに、私は期待して裏切られ傷ついていく。
呼吸が浅くなる。
まだ大丈夫だ。
私は姉だから、きちんと模範的な人生を歩んでいける。
弟の幸せを願うのならば、私は他人と結婚するのがいいのだ。
「愛してる。」
私のベッドで裸の弟が私に言う。私は弟の言葉に返さない。返す立場にない。
私は嬉しくて、同時に悲しくて、私のものにならない弟の身体中にキスを降らせていく。
弟は身体をかたくして、私を抱きしめてくれた。
私が欲しい人は、私の手に入らない。
いつまでたっても、弟は弟だから、私は姉でいるしかない。
私は「弟」を、最後まで食べることはできない。お互いを求めあってもどこにも出口がなくて、熱がこもるばかりで辛くなっていく。
熱い息を吐き出している「弟」の口が私の口に重なり、私の息を奪うように蹂躙する。
こんなにも姉を求めながら、弟は私を他人に渡し、他人と愛し合おうとしている。
私は笑った。
このままでどこまで行けるのか、試してみるのも悪くない。
そのためにもまずは。
「彼と、結婚するわ。」
弟の目を見て、微笑んで宣言してあげた。




