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振り向かない彼女を飼う方法  作者: 一会
第2章
33/81

33 姉 10



 「高校2年生でしょ。いつまでも、姉と一緒というのはかえって不自然だよ。」


 彼がそういう冷たいことを言うのならば、私にも考えがある。

 私を抱き抱えようとする彼の手を抜け出して、彼から離れて座る。


 「怒ったの?」

 「違う。今のようなことをされて、寂しいと思わなかった? 私は今、そういう状態なのよ。」


 勘違いする彼に、私の心境を説明をした。


 「わかったよ。とっても寂しいから、おいで。」


 彼が両手を広げて私を呼ぶので、私は素直に彼の腕の中に入った。


 「弟が、このままだったらどうしよう。」


 私は悲しくて、不安で、彼の腕にしがみついて泣いた。

 そのうち元に戻るよ、と彼が言うけれど、不安が消えない。


 私は寂しくて、家に帰りたくなくて、ぐずぐずと帰り支度を先延ばしにしていると、夜9時を過ぎた。弟からの連絡はこない。

 弟に捨てられたような気分になる。


 「今夜、泊まっていく?」


 彼が、私の気持ちを察して提案してくれた。

 彼が、濁りのない、澄んだ目で私を見ている。

 私は彼に恋していない。恋していなくても、キスはできる。


 彼はお兄ちゃんのように綺麗ではない。

 弟のように華やかでもない。

 けれども、内面の美しさと知性が表に(にじ)み出ていて、私にはもったいないくらい素晴らしい人だと思う。


 私は彼にキスをした。

 彼は私からのキスに喜んで、私の口だけでなく、顔のあちこちにキスをした。弟と違うキス。でも、嫌ではない。

 彼が私の身体に触れる。私は弟の触わり方を思い出す。

 彼に触られるのは、嫌ではない。でも、弟と違うことをされると、びっくりしてしまう。


 彼は優しいので、私が驚いて身体がかたくなると、途中で止めてしまう。

 今度こそ、私はこの人と先に進まないといけない。

 身体がかたくならないよう、私は心を無にして彼に身体を預ける。

 できるだけ、何も考えない。感じない。

 彼はいい人なのだ。先に進んでも支障のない人だ。

 私は弟の影を追い払う。

 弟が先に進めるように、私が模範となって先に進むのだ。



 玄関のインターフォンが鳴った。彼は私の上から離れようとしない。また鳴った。彼は手の動きを止めた。放置していると、さらに鳴った。

 彼が起き上がって、インターフォンに出る。


 「姉がお邪魔していると思うのですが、遅くなりましたから迎えに来ました。」


 弟の声だ。

 私は慌てて衣服を整え、髪を手櫛(てぐし)でといた。


 弟は一人でタクシーに乗ってここまで来て、下に待たせたままだった。


 「今夜は遅いですし、このまま帰らせていただきます。」


 弟が彼に挨拶をする間、私は弟に手を握られていた。

 タクシーに乗っても弟は私の手を握り、離さなかった。

 弟は家に着くまで無言でいた。




 家に着くと、弟は私をパウダールームに押し込めた。


 「身体をしっかり洗って出てきて。」


 弟に言われなくても、いつも綺麗に洗っている。

 

 何故弟に不機嫌な態度をとられないといけないのだ。

 弟の方から私への接触を断ったというのに。

 私はだんだんいらいらしてきた。

 

 身体を洗って私の部屋に戻るときに、弟と出くわした。


 「後で話があるから、起きて待ってて。」


 私よりも背の高い弟が、私の前に立ち塞がっている。

 私は弟の言うことに頷いた。


 部屋に戻り、髪を手櫛(てぐし)でとく。

 以前は弟が私の髪を乾かし、服を着せてくれていたけれど、最近はそういうこともない。

 弟に怒っていたのに、今度は寂しくなって、なんだか疲れた。

 服を出すのも面倒になって、バスタオルを身体に巻いたままベッドに倒れ込んだ。

 

 弟が私から離れていってしまう。

 弟の成長を見守る姉としては喜ばしいことのはずなのに、どうしてこんなに不安になるのか。



 ベッドの上でだれていると、弟が部屋に入ってきた。弟もお風呂に入っていたようで、髪の毛が湿気ている。

 弟が、私のクローゼットにあるケースから、パジャマと下着を出してきた。


 「着て。」


 弟が寝転んでる私の横に一式おいて、部屋を出て行こうとするので、私は慌てて声をかけた。


 「待って。」


 弟は振り返らずに、ドアに手をかけた。


 「どうして怒っているの?」


 私の質問に、弟は答えてくれない。

 私は起き上がって、弟に急いで近寄った。バスタオルが途中で落ちたけれど、慌てていたので放置した。

 

 私は弟の後ろから抱き着き、弟の背中に顔をくっつけた。


 「行かないで。」


 もう、寂しいのは嫌だ。私は姉の威厳を捨てて、弟にしがみついた。

 弟はじっとして、動かない。


 「こっちを向いて。」


 私は弟にお願いしたけれど、弟は振り向こうとしない。


 「姉さんが服を着たらまた来るから、少し離れて。」


 弟の言葉を信じて私がベッドに戻ると、ドアの音がして弟が出て行ったとわかった。

 私は下着とパジャマを着て、弟が来るのを待った。

 


 10分程待って、やっと弟が部屋に来た。


 「遅い。」


 私は弟に文句を言う。


 「僕にもいろいろあるんだよ。」


 弟は、少しけだるそうだ。

 

 

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