40 妹 3
白いシャツに綿の黒いズボンをはいたカッコイイ男の人は、私を部屋の中に招いてくれた。男の人から艶を感じ、何だかそわそわする。
「姉は外出中で、母は下の階にいます。」
彼は私をリビングに案内してソファーに座るように言った。
彼の濡れた髪を見てどきどきしていると、お茶を出してくれてから説明してくれた。
「シャワーを浴びたところだったので、濡れたままですみません。」
彼は私の斜め向かい側に座り、私を見て話し出した。
彼と目があって、どきりとする。
なんだ? 私が、乙女になっている?!
「姉が付き合っていた人の妹さんですよね。」
さっきから、この人、あねって言ってる。 姉?! この人、弟くんか!
私は愕然とした。三年前と印象が変わっていたので、全然わからなかった!
大きくなったなあ! ああ、これが、色気というやつか!
高校卒業後、弟くんのファンの友達からも写真を見せてもらっていなかったので、現在の姿を知らなかった。友達は、以前は弟くんの写真を私に見せびらかすように見せていたのに、弟くんの話をしていても、なぜか写真を見せることが全くなくなっていた。
私は言葉もなく頷いて、年下の弟くん、いや、弟さんに見とれていた。
「姉と別れた理由を知りたいようですが、知ってその後はどうするつもりですか?」
ぼーっと弟さんを見ていると、弟さんから質問された。
え? ああ、「あなたのお姉さんを怒鳴り付けるつもりよ」、とはもう言えなかった。
「兄が落ち込んでいるので、理由を知りたくなったの。その後は、わからないです。」
別れただけであんなに落ち込むものなのか? モテない私は付き合ったこともないのでよくわからない。
「お兄さんに元気になって欲しいから、理由を知りたいということですか?」
ああ、そうかも知れない。私のお兄ちゃんがフラれるなんて許せない、という私の怒りよりも、まずお兄ちゃんに元気になって欲しいのだ。
「そうです。」
「お兄さん思いなんですね。」
カッコイイ弟さんが、優しい目で私を見ている。私は照れて、地が出そうだ。
「いえ、そんな、はい、お兄ちゃんは最高ですから!」
あ、本音が出ちゃった!
弟さんは、笑顔で私を見ている。
「お兄さんのことが、とても好きなのですね。」
「はい! お兄ちゃんは、」
私は初対面の弟さんに、兄の素晴らしさを滔々(とうとう)と語った。
しまった! いつもこれで人に引かれてしまうのだ。
最近は気を引き締めて失敗しなくなってきたのに、艶やかな弟さんの笑顔に釣られて話してしまった。
私が気づいて口を開けたまま固まっていると、弟さんが綺麗な笑顔で言ってくれた。
「好きな人のことを好きなだけ語れるというのは、いいことです。気にしないで、もっ
と聞かせてください。」
なんて心が広いんだ! 見た目も性格もいいなんて、いい人だよ!!
「兄と妹で、本当に仲がいいのですね。」
弟さんが、にっこり笑って私たち兄妹の、他人からは濃いと言われる関係を肯定してくれた。
私はもう、最高に幸せな気分で、ここにきた理由をすっかり忘れていた。
「ところで、今、付き合っている人や気になっている人はいますか?」
そんなしっとりとした美しい顔で、モジョに突入しそうな私にきかないでおくれ。
綺麗な顔をした弟さんの突然の残酷な質問に、私は正直に答える。
「いません。」
「提案ですが、僕の彼女のふりをしてみませんか?」
「へ?」
今、何と言いました?
弟さんは憂いを帯びた悩ましい表情で、私を見つめて言う。
ううっ! 落ち着かない!
「姉は、僕に彼女がいないことを心配して、僕のそばにいるためにあなたのお兄さんとの交際を断ったのです。結婚の約束を姉が拒んだとか。
あなたがお兄さんを好きなように、僕も姉が好きです。
あなたのお兄さんがあなたに愛情を注ぐように、僕の姉も僕に愛情を注いでくれています。
僕に彼女ができない限り、姉は結婚もしない。僕にはまだ彼女を作る気がないので、できればその役をお兄さんが好きなあなたにお願いしたいのですが、お願いできますか?」
「私でよければ!!!」
私は即決した。
この姉弟、私の想像通り、麗しい!
何よりも、私たち兄妹の関係を肯定してくれる人とお兄ちゃんが結婚できたら、私たち兄妹の関係は安泰なのだ。
弟さんは、美しい笑顔のまま話を続ける。
「早速ですが、来週も、こちらに来てください。お兄さんも一緒に。」
「お兄ちゃんも?」
なんで?
「はい。家族に会って欲しいので。」
「え?親に会うの?!」
展開早すぎる!
「結婚の話が出ているということなので、遅かれ早かれ同じでしょう。
親には僕から事情を説明しておきます。」
「はあ。」
何だか流されている感じだ。
「急な日取りですみません。僕は受験生なので、日程をうまく調整できなくて。」
そういえば、弟さんは高校3年生だ。来月は12月。受験生なのに、こんなことに巻き込んでしまって悪いことをした。
「こちらこそ、忙しい時期にごめんなさい。」
私は頭を下げた。
ついでに、いろいろ妄想しそうでごめんなさい。
「いえ、あなたに来ていただけてよかった。僕だけでは姉を幸せにできませんから。」
弟さんはせつなそうな表情を見せた。
なんて、いい人! しかも、お姉さん思い!
お兄ちゃんが弟さんのお姉さんと結婚したら、私は近くでこの麗しい姉弟愛をたっぷり見ることができるのだ!
私は三次元に興味がないけれど、こういうのだったらアリだ!
できれば禁断の愛とかに発展してもらえたらオイシイのだけれど、そこまで望むのは贅沢か?
同人誌仲間にネタを振って早速描いてもらうおう! 私は画は苦手だけれど、妄想力だけは人一倍持っているので、ストーリー担当をしている。
脳内でこの美人の姉弟のベッドシーンを想像し、よだれがでそうになった。
ほんと、妄想に使ってごめんなさい! 美しいって、罪だよね!




