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振り向かない彼女を飼う方法  作者: 一会
第1章
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20 姉 6



 学祭に弟とお兄ちゃんが来てくれた。

 うれしいけれど、女の子たちが騒々しい。

 地味な見た目の、弟が好みそうな後輩の女の子が弟と会話を続けているのを見て、不快に思って会話に入った。


 ここにいたら、飢えた女の子たちに弟が食べられてしまう。

 私はお兄ちゃんに目配せして、早めにこの場から去ることができるよう動いた。


 弟たちがいなくなっても、女の子たちの興奮が冷めなかった。二人についていろいろきかれ、私はこれまで通り適度に情報を公開して彼女たちの好奇心を満たしつつ、家族のプライバシーを守った。


 友達のような彼が、弟について心配してくれた。

 そのうちに、弟が好きになる女の子が現れるだろう。それは、今日ではなくても、明日かもしれない。明日ではなくても、明後日かもしれない。

 今は男子校だから出会う女の子も少ないけれど、塾に通い出したら当然出会う女の子の数も増える。

 私は自分の不快な気持ちを持てあました。



 学祭の片付けを行い、打ち上げでみんなとご飯を食べて解散した。この後、さらに飲みたい人は飲みに行くけれど、私は弟に用事があるのでここで帰った。


 

 この不快な気分を、早く晴らしたかった。

 私は優しい弟を動揺させて、泣かせた。追い詰めて、逆に私が追い詰められた。


 弟の激しいキスを、私は受け入れさせられた。

 いつ、どこで、誰と、こんなキスを覚えたの?

 私は悲しくなって、涙がこぼれた。

 弟は私の口を好き放題に(もてあそ)び、満足したのか口を離した。

 

 「満足した?」


 弟は皮肉を言って私をおとしめた。

 私は口の中まで弟に蹂躙(じゅうりん)され、悲しいのにうれしくて、わけがわからない。


 弟を見つめていると、弟の目から光が消えて、うなだれた。

 弟の生気がなくなっている。このまま、弟が私のそばからいなくなってしまうような恐怖を感じた。

 私は弟を離したくない。

 私は、弟が私にしたように、口を開けて弟の口を食べた。

 食べられたときには驚きと恐怖が勝っていたけれど、自分から食べるときは気持ち良くて、飽きずに執拗(しつよう)に弟の口を食べた。

 途中から、弟も私を食べ始めた。最初のときと違って弟が優しく私を食べるので、私は気持ち良さが増してお互いを食べるのをやめられなかった。


 どれくらいの間、こんな(みだ)らなキスを続けていたのだろう。

 離したくないと思いながら弟の唇にまだ自分の唇をつけたまま、ぺろりと弟の唇を()めて、口を離した。




 私は姉として、弟の模範となるような人生を送る必要があった。そのための準備を怠っていないし、弟を道連れに道を踏み外すつもりもない。

 けれど、少しだけ融通をきかせて欲しかった。今のままでは、私は他人を好きになることができない。

 姉弟(してい)の枠からはみ出た行為だと知っていながら、私は弟に(せま)った。


 「あなたは、私の弟よね?」


 弟が力なく頷いた。


 「お姉ちゃんのお願い、きいてくれるよね?」


 弟が、怪訝な顔になる。

 私は弟の首に両腕を回し、弟の唇を()めた。

 弟が少し目を大きくした。


 「ぼくのキスが、気に入ったの?」


 弟が、目を伏せて少し笑った。


 「そうよ。気に入ったの。だから、毎日ちょうだい。」


 私は後ろめたいことなんて何もないというように、堂々と言いきった。


 弟が私を見ている。

 私は、この行為が悪いことだと全く思っていないと、自分に思い込ませる。弟が私を見て私の心を読んでも、私は正常で壊れていないと示すために、自分の心に強く刷り込ませる。


 弟がはかなげに笑った。


 「毎日あげるよ。覚悟して。」


 私はまた、弟の唇に自分の唇で触れた。

 弟が、愛おしい。

 弟も、触れるだけのキスを返してくる。

 私は言葉にできない想いを、弟へのキスにのせて伝える。



 弟とキスできることを嬉しがる私は、もう姉とはいえないのかもしれない。

 お兄ちゃんとはこういうことをしたいと思わないけれど、好きな気持ちは変わらない。

 逆だったら、弟の方こそ血の繋がりが無かったら、と思わずにいられない。



 弟への想いが止まらない。

 こんなおかしな姉では弟がかわいそうだ。

 私は早く、友達のような彼を、恋人にしないといけない。

 私はきちんと他人と結婚して、子供を産む。だから、今だけ、姉のわがままを許して欲しい。

 弟が涙を流している。


 ーーごめんなさい。


 私は、心の中で弟に謝る。親にも、出来の悪い娘でごめんなさいと謝る。友達として付き合ってくれている彼にも、申し訳なくて謝る。

 私は、この想いを一生抱えて生きていく。



 

 

 私は、毎晩のように弟の唇に触れた。

 弟の唇は、甘く、優しく、官能的で、私は時に激しく、時にもどかしいほどささやかに舐めて触れ合った。

 これは、ある種の儀式だ。

 私は弟とキスすることで罪悪感をもち、罪悪感を打ち消すために普通の人生を歩もうと、他人を好きになる自分を欲した。






 弟は高校生になり、塾に入って女の子の対処に手こずっていた。


 「本当に彼女を作る気がないの?」


 弟に尋ねると、リビングで、親がいるにもかかわらず、弟が私の頬にキスした。

 私が目を丸くすると、弟は朗らかに笑って、優しい目で私を見た。


 「僕のことは僕が決める。心配しないで。」


 弟は、可愛い弟ではなく、かっこいい弟になっていた。

 私は急に顔が熱くなって、ちょっと困った。



 



 友達のような彼とも、キスをするようになった。

 私は他人に恋をすることができないかもしれないけれど、少しずつ彼に愛情を感じ始めていた。

 彼の、器用そうで不器用なところが愛おしい。

 彼と先輩との過去も知った。

 彼の誠実なところが、好ましかった。

 私たちは大学を卒業したら、同じ学科の友人同様に修士課程に入ることにした。



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