21
僕は彼女と部屋で過ごしているうちに、彼女の魅力に捕われていった。
彼女はまだ僕ではない人を想っているようだ。
僕はせつなさを感じて彼女が欲しくなっていた。
僕は酔ったふりをして、彼女と少し深いキスをした。
そのまま彼女を押し倒して、彼女の身体を触ろうとしたのだけれど、ちょうど彼女のスマホが鳴って、彼女はそちらに気を反らした。
弟からの連絡に、彼女は嬉しそうにしている。
彼女の弟は、来年高校生だ。
彼女の一人でも作っていそうだけれど、学祭での様子を考えると、逆に一人に決められないのかもしれない。
また別の日に、僕は彼女にキスをした。僕たちは、大学3年生になっていた。
ハロウィンの猫の仮装をした彼女と一緒に寝転がって、彼女の身体に触れた。
彼女は身体をかたくして、息を詰めている。
「怖い?」
僕が彼女に尋ねると、彼女は小さく頷いた。
僕は彼女の頭を撫でて、彼女を抱きしめた。
彼女は、猫だ。
可愛い猫を、僕は大切にした。
彼女と僕の交際は、微妙な感じで続いている。
大学を卒業する頃、恋人未満のこの交際を、僕はどう考えていいのかわからなくなっていた。
僕は思いきって、彼女に質問することにした。
「まだ、あの人が好きなの?」
彼女は僕を見つめている。
「私、誰とも結婚できないと思う。」
彼女はあきらめたように僕に答えた。
「結婚したいの?」
僕は彼女がそこまで先のことを考えていたことに驚いた。
「付き合ったら、結婚するでしょ?」
彼女は首を傾げて、当然のこととして言った。
「僕との結婚を考えてくれていたの?!」
彼女はじっと僕を見ている。
「あの人を一生好きなままでも僕と結婚できるとしたら、どうする?」
彼女は迷ったように視線をさ迷わせ、最後に僕と目を合わせて言った。
「時間が欲しい。修士課程を卒業するまで。」
彼女は必死な目をしている。
「僕のことが、好き?」
「好き。」
彼女はすぐに答えてくれた。
「待ってたら、結婚できる?」
彼女は眉を寄せて、苦しそうにする。
僕は彼女を抱き寄せた。
彼女は、どこまでも一途だ。
一途で、僕に身体を許してくれない。
身体を許してくれないけれど、キスをすると、猫のように僕の唇を舐めることがある。
彼女を人間の女性だと思うから、先々を期待してしまうのだ。
僕は、彼女を飼い猫だと思って考えてみた。
ふらりと僕の元にやってきて、僕に擦り寄って、愛情をもらったらまたどこかに行ってしまう。
でも、彼女は確実に僕を飼い主と認めている。
認めているから、結婚まで先のことを考えているのだ。
僕はにやけて、彼女にキスをした。
彼女は逃げずに僕のキスを受け入れている。
もう少し深くキスをした。まだ大丈夫そうなので、さらに深くキスをした。
びっくりしたように戸惑ったあとで、彼女はやはり受け入れた。
僕は身体の代わりに彼女の口をたくさんもらった。
十分もらって僕は満足し、彼女の口を解放する。
彼女はぼうっとし、意識をどこかに置いてきている。
「愛してるよ。」
彼女の目の焦点が合って、僕を見た。
「私を?」
僕は笑顔で頷いた。
「僕は、あなたと結婚したい。」
彼女は苦しそうにする。
「私は、あなたと、そういうことができないかもしれないのよ?」
泣きそうな彼女を、僕は愛おしく感じた。
「僕は、あなたの居場所になれる。」
僕は彼女に僕をアピールした。
「子供を作るためだけにしか、しないかもしれないわよ?」
僕は笑顔になった。
ここまで正直に言われると、かえって清い。
「いいよ。今までだって、しなかった。」
彼女はまだ迷っている。
僕は彼女の頭を撫でた。
「修士課程を卒業するまでに、決めてくれるんだよね?」
「ええ。それまでに、結論が出るわ。」
彼女は何か確信があるようだ。
僕は彼女の決断を待つことにした。




