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振り向かない彼女を飼う方法  作者: 一会
第1章
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2



 一週間後。

 僕はサークルで落ち込んだ様子の彼女を見かけた。


 「その後、どう?」


 彼女は僕を見て、ため息をついた。


 「あなたの家に行ってもいい?」

 「いいよ。話くらい、きくよ。」


 彼女が僕に相談を持ちかける。僕は、彼女の相談にのることが嫌ではなかった。

 


 彼女は再び僕と一緒に僕の家に来た。

 今回は、彼女が夕飯の材料を買っていこうと言った。手作りしてくれるらしい。前回、何のお礼もしなかったから、それも兼ねてだそうだ。


 「料理、普段あまりしないの。失敗しない、カレーでもいい?」


 彼女は店で、市販のカレールーを手に持って僕にきいた。

 僕は料理にこだわりがない。味の保証のある料理になりそうだ。


 「カレー、好きだよ。」


 僕は思った通りにこたえた。

 彼女は安心したように、カレーの材料を買い物かごに入れていく。


 「お米はある?」

 「まだあるよ。でも、買ったのが4月だから、味は良くないかもしれない。」


 一人暮らしだと、ほとんど料理をしない。引っ越してきた当初は頑張って作ろうとしたけれど、夕食を外で食べることがあったり面倒に思って作らなかったりすると、食材が余って無駄なることが増えた。

 結局、朝はパン、昼は学食かコンビニで調達し、夕方は外食するのが楽だった。おかげで、米はほとんど減らずに家にある。そこまで古くなってはいないけれど、精米した日付からずいぶん日が過ぎているから、美味しい米ではなくなっている。


 「カレーだから、お米、多分大丈夫よ。」


 彼女は食にこだわりのあるタイプではなさそうだ。

 気楽でいいので、僕は安心する。



 僕が簡単に部屋の掃除をしている間に、彼女は無洗米を軽く洗って水につけ、野菜の下ごしらえをしていた。


 「野菜、直ぐに火が通るように、小さめにするね。」

 「普段は大きめにしてるの?」


 彼女が振り返って僕を見て断りを入れるので、僕は質問した。


 「普段は、小さめに切った玉ねぎとお肉入りの普通のカレーを作っておいて、上にスライスして焼いたカボチャや焼いたナスとかのせて、チーズをトッピングするわ。

  焼いたトマトをのせて食べても美味しかった。」


 カレーは家庭によって作り方が違うというけれど、彼女の家のカレーも、ちょっとアレンジされているようだ。


 「美味しそうだ。」


 僕は味を想像しながら評する。


 「時間があったら、今度は我が家風のカレーを作るね。」


 彼女の言葉で僕は笑顔になった。

 彼女は、またここにきて、僕のために普通よりも手がかかるカレーを作る約束をしてくれた。


 

 彼女は普段料理をしないというわりにはてきぱきと料理し、米が炊き上がる前にサラダとカレーが出来上がった。

 炊き上がるまで、あと5分。

 折りたたみの小さなテーブルに、氷の入った水入りのグラスとスプーンとフォークを2セットそろえる。


 「サラダのドレッシング、あったっけ?」


 彼女が僕にきいた。


 「あ、ない。」

 「簡単なものでもいい?」

 「作れるの?」

 「本当に簡単なのでよければ。」


 彼女はそう言って、家にある調味料を探した。


 「オリーブオイルはないわね。ゴマ油があった! 中華風にするか?」


 彼女は僕に返事を求めているのではなく、一人ごとのようだ。

 入居時に母がある程度の調味料をそろえてくれていた。ほとんど使わないので、減らないけれど。


 ボウルや撹拌(かくはん)のための器具などは家にないので、彼女はコップにポン酢とゴマ油を適当に入れてフォークで混ぜた。


 「味見してくれる?」


 彼女は小さなスプーンを僕に渡し、僕は彼女が混ぜた液体を少しすくってなめた。


 「美味しいよ。」


 僕が笑顔で言うと、彼女も笑顔になった。

 僕は、彼女がさっと作ったものが美味しいことと、ポン酢にゴマ油を混ぜただけでドレッシングとして美味しくなったことに驚いた。

 彼女は炊飯器の炊き上げの音がなると、用意していた食器にご飯を盛り付け、カレーをかけて、僕に手渡した。

 一人暮らし用のキッチンは狭く、僕たちは何度か接触したけれど、彼女は全く気にしていなかった。



 「いただきます。」


 二人で一緒に彼女が作った夕飯を食べる。


 「ん、美味しい!」


 対面に座る彼女は、少し笑顔で僕を見ている。


 「ありがとう。」


 彼女がお礼を言うので、僕は不思議に思う。お礼を言わなければならないのは、夕飯を作ってもらった僕の方だ。でも、彼女は僕に、前回のお礼として夕飯を作ってくれたことになっている。

 だから、僕は彼女の言葉を否定せず、そのまま受け取っておくことにした。

 それにしても、こんなに可愛くて優しい女の子が好きな男とは、どんなヤツなんだ?

 好奇心と軽いやっかみの気持ちがわきあがってきた。

 

 「それで、彼には告白できたの?」


 僕は食事をしながら彼女に質問した。


 「言えなかった。」


 彼女はスプーンをお皿に置いて、僕を必死な目で見た。


 「ねえ、男の人って、付き合うと、その、いろいろしたくなるのよね?」


 え? いろいろ?


 「そう、だね。人による、かな?」


 お願い。僕を、そんな可愛い顔で見ないでください。


 「私、まだ19歳で、彼は40代なの。私が間違いなく大人とみられる年齢まで世間の目もあるし、彼と付き合えないわ。」

 「40代?!」


 僕は驚いて声をあげた。


 「ええ、そうよ。とっても素敵な人なの。私の、お兄ちゃん。」

 「お兄ちゃん?!」


 どういうこと? え? 兄と妹? でも、歳が離れ過ぎてる。


 「父と母の共通の友達で、住んでいる家の持ち主なの。

  私は、お兄ちゃんに育ててもらったようなものなのよ。

  父も母も、それぞれ仕事が忙しくって、私はあまり構ってもらえなかった。お兄ちゃんがいなかったら、私は家で一人ぼっちだったわ。」

 


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