33 姉 10
「高校2年生でしょ。いつまでも、姉と一緒というのはかえって不自然だよ。」
彼がそういう冷たいことを言うのならば、私にも考えがある。
私を抱き抱えようとする彼の手を抜け出して、彼から離れて座る。
「怒ったの?」
「違う。今のようなことをされて、寂しいと思わなかった? 私は今、そういう状態なのよ。」
勘違いする彼に、私の心境を説明をした。
「わかったよ。とっても寂しいから、おいで。」
彼が両手を広げて私を呼ぶので、私は素直に彼の腕の中に入った。
「弟が、このままだったらどうしよう。」
私は悲しくて、不安で、彼の腕にしがみついて泣いた。
そのうち元に戻るよ、と彼が言うけれど、不安が消えない。
私は寂しくて、家に帰りたくなくて、ぐずぐずと帰り支度を先延ばしにしていると、夜9時を過ぎた。弟からの連絡はこない。
弟に捨てられたような気分になる。
「今夜、泊まっていく?」
彼が、私の気持ちを察して提案してくれた。
彼が、濁りのない、澄んだ目で私を見ている。
私は彼に恋していない。恋していなくても、キスはできる。
彼はお兄ちゃんのように綺麗ではない。
弟のように華やかでもない。
けれども、内面の美しさと知性が表に滲み出ていて、私にはもったいないくらい素晴らしい人だと思う。
私は彼にキスをした。
彼は私からのキスに喜んで、私の口だけでなく、顔のあちこちにキスをした。弟と違うキス。でも、嫌ではない。
彼が私の身体に触れる。私は弟の触わり方を思い出す。
彼に触られるのは、嫌ではない。でも、弟と違うことをされると、びっくりしてしまう。
彼は優しいので、私が驚いて身体がかたくなると、途中で止めてしまう。
今度こそ、私はこの人と先に進まないといけない。
身体がかたくならないよう、私は心を無にして彼に身体を預ける。
できるだけ、何も考えない。感じない。
彼はいい人なのだ。先に進んでも支障のない人だ。
私は弟の影を追い払う。
弟が先に進めるように、私が模範となって先に進むのだ。
玄関のインターフォンが鳴った。彼は私の上から離れようとしない。また鳴った。彼は手の動きを止めた。放置していると、さらに鳴った。
彼が起き上がって、インターフォンに出る。
「姉がお邪魔していると思うのですが、遅くなりましたから迎えに来ました。」
弟の声だ。
私は慌てて衣服を整え、髪を手櫛でといた。
弟は一人でタクシーに乗ってここまで来て、下に待たせたままだった。
「今夜は遅いですし、このまま帰らせていただきます。」
弟が彼に挨拶をする間、私は弟に手を握られていた。
タクシーに乗っても弟は私の手を握り、離さなかった。
弟は家に着くまで無言でいた。
家に着くと、弟は私をパウダールームに押し込めた。
「身体をしっかり洗って出てきて。」
弟に言われなくても、いつも綺麗に洗っている。
何故弟に不機嫌な態度をとられないといけないのだ。
弟の方から私への接触を断ったというのに。
私はだんだんいらいらしてきた。
身体を洗って私の部屋に戻るときに、弟と出くわした。
「後で話があるから、起きて待ってて。」
私よりも背の高い弟が、私の前に立ち塞がっている。
私は弟の言うことに頷いた。
部屋に戻り、髪を手櫛でとく。
以前は弟が私の髪を乾かし、服を着せてくれていたけれど、最近はそういうこともない。
弟に怒っていたのに、今度は寂しくなって、なんだか疲れた。
服を出すのも面倒になって、バスタオルを身体に巻いたままベッドに倒れ込んだ。
弟が私から離れていってしまう。
弟の成長を見守る姉としては喜ばしいことのはずなのに、どうしてこんなに不安になるのか。
ベッドの上でだれていると、弟が部屋に入ってきた。弟もお風呂に入っていたようで、髪の毛が湿気ている。
弟が、私のクローゼットにあるケースから、パジャマと下着を出してきた。
「着て。」
弟が寝転んでる私の横に一式おいて、部屋を出て行こうとするので、私は慌てて声をかけた。
「待って。」
弟は振り返らずに、ドアに手をかけた。
「どうして怒っているの?」
私の質問に、弟は答えてくれない。
私は起き上がって、弟に急いで近寄った。バスタオルが途中で落ちたけれど、慌てていたので放置した。
私は弟の後ろから抱き着き、弟の背中に顔をくっつけた。
「行かないで。」
もう、寂しいのは嫌だ。私は姉の威厳を捨てて、弟にしがみついた。
弟はじっとして、動かない。
「こっちを向いて。」
私は弟にお願いしたけれど、弟は振り向こうとしない。
「姉さんが服を着たらまた来るから、少し離れて。」
弟の言葉を信じて私がベッドに戻ると、ドアの音がして弟が出て行ったとわかった。
私は下着とパジャマを着て、弟が来るのを待った。
10分程待って、やっと弟が部屋に来た。
「遅い。」
私は弟に文句を言う。
「僕にもいろいろあるんだよ。」
弟は、少しけだるそうだ。




